骨盤・股と大腿前内側の筋

本文の目次

  1. 骨盤から膝までを読む
  2. 筋の付着と名前を分ける
  3. 腸骨筋と大腰筋をつなぐ
  4. 斜めに走る縫工筋
  5. 大腿四頭筋の共通する出口
  6. 大腿直筋は二関節をまたぐ
  7. 三つの広筋は大腿骨から始まる
  8. 恥骨筋は股の前内側にある
  9. 長内転筋の下に短内転筋がある
  10. 大内転筋は二つの部分で読む
  11. 薄筋は股と膝に関わる
  12. 神経は筋の群名と一対一ではない
  13. 大腿三角の縁と床
  14. 神経と血管の並びと鞘
  15. 深い筋へ届く血管と静脈の帰り道
  16. 内転筋管を囲む筋
  17. 血管と伏在神経は同じ出口ではない
  18. 付着から動く関節を考える

1. 骨盤から膝までを読む

股関節は寛骨と大腿骨の間、膝関節は大腿骨と脛骨・膝蓋骨の間にあります。大腿の前面には膝を伸ばす大腿四頭筋、内側には股関節で大腿を体の中央へ寄せる内転筋がまとまります。大腰筋と腸骨筋は骨盤の前側を通り、大腿骨へ続きます。筋の位置は画面の左右よりも、本人の前後・内外で読むとつながりが分かります。

2. 筋の付着と名前を分ける

筋が骨などに付く近位側を起始、遠位側を停止として覚えます。起始側がいつも動かないとは限らず、どちら側が固定されるかで動き方は変わります。骨盤の上前腸骨棘は前上方の突起で、その下に下前腸骨棘があります。大腿骨の小転子は近位の内後側、大転子は外側の突起です。大腿骨後面の粗い縦の線が粗線です。膝蓋骨の下から脛骨粗面へ続く膝蓋靱帯と、脛骨近位内側の鵞足は別の付着場所です。腸腰筋は大腰筋と腸骨筋をまとめた名前、大腿四頭筋は大腿直筋と三つの広筋をまとめた名前です。大腿直筋の二つの頭や大内転筋の二つの部分は、筋をそれぞれ二個と数える名前ではありません。

3. 腸骨筋と大腰筋をつなぐ

腸骨筋は腸骨の内側のくぼみである腸骨窩に広がります。大腰筋は第12胸椎から第5腰椎の椎体・椎間円板と腰椎の横突起から始まり、腰椎の脇を下ります。二筋は合流して大腿骨の小転子付近へ続き、股関節を屈曲して大腿を前へ持ち上げます。大腿側が固定されると、大腰筋は体幹を前に曲げることにも関わります。腸骨筋には大腿神経、大腰筋には腰神経の前枝から直接出る筋枝が入ります。一緒に腸腰筋と呼んでも、神経支配まで一つにはなりません。

腸腰筋の二筋

左に腸骨窩から始まる腸骨筋、右に椎体・円板・横突起から始まる大腰筋。二筋が小転子へ合流し、下段で神経支配を別々に示す。
腸骨筋と大腰筋は起始が異なり、小転子付近へ合流します。神経も腸骨筋の大腿神経と大腰筋の直接の腰神経枝で分けます。付着と支配の対応図で、骨や筋の実際の形・広がりは縮尺どおりではありません。

4. 斜めに走る縫工筋

縫工筋は上前腸骨棘から始まり、大腿の浅い層を外上方から内下方へ横切って、脛骨近位内側の鵞足へ停止します。大腿神経が支配し、股関節の屈曲・外転・外旋と、膝関節の屈曲に関わります。股と膝の両方をまたぐ筋です。斜めの走行は大腿三角の外側の縁になり、さらに下では内転筋管の屋根側になります。

5. 大腿四頭筋の共通する出口

大腿四頭筋は大腿直筋、外側広筋、内側広筋、中間広筋の四筋です。四筋の力は大腿四頭筋腱で膝蓋骨へ集まり、そこから膝蓋靱帯を通って脛骨粗面へ伝わります。膝蓋骨はこの力の通り道にある骨です。四筋はいずれも大腿神経の支配を受け、膝関節を伸ばします。骨盤から始まる大腿直筋と、大腿骨から始まる三つの広筋では、股関節をまたぐかどうかが異なります。

