正常消化の構造・消化吸収の基盤

本文の目次

  1. 食物が進む一本の主通路
  2. 小腸・大腸の順序と大まかな位置
  3. 胆汁と膵液が合流する場所
  4. 管腔から壁の外へたどる
  5. 外側の被覆と腹膜のすき間
  6. 絨毛と微絨毛は違う尺度
  7. 混ぜる運動と前へ送る運動
  8. 嚥下と食道の入口・出口
  9. 胃は蓄え、混ぜ、少しずつ送る
  10. 成分ごとに分子を分ける
  11. 唾液は滑りを助け、でんぷんの分解を始める
  12. 胃の酸・酵素前駆体・保護を分ける
  13. 膵液の酵素と中和する液
  14. 刷子縁で働く酵素
  15. 乳化・リパーゼ・混合ミセル
  16. 消化された形と取り込みの場所
  17. 長鎖脂質は細胞内で再形成される
  18. 取り込みと細胞からの搬出は別
  19. 水溶性成分は門脈を経る
  20. 長鎖脂質の出口は腸のリンパへ
  21. 水は小腸でも大腸でも吸収される
  22. 腸内細菌と便の成分
  23. 直腸の伸展と排出の調節
  24. 消化管の壁にも局所神経回路がある
  25. ガストリンと胃酸分泌
  26. セクレチンは酸性内容物への調節
  27. CCKは酵素分泌と胆嚢収縮へつなぐ
  28. どの段階を直接確かめたか
  29. 管腔と体内の間の収支

1. 食物が進む一本の主通路

消化管は、口から肛門へ続く管である。通常、食物は口腔から咽頭、食道、胃、小腸、大腸を経て、肛門へ進む。管の内側の空間を管腔という。管腔は外界へつながっているため、内容物が腹部の中へ入っただけで、体内の血液や細胞へ吸収されたとはいえない。肝臓・膵臓・胆嚢はこの働きを助ける付属器官で、食物がその内部を順に通る道ではない。

2. 小腸・大腸の順序と大まかな位置

小腸は胃側から十二指腸、空腸、回腸へ続く。回腸の先は盲腸で、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸から肛門へつながる。食道は胸部を通り、横隔膜の開口を越えて胃へ入る。通常の成人では、胃は主に左上腹部、肝臓の主な部分は右上腹部で横隔膜の下にある。小腸の多くは腹部、直腸は骨盤部に位置する。これは大まかな地図で、全ての部位の範囲や個人の位置を一律に決めるものではない。

食物が進む主通路

正面から見た模式で、紙面左に本人の右、紙面右に本人の左を示す。上の口腔から咽頭、食道へ続く白い管腔が、横隔膜の開口を越え、紙面右すなわち本人左の胃へ入る。胃から小腸の曲がった管へ続き、その先は周囲の大腸へ入り、直腸を通って肛門へ続く。細い指示線は各構造へ届き、太い矢印は管腔の中を先へ進む向き。胃は主に左上腹部、直腸は下の骨盤部の模式位置である。小腸の全長・大腸の各部は別の拡大で扱い、全内容物が同時にこの矢印どおり動く量を示さない。管の中にあるだけでは上皮や血液へ吸収されたとは描かない。
通常の成人を正面から見た大まかな地図です。本人の右は紙面左です。矢印は食物の通路の順です。小腸が手前で大腸と重なる部分は合流ではなく、小腸の先が左下で大腸へつながります。曲がり・実寸・吸収や流量は示しません。肝臓・膵臓・胆嚢は主通路に含めません。

小腸から、大腸の各部へ

本人右を紙面左に置く。胃側から十二指腸、空腸、回腸の曲がった管が連続し、回腸は紙面左下の盲腸へ入る。盲腸から上行結腸が本人右側を上がり、横行結腸が横へ続き、下行結腸が本人左側を下がる。その先はS状結腸、直腸、肛門へ続く。上行・下行の名称を二行でそれぞれの縦管へ直接対応させ、細い指示線は通路の対象へ届く。空腸と回腸は連続する小腸の区分で、単純化された曲がりの位置を全個人の境界とはしない。
通常の成人の大まかな正面配置を広げた模式です。本人の右は紙面左です。十二指腸と小腸の曲がりは連続順を読みやすくするためずらして描き、空腸と回腸の位置の境界や全長は固定しません。矢印は各部の連続順で、同時の動きや流量を表しません。

3. 胆汁と膵液が合流する場所

肝臓は胆汁を作り、胆嚢はその一部を濃縮して蓄える。胆道を流れる胆汁と、膵管を流れる膵液は、別の起点から十二指腸へ届く。一方だけの到着を観測しても、他方の到着まで確認したことにはならない。同じ膵臓でも、消化を助ける外分泌の膵液は管を通って腸の管腔へ、膵島のインスリンなどのホルモンは血液へ出る。胆嚢から放出された量と、その時に肝臓で新しく作られた量も別である。

