縦隔・心膜・大血管を区画と深さで読む
本文の目次
- 肺と肺の間を上下・前後へ広げて読む
- 胸骨角の高さで上と下を分ける
- 上縦隔を通る大きな連続
- 下縦隔は心膜を基準に三つへ
- 心膜の後ろには下る通路がある
- 左心房の後方と食道の前方
- 丈夫な心膜袋は上下へ連続する
- 漿膜の折返しと、面の間のすき間
- 心臓の出口の前後をたどる
- 大動脈弓は左後方へ回って下る
- 左から横切る静脈と右を下る静脈
- 区画・膜・管を三つの目印にする
1. 肺と肺の間を上下・前後へ広げて読む
縦隔は、左右の胸膜のうち、内側を覆う縦隔胸膜の間にある胸部の中央領域です。前は胸骨、後ろは胸椎、上は胸郭上口、下は横隔膜へ続きます。心臓の周囲だけを縦隔の全体とせず、その上を通る気管や血管、後ろを下る食道も位置づけます。左右の胸膜腔は縦隔を挟んで別々にあります。呼吸や姿勢によって臓器の位置は動き、外形を一つの固定寸法へ当てはめません。
2. 胸骨角の高さで上と下を分ける
胸骨柄と胸骨体の接合部にある胸骨角から、後方のT4–T5椎間付近を結ぶ横断面を、縦隔を上下に分ける目安にします。その上が上縦隔、下が下縦隔です。胸骨角は前方の骨の目印、椎間は後方の目印です。二つを結ぶ位置の面を、胸腔を塞ぐ実際の板として扱いません。
3. 上縦隔を通る大きな連続
上縦隔には、大動脈弓とその主要枝、左右の腕頭静脈、気管、食道などの一部があります。大動脈は上行部から弓部へ曲がり、下行部へ続きます。弓の典型的な主要枝は腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈です。左右の腕頭静脈は合流して上大静脈をつくります。上縦隔という領域名を、これらの構造が同じ一本の内腔に合わさることと取り違えません。
4. 下縦隔は心膜を基準に三つへ
下縦隔の前縦隔は、胸骨と心膜の間の狭い領域です。結合組織や脂肪などが位置します。中縦隔は心膜、心臓とその近くの大血管根部を含みます。後縦隔は心膜より後ろ、胸椎より前にあります。前・中・後の境界は、同じ胸腔内の位置を整理する区分であり、三区画を仕切る別々の膜が新たにあるという意味ではありません。
肺と肺の間の縦隔を上下へ読む
5. 心膜の後ろには下る通路がある
後縦隔には食道、胸部下行大動脈、胸管、奇静脈系などがあります。胸部下行大動脈は胸椎体の左側寄りを下り、横隔膜の大動脈裂孔側へ続きます。下方では食道との位置関係も変わるため、上から下まで二本を同じ横並びへ固定しません。中央で心臓を囲む心膜と、後方を下る別の管を前後で確かめます。
6. 左心房の後方と食道の前方
胸部食道は気管より後ろを通り、さらに下方では左心房の後方に位置します。心房と食道の間には心膜などがあり、食道が心房の血液の内腔へ開くわけではありません。前後の隣接と、管の連続を分けて読むと、左心房側の血液と食道側の内容物を同じ通り道にしません。
心膜を目印に下縦隔の前後を分ける
7. 丈夫な心膜袋は上下へ連続する
心膜の外側には線維性心膜という丈夫な結合組織の袋があります。その内面には、漿膜性心膜の壁側が接して続きます。袋の下部は横隔膜の腱中心と結合し、上方では心臓に近い大血管の外膜へ続きます。心膜は心臓表面だけで終わらず、近接する大血管根部も囲みます。横隔膜側の結合と、血管側の連続を上下で対応させます。
8. 漿膜の折返しと、面の間のすき間
