顔面・頭皮の表情筋と咀嚼筋

本文の目次

  1. 顔の皮膚を動かす筋、顎の骨を動かす筋
  2. 付着を読むための顔の骨
  3. 表情の運動はVII、主な咀嚼の運動はV3
  4. 固定される端から力の向きを考える
  5. 前頭腹と後頭腹をつなぐ帽状腱膜
  6. 耳の上の浅い側頭頭頂筋
  7. 耳介へ三つの方向から付く筋
  8. 眼輪筋の三つの部分
  9. 眉間の縦じわと鼻根の横じわ
  10. 鼻翼と鼻中隔を引く向き
  11. 上唇と鼻翼、上唇だけの引き上げ
  12. 大頬骨筋は口角、小頬骨筋は上唇へ
  13. 深く上げる口角挙筋、浅く横へ引く笑筋
  14. 口角を下げる筋と下唇を下げる筋
  15. オトガイ筋が動かす皮膚
  16. 口輪筋は唇を閉じて形を変える
  17. 頬筋は歯列の横で食物を保つ
  18. 耳下腺管と二つの「頬」の神経
  19. 食物を置く力とかむ力
  20. 下顎の二つの突起と顎関節
  21. 咬筋は下顎角の外側へ付く
  22. 扇状の側頭筋は筋突起へ集まる
  23. 内側翼突筋は内側から下顎角を支える
  24. 外側翼突筋の下頭は下顎頭を前へ引く
  25. 外側翼突筋の上頭と円板へのつながり
  26. 開口は回転と滑りの組合せ
  27. 両側と片側で変わる顎の向き
  28. 側頭の運動枝と顎関節付近の感覚枝
  29. 皮膚、骨、食物という三つの動く対象

1. 顔の皮膚を動かす筋、顎の骨を動かす筋

笑うと口角が上がり、目を閉じるとまぶたが合わさります。こうした表情筋は、骨や筋膜から皮膚・周囲の筋へ広がって、柔らかい組織を引きます。一方、食物をかみ切るときは下顎骨を動かす力が必要です。咬筋などの咀嚼筋は頭蓋と下顎骨の間をつなぎます。頬筋は食物を歯の間へ保つ助けをしますが、下顎を持ち上げる咬筋とは役割が異なります。

2. 付着を読むための顔の骨

上顎骨は上の歯を支え、下顎骨は下の歯を支える動く骨です。頬の外側の頬骨から側頭骨へ渡る骨の橋を頬骨弓と呼びます。その上方に側頭窩というくぼんだ広い領域があります。上顎骨の前面で犬歯の上にあるくぼみは犬歯窩、前歯の近くのくぼみは切歯窩です。奥にある蝶形骨から下方へ出る翼突突起には内側板と外側板があります。これらの骨の場所をたどると、浅い表情筋と深い顎の筋を分けやすくなります。

3. 表情の運動はVII、主な咀嚼の運動はV3

顔面神経は第VII脳神経で、表情筋へ運動の信号を届けます。三叉神経は第V脳神経で、顔の感覚に広く関わり、その第三枝である下顎神経V3には咀嚼筋への運動線維もあります。したがって、顔にある筋だからすべて同じ神経というわけではありません。顔面神経の側頭枝・頬骨枝・頬筋枝・下顎縁枝などは、表情筋へ広がる運動枝の名前です。枝のつながりには個体差があるため、各筋の運動支配と顔の皮膚の感覚支配を区別して読みます。

4. 固定される端から力の向きを考える

筋の二つの付着のうち、代表的に支えになる側を起始、引かれる側を停止と呼びます。ただし、固定される側が変われば動く側も変わります。皮膚へ付く筋では骨の動きだけでなく、皮膚や唇の位置の変化を考えます。筋膜は筋などを包みつなぐ結合組織、腱膜は幅広い板状の腱です。一本の筋に二つの筋腹や複数の部分があっても、それぞれを左右分も含めて別の筋本体とするわけではありません。

皮膚と下顎、動く対象を分ける

上の囲みはVII支配の表情筋が皮膚や唇へ力を伝える関係。下の囲みはV3支配の咀嚼筋が下顎骨を動かす関係。頬筋はVII支配で食物の保持を助ける。骨の挙上と唇の閉鎖を同じ運動にしない。
上の囲みはVII支配の表情筋が皮膚や唇へ力を伝える関係。下の囲みはV3支配の咀嚼筋が下顎骨を動かす関係。頬筋はVII支配で食物の保持を助ける。骨の挙上と唇の閉鎖を同じ運動にしない。