分泌物の導管が、十二指腸へ

左上に胆汁を作る肝臓、左中段に一部を蓄える胆嚢、右中段に膵液を出す膵臓を描く。肝臓から下る胆道に胆嚢の枝がつながる。別起点である膵臓から膵管が伸び、代表的な合流部を経て下の十二指腸の白い管腔へ開く。胆汁と膵液の矢印はそれぞれの導管内にあり、食物の矢印は十二指腸内だけを下へ進む。食物が肝臓、胆嚢、膵臓の内部を順に通る道ではない。胆嚢からの放出と肝臓での新しい産生量を同一にせず、片方の到着を測っただけで他方の到着まで確定しない。膵島が血液へホルモンを出す経路はここでは省略し、管腔への膵液と区別する。
食物の主通路に、別の起点から分泌物が届く代表模式です。胆道と膵管は十二指腸の管腔へ通じます。合流形・器官位置は模式で、十二指腸の両端から続く通路は省略します。膵管は外分泌の出口で、膵島から血液へのホルモンは通りません。胆嚢の放出量と肝臓の新規産生量も別です。

4. 管腔から壁の外へたどる

空腸を例にすると、壁は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜の順に並ぶ。粘膜は管腔に面する上皮と、その下の組織を含む層で、分泌や吸収、表面の保護に関わる。粘膜下層には支持する結合組織や血管などがあり、固有筋層は管の形や内容物の運動に関わる。粘膜は多数の細胞からなる組織であり、一個の細胞を囲む細胞膜とは違う。上皮の下の基底膜は細胞外の支持構造で、これも細胞膜とは別である。

5. 外側の被覆と腹膜のすき間

漿膜は結合組織の表面を中皮という薄い上皮が覆う被覆である。外膜は中皮を伴わず、周囲へ続く結合組織である。被覆は部位によって違い、消化管の全ての面を同じ漿膜が覆うわけではない。腹膜では臓側葉が器官の表面、壁側葉が体壁側を覆う。その二葉の間の狭いすき間が腹膜腔である。腹膜腔、消化管の管腔、腹骨盤腔という大きな領域を同じ空間としない。

管腔・壁・腹膜のすき間

上の消化管の管腔の下に、複数の上皮細胞が並ぶ。上皮の下には薄い基底膜、その下には粘膜の支持組織があり、左の括弧が上皮からその下の組織までを粘膜として囲む。さらに粘膜下層、固有筋層、漿膜と続く。ここは空腸の漿膜で覆われた面の例で、漿膜側は臓側腹膜に対応する。その外に点模様の腹膜腔を広げて示し、対向する壁側腹膜と体壁を別の帯として描く。基底膜、細胞を囲む細胞膜、上皮を含む粘膜、腹膜の二葉とその間隙は別対象。指示線は対象の層へ届き、帯の間に物質移動の矢印はない。色だけではなく細胞の輪郭、点模様、斜線、直接名で区分する。
空腸の壁の一部を、内側から外側へ広げた断面です。粘膜は上皮とその下の組織を含み、一個の細胞膜ではありません。腹膜腔は臓側と壁側の間のすき間で、消化管の管腔とは別です。各層・すき間の厚さは拡大し、全消化管の同じ被覆や全周の構造を示しません。

6. 絨毛と微絨毛は違う尺度

小腸の絨毛は、粘膜が管腔へ突き出す構造で、表面を上皮が覆い、内部に血管やリンパ管がある。一方、微絨毛は一個の上皮細胞の管腔側の面にある細かな突起である。微絨毛が密に並ぶ表面を刷子縁という。絨毛と微絨毛は表面積を増やすが、組織の突起と細胞の突起という尺度が違う。大腸には小腸型の絨毛がないが、水や電解質の吸収はある。突起の有無だけで吸収の全てを決めない。

絨毛は、組織の突起

上が小腸の管腔。粘膜から一本の大きな指状の絨毛が突き出し、緑の薄い表面層が上皮、内側の淡い領域が組織である。内側には毛細血管の細いループと、中央で上端が丸く終わるリンパ管を別形で示す。上皮は多数の細胞からなる表面で、右側の一個の上皮細胞を二重の枠で選ぶ。この選んだ一細胞が別の「一細胞の表面」図の拡大元であり、二重枠は核ではない。絨毛全体は一個の細胞の突起ではなく、内部の血管やリンパ管を含む組織の突起。色だけでなく別輪郭・選択枠・直接名称で対応する。
小腸の絨毛一本の模式です。表面は多数の上皮細胞、内部には毛細血管とリンパ管があります。右の二重枠で一個の上皮細胞を選び、「一細胞の表面」図で拡大します。絨毛の形・本数・血管の全走行や各部の尺度は省略しています。

