目的と作用、回復と経過から理解する治療基盤
本文の目次
- 何を変えるために行うか
- 治す、制御する、苦痛を和らげる
- 原因と、症候に働く段階
- 足りない働きを補い、残る働きを生かす
- 今の問題と、先の出来事を減らす目的
- 目的に合わせて、結果を確かめる
- 方法の名前から、変える対象へ
- 入力、届く段階、その後の反応
- 作用する側の状態も結果に関わる
- 適応を考えるために、目的と条件をそろえる
- 目的に合う変化と、望ましくない変化
- 後で起きた事象と、作用との関連
- 得られた変化を、元の目的へ戻す
- 働きかけの範囲を、経路で比べる
- 戻る働きと、残る働きで補うこと
- 機能、行為、生活への関わり
- 環境と支援が、活動の条件を変える
- 目的、実施、前後の観測を時刻へ結ぶ
- 改善に重なった条件を分ける
- 短い反応と、持続する目標
- 目的と計画、結果が対応しているか
- 異なる情報を、共通の目的へ持ち寄る
- 期待した変化と、得られた変化を並べる
- 未確認の条件を、本人と担当の相談へ戻す
- 変わった条件と、残る別の条件
1. 何を変えるために行うか
治療は、疾患や障害に働きかけ、生命や身体の働き、苦痛、生活への影響を改善したり支えたりする目的で行われます。病因は障害を生む原因、病態は身体の構造や働きで進む変化です。症候には、本人が感じる症状と、観察や測定で得られる所見があります。治療を理解するときは、どの原因や過程に働き、どんな結果を目指すかをつなぎます。原因を取り除く、進行を抑える、痛みを和らげる、足りない働きを補うという目的は、変えようとする対象が違います。一つの方法が複数の目的に役立つ場合もあり、同じ人を支えるために異なる目的を組み合わせることもあります。
2. 治す、制御する、苦痛を和らげる
治癒は、疾患が治った状態を指します。何を確かめて治ったと判断するかは、疾患や評価の条件に関わります。病態の活動を抑え、悪化を防ぎながら生活を支える目的は、疾患を制御する方向です。緩和は、痛みや息苦しさなどの苦痛、生活に生じる負担を和らげる方向です。緩和を目的とする支援は、疾患の時期にかかわらず、原因や病態に働く治療と並行できます。症状が軽くなったこと、病態の活動が減ったこと、傷ついた構造や働きが戻ったことは、確かめる対象が違います。どの変化が得られたかを示すと、目的がどこまで実現したかを考えられます。
3. 原因と、症候に働く段階
原因から病態、機能の変化、症候へ続く過程を、段階に分けて考えます。原因を取り除く働きかけは、その原因から新たな障害が生じる過程を変える方向です。病態の活動を抑える働きかけは、原因が残っていても、身体で進む変化を小さくする方向に働くことがあります。対症療法は、痛みなどの症候を軽減する目的の治療です。痛みを伝える過程に働いて経験される痛みが小さくなった場合、変化したのはその症候に関わる段階です。症候の軽減と、痛みを生んだ組織の変化がなくなったことを別に確かめると、得られた効果と残る課題を説明できます。
4. 足りない働きを補い、残る働きを生かす
支持療法は、身体の働きや全身の状態を支える方向の治療です。原因への働きかけがすぐに元の機能の回復へつながらない場合でも、必要な働きを補い、身体が回復する過程を支える目的があります。身体の応答によって不足を抑える代償と、外からの支援によって不足を補うことは、働きが生じる経路が違います。また、原因が収まった後にも、失われた細胞や瘢痕などの構造が残ることがあります。その場合には、残る機能を使う方法や生活環境の工夫が、行える活動に関わります。今ある不足を補うこと、傷ついた組織が回復すること、生活の活動を支えることを分けて目的に結びます。
5. 今の問題と、先の出来事を減らす目的
予防は、発症や再発、合併する問題、機能の低下など、避けたい出来事が起こる可能性や影響を減らす目的です。再発は、一度軽減したり治まったりした疾患が再び現れることを指します。今ある症候を軽くする目的と、将来の悪化を減らす目的は、対象と時間が違います。治療を受けている間にも、将来の問題を予防する目的が重なります。感染を治療する目的と、病原体がほかの人へ移る機会を減らす目的も、働きかける段階が異なります。治療か予防かという言葉だけで分けるより、何の出来事を、いつ減らしたいかを示すと、その働きかけの意味が明らかになります。
目的と、働きかける段階
6. 目的に合わせて、結果を確かめる
目的が痛みの軽減なら、本人が経験する痛みと、それが活動へ及ぼす影響を確かめます。機能を支える目的なら、どんな働きをどの条件で保てたかを確かめます。病態の活動を抑える目的なら、その活動に関わる情報を時点と合わせて追います。方法を行ったという記録は実施の情報で、目的に合う変化が得られたかは結果の情報です。変化が得られた側面と、まだ変わっていない側面を分けると、次に何を確かめるかを具体的にできます。目的を示したうえで、本人の経験、身体の情報、生活上の活動のどれを観察するかを対応させます。
