肩甲帯から上腕へ続く九筋

本文の目次

  1. 肩甲骨を動かす筋と上腕を動かす筋
  2. 肩甲挙筋は頸部から上角へ
  3. 小菱形筋は肩甲棘の内側端へ
  4. 大菱形筋は肩甲棘より下へ
  5. 大胸筋は上腕骨の外側唇へ
  6. 小胸筋は深部で烏口突起へ
  7. 鎖骨下筋は第1肋骨から鎖骨へ
  8. 広背筋は後面から結節間溝の底へ
  9. 大円筋は下角から内側唇へ
  10. 烏口腕筋と筋皮神経の通路
  11. 腋窩の前と後を筋で結ぶ
  12. 腕神経叢からの枝を筋へつなげる

1. 肩甲骨を動かす筋と上腕を動かす筋

筋を付着先から読みます。肩甲挙筋と菱形筋は脊柱側から肩甲骨内側縁へ向かいます。小胸筋は烏口突起へ、鎖骨下筋は鎖骨へ止まります。一方、大胸筋・広背筋・大円筋・烏口腕筋は上腕骨へ力を伝えます。肩甲骨の動きと、肩関節での上腕の動きを一つにまとめず、既に学んだ僧帽筋・前鋸筋や三角筋との位置をつなげます。

2. 肩甲挙筋は頸部から上角へ

肩甲挙筋は第1〜4頸椎の横突起の後結節から、肩甲骨上角と肩甲棘より上の内側縁へ向かいます。肩甲骨を挙上し、下角が内側へ向く下方回旋にも関わります。支配は肩甲背神経だけでなく頸神経の枝からも受けます。下部は僧帽筋の深側にあり、頸椎と肩甲骨を結ぶ筋です。

3. 小菱形筋は肩甲棘の内側端へ

小菱形筋は項靱帯と第7頸椎・第1胸椎の棘突起から、肩甲棘の内側端近くへ向かいます。大菱形筋より上にあり、両筋は僧帽筋の深側です。肩甲骨を脊柱側へ引く後退、下方回旋、胸壁への固定に関わり、肩甲背神経に支配されます。肩甲挙筋とは、脊柱側の付着位置と肩甲骨での停止範囲が異なります。

4. 大菱形筋は肩甲棘より下へ

大菱形筋は第2〜5胸椎の棘突起と隣接する靱帯から、肩甲棘より下の内側縁から下角付近へ向かいます。支配は肩甲背神経です。小菱形筋とともに後退・下方回旋に関わりますが、二筋の起始と停止範囲は異なります。前鋸筋は肩甲骨の胸壁側へ連絡するため、同じ内側縁付近でも前後の面を分けて読みます。

後面の肩甲帯三筋

上段は頸椎横突起から肩甲上角側、中段はC7/T1棘突起側から肩甲棘の内側端、下段はT2〜5棘突起側からその下の内側縁への三つの連絡。骨の傾きや筋の全幅は省略。
三筋を別枠で示し、脊柱側の付着と肩甲骨内側縁での停止範囲を分ける。三筋とも僧帽筋の深い側で肩甲骨に作用するが、肩甲挙筋は頸神経の枝からも支配される。

5. 大胸筋は上腕骨の外側唇へ

大胸筋は前胸部に広がる浅い筋です。鎖骨側の頭は鎖骨内側半、胸肋部は胸骨と上位の肋軟骨などから起こり、腹部側の腱膜とも連続します。一つの大胸筋として上腕骨結節間溝の外側唇へ止まり、内転・内旋に関わります。鎖骨部は上腕屈曲に、胸肋部は屈曲した上腕を下ろす伸展に関わるため、全ての部分を常に同じ屈伸作用にはしません。外側・内側胸筋神経から支配を受けます。