一細胞の表面に、微絨毛

上に管腔側、下に組織側を置いた上皮細胞一個の拡大。細胞の上面から多数の小さい微絨毛が突き出し、微絨毛の間の上面と側面・底面は同じ細胞膜の輪郭につながる。左の広い緑の領域は一個の上皮細胞で、内部の楕円は核の模式である。細胞の底面の外に別の斜線帯として基底膜を示す。微絨毛、細胞膜、基底膜へ細い指示線が届く。別の絨毛図で二重枠に選んだ一細胞を、管腔面が上になるよう回転して拡大しており、二つの図の長さを同じ尺度として比べない。
「絨毛は、組織の突起」図で選んだ上皮細胞一個を、管腔側が上になる向きで拡大します。微絨毛は細胞表面の突起、絨毛は組織の突起です。細胞膜は一個の細胞の境界、基底膜はその外の支持構造で別です。本数・寸法・吸収量は示しません。

7. 混ぜる運動と前へ送る運動

咀嚼は食物を細かくし、消化管の運動は内容物を消化液と混ぜ、先へ送る。分節運動では、近くの部分が繰り返し収縮・弛緩し、内容物の混合に関わる。蠕動では、収縮の位置が順に移り、内容物を先へ送る働きに関わる。これらは機械的消化や輸送である。細かくして接触を増やすことは酵素作用を助けるが、分子の結合を切ることや、上皮を越えることそのものではない。収縮が一か所で見えただけでは、一定量が前へ進んだともいえない。

推進と混和は、違う関係

上の蠕動例は同じ水平の管を時点一と時点二で示す。時点一では左寄りの壁が狭まり、その右に内容物のかたまりがある。時点二では収縮する位置が右へ進み、同じ内容物のかたまりも右へ移る。収縮の指示線は壁へ、内容物の指示線は管腔内のかたまりへ届く。下の混和例でも管の幅と水平位置を同じに保ち、近い複数位置の収縮を前後で変える。丸二個と角二個は同じ内容物の配置記号で、前は同形同士が近く、後は異なる形が交互に並ぶ。粒を減らしたり細胞の外へ通す絵ではない。収縮一か所だけから一定の輸送量を決めず、全生体で同じ位置変化や分節中の正味移動ゼロを保証しない。
同じ管・同じ縮尺で、二つの運動例を時間順に比べます。上は収縮位置が進み、内容物の位置も先へ変わる蠕動の模式。下は収縮位置の変化で内容物の配置が混じる例です。分節運動を常に正味移動ゼロとはしません。形は配置の目印で、分子の切断・吸収や運搬量を表しません。

8. 嚥下と食道の入口・出口

嚥下は飲み込んだ内容物を口から咽頭、食道へ送る働きである。口で送り始める随意的な部分に続き、咽頭や食道で協調した運動が起こる。咽頭は空気も通るため、嚥下時には気道を保護し、内容物を食道へ導く。上部食道括約部は咽頭と食道の入口で開閉し、下部の括約部は食道と胃の境界にあり、胃から食道への逆行を抑える。上下の場所と役割を同じにしない。食道は運動で内容物を胃へ送り、重力だけに頼る管ではない。食道上部には骨格筋もあり、消化管の筋を全て平滑筋と考えない。

9. 胃は蓄え、混ぜ、少しずつ送る

内容物が入ると、胃は壁の平滑筋が弛緩して容積を広げ、蓄えることができる。この働きを胃適応性弛緩という。胃の運動は内容物と胃液を混ぜ、出口である幽門から十二指腸へ送る。幽門は胃の出口の部分で、排出は胃の運動と十二指腸側の状態などで調節される。蓄えたこと、混ざったこと、十二指腸へ出たことは別の変化である。胃の一回の収縮から、全内容物がただちに排出されたとは決めない。

10. 成分ごとに分子を分ける

食物には糖質、タンパク質、脂質など異なる成分が含まれる。でんぷんは多数のグルコースがつながった糖質で、タンパク質は多数のアミノ酸がつながった分子である。食事の脂質の代表であるトリアシルグリセロールは、グリセロールに三つの脂肪酸が結合したもので、トリグリセリドともいう。化学的消化では、対応する酵素が水を使って分子の結合を切る。これを加水分解という。酵素ごとに働く相手が違い、食物や豆を丸ごと一つの物質として溶かすわけではない。