心臓表面を覆う漿膜性心膜の臓側は心外膜とも呼ばれます。袋側の壁側と心臓側の臓側は、大血管根部の周囲で反転して続きます。二つの面の間が、薄い漿液を含む心膜腔です。折返しを血管の内腔へつながる穴にせず、心膜腔を血液の流れる心腔に置き換えません。層を拡大して読む場合も、通常の心膜腔を大きな空洞と考えないことが大切です。
心膜袋の上下の連続と大血管根部の折返し
9. 心臓の出口の前後をたどる
肺動脈幹は右心室を出るところで、上行大動脈より前方かつ本人の左側に位置します。上へ続いて左右の肺動脈へ分かれ、右肺動脈は上行大動脈と上大静脈の後方を通って右肺へ向かいます。正面で線が重なって見えても、肺動脈と大動脈、大静脈がそこで合流するという意味ではありません。血管の起こりと行き先を保ち、前後の深さを読み足します。
10. 大動脈弓は左後方へ回って下る
上行大動脈から続く弓部は、本人の左後方へ回り、左主気管支の上を越えて胸部下行大動脈へ続きます。上へ出る典型的な三つの主要枝と、弓そのものが後方へ曲がる道を分けて読みます。下行部は椎体に近い位置を下ります。枝の数や共通幹には型の違いがあるため、典型型の三枝を全例で同じ形として固定しません。
11. 左から横切る静脈と右を下る静脈
左腕頭静脈は胸骨柄の後方を右へ横切り、大動脈弓の主要枝の前を通ります。右腕頭静脈と合流して上大静脈になり、上大静脈は上行大動脈の本人右側を下って右心房へ入ります。左から右への合流と、上から心房へ下る連続を別の向きでたどります。奇静脈は上大静脈へ流入する別の枝であり、左右の腕頭静脈と同じ高さで三本が合流する形成図へまとめません。
大動脈・肺動脈と腕頭静脈の重なりを読む
12. 区画・膜・管を三つの目印にする
縦隔の区画は、胸骨、心膜、椎体との位置関係を読む目印です。心膜の層は心臓を囲む面の連続、血管や食道は内容物を通す別々の管としてたどります。正面で本人の左右を確かめ、横からは前後を読むと、一枚の投影で重なる構造を区別できます。呼吸や体格による位置の違いがあっても、区画の境界を実際の隔壁にしたり、隣接する管を同じ内腔へ合流させたりしません。
用語を確かめる
- 縦隔
- 左右の縦隔胸膜の間にある胸部の中央領域。
- 胸骨角
- 胸骨柄と胸骨体の接合部にある、上下の区分の前方の目印。
- 上縦隔
- 胸骨角とT4–T5椎間付近を結ぶ面より上の領域。
- 下縦隔
- 同じ面より下で、前・中・後の区分を読む領域。
- 前縦隔
- 胸骨と心膜の間の狭い領域。
- 中縦隔
- 心膜、心臓と近接する大血管根部を含む領域。
- 後縦隔
- 心膜より後ろ、胸椎より前の領域。
- 線維性心膜
- 心膜の外側をつくる丈夫な結合組織の袋。
- 壁側漿膜性心膜
- 線維性心膜の内面に接する袋側の漿膜。
- 臓側漿膜性心膜
- 心臓表面を覆う漿膜で、心外膜とも呼ぶ。
- 心膜腔
- 漿膜の壁側と臓側の間の、薄い漿液を含むすき間。
- 心膜の反転
- 大血管根部で袋側の漿膜が心臓側の面へ続く折返し。
- 大血管根部
- 心臓に近い大血管の部分で、心膜との連続を読む領域。
- 上行大動脈
- 心臓から上へ続き、大動脈弓に移る部分。
- 大動脈弓
- 左後方へ曲がって下行部へ続く大動脈の部分。
- 胸部下行大動脈
- 椎体近くを下り、大動脈裂孔側へ続く部分。
- 肺動脈幹
- 右心室から出て左右の肺動脈に分かれる幹。
- 腕頭静脈
- 左右から上大静脈へ合流する静脈。
- 上大静脈
- 上行大動脈の右側を下り、右心房へ入る静脈。
- 左心房の後面
- 心膜などを介して胸部食道が後方に隣接する側。