6. 小胸筋は深部で烏口突起へ

小胸筋は大胸筋の深側にあり、通常は第3〜5肋骨の前面から烏口突起へ止まります。肩甲骨を前下方へ引いて胸壁との位置を安定させ、上腕骨へ直接止まる大胸筋とは異なります。主な支配は内側胸筋神経です。小胸筋は腋窩動脈の前を横切るため、筋の内側・後方・外側を基準に動脈の位置を区別できます。筋を横切る位置と動脈の枝の起始は同じ関係ではなく、枝の起こり方には個体差があります。

大小胸筋の層と停止

上段は鎖骨/胸骨肋軟骨から上腕骨外側唇へ向かう大胸筋、下段は肋骨から烏口突起へ向かう小胸筋。上下は深さの比較で同じ一筋の部分ではない。
大胸筋は上腕骨へ、小胸筋は烏口突起へ止まる。浅い大胸筋の扇状の付着と、その深い小胸筋を別枠で読む。小胸筋の代表的な第3〜5肋骨の起始を示し、全個体の肋骨付着数を固定しない。

7. 鎖骨下筋は第1肋骨から鎖骨へ

鎖骨下筋は第1肋骨と肋軟骨の境付近から、鎖骨中央部の下面へ向かいます。支配は鎖骨下筋神経です。鎖骨を下へ引き、運動中の鎖骨を安定させます。小胸筋とともに鎖骨胸筋筋膜に包まれ、鎖骨下を通る構造との深さの目印になります。鎖骨下筋神経は典型的に腕神経叢の上神経幹から分かれます。

鎖骨下筋の位置

鎖骨と第1肋骨の間に短い鎖骨下筋を置き、肋骨側の起始と鎖骨下面の停止への二つの連絡を描く。
鎖骨下筋は第1肋骨と肋軟骨の境付近から鎖骨下面へ向かう。鎖骨の下制と安定に関わり、支配は鎖骨下筋神経。骨と筋の実寸や周囲の全血管は省略する。

8. 広背筋は後面から結節間溝の底へ

広背筋は下位胸椎、胸腰筋膜、腸骨稜、下位肋骨などから広く起こります。胸腰筋膜は腰背部で筋の付着と力の連絡に関わる膜で、広背筋の停止骨そのものではありません。腱は上腕骨の結節間溝の底へ向かい、伸展・内転・内旋に関わります。支配は胸背神経です。停止に近づく腱は大円筋の前へ回り、両筋は後腋窩ひだに関わります。肩甲骨下角からの付着などには個体差があります。

9. 大円筋は下角から内側唇へ

大円筋は肩甲骨下角の後面と外側縁下部から、上腕骨の結節間溝の内側唇へ向かいます。支配は下肩甲下神経で、伸展・内転・内旋に関わります。広背筋と作用が似ていても、起始と支配神経は同じではありません。小円筋の下に位置しますが、腱板四筋へ加える筋ではありません。外側唇の大胸筋、溝の底の広背筋、内側唇の大円筋という三つの停止を分けます。

結節間溝の停止三か所

上腕骨結節間溝の二つの隆起と底に、三つの筋記号から別の線が達する。順序は外側唇・底・内側唇で、下に対応筋名を記す。
溝を挟む二つの唇と溝の底を区別する。大胸筋は外側唇、広背筋は底、大円筋は内側唇へ止まる。三つの筋記号と実線は停止への連絡を示し、骨断面の寸法や腱の全輪郭は示さない。

10. 烏口腕筋と筋皮神経の通路

烏口腕筋は烏口突起の先端から上腕骨体中央付近の内側面へ向かい、上腕二頭筋短頭と近位の付着部を共有します。肩関節で上腕を屈曲・内転し、筋皮神経に支配されます。筋皮神経がこの筋を貫く代表的な通路がありますが、支配枝が全て貫通の後に分かれるという順序を示すものではありません。肘関節を動かす二頭筋や上腕筋と、停止骨と動く関節を区別します。