11. 唾液は滑りを助け、でんぷんの分解を始める

唾液は食物を湿らせ、噛んだ内容物を滑らかにして嚥下を助ける。唾液アミラーゼはプチアリンとも呼ばれ、でんぷんを短い糖の鎖であるデキストリンや、二糖類の麦芽糖などへ分ける。これはでんぷんの消化の始まりで、唾液だけで全てが単糖になるという意味ではない。唾液で湿ったこと、分子が分かれたこと、上皮を越えたことは別の段階である。

12. 胃の酸・酵素前駆体・保護を分ける

胃の壁にある胃腺の壁細胞は、塩酸を分泌する。酸性・アルカリ性の程度を表すpHでは、小さい値ほど酸性が強い。胃酸は酸性の環境を作り、主細胞から出る酵素前駆体ペプシノゲンが、活性型のペプシンへ変わることに関わる。ペプシンはタンパク質を分解する酵素である。前駆体の分泌、活性化、基質の分解は別の過程である。胃の表面の粘液や炭酸水素イオンなどは、自身の粘膜の保護に関わる。壁細胞はビタミンB12の吸収を助けるタンパク質の内因子も分泌するが、内因子と塩酸は別の物質で、その詳細は後で扱う。

13. 膵液の酵素と中和する液

膵臓の外分泌では、腺房細胞が主に消化酵素、導管細胞が主に炭酸水素イオンと水を含む液の分泌に関わる。炭酸水素イオンは重炭酸イオンともいい、胃から来る酸性内容物の中和に役立つ。代表的な膵酵素には、でんぷんに働くアミラーゼ、タンパク質に働くタンパク質分解酵素、トリアシルグリセロールに働くリパーゼがある。成分に応じた分解と、酸性環境の中和は別である。全膵酵素が同じ相手に働くわけでも、全て同じ活性化状態で分泌されるわけでもない。

14. 刷子縁で働く酵素

小腸では膵液などで管腔液へ届く酵素に加え、上皮細胞の管腔側の表面で働く刷子縁酵素もある。ラクターゼは、二つの単糖が結合した乳糖を、グルコースとガラクトースへ分ける。グルコースはブドウ糖ともいう。管腔液を調べて酵素が検出されなくても、細胞表面の酵素を全て測ったことにはならない。また、表面の形が保たれていることだけで、全酵素の活性が保たれたとも確定できない。

15. 乳化・リパーゼ・混合ミセル

胆汁には胆汁酸・胆汁酸塩などが含まれる。これらは大きな脂肪のまとまりを小さい滴として分散させる乳化を助け、酵素が接しやすくする。胆汁酸塩自身がトリアシルグリセロールの結合を切る酵素ではない。代表的な長鎖脂質では、リパーゼによる分解で脂肪酸やモノアシルグリセロールなどが生じる。モノアシルグリセロールはグリセロールに一つの脂肪酸が結合した形である。分解産物は胆汁成分を含む小さな集合である混合ミセルなどに含まれ、上皮表面へ届きやすくなる。混合ミセル全体がそのまま血液へ入るわけではない。

16. 消化された形と取り込みの場所

化学的消化は分子を吸収しやすい形へ分けること、吸収は内容物が上皮を越えて体内側へ入ることである。細かい粒や単糖がまだ管腔にあるなら、吸収の完了とはしない。消化できる糖質は主に単糖として取り込まれる。タンパク質ではアミノ酸に加え、二個・三個のアミノ酸がつながったジペプチド・トリペプチドも上皮細胞へ入る。短いペプチドは主に細胞内でアミノ酸へ分かれる。全てが管腔内で一個ずつのアミノ酸にならないと入れない、という条件は付けない。

粒の変化と、分子の変化

上段では、噛む前の食物のかたまりが小さい粒に分かれる。中段では四人がつながり、「僕らズッ友!」。紫の三角形が中央のつながりに働き、同じ四人が二人ずつに分かれて「ぎゃー!」と声を上げる。三角形は分かれた後も残る。続く緑の円の図でも、四つの円が減らずに二つずつの短い鎖に分かれる。紫の三角形の凡例は酵素、緑の円の凡例はアミノ酸を示す。下段では大きい脂肪滴が小さい滴に分散し、胆汁成分が助けると示す。
噛むと食物の粒が小さくなり、酵素はタンパク質のつながりを切ります。胆汁成分は脂肪滴を分散させます。吸収は、上皮を越える別の段階です。