7. 方法の名前から、変える対象へ
薬物療法は、薬を使って生体の標的や反応に働きかける方法です。非薬物療法には、薬以外の方法で身体や経験、生活の条件へ働きかけるものがあります。手術は、身体の組織や構造に直接働きかける方法です。リハビリテーションは、身体の働きや活動、暮らしへの関わりを支える過程です。情報や心理的な支援は、理解、不安、問題への対処などに関わります。これらの方法は、変える対象や作用する経路が違います。薬物と非薬物を組み合わせる場合も、各方法の目的と、どの対象をどう変えるかを明らかにすると、役割を説明できます。
8. 入力、届く段階、その後の反応
薬の体内量や濃度がどのように変わるかを扱うのが薬物動態、薬が生体へ作用してどんな反応を起こすかを扱うのが薬力学です。標的は、薬が働きかける受容体、酵素、イオンの通路などです。受容体は信号を受け取り、酵素は化学反応を助けます。薬が標的へ届くこと、標的に働くこと、その後の身体の反応は別の段階です。曝露は、薬が身体にどのような濃度と時間で存在するかに関わります。ある時点の体内量や濃度、反応の大きさを分けて見ると、入力が同じでも反応が違う理由をたどれます。
9. 作用する側の状態も結果に関わる
作用点は、ある方法が働きかける過程や場所です。薬が同じ濃度と時間で存在していても、受容体の数や、その後の身体の応答が違えば反応の大きさが変わることがあります。受容体の結合部位に薬が結び付いた情報と、そこから下流の反応が起きた情報も分けて捉えます。同じ部位に結合しても、自身では同じ作動反応を起こさず、別の分子の働きを妨げる場合があります。届いた量だけに注目するのでなく、働きかけられる対象と、その後に反応する側の状態を合わせると、結果へつながる過程を説明できます。
10. 適応を考えるために、目的と条件をそろえる
適応は、ある方法をその目的や対象の状態に用いる根拠や条件に関わります。方法がどの段階へ働くかと、今解決したい問題がどの段階にあるかを対応させます。同じ病名でも、今進んでいる変化や残っている働き、本人の目的、実行に必要な条件が違うことがあります。期待する変化、負担、まだ分からない条件をそろえることが、適切さを検討するための土台になります。情報を集める担当が未確認の点を明らかにし、専門的な評価や説明を担う相手へ確かめることで、検討に必要な情報を補えます。
11. 目的に合う変化と、望ましくない変化
利益は、目的の実現に役立つ変化です。負担には時間や手間、疲れ、苦痛などがあり、その重さは本人の生活や大切にすることに関わります。薬が同じ部位や別の部位の働きを変えることで、目的に合う効果と望ましくない反応が共に起こる場合があります。望ましいかどうかは、その作用を何のために用いるかにも関わります。薬以外の方法でも、活動を行いやすくする利益と、準備や実施に必要な負担が共存することがあります。方法の目的、期待される変化、負担や害の可能性、不確かな点を別に示すと、本人が重視することと合わせて比較できます。
12. 後で起きた事象と、作用との関連
薬の使用後に起きた好ましくない出来事を有害事象と呼びます。この言葉で記録した段階では、薬が原因だと確定したことを意味しません。薬との関連が疑われる、又は否定できない有害な反応を副作用として扱います。いつ何を使用し、どんな変化がいつ確認されたかを分けて記録すると、関連を検討するための情報になります。元の疾患の変化や、同時に行われた別の働きかけなども確認する対象です。時間的に後で起きたことと、その作用によって起きたことを分けると、観測できた事実と、さらに確かめる関係を示せます。
13. 得られた変化を、元の目的へ戻す
痛みが小さくなったという経験、身体の働きを表す測定、活動を行えたという結果は、それぞれ別の側面です。症候に働いた方法で痛みが軽減したなら、症候の軽減という目的に合う変化が得られたと説明できます。その時点で組織の構造や病態の活動を観察していなければ、それらは別に確かめる事項として残ります。また、身体の状態が同じでも環境や支援の条件が違えば、生活上の活動が変わることがあります。作用した段階、観測された変化、未確認の側面を目的へ戻して整理すると、一つの結果を別の成果へ広げずに検討できます。
入力から反応、利益と負担へ
14. 働きかけの範囲を、経路で比べる