6. 大腿直筋は二関節をまたぐ

大腿直筋の直頭は下前腸骨棘、反回頭は寛骨臼上方の骨の縁から始まります。大腿前面の中央の浅い層を下り、大腿四頭筋腱、膝蓋骨、膝蓋靱帯を経て脛骨粗面へ力を伝えます。大腿神経が支配し、膝の伸展に加えて股関節の屈曲にも関わります。起始が骨盤にあるため、股関節と膝関節の二つをまたぎます。中間広筋はその深側にあります。

7. 三つの広筋は大腿骨から始まる

外側広筋は大転子付近と粗線の外側の縁などから、内側広筋は転子間線と粗線の内側の縁などから始まります。中間広筋は大腿骨体の前面と外側面から始まり、大腿直筋の深側にあります。三筋とも大腿神経に支配され、大腿四頭筋腱から膝蓋骨、膝蓋靱帯を経て脛骨粗面へ力を伝え、膝を伸ばします。起始が大腿骨なので、三筋は股関節をまたぎません。内側広筋は内転筋管の外側の壁にも位置します。

大腿四頭筋の力の通り道

大腿直筋と三広筋を別の箱に置き、共通の四頭筋腱から膝蓋骨、膝蓋靱帯、脛骨粗面へ矢印でつなぐ。
四筋の力は腱、膝蓋骨、膝蓋靱帯を経て脛骨粗面へ伝わります。骨盤から始まる大腿直筋と、大腿骨から始まる三広筋を区別します。四筋を縦に並べた対応図で、実際の左右の位置や重なりを表す図ではありません。

8. 恥骨筋は股の前内側にある

恥骨筋は恥骨上枝の恥骨櫛付近から始まり、大腿骨の恥骨筋線へ停止します。股関節の内転と屈曲に関わり、大腿三角の床の内側に位置します。通常は大腿神経が支配しますが、閉鎖神経などが関わる変異もあります。大腿内側にある筋だから必ず閉鎖神経だけ、とはまとめられません。長内転筋より上方で、腸腰筋の内側に接します。

9. 長内転筋の下に短内転筋がある

長内転筋は恥骨体の前面から始まり、大腿骨粗線の中ほどへ停止します。短内転筋は恥骨体と恥骨下枝から始まり、恥骨筋線から粗線上部へ停止します。どちらも閉鎖神経が支配し、股関節の内転と屈曲に関わります。長内転筋は浅い層で大腿三角の内側の縁を作り、短内転筋は恥骨筋・長内転筋の深側、大内転筋の前に位置します。長い・短いという名前だけでなく、停止の高さと重なりで区別できます。

10. 大内転筋は二つの部分で読む

大内転筋の内転部は恥骨下枝と坐骨枝から始まり、大腿骨粗線から内側顆上線へ広く停止します。閉鎖神経に支配され、股関節の内転に主に関わります。坐骨顆部は坐骨結節から始まり、大腿骨内側の内転筋結節へ停止します。こちらは坐骨神経の脛骨神経成分に支配され、股関節の伸展に主に関わります。同じ大内転筋でも、付着・作用・神経を部分ごとに組にすると整理できます。遠位の内転筋腱裂孔は、大腿動脈・静脈が膝の後ろへ抜ける通り道です。

内側の重なりと大内転筋

恥骨筋・長内転筋の深側に短内転筋、その後ろに大内転筋。下段は内転部の閉鎖神経/内転と、坐骨顆部の脛骨神経成分/伸展の対応。
上段は大腿内側の浅深の重なりを整理し、下段は同じ大内転筋内の二部分を作用・神経に対応させます。上下の箱は比較のための並びで、上下方向の実際の付着位置を表しません。

11. 薄筋は股と膝に関わる

薄筋は恥骨体と恥骨下枝から始まり、大腿内側の浅い層を下って、脛骨近位内側の鵞足へ停止します。閉鎖神経が支配し、股関節の内転と膝関節の屈曲に関わります。膝を曲げた位置では下腿の内旋にも関わります。大腿骨で終わる内転筋と違い、薄筋は膝までまたぎます。鵞足には縫工筋・薄筋・半腱様筋の腱が集まります。縫工筋と薄筋は同じ付着域へ届きますが、神経支配も股関節の作用も同じではありません。

12. 神経は筋の群名と一対一ではない

腰神経叢の枝である大腿神経は、大腰筋の外側へ現れ、腸骨筋との間を下り、鼠径靱帯の深側から大腿へ入ります。腸骨筋、縫工筋、大腿四頭筋や通常の恥骨筋へ枝を送ります。閉鎖神経は骨盤の内側を通り、閉鎖管から大腿内側へ入り、長・短内転筋や薄筋、大内転筋の内転部などへ枝を送ります。大腰筋の直接の腰神経枝、大内転筋坐骨顆部の脛骨神経成分を、この二つのまとまりと分けて読みます。