17. 長鎖脂質は細胞内で再形成される

代表的な長鎖脂質の分解産物は、管腔側から小腸上皮細胞へ取り込まれる。細胞内でトリアシルグリセロールなどが再形成され、タンパク質などとともにカイロミクロンへ組み込まれる。カイロミクロンは乳状脂粒とも呼ばれるリポタンパク質の粒子で、リポタンパク質は脂質とタンパク質を含む運搬用の粒子である。食物中の大きな脂肪滴や混合ミセルが、形を変えずに同じ粒子として通過したという説明ではない。

18. 取り込みと細胞からの搬出は別

吸収上皮の管腔側の面は頂端面、組織側の底は基底面、隣の細胞に向く面は側面である。頂端面から取り込まれた物質は、細胞内を経て基底側・側面側から組織へ出る。物質によっては細胞間を通る経路も関わる。上皮細胞内へ入った記録だけでは、血液やリンパへ出たことまで確認できない。膜通過には物質に応じた担体や勾配などを使い、全てが単純拡散ではない。既に学んだ受動輸送・能動輸送の区別を使い、管腔の濃度や血流だけから、全ての膜通過量を一つに決めない。

管腔の集合と、細胞内の粒子

上は管腔側。上部に一行ずつ置いた凡例で、図本体と同じ塗り・輪郭の黄土色の三角の見本を脂質の分解産物、小さな緑の円の見本を胆汁成分へ対応させる。胆汁成分を表す小さな丸と脂質の分解産物を表す三角が集合し、点線の囲みを混合ミセルとして識別する。囲みは袋の膜ではない。一個の三角が集合の外の上皮表面へ届き、三角だけの移動矢印が上皮細胞の管腔側の境界を越える。緑の大きな領域は一個の上皮細胞。細胞内の三角から、再形成を示す矢印と直接語を経て、脂質とタンパク質などを含む別の大きな粒子カイロミクロンを描く。カイロミクロンは内部に線を持つ大きな円で、胆汁成分の小丸や三角、混合ミセルの囲みと異なる。さらに組織側へ搬出する矢印がある。混合ミセルの囲み・胆汁成分・食物中の大きな脂肪滴が同じ粒のまま細胞や血液へ通過する矢印ではない。細胞への入口、細胞内変化、組織側出口を別段階にする。乳び管から静脈への続きは二出口の図で扱う。
代表的な長鎖脂質の模式です。黄土色の三角の見本は脂質の分解産物、小さな緑の円の見本は胆汁成分。管腔の混合ミセルから分解産物が上皮表面へ届き、細胞内で脂質が再形成され、カイロミクロンへ組み込まれます。点線の囲みは集合の目印で細胞膜ではなく、集合全体の通過は描きません。寸法・個数・輸送量や全脂質の同一経路を示しません。

19. 水溶性成分は門脈を経る

多くの単糖やアミノ酸などの水溶性栄養成分は、上皮を越えて間質へ出て、腸壁の毛細血管に入る。間質は細胞の間の領域で、そこにある液を間質液という。消化管壁の毛細血管の大部分は門脈へ集まり、肝臓へ入る。肝臓を通った血液は肝静脈などを経て全身側の静脈血へ戻る。門脈の血流、上皮を越える吸収、肝細胞の取り込みや利用は別の段階である。流れがあることだけで、全栄養成分が全量吸収・利用されたとはしない。

20. 長鎖脂質の出口は腸のリンパへ

小腸上皮細胞から組織側へ出るカイロミクロンは、絨毛内のリンパ管である乳び管へ入り、リンパを通って静脈血へ届く。血液の毛細血管から門脈へ向かう代表経路とは、初めの出口が違う。全ての脂質や吸収物が必ずリンパを通るという意味ではない。短鎖・中鎖脂肪酸などには、主に門脈側へ運ばれる経路もある。鎖の長さは脂肪酸分子の炭素のつながりの長さを指し、詳しい区分は後で扱う。静脈血へ入った後の運搬と、組織の細胞が実際に使うことも別に確認する。

組織側から、血液とリンパへ

上に小腸の上皮細胞の並び、その下に間質を置く。左の水溶性成分の代表は一個の上皮細胞の中央にあり、その細胞の基底側から組織側へ出て、腸壁の毛細血管に入り、連続した血管の門脈部分から肝臓内の血管を通り、肝静脈側から下の静脈血へ戻る。肝臓の組織の色と内部を通る白い血液路を分け、全てが肝細胞に取り込まれたとは描かない。右の代表的長鎖脂質でも、カイロミクロンは一個の上皮細胞の中央から基底側へ搬出され、間質から乳び管の側壁を越えて入る。続くリンパの経路から静脈血へ届く。乳び管の上端は丸く閉じた盲端で、そこに直接流れ込む開口は描かず、血液の毛細血管の形と分ける。二経路は下の静脈血で合わさるが、初めの出口と門脈・肝を先に通るかが違う。輸送形を同じ分子へ置き換えず、全脂質や全吸収物に同じリンパ経路を保証しない。
上皮を越えた後の代表的な二出口です。水溶性成分の多くは毛細血管から門脈・肝を経て静脈血へ、長鎖脂質のカイロミクロンは乳び管・リンパから静脈へ届きます。左右は経路比較で身体の左右ではありません。短鎖・中鎖などの別経路、全分枝・寸法・量は省略し、到着を利用完了とはしません。

