甲状腺ホルモン過剰:産生亢進と貯蔵分の流出

本文の目次

  1. バセドウ病では刺激性抗体が産生を促す
  2. 無痛性甲状腺炎の中毒期では貯蔵分が流出する
  3. 同じホルモン増加でも疾病の経路を読む

1. バセドウ病では刺激性抗体が産生を促す

バセドウ病では、TSH受容体を刺激する抗体が甲状腺細胞に働き、甲状腺ホルモンの産生・分泌を過剰にする。ここで読むのは、抗体があるという一般的な自己免疫の説明に加え、刺激性抗体がこの受容体を刺激して産生を促すという疾病固有の関係である。 TSH受容体に対する抗体という名称だけから、全ての抗体が常に同じ刺激作用を持つとは決めない。通常のTSH調節と負のフィードバック、甲状腺ホルモンが末梢の標的細胞で働くしくみは既存共通教材を参照する。

2. 無痛性甲状腺炎の中毒期では貯蔵分が流出する

無痛性甲状腺炎の甲状腺中毒期では、甲状腺の組織が破壊され、貯蔵されていたホルモンが血中へ流出する。濾胞構造が壊れることで、内部のコロイドに蓄えられていたホルモンが流れ出るという関係である。新しいホルモンの産生が過剰になるバセドウ病の経路とは異なる。 この説明は無痛性甲状腺炎の中毒期に限定する。全ての甲状腺炎の全時期で血中ホルモンが多いという意味ではなく、名称の「無痛性」だけから個人の病態を確定することもしない。

3. 同じホルモン増加でも疾病の経路を読む

甲状腺中毒症は、血中の甲状腺ホルモンが過剰になった状態をいう。バセドウ病による産生亢進も、無痛性甲状腺炎の中毒期における貯蔵分の流出も、この状態につながる。二つの疾病を比べるときは、刺激性抗体による産生亢進と、組織破壊による流出の対応を残す。 甲状腺中毒症の全原因をこの二つだけに分類せず、全ての甲状腺中毒症で甲状腺の産生が亢進していないともまとめない。本章は疾病の代表的な病態を整理する基礎課題であり、個人の症状や検査値から診断・治療を決める手順ではない。

二つの疾病からホルモン増加へ至る病態

バセドウ病
刺激性TSH受容体抗体。甲状腺細胞の受容体刺激
ホルモン産生亢進。無痛性甲状腺炎の中毒期
甲状腺組織の破壊。貯蔵ホルモンが流出。血中甲状腺ホルモンの増加
疾病ごとの代表的な病態関係を言葉で示した独自概念図。甲状腺の解剖図や、同じ患者が順番に進む経過図ではない。無痛性甲状腺炎は中毒期の説明に限定し、全ての甲状腺中毒症の原因をこの二経路だけにまとめない。個人の診断・検査・治療を選ぶ規則でもない。