13. 大腿三角の縁と床

大腿三角は大腿の上前面にあります。上の縁は鼠径靱帯、外側の縁は縫工筋、内側の縁は長内転筋です。床には腸腰筋と恥骨筋などがあり、その上を神経や血管が通ります。縁を作る筋と床を作る筋は役割が違います。縫工筋を深い床の筋に置き換えたり、恥骨筋を内側の縁と置き換えたりすると、通り道の見方が変わってしまいます。

大腿三角の縁と床

三角の上辺を鼠径靱帯、外側辺を縫工筋、内側辺を長内転筋とし、内部の深い床に腸腰筋と恥骨筋を示す。
大腿上前面の大腿三角を、本人の外側・内側で読みます。上縁は鼠径靱帯、外側は縫工筋、内側は長内転筋で、深い床には腸腰筋・恥骨筋などがあります。三角を平面に展開した模式図です。

14. 神経と血管の並びと鞘

鼠径靱帯の下では、外側から大腿神経・大腿動脈・大腿静脈の順に並びます。大腿神経は大腿鞘の外側にあり、大腿動脈と静脈は大腿鞘の中にあります。大腿鞘は血管の周囲を包む構造で、大腿三角にあるものを全て一緒に包む袋ではありません。外腸骨動脈は鼠径靱帯を越えると大腿動脈と呼ばれ、血液を大腿へ送ります。

神経・血管と大腿鞘

外側の黄色い神経は破線の囲いの外。赤い動脈と青い静脈は囲いの中で、外側から神経・動脈・静脈の順。
鼠径靱帯の下の並びを外側から神経・動脈・静脈と示します。破線の囲いは大腿鞘の範囲で、神経を含みません。円は各構造の位置の目印で、神経や血管の実寸・組織の断面を写したものではありません。

15. 深い筋へ届く血管と静脈の帰り道

大腿動脈から出る大腿深動脈は、内側・外側大腿回旋動脈や穿通枝などを通じて大腿の深い筋へ血液を送ります。各筋に一本だけの専用動脈がある、と考えるよりも枝が分かれて筋の中へ届く経路として読むと分かりやすくなります。深い筋からの血液は大腿深静脈などを経て大腿静脈へ戻ります。大伏在静脈は表在を通り、鼠径部付近で大腿静脈へ流れ込みます。深い筋の静脈と皮下の表在静脈は、同じ場所を走る一本の管ではありません。

16. 内転筋管を囲む筋

大腿三角からさらに下ると、大腿動脈・静脈は内転筋管へ進みます。縫工筋が屋根側、内側広筋が外側、大腿の後内側にある長内転筋と大内転筋が壁を作ります。この管には伏在神経も通ります。伏在神経は大腿神経の感覚枝で、内側の膝や下腿の皮膚へ向かいます。筋の支配に向かう枝と、皮膚へ続くこの枝を分けて読みます。

17. 血管と伏在神経は同じ出口ではない

大腿動脈と静脈は、内転筋管の先で大内転筋の内転筋腱裂孔を通り、膝の後ろへ移ります。動脈はそこで膝窩動脈へ続きます。伏在神経は途中で管の屋根側へ抜け、膝の内側へ向かうので、この裂孔を血管と一緒には通りません。管に入ったものが全て同じ穴から出る、という並べ方をすると、前内側の感覚の通路と膝後方の血管の通路を取り違えます。

内転筋管からの別々の出口

縫工筋を屋根側、内側広筋を外側、長・大内転筋を後内側に置き、下で動静脈の後方への出口と伏在神経の内側への出口を別々に示す。
上段は内転筋管を囲む筋の対応を示し、下段は管を下った後の出口を分けています。大腿動静脈は大内転筋の腱裂孔から膝後方へ、伏在神経は管の屋根側へ抜けて膝内側へ向かいます。分岐した矢印は経路比較で、同じ神経血管が分裂する意味ではありません。

18. 付着から動く関節を考える

筋がどこからどこへ届くかを見ると、どの関節をまたぐかが分かります。大腿直筋は骨盤から膝へ届くため股と膝、縫工筋と薄筋は骨盤から脛骨へ届くため股と膝に関わります。一方、三つの広筋は大腿骨から膝へ届くので膝に関わります。長・短内転筋や大内転筋は大腿骨で終わるため、主に股関節の作用として読みます。こうして付着、位置、作用、神経を結ぶと、同じ内側や前側にある筋の違いを説明できます。