5. 前頭腹と後頭腹をつなぐ帽状腱膜

後頭前頭筋には額側の前頭腹と後頭側の後頭腹があります。上項線は後頭骨の横方向の骨の高まり、乳様部は耳の後下方の側頭骨の部分です。後頭腹は上項線の外側付近と側頭骨の乳様部付近から帽状腱膜へ付き、腱膜を後方へ引きます。前頭腹は帽状腱膜から眉・額の皮膚へ付き、腱膜側が支えられると眉を上げ、額に横じわを作ります。頭頂部を覆う帽状腱膜自体は広い腱で、額から後頭まで筋腹が途切れず並ぶわけではありません。前頭腹には主に顔面神経の側頭枝、後頭腹には後耳介神経が届きます。

6. 耳の上の浅い側頭頭頂筋

耳介は外から見える耳の軟骨と皮膚の部分です。側頭頭頂筋は耳介の上の浅側頭筋膜から帽状腱膜へ連なる薄い筋です。頭皮や耳介の上方の組織を張り、その移動を助け、顔面神経の側頭枝が運動を支えます。その深部にある厚い側頭筋は下顎を動かす筋で、名前に「側頭」があっても役割が違います。側頭頭頂筋と上耳介筋の境界や筋束の発達には個体差があります。

7. 耳介へ三つの方向から付く筋

前耳介筋は浅側頭筋膜から耳介前部へ、上耳介筋は帽状腱膜から耳介上部へ、後耳介筋は乳様部付近から耳介後面へ付きます。それぞれ耳介を前・上・後へ引く向きです。前と上は顔面神経の側頭枝、後は後耳介神経が支配します。耳介の軟骨へ付く小さな筋で、動かせる範囲や筋の大きさは人によって異なります。

二つの筋腹と、耳介への方向

頭皮の二腹を帽状腱膜がつなぐ。上段は付着の対応で、頭頂部にも筋腹が続く図ではない。下段は耳介を前・上・後へ引く三筋の方向。側頭頭頂筋と側頭筋を分け、耳介運動の個体差を残す。
頭皮の二腹を帽状腱膜がつなぐ。上段は付着の対応で、頭頂部にも筋腹が続く図ではない。下段は耳介を前・上・後へ引く三筋の方向。側頭頭頂筋と側頭筋を分け、耳介運動の個体差を残す。

8. 眼輪筋の三つの部分

眼窩は眼球を収める頭蓋のくぼみ、眼瞼はまぶたです。眼輪筋は眼窩の内側縁や内側眼瞼靱帯、涙骨付近から眼瞼と眼窩周囲の皮膚・組織へ広がります。薄い眼瞼部は軽い閉眼やまばたき、周囲の眼窩部は強い閉眼に関わります。内側の涙嚢部は涙の排出を助けます。運動支配は顔面神経の側頭枝・頬骨枝です。これは眼球を動かす筋や上眼瞼を持ち上げる筋とは別で、眼球の向きを変えることとまぶたを閉じることを分けます。

9. 眉間の縦じわと鼻根の横じわ

皺眉筋は眉弓の内側付近から眉の皮膚へ付き、眉を内側・下方へ引いて眉間に縦じわを作ります。鼻根筋は鼻骨下部や外側鼻軟骨付近から眉間の皮膚へ上り、その皮膚を下方へ引くため鼻根付近に横じわが生じます。どちらも顔面神経の支配です。眉を上げる前頭腹、眉を寄せ下げる皺眉筋、鼻根の皮膚を下げる鼻根筋を、付く場所と引く方向で比べます。

10. 鼻翼と鼻中隔を引く向き

鼻筋は上顎骨から鼻へ向かい、横部は鼻背の腱膜へ、翼部は鼻翼軟骨付近へ付きます。横部は鼻孔を狭める方向、翼部は鼻翼を外へ動かし鼻孔を広げる方向に働きます。鼻中隔下制筋は上顎骨の切歯窩付近から鼻中隔下部などへ付き、鼻の下部を下方へ引きます。鼻の外側の壁を鼻翼、左右の鼻の通り道を隔てる壁を鼻中隔といいます。これらの小筋は顔面神経の枝が支配し、鼻筋の一部分の働きを筋全体の働きと同一視しません。