21. 水は小腸でも大腸でも吸収される

飲んだ水だけでなく、唾液・胃液・膵液などにも水が含まれ、消化管の管腔へ入る。その多くは小腸で体内側へ吸収され、大腸も残った水と電解質の吸収に関わる。電解質はナトリウムなどのイオンを含む成分である。大腸には小腸型の絨毛がなくても吸収がある。大腸の水・電解質吸収に伴って便の形成が進むが、便が固くなった記録だけで小腸や大腸の全吸収量を測ったとはいえない。大腸の粘液は便塊と粘膜の間を滑らかにする。

22. 腸内細菌と便の成分

食物繊維の一部はヒトの消化酵素では分解されにくいが、腸内細菌による発酵で分解される場合がある。発酵で生じる短鎖脂肪酸などの一部は吸収され、エネルギーに利用され得る。ヒトの酵素で分解されなかったことから、利用経路も全てないとはいえない。一方、全繊維で同じ量のエネルギーになるとも決めない。便には食物の残りだけでなく、剥がれた上皮細胞や腸内細菌に由来する成分なども含まれる。食事を摂らなかったことだけで、便として出る成分が必ずゼロとはしない。

23. 直腸の伸展と排出の調節

結腸の先の直腸は便を一時的に蓄える。便が届いて壁が伸びると、便意や排便に関わる回路の入力になる。肛門の内肛門括約筋は平滑筋、外肛門括約筋は骨格筋である。直腸の伸展に応じた内括約筋の弛緩などの反射と、外括約筋への意思による影響などが協調し、排出を調節する。便意が生じたことと、実際に便が出たことは別である。反射の開始に常に意識的な判断が先に必要という意味でも、本人の意思と無関係に必ず即座に排出するという意味でもない。

24. 消化管の壁にも局所神経回路がある

消化管の壁には腸神経系の回路がある。壁の伸びや内容物の化学的な状態などの入力を、局所の神経回路が受け取り、筋や分泌する腺の働きへつなぐ。中枢や自律神経もこの働きを調節するが、全ての局所応答に大脳からの開始指令が必要なわけではない。典型的な自律遠心の節前・節後という二個のニューロンだけで、腸の全ての回路を一列に置き換えない。ここでは入力、局所の処理、筋や腺への出力という関係を読む。

腸壁内の入力・回路・出力

上は管腔、下は腸壁。管腔に面する上皮細胞の列から、壁の伸びや内容物の状態という入力を示す破線矢印が腸壁内の局所神経回路へ向かう。回路には複数の神経細胞の体部と連絡を描き、典型的な自律遠心の節前・節後二個だけに全てを置き換えない。右上には上位からの調節という別の入力がある。局所回路から二本の破線矢印が下の筋と分泌する腺へ向かう。筋は淡い赤系の形と内部の線、腺は複数の細胞が小さな腔を囲む形で識別する。腺の腔から伸びる導管は右端を上り管腔へ開き、その中の実線矢印だけが分泌物の移動を示す。内容物そのものが神経へ流れることや、神経情報が分泌物へ化学変化することを描かない。局所の神経回路があることと上位からの調節があることを同時に追う。
腸壁の入力が局所回路を介して筋や腺へつながる関係です。破線矢印は神経の情報、実線矢印は分泌物の経路。上位からの調節もありますが、全ての局所応答の開始に大脳の指令を必須とはしません。神経細胞の数・走行・応答量は模式です。

25. ガストリンと胃酸分泌

胃に入った食物のタンパク質に由来する成分や、胃の壁の伸びなどは、ガストリン分泌に関わる代表的な入力である。胃などの粘膜の分泌細胞から出るガストリンは血液で運ばれ、胃酸を分泌するしくみを促す。ガストリンは胃酸そのものでも、タンパク質を切るペプシンでもない。胃の酸性状態などによる調節もあり、一つの入力の記録だけで全分泌量が一律に決まるとはしない。

26. セクレチンは酸性内容物への調節

胃から十二指腸へ酸性の内容物が届くと、それに応じて十二指腸などの粘膜の細胞からセクレチンが分泌される。セクレチンは血液を介し、膵管系から炭酸水素イオンに富む液の分泌を促す。この液が管を通って腸の管腔へ届き、酸性内容物の中和を助ける。入力となる酸、調節信号のホルモン、中和する液は別の物質で、同じ管を流れる荷物ではない。