用語を確かめる

起始・停止
筋の付着を近位側の起始と遠位側の停止で整理する言い方。どちらが固定されるかは動作によって変わります。
屈曲・伸展
関節で曲げる動きと伸ばす動き。股関節の屈曲では大腿を前へ、膝の伸展では下腿を伸ばします。
内転・外転
体の中央へ近づける動きと、中央から離す動き。大腿の内転・外転は股関節の動きです。
内旋・外旋
大腿や下腿の長軸の周りで内向き・外向きに回す動き。どの関節と肢位かを一緒に読みます。
上前腸骨棘・下前腸骨棘
寛骨の前側にある上下の骨の突起。縫工筋の起始と大腿直筋直頭の起始を区別する目印です。
腸骨窩
腸骨の内面にある広いくぼみ。腸骨筋が広がる場所です。
小転子・大転子
大腿骨近位の突起。小転子は内後側、大転子は外側にあります。
椎体・横突起・椎間円板
椎骨の主な前側部分、横へ出る突起、椎体の間の組織。大腰筋の起始を読む目印です。
寛骨臼
寛骨側で大腿骨頭を受けるくぼみ。大腿直筋反回頭はその上方の骨の縁から始まります。
粗線
大腿骨体の後面にある粗い縦の線。広筋や内転筋の付着を読む目印です。
転子間線
大腿骨近位の前側で、大転子から小転子へ向かう線です。
恥骨上枝・下枝・坐骨枝
恥骨と坐骨にある棒状の部分。大腿内側の筋の起始を読む目印です。
恥骨櫛・恥骨筋線
恥骨櫛は恥骨上枝の縁、恥骨筋線は大腿骨近位後側の線。恥骨筋の始まりと行き先です。
坐骨結節
坐骨の下後側にある大きな突起。大内転筋坐骨顆部などが始まる場所です。
内側顆上線・内転筋結節
大腿骨の内側の顆へ向かう線と、その上方の突起。大内転筋の部分ごとの停止を分けます。
大腿四頭筋腱
大腿直筋と三つの広筋の力を膝蓋骨へまとめる腱です。
膝蓋骨・膝蓋靱帯・脛骨粗面
膝の前の骨、そこから脛骨へ続く靱帯、脛骨前面の突起。大腿四頭筋の力の通り道です。
鵞足
脛骨近位内側で縫工筋・薄筋・半腱様筋の腱が集まる付着域です。
二関節筋
二つの関節をまたぐ筋。大腿直筋・縫工筋・薄筋は股関節と膝関節をまたぎます。
筋体・頭・部分・筋群
筋そのもの、筋の起始側の分かれ、同じ筋内の区分、複数筋をまとめた名前。別々の数え方です。
腸腰筋
大腰筋と腸骨筋をまとめた呼び名。二筋の神経支配は同じではありません。
大腿四頭筋
大腿直筋・外側広筋・内側広筋・中間広筋の四筋をまとめた名前です。
腰神経叢
腰の脊髄神経の前枝が組み合わさり、下肢へ向かう神経を作るまとまりです。
大腿神経
腰神経叢から出て大腰筋外側を下る神経。大腿前側の筋などへ枝を送ります。
閉鎖神経・閉鎖管
閉鎖神経は腰神経叢から出て大腿内側へ向かいます。閉鎖管は骨盤からそこへ出る通路です。
坐骨神経の脛骨神経成分
坐骨神経の中で脛骨神経へ続く成分。大内転筋坐骨顆部へ筋枝を送ります。
鼠径靱帯
骨盤前面で上前腸骨棘から恥骨結節へ張る靱帯。大腿三角の上の縁です。
大腿三角
鼠径靱帯・縫工筋・長内転筋を縁にする大腿上前面の領域です。
大腿鞘
鼠径部で大腿動脈・静脈を包む構造。大腿神経はその外側にあります。
大腿深動脈・大腿回旋動脈・穿通枝
大腿動脈から分かれ、深い大腿筋や近位の周囲へ血液を送る枝のまとまりです。
表在静脈・深静脈
皮下を通る静脈と、深い筋の間などを通る静脈。大伏在静脈と大腿深静脈を分けて読みます。
内転筋管
縫工筋・内側広筋・長内転筋/大内転筋に囲まれた大腿の通路です。
伏在神経
大腿神経から続く感覚枝。内側の膝や下腿の皮膚へ向かいます。
内転筋腱裂孔
大内転筋の遠位にある通路。大腿動脈・静脈が膝の後ろへ抜けます。
膝窩動脈
大腿動脈が膝の後方へ続いた部分の名前です。