眼瞼・眉・鼻、部分と方向

眼輪筋の軽い閉眼と強い閉眼を分け、涙嚢部を内側の別機能として示す。下段は眉・鼻の対象ごとの方向比較。眼球の運動図や鼻筋全体の単一作用を示すものではない。
眼輪筋の軽い閉眼と強い閉眼を分け、涙嚢部を内側の別機能として示す。下段は眉・鼻の対象ごとの方向比較。眼球の運動図や鼻筋全体の単一作用を示すものではない。

11. 上唇と鼻翼、上唇だけの引き上げ

上唇鼻翼挙筋は鼻の外側を縦に走り、上顎骨の前頭突起から鼻翼と上唇へ分かれて付きます。上唇を上げるだけでなく、鼻翼の挙上と鼻孔の拡大を助けます。その外側にある上唇挙筋は、上顎骨の眼窩下縁付近から上唇の皮膚・口輪筋へ下り、主に上唇を上げます。どちらも顔面神経の運動枝が届きます。名前の違いは、鼻翼への付着を持つかどうかという位置の違いにつながります。

12. 大頬骨筋は口角、小頬骨筋は上唇へ

大頬骨筋は頬骨外側から口角へ斜めに走り、口角を上方・外側へ引きます。小頬骨筋は頬骨前方から、より内側寄りを通って上唇へ付き、上唇を上げます。両者は顔面神経の支配を受ける別の筋です。口角は上下の唇が合う端で、上唇全体とは同じ場所ではありません。表情を読むときは「上へ動く」という共通点に加え、どの組織が動くのかを見ます。

13. 深く上げる口角挙筋、浅く横へ引く笑筋

口角挙筋は上顎骨の犬歯窩から口角へ下り、口角を上げます。上唇挙筋などより深い場所にあります。笑筋は耳下腺や咬筋を覆う筋膜付近から口角へほぼ横向きに走り、口角を外側へ引きます。耳下腺は耳の前下方の唾液腺です。これらは顔面神経の支配ですが、笑筋は付着や発達、存在に個体差があります。口角を上げる力と横へ引く力が組み合わさり、口の形が変わります。

14. 口角を下げる筋と下唇を下げる筋

口角下制筋は下顎骨の斜線付近から口角へ付き、口角を下へ引きます。下唇下制筋はその内側寄りで、下顎骨から下唇の皮膚・口輪筋へ付き、下唇を下げて外へめくる働きを助けます。どちらにも顔面神経の枝、主に下顎縁枝が届きます。唇や口角が動くことと、下顎骨が左右へ移動することは別です。首の皮膚を張る広頸筋も下顔面へ連なりますが、薄い表情筋の力だけで顎の骨の全運動を説明することはできません。

15. オトガイ筋が動かす皮膚

オトガイ筋は下顎骨の切歯窩付近からオトガイの皮膚へ付きます。左右の筋束が皮膚を持ち上げ、下唇を前へ突き出す働きを助けます。運動支配は顔面神経の下顎縁枝です。骨の前面にある筋ですが、その停止は皮膚です。下唇が突き出る動きと、下顎骨全体が前へ滑る動きを区別できます。

16. 口輪筋は唇を閉じて形を変える

口輪筋には唇を囲む線維だけでなく、口角から入る頬筋などの線維も織り合っています。近くの上顎骨・下顎骨や周囲の表情筋線維に由来し、上下の唇の皮膚・粘膜へ広がります。顔面神経の頬筋枝・下顎縁枝などの運動で、唇を閉じる、すぼめる、前へ突き出す動きを作ります。口角の筋線維が集まる結合部をモダイオラスと呼びます。唇を閉じても歯がかみ合うとは限らず、唇の閉鎖と下顎の挙上は別の働きです。