酸の入力、血中の信号、管腔への分泌

左に十二指腸の管腔と粘膜上皮の細胞列、その一部にホルモンを分泌する細胞を描く。管腔の酸性内容物から細胞へ向かう破線矢印は入力であり、酸が血液へ同じ荷物として運ばれる意味ではない。粘膜細胞から出た小丸のセクレチンは右の血管へ入り、血流に沿って運ばれ、膵管系の細胞の外側へ届く。凡例には血液中と同じ緑の塗りと輪郭の小円の見本を置き、セクレチンへ対応させる。小丸はホルモンの識別で個数の測定ではなく、大きな円で描いた分泌細胞とは別である。膵管系の細胞が下の管腔へ炭酸水素イオンに富む液を分泌し、この白い導管は左の十二指腸の白い管腔へ開く。実線の矢印はそれぞれ名前が異なる荷物の向き。セクレチンを膵管から十二指腸へ流す形にせず、酸の入力、血液のホルモン、導管の中和液を別に追える。ホルモン到着だけから実際の分泌量を確認済みとしない。
セクレチンの代表例です。凡例の小さな緑の円はセクレチン。破線矢印は酸の入力、実線矢印は名前が異なる荷物の移動。粘膜細胞のセクレチンは血液で膵管系へ、炭酸水素イオンに富む液は導管から管腔へ届き中和を助けます。位置・全分枝・分泌量は模式です。

27. CCKは酵素分泌と胆嚢収縮へつなぐ

小腸上部へ来た脂質の分解産物やアミノ酸などは、コレシストキニン(CCK)分泌に関わる代表的な入力である。小腸粘膜の細胞から出るCCKは、膵腺房細胞の消化酵素分泌や胆嚢の収縮を促す。胆嚢が収縮すると、蓄えていた胆汁を送り出すことに関わる。CCKは酵素や胆汁そのものではない。ホルモンの到着と、実際の分泌・放出の記録も同じ観測ではない。

28. どの段階を直接確かめたか

粒が小さくなった記録は機械的な変化、単糖などができた記録は分子の分解、上皮細胞内に入った記録は取り込みというように、化学形と位置を合わせて読む。細胞に入っただけでは搬出まで、門脈やリンパに入っただけでは各組織の利用まで、確かめたことにはならない。逆に、一つの生成物や便の変化だけから、酵素量・輸送・運動など複数の候補の原因を一つへ決めない。観測した段階と残る段階を分ける。

29. 管腔と体内の間の収支

指定した期間の管腔には、摂取したものに加えて体内からの分泌も入る。内容物は上皮越えの吸収や、次の部位・体外への移動で減る。体内から管腔へ出た水などが再び吸収されることは、新しく外から摂取した量とは違う。量の収支を見るときは、どの物質をどの区画と期間で測ったかをそろえる。一つの濃度の測定だけでは、分泌量・吸収量・通過量が全て決まるわけではない。