原因から身体の変化、働き、症候へ続く経路を考えるときは、どの段階を変えたかを明らかにします。上流の原因を変える働きかけと、途中の反応を変える働きかけでは、その後に影響する範囲が異なります。下流の症候が変わった情報から、上流の原因や残る構造が変わったかをさらに確かめる必要がある場合もあります。比較では、一つの働きかけが届く部分と、今回変えていない部分を並べます。与えられた条件から関係をたどり、不足する情報を明らかにすることが、目的と作用の違いを読む助けになります。
15. 戻る働きと、残る働きで補うこと
傷害の後に失われた細胞や組織が戻り、身体の働きが改善する経路と、残っている働きで補う経路は異なります。構造の修復によって力が戻る場合は、構造と機能の回復を追います。別の動きや使える支援で同じ行為を行える場合は、何を使って行為を補えたかを確かめます。リハビリテーションは、身体機能だけでなく、活動や生活の場への参加を支える過程です。構造が十分戻らないときにも、残る働きと環境を合わせて、生活上の目的に近づく方法を考えられます。
16. 機能、行為、生活への関わり
身体機能は、力を出す、感じる、動きを合わせるなどの身体の働きです。活動は、物を扱う、移動するなどの行為を実際に行うことです。参加は、生活の場で役割や人との関わりを持つことです。握る力の測定、物を取り出せたという観察、集まりで大切な役割を続けたいという希望は、それぞれ別の情報になります。身体の働きが同じでも、活動の条件が変われば参加のしやすさが変わることがあります。本人が何を大切にしているかを聴くと、活動の変化をどの生活上の目的へ結ぶかが明らかになります。
17. 環境と支援が、活動の条件を変える
環境調整は、物の位置や形、生活する場の条件を変えることです。支援には、道具や他者の手助けなど、行為を支える条件が含まれます。手が届く範囲に物を置けば、手を伸ばせる範囲が変わらなくても、その物を取り出せる場合があります。重い部分を他者が支えると、行為のうち本人が担う必要の大きさが変わることもあります。身体機能の測定値と、整えた条件の下で何を行えたかを別に記録すると、活動を支えた経路を捉えられます。一つの行為が行えたという観察は、その条件での活動を示し、別の行為に必要な条件は改めて確かめます。
機能、活動、参加を支える条件
18. 目的、実施、前後の観測を時刻へ結ぶ
介入は、ある変化を目指して身体や生活の条件へ働きかけることです。経過を追うときは、何を目的に、いつ何を行ったかを記録します。その前後に得られた本人の訴え、身体機能、行えた活動を、観測した時刻や条件へ対応させます。検査値なら試料や測定方法、活動なら場所、使った道具、手助けの有無なども関わります。実施した内容、得られた変化、情報を得た条件を並べると、目的に対して何を確かめたかを具体的に説明できます。
19. 改善に重なった条件を分ける
自然経過は、時間とともに身体の状態が移り変わる経過です。ある働きかけの後に訴えが軽くなったときにも、身体の自然な変化、同時期の別の働きかけ、活動や測定の条件が重なっている場合があります。たとえば前後で休息の長さが違えば、訴えの変化を読むためにその違いも必要です。前後の改善という事実と、何がその改善を生んだかという説明を分け、重なった条件を確かめます。特定の働きかけが結果を生んだかを調べるには、前後の一例だけでなく、他の変化を区別できる情報が必要です。
20. 短い反応と、持続する目標
作用直後に現れる即時の反応と、構造の修復、活動の習得、環境の調整には、確かめる対象や必要な時間の違いがあります。苦痛が軽くなったという短い時点の情報は、その時点の苦痛についての成果です。組織の働きが戻ったか、支援を使う活動が続けられるか、生活の役割へつながったかは、それぞれの条件で確かめます。目標に合わせて、次に何を、いつ、どの条件で観測するかを共有します。観測の時期は目指す変化と経過に合わせ、全ての働きかけを同じ日数や一つの改善率で判断するものではありません。
実施、観測と経過の条件
21. 目的と計画、結果が対応しているか
治療の目的、対象となる人、予定や実施の時点をそろえ、計画と得られた情報を突き合わせます。ある活動を支える予定の内容と、実際に使えた支援が違う場合には、違いを具体的に残します。依頼を受け取ったこと、内容が同じ意味で理解されたこと、実際に行われたこと、目的に合う結果が得られたことは別の段階です。不一致や未確認の点を明らかにして、内容や実施結果を確かめられる担当へ戻すと、その後の相談の基になる情報をそろえられます。
22. 異なる情報を、共通の目的へ持ち寄る
本人は、経験していること、大切にしたい生活の目的、気になる負担や質問を伝えます。関係する担当は、身体や生活の情報を集め、専門家は自分が担う評価と説明を行います。身体の働き、環境の条件、本人の希望を共通の目的へ結ぶと、何を誰に確かめるかが見えます。説明を行った記録と、本人がどう理解したか、自分の意思で何を望むかという情報を分けて確かめます。分からない点を質問できる機会を保ち、担当の異なる情報を相談へ戻します。