口角と唇、引く先の違い

上段は大・小頬骨筋の違う停止と、口角挙筋・笑筋の力の方向。下段は上唇・鼻翼・口角・下唇・オトガイ皮膚の比較で、口輪筋の唇の閉鎖を骨の挙上と分ける。線は実際の筋束を全て描いたものではない。
上段は大・小頬骨筋の違う停止と、口角挙筋・笑筋の力の方向。下段は上唇・鼻翼・口角・下唇・オトガイ皮膚の比較で、口輪筋の唇の閉鎖を骨の挙上と分ける。線は実際の筋束を全て描いたものではない。

17. 頬筋は歯列の横で食物を保つ

頬筋は、上顎骨・下顎骨の臼歯に対応する歯槽部と翼突下顎縫線から、口角・口輪筋へ向かいます。歯槽部は歯を支える骨の部分、翼突下顎縫線は頬筋と後方の咽頭の筋をつなぐ結合組織の帯です。頬筋が頬を歯列へ押し付けると、頬側へ逃げる食物を歯の間へ戻す助けになります。吹く際などの口内の圧の保持にも関わります。顎の骨を挙上する主な筋ではなく、運動神経は顔面神経の頬筋枝です。

18. 耳下腺管と二つの「頬」の神経

耳下腺管は唾液を運ぶ管です。咬筋の外側を前へ走り、その前縁付近で内側へ向かい、頬筋を貫いて口腔へ開きます。頬筋の内側が口腔、外側には頬の組織があり、さらに外側後方に咬筋があります。顔面神経の頬筋枝は頬筋の運動に関わります。一方、下顎神経V3の頬神経は頬の皮膚・口腔粘膜などの感覚に関わります。同じ「頬」の名前でも、頬筋を動かす運動枝と感覚の枝を取り違えないことが大切です。

19. 食物を置く力とかむ力

食物をかむときは、咀嚼筋が下顎骨を動かし、頬筋や唇の筋が食物の位置を保つ助けをします。舌も位置を調整しますが、頬筋・咬筋・舌が同じ種類の筋や同じ運動神経というわけではありません。口角を引く表情、歯を合わせる骨の動き、食物を歯列へ戻す頬の働きを分けると、一つの運動の中で異なる筋が協調する様子を理解できます。

頬筋の壁と、唾液の通り道

上段は右側面の前後を明示した経路模式。耳下腺管は咬筋外側を前に進んで内側へ曲がり、頬筋を貫く。下段はVIIの頬筋運動とV3の頬神経の感覚を別囲みで比較する。貫通は頬筋のみで、咬筋を貫く経路ではない。
上段は右側面の前後を明示した経路模式。耳下腺管は咬筋外側を前に進んで内側へ曲がり、頬筋を貫く。下段はVIIの頬筋運動とV3の頬神経の感覚を別囲みで比較する。貫通は頬筋のみで、咬筋を貫く経路ではない。

20. 下顎の二つの突起と顎関節

下顎枝の上端には前方の筋突起と後方の下顎頭があります。筋突起は側頭筋が付く場所、下顎頭は側頭骨と顎関節を作る部分です。下顎頭の下の下顎頸前面には翼突筋窩があります。顎関節には骨の関節面の間を隔てる関節円板があり、関節包が周囲を囲みます。円板の上下には別の関節腔があり、開閉口では回転と前後の滑りが組み合わさります。筋突起と下顎頭を同じ突起として扱わず、筋の停止をたどります。

21. 咬筋は下顎角の外側へ付く

咬筋は頬骨弓から下顎枝・下顎角の外側へ付き、下顎を挙上します。浅部は前上方から後下方へ斜めに走るため、前方移動を助ける成分もあります。深部の後方線維は前へ出た下顎を戻す働きも助けます。主作用は顎を上げることで、すべての線維が同じ前後方向を作るわけではありません。運動支配は下顎神経V3の咬筋神経です。咬筋の表面を耳下腺管が横切り、浅部と深部は一筋本体の部分です。

22. 扇状の側頭筋は筋突起へ集まる

側頭筋は側頭窩と側頭筋膜の深面から広く始まり、腱が頬骨弓の内側を通って下顎骨の筋突起・下顎枝前縁へ付きます。前方の比較的縦向きの線維は下顎の挙上、後方の横向きに近い線維は後方への引き戻しに関わります。下顎神経V3の深側頭神経が運動を支えます。耳の上にある浅い側頭頭頂筋と区別し、扇の向きが一つではないことを作用と結びます。