11. 腋窩の前と後を筋で結ぶ

大胸筋は前腋窩ひだに、小胸筋はその深い前壁に関わります。後腋窩ひだは広背筋と大円筋が作る部分です。腋窩後壁のさらに上方には、既に学んだ肩甲下筋があります。外側では烏口腕筋・上腕二頭筋と上腕骨が近接します。これらは前・後・外側の位置を読む目印で、同じ壁にある全ての神経や血管を同一の支配にまとめません。

後腋窩の二筋を分ける

上段は広背筋の広い体幹側の付着から溝の底へ、下段は大円筋の肩甲下角側から内側唇への連絡を示す。腱のねじれと互いの全前後輪郭は省略。
広背筋と大円筋はともに上腕の伸展・内転・内旋に関わる。後腋窩ひだで近接する二筋を、体幹から広く起こる筋と肩甲骨から起こる筋に分け、停止と神経も別に追う。

12. 腕神経叢からの枝を筋へつなげる

外側・内側胸筋神経はそれぞれの神経束側から胸筋へ向かいます。胸背神経と下肩甲下神経は典型的に後神経束から、筋皮神経は外側神経束から分かれます。肩甲背神経は腕神経叢の近位で頸神経前枝側から分かれる枝で、肩甲挙筋や菱形筋へ向かいます。鎖骨下筋神経の上神経幹からの分岐と分け、すべての筋枝が終枝から順に派生する単一の鎖にはしません。

烏口腕筋と筋皮神経

長い烏口腕筋の上端を烏口突起、下端を上腕骨体内側へ結ぶ。別色の連続した神経曲線が筋を横切って下へ続く。筋と神経は色だけでなく形とラベルで区別。
烏口腕筋は烏口突起から上腕骨体内側へ連絡し、筋皮神経が筋を貫く代表的な通路を持つ。筋の付着線と神経の曲線は別で、支配枝の全分岐を描いていないため、全筋枝が貫通後に出るという順序は示さない。

用語を確かめる

起始
筋の付着のうち、ここでは近位または体幹側として記す側。動作で必ず動かないという意味ではない。
停止
筋のもう一方の付着側。力を伝える先を示す。
横突起
椎骨から左右へ出る骨の突起。
棘突起
椎骨の後ろへ出る骨の突起。
項靱帯
頸部の後面で頭蓋と頸椎の棘突起側に連絡する靱帯。
肩甲骨上角
肩甲骨の内側縁の上端の角。
肩甲骨下角
肩甲骨の下端の角。
肩甲棘
肩甲骨後面を横切る骨の隆起。
内側縁
肩甲骨の脊柱に近い縁。
烏口突起
肩甲骨の前上方へ出る突起で、筋や靱帯が付く。
挙上
肩甲骨などを上方へ動かすこと。
後退
肩甲骨を脊柱側へ近づける動き。
下方回旋
肩甲骨の下角が内側へ向かい、関節窩が下方へ向く回旋。
屈曲
肩関節では上腕を前方へ動かす向き。
伸展
肩関節では上腕を後方へ動かす向き。屈曲位から下ろす動きも含めて読む。
内転
上腕を体幹へ近づける向き。
内旋
上腕を肩関節で内向きに回すこと。
肋軟骨
肋骨の前方に続く軟骨。
腱膜
腱のように筋の力を伝える、幅の広い膜状の結合組織。
胸腰筋膜
胸部から腰背部で筋を包み、付着と力の連絡に関わる筋膜。
腸骨稜
骨盤の腸骨の上縁。
結節間溝
上腕骨の大結節と小結節の間の溝。
外側唇・内側唇
結節間溝の外側と内側の縁。溝の底とは異なる停止位置。
前・後腋窩ひだ
腋窩の前後に筋が作る皮膚側のふくらみ。
鎖骨胸筋筋膜
鎖骨下筋・小胸筋を包んで連絡する深い筋膜。
神経幹と神経束
腕神経叢の連絡段階。根から神経幹へ、区分を経て神経束へ続く。
C・T(椎骨)
椎骨番号に付くCは頸椎、Tは胸椎。例えばC7は第7頸椎、T1は第1胸椎。