用語を確かめる

消化管
口から肛門までつながる管。内側の管腔を内容物が進む。
管腔
管の内側の空間。消化管の管腔は外界とつながり、内容物は未吸収なら体内液とは分ける。
十二指腸
胃に続く小腸の最初の部分。胆汁と膵液が届く。
空腸・回腸
十二指腸の先に続く小腸の部分。胃側から空腸、回腸の順。
結腸
盲腸の先に続く大腸の部分。上行、横行、下行、S状結腸を経て直腸へつながる。
粘膜
管腔に面する上皮とその下の組織を含む層。細胞膜一枚とは違う。
粘膜下層
粘膜の外側で、結合組織や血管などを含む層。
固有筋層
消化管壁の内容物の運動に関わる筋の層。
漿膜
結合組織の表面を中皮が覆う外側の被覆。
中皮
漿膜の表面を覆う薄い上皮。
外膜
中皮を伴わず周囲へ続く結合組織の被覆。
腹膜腔
壁側腹膜と臓側腹膜の間の潜在的なすき間。消化管の管腔や腹骨盤腔全体とは別。
基底膜
上皮の下にある細胞外の支持構造。細胞の脂質二重層ではない。
絨毛
小腸粘膜の突起。多数の細胞で構成され、内部に血管・リンパ管がある。
微絨毛・刷子縁
微絨毛は一個の上皮細胞の頂端側の小突起。密に並ぶ表面を刷子縁という。
咀嚼
食物を噛んで細かくする働き。
分節運動
近くの部位の収縮・弛緩による内容物の混合に関わる運動。
蠕動
収縮の位置が順に移り、内容物の推進に関わる運動。
嚥下
内容物を口から咽頭、食道へ送る協調した働き。
食道の上下括約部
上部は咽頭・食道入口の開閉に、下部は胃から食道への逆行を抑えることに関わる。位置と役割を分ける。
幽門
胃の出口で十二指腸へ続く部分。
胃適応性弛緩
内容物の到着に応じ、胃壁が弛緩して貯留できる容積を広げる働き。
化学的消化・加水分解
化学的消化では対応する酵素が水を使って栄養分子の結合を切る。加水分解は水を使う結合の切断。
単糖・二糖類
単糖は糖の基本単位。二糖類は二つの単糖が結合した糖で、乳糖や麦芽糖などがある。
でんぷん・デキストリン
でんぷんは多数のグルコースがつながった糖質。デキストリンはその分解で生じる短い糖の鎖。
唾液アミラーゼ
唾液ででんぷんの分解を始める酵素。プチアリンともいう。
胃腺の壁細胞・主細胞
壁細胞は塩酸など、主細胞はペプシノゲンの分泌に関わる胃腺の細胞。
pH
酸性・アルカリ性の程度の表し方。値が小さいほど酸性が強い。
ペプシノゲン・ペプシン
ペプシノゲンは胃で分泌される前駆体。酸性下で活性型のペプシンになり、タンパク質分解に働く。
内因子
壁細胞が分泌する、ビタミンB12の吸収を助けるタンパク質。塩酸とは別。詳細は後送り。
腺房細胞・導管細胞
膵外分泌で、腺房細胞は主に酵素、導管細胞は主に炭酸水素イオンと水を含む液の分泌に関わる。
炭酸水素イオン
重炭酸イオンともいう。膵液では酸性内容物の中和に役立つ成分。
ラクターゼ・乳糖
ラクターゼは刷子縁で乳糖をグルコースとガラクトースに分ける酵素。乳糖は二糖類。
トリアシルグリセロール
グリセロールに三つの脂肪酸が結合した脂質。トリグリセリドともいう。
リパーゼ
消化管でトリアシルグリセロールの分解に働く酵素。
乳化
大きな脂肪のまとまりを小さい滴として分散させること。化学結合の切断そのものではない。
胆汁酸・胆汁酸塩
胆汁に含まれ、乳化や混合ミセル形成などを助ける成分。消化酵素ではない。
混合ミセル
胆汁成分と脂質の分解産物などを含み、管腔側で上皮表面への到達を助ける小さな集合。カイロミクロンとは別。
モノアシルグリセロール
グリセロールに一つの脂肪酸が結合した形。
ジペプチド・トリペプチド
アミノ酸が二個・三個つながった短い鎖。小腸上皮へ取り込まれる経路がある。
ペプチダーゼ
短いペプチドを切り、アミノ酸などへ分ける酵素。
カイロミクロン
小腸上皮内で再形成された脂質などを含むリポタンパク質の粒子。乳状脂粒ともいう。
リポタンパク質
脂質とタンパク質を含む運搬用の粒子。
頂端面・基底面・側面
吸収上皮では頂端面は管腔側、基底面は組織側の底、側面は隣の細胞側。
間質・間質液
間質は細胞の間の領域、間質液はそこにある液。
門脈・肝静脈
門脈は消化管壁などから肝へ入る血流、肝静脈は肝から全身側の静脈系へ出る血流の経路。
乳び管
小腸絨毛内のリンパ管。代表的な長鎖脂質のカイロミクロンが入る。
短鎖・中鎖脂肪酸
炭素のつながりが比較的短い脂肪酸。主に門脈側へ運ばれる経路をとるものがあり、全脂質をリンパ一経路にしない。
食物繊維・発酵
食物繊維の一部はヒトの消化酵素で分解されにくい。腸内細菌の発酵で分解され、利用できる産物が生じる場合がある。
内肛門括約筋・外肛門括約筋
内肛門括約筋は平滑筋、外肛門括約筋は骨格筋。反射と意思による影響などが協調する。
腸神経系
消化管壁にある局所の神経回路。内容物や壁の状態の入力を筋・腺の調節へつなぎ、中枢や自律神経の調節も受ける。
ガストリン
タンパク質由来の成分や胃の伸展などの入力に応じ、胃酸分泌を促す代表的なホルモン。
セクレチン
酸性内容物に応じて小腸粘膜などから分泌され、膵の炭酸水素イオンに富む液の分泌を促すホルモン。
コレシストキニン(CCK)
脂質分解産物やアミノ酸などの入力に応じ、膵酵素分泌と胆嚢収縮を促す代表的なホルモン。