23. 内側翼突筋は内側から下顎角を支える

内側翼突筋は蝶形骨の翼突突起外側板の内面付近や上顎骨後方から、下顎角・下顎枝の内側へ付きます。外側の咬筋と内側の内側翼突筋が、下顎角を内外から支える配置になります。下顎を挙上し、両側では前方移動、片側では反対側への顎の移動も助けます。運動支配はV3の内側翼突筋神経です。筋の停止は下顎骨内側で、関節円板を引く筋としては扱いません。

下顎を上げる筋の、三つの停止

上段は側頭筋が頬骨弓内側を通って筋突起へ、咬筋が下顎角外側へ付く対応。下段は内側翼突筋と咬筋による下顎角内外の配置比較。下顎頭と筋突起を分け、内側翼突筋の停止を円板としない。
上段は側頭筋が頬骨弓内側を通って筋突起へ、咬筋が下顎角外側へ付く対応。下段は内側翼突筋と咬筋による下顎角内外の配置比較。下顎頭と筋突起を分け、内側翼突筋の停止を円板としない。

24. 外側翼突筋の下頭は下顎頭を前へ引く

外側翼突筋には上頭と下頭があります。下頭は蝶形骨の翼突突起外側板の外面から、主に下顎頸の翼突筋窩へほぼ横向きに走ります。頭蓋側が支えになると下顎頭を前へ引き、下顎の前方移動や開口に伴う滑りを助けます。片側の働きは顎の反対側への移動を助けます。運動支配はV3の外側翼突筋神経です。下顎を上げる内側翼突筋とは、走行と力の方向を分けて考えます。

25. 外側翼突筋の上頭と円板へのつながり

上頭は蝶形骨大翼の下面付近から顎関節へ向かいます。外側翼突筋の多くの線維は翼突筋窩へ付き、上頭には関節包・関節円板へ連なる線維もあります。ただし、この付着の割合と形には個体差があり、上頭の全線維が円板だけへ付くとは限りません。上頭は閉口やかみしめの間に関節部の協調に関わります。下頭の開口時の働きと上頭の働きを一律に同じとせず、二頭を一つの筋本体の異なる部分として読みます。

26. 開口は回転と滑りの組合せ

顎関節では下顎頭が円板の下で回転する動きと、円板を伴う関節部が前へ滑る動きが組み合わさります。下顎を下げるには外側翼突筋だけでなく、舌骨側が支えられた舌骨上筋群や重力なども関わります。下顎頭を前へ引くことと、下顎骨全体を垂直に下げることは同じではありません。既に見た舌骨上筋の固定条件を、顎関節の移動とつなげて考えられます。

27. 両側と片側で変わる顎の向き

左右の外側翼突筋の下頭などが協調すると、下顎頭を両側で前へ引き、顎の前方移動を助けます。一方、右側で前へ引く成分が強いと、顎の前の部分は左へ向かう働きが生じます。内側翼突筋も片側では反対側への移動を助けます。これは他の筋や関節の制約と組み合わさるため、一筋の名称だけからすべての顎運動を確定するものではありません。表情筋が唇を前へ出す動きとは別の骨の動きです。

外側翼突筋の二頭と、関節の条件

上段は上頭・下頭の起こりから翼突筋窩への主な停止を示し、上頭の円板・関節包への連なりは点線で分ける。付着の割合に個体差があり円板への一律停止とはしない。下段は下頭の滑り、上頭の閉口時の協調、片側と両側の力の代表的関係。顎の全運動や手技を示す図ではない。
上段は上頭・下頭の起こりから翼突筋窩への主な停止を示し、上頭の円板・関節包への連なりは点線で分ける。付着の割合に個体差があり円板への一律停止とはしない。下段は下頭の滑り、上頭の閉口時の協調、片側と両側の力の代表的関係。顎の全運動や手技を示す図ではない。

28. 側頭の運動枝と顎関節付近の感覚枝

側頭筋への深側頭神経と、咬筋や翼突筋への神経はV3の運動枝です。耳介側頭神経もV3から出ますが、側頭部や顎関節付近などの感覚、耳下腺へ向かう自律神経線維の通り道に関わり、咀嚼筋の主な運動枝ではありません。表情筋を動かす顔面神経の側頭枝とも異なります。場所の名前が似ていても、どの神経から出て何を運ぶのかを分けます。