23. 期待した変化と、得られた変化を並べる
目標に対応する観測と、実際に得られた変化を並べます。苦痛が軽くなったこと、ある活動を行えたこと、生活の役割を続けられたことは、異なる成果です。活動の回数が増えても、疲れや準備の手間が増えたなら、その負担も本人の希望と合わせて捉えます。期待した側面、変わらなかった側面、本人にとっての利益と負担を分けて整理すると、次に確かめたい目的を話し合えます。
24. 未確認の条件を、本人と担当の相談へ戻す
本人が活動を続けたいと望んでいても、必要な支援が継続して使えるかは別の情報です。一度は支援を使って活動を行えたが、次の機会の支援がまだ確認されていないなら、実際に行えた活動と継続の未確認条件を分けます。支援の予定を確かめられる担当へ確認し、本人が感じた利益や負担、今後の希望を合わせて相談します。見直しは、得られた情報を基に、目標や計画、次に確かめる内容を考え直すことです。何が両立しにくいかを共有すると、期待した変化と現在の条件を照らし合わせられます。
25. 変わった条件と、残る別の条件
活動の成立には、身体の働き、対象や環境、使える支援など、複数の条件が関わります。ある支援が一つの区間を補えても、別の区間に必要な働きが同時に変わるとは限りません。物を取り出しやすくする環境調整で取り出す活動が行えるようになっても、その物を別の場所へ運ぶ行為には別の条件が必要です。変えた条件がどの活動へ働くかを追い、目標に必要な条件がそろった側面と、まだ不足又は未確認の側面を区別します。身体機能の記録と支援後の活動を合わせると、変化した経路を具体的に説明できます。
観測を、目標と計画の見直しへ
用語を確かめる
- 治療
- 疾患や障害に働きかけ、生命・身体の働き・苦痛・生活への影響を改善又は支える目的で行うこと。
- 治癒
- 疾患が治った状態。何を確かめて判断するかは疾患や評価の条件に関わる。
- 制御
- 病態の活動や進行を抑える方向に働きかけること。
- 緩和
- 苦痛や生活に生じる負担を和らげること。原因や病態へ働く治療と並行できる。
- 対症療法
- 痛みなどの症候を軽減する目的の治療。
- 支持療法
- 身体の働きや全身の状態を支える方向の治療。
- 予防
- 発症・再発・合併や機能低下等の避けたい出来事の可能性又は影響を減らす目的の働きかけ。
- 再発
- 一度軽減又は治まった疾患が再び現れること。
- 薬物療法
- 薬を使って生体の標的や反応に働きかける方法。
- 非薬物療法
- 薬以外の方法で身体や経験、生活の条件へ働きかける方法。
- 手術
- 身体の組織や構造に直接働きかける方法。
- リハビリテーション
- 身体の働きや活動、暮らしへの関わりを支える過程。
- 適応
- ある方法をその目的や対象の状態に用いる根拠や条件。
- 作用点
- ある方法が働きかける過程や場所。
- 薬物動態
- 薬の体内量や濃度が、吸収・分布・代謝・排泄等を通じてどう変わるかを扱う関係。
- 薬力学
- 薬が生体の標的へ作用し、どんな反応を起こすかを扱う関係。
- 標的
- 薬等が働きかける受容体・酵素等の対象。
- 曝露
- 薬が身体にどのような濃度と時間で存在するかに関わること。
- 利益
- 目的の実現に役立つ変化。
- 負担
- 時間・手間・疲れ・苦痛等、方法の実施や影響に伴う重さ。
- 有害事象
- 薬の使用後に起きた好ましくない出来事。薬との因果関係の確定をこの語だけでは示さない。
- 副作用
- 薬との関連が疑われる又は否定できない有害な反応。
- 身体機能
- 力を出す、感じる、動きを合わせるなど、身体の各部分の働き。
- 活動
- 物を扱う、移動するなど、課題や行為を実際に行うこと。
- 参加
- 生活の場で役割や人との関わりを持ち、その場に関わること。
- 構造・機能の回復
- 障害後に、失われたり変化したりした身体の構造や働きが戻る方向の変化。
- 環境調整
- 物の位置や形、生活する場の条件などを変えること。
- 支援
- 道具や他者の手助けなど、目的に向かう行為を支えることや条件。
- 介入
- ある変化を目指して、身体や生活の条件へ働きかけること。
- 観測
- 身体や活動などについて、観察や測定で情報を得ること。
- 自然経過
- 時間とともに身体の状態が移り変わる経過。
- 即時の反応
- 作用の直後など、短い時点で現れる反応。
- 持続する目標
- 一時点の変化だけでなく、働きや活動が続くことなどを確かめる目標。
- 見直し
- 得られた情報を基に、目標や計画、次に確かめる内容を考え直すこと。