29. 皮膚、骨、食物という三つの動く対象

口輪筋で唇を閉じること、咬筋などで下顎を上げること、頬筋で頬を歯列へ寄せることは、同時に起きても動く対象が異なります。皮膚・粘膜への停止、下顎骨への停止、歯列に対する頬壁の位置をたどると、食べる・話す・表情を作る動きの違いが見えてきます。筋同士の織り合い方や耳介の小筋、笑筋などの発達には個体差があり、模式図の一つの線をすべての人の筋束の形と同じには考えません。

用語を確かめる

表情筋
皮膚や周囲の筋へ力を伝え、顔の形や開口部の形を変える筋。
咀嚼
食物をかみ切り、すりつぶすための顎や口の協調した運動。
咀嚼筋
主に下顎骨を動かし、下顎神経V3の運動支配を受ける咬筋・側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋。
上顎骨
上の歯などを支える顔面の骨。
下顎骨
下の歯を支え、顎関節で動く骨。
頬骨弓
頬骨から側頭骨へ渡る骨の橋。
側頭窩
頭の側面で側頭筋が広がる領域。
犬歯窩
上顎骨前面で犬歯の上方にあるくぼみ。
切歯窩
顎骨の前歯付近にあるくぼみ。
翼突突起
蝶形骨から下へ出る突起で、内側板と外側板を持つ。
顔面神経
第VII脳神経。表情筋への運動枝を持つ。
三叉神経
第V脳神経。顔の感覚に広く関わり、V3には咀嚼筋の運動線維もある。
下顎神経V3
三叉神経の第三枝で、感覚線維と咀嚼筋への運動線維を持つ。
運動支配
筋へ収縮の信号を届ける神経の対応。
起始
代表的に支えになる側の筋の付着。固定条件で動き方は変わる。
停止
代表的に引かれる側の筋の付着。
筋膜
筋などを包み、つなぐ結合組織。
腱膜
幅広い板状の腱。
筋腹
筋の厚みのある収縮する部分。
帽状腱膜
後頭前頭筋の前頭腹と後頭腹をつなぎ頭頂部を覆う広い腱膜。
前頭腹
後頭前頭筋の額側の部分。眉や額の皮膚へ付く。
後頭腹
後頭前頭筋の後頭側の部分。帽状腱膜へ付く。
後耳介神経
顔面神経から出て後頭腹や後耳介筋などへ運動を届ける枝。
眼瞼
まぶた。
眼窩
眼球を収める頭蓋のくぼみ。
内側眼瞼靱帯
眼瞼の内側を眼窩内側の骨へつなぐ帯。
涙嚢
眼の内側にあり涙の排出路につながる袋状の部分。
眉弓
前頭骨で眉の奥にある弓状の高まり。
鼻翼
鼻孔の外側壁を作る部分。
鼻中隔
左右の鼻の通り道を隔てる壁。
口角
上下の唇が合う端。
耳下腺
耳の前下方にある唾液腺。
モダイオラス
口角で表情筋の線維が集まり織り合う結合部。
口腔粘膜
口の内側を覆う柔らかい組織。
歯槽部
歯を支える顎骨の部分。
翼突下顎縫線
頬筋と後方の咽頭の筋をつなぐ結合組織の帯。
耳下腺管
耳下腺の唾液を口腔へ運ぶ管。咬筋外側から頬筋を貫いて向かう。
頬神経
下顎神経V3の感覚枝。顔面神経の頬筋枝とは別。
下顎枝
下顎骨の後方で上に伸びる部分。
筋突起
下顎枝上端の前方の突起で、側頭筋が付く。
下顎頭
下顎枝上端の後方で顎関節を作る部分。
下顎頸
下顎頭の下の細くなった部分。
翼突筋窩
下顎頸の前面で外側翼突筋が付くくぼみ。
顎関節
下顎頭と側頭骨の間にあり、関節円板を持つ関節。
関節円板
顎関節で骨の関節面の間を隔てる結合組織。
関節包
関節の周囲を囲む組織。
下顎角
下顎骨の体と下顎枝の移行部。
深側頭神経
V3から側頭筋へ運動を届ける枝。
筋頭
一筋本体の中で起始などが分かれる部分。
耳介側頭神経
V3の枝で、側頭部や顎関節付近の感覚などに関わる。