正常内分泌の情報伝達と調節の基盤
本文の目次
- 出す場所から、受け手へ
- 届くことと、働くこと
- 膜の外側から情報が伝わる
- 細胞内で受け取る例
- 代表的な場所と、その中の区分
- 前葉へは血管で信号を送る
- 後葉へは同じニューロンの軸索が伸びる
- 完成した分子と材料を分ける
- ADHは作用先の透過性を変える
- 三つの場所をつなぐ代表軸
- 戻る先は一か所ではない
- 高いときと低いときの戻す向き
- 抑制を減らすと出力が増える場合
- 血中の物質を受けた膵島の調節
- 神経入力から血中の放出へ
- 濃度、分泌、除去は別の量
- 記録された段階を使って比べる
1. 出す場所から、受け手へ
ホルモンは、分泌する細胞から出て、別の細胞などへ情報を伝える化学物質である。血液を介して運ばれる方式が内分泌だ。膵臓では、インスリンなどは血液へ、消化に使う膵液は導管を通って十二指腸の中へ出る。後者のように管腔や体表へ出す方式が外分泌である。同じ膵臓の働きでも、どこへ何を出すかが違う。周辺の別の細胞へ働く傍分泌、分泌した細胞自身へ戻って働く自己分泌も、出す細胞と受け手・経路で区別する。
2. 届くことと、働くこと
細胞が分子を作る段階と、分子を外へ出す段階は別である。ホルモンが血液へ出た後も、作用先へ届き、受容体に受け取られ、細胞内のしくみを通じて応答へつながる。受容体は分子を受け取るたんぱく質で、結合する相手の分子をリガンドという。そのホルモンに応答する細胞を標的細胞と呼ぶ。同じ血液に接していても、受容体や下流のしくみが異なれば同じ応答とは限らない。存在、受容、実際の作用を一つの記録にまとめない。
3. 膜の外側から情報が伝わる
多くのペプチドホルモンは、アミノ酸がつながった分子で、細胞膜の外側から受容体に結合する。受け取った情報が細胞内の分子やイオンを介して伝わることと、ホルモン自身が細胞内へ入ることは別だ。外側に固定された分子でも、受容体と細胞内の中継が働けば応答を始められる場合がある。結合だけが記録されても、指定した下流応答の完了まで確認したとはいえない。
出す・運ぶ・受け取る
4. 細胞内で受け取る例
ステロイドホルモンはコレステロールを材料に作られる一群である。エストロゲンはその一例で、核内のエストロゲン受容体(ER)を介して遺伝子発現の調節に関わる。甲状腺ホルモンも主な作用に細胞内の受容体を使うが、化学的にはアミノ酸に由来する。アミノ酸由来なら全て膜の外で受け取る、という分類にはできない。細胞への取り込みに輸送体が関わるものもあり、脂溶性という名だけで無条件の単純拡散を決めない。受容場所だけから、全作用が一律に速い・遅いとも決めない。
5. 代表的な場所と、その中の区分
視床下部は脳の下部にあり、下垂体と連絡する。下垂体も頭部にあり、視床下部の下側に位置する。下垂体には前葉と後葉がある。甲状腺は頸部、膵臓は腹部に位置する。副腎は腎臓の上方にあり、外側を皮質、内側を髄質という。副腎皮質はコルチゾールなどのステロイドホルモン、髄質はアドレナリンなど、カテコールアミンという群の物質の分泌に関わる。近い場所にある区分でも、細胞の構成と受ける入力は異なる。血液へ出す場所と、そのホルモンが働く場所を分けて経路を追う。
6. 前葉へは血管で信号を送る
視床下部から前葉へは、下垂体門脈という血管の経路で信号が運ばれる。門脈は毛細血管の領域と別の毛細血管の領域を結ぶ血管系で、神経の軸索ではない。視床下部が出す放出ホルモンなどを前葉の内分泌細胞が受け取り、その細胞が自身のホルモンを合成して血液へ放出する。視床下部からの分子と、前葉からの分子は同じ在庫をそのまま押し流したものではない。
前葉への血液の連絡
7. 後葉へは同じニューロンの軸索が伸びる
後葉から放出されるバソプレシンとオキシトシンは、視床下部の神経分泌ニューロンで合成される。神経分泌ニューロンは、神経細胞としての活動に応じてホルモンを放出する細胞である。分子は同じニューロンの軸索で後葉の神経終末へ運ばれ、そこで貯蔵されて血液へ出る。後葉での放出を、後葉の別の細胞による合成へ読み替えない。バソプレシンはAVPとも呼ばれ、水の保持に関わる抗利尿ホルモンADHを指す。
後葉へ伸びる同じ細胞
8. 完成した分子と材料を分ける
典型的な調節性ペプチドホルモンでは、合成・加工した分子を分泌顆粒に蓄え、刺激に応じて放出する。分泌顆粒は膜で囲まれた小さな袋であり、中には完成した分子の在庫がある。新しい合成が減っても、残った在庫からの放出と同じ速さで減るとは限らない。一方、典型的なステロイドホルモンでは、完成ホルモンの大きな顆粒内在庫を作る方式とは異なる。材料のコレステロールが蓄えられていることを、完成ホルモンが同量あることにしない。全ホルモンをこの二方式だけに分けるわけではない。
9. ADHは作用先の透過性を変える
血液へ出たADHは、正常に応答する腎臓の集合管で水の透過性を高める。集合管は尿の通る管で、その内側が管腔である。管の周囲の細胞間の領域が間質で、そこにある液を間質液という。管腔から体内側へ水を戻す再吸収には、透過性に加え、膜を通らない溶質による有効な浸透圧差や静水圧などが関わる。ADHの放出場所は後葉、合成場所は視床下部であり、集合管はこの作用を受ける場所である。透過性が上がっただけで、新しい水の生成や一定の移動量を付け加えない。
10. 三つの場所をつなぐ代表軸
視床下部がCRHを出すと、前葉のACTH分泌を促す。ACTHは副腎皮質のコルチゾール分泌を促す。CRHは副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、ACTHは副腎皮質刺激ホルモンを指す。コルチゾールは全身の代謝などに関わるステロイドホルモンである。この視床下部・前葉・副腎皮質の連絡がHPA軸という代表例だ。軸は複数の場所の機能的な連絡を表し、一つの細胞や一本の血管という意味ではない。副腎髄質を同じ最終段階へ置き換えない。
11. 戻る先は一か所ではない
コルチゾールは、視床下部のCRHと前葉のACTHの分泌を抑える側にも働く。下流の情報が上位へ戻る負のフィードバックである。血液で運ばれる方向と、分泌調節でどこへ作用するかという矢印の意味を分ける。正常に応答する前葉へ届くCRHを一定に保つ比較でも、コルチゾールから前葉への直接の戻りは使える。遊離コルチゾールは、血中の結合たんぱく質と結合していない部分を指す。指定した入力が固定されているなら、その入力の低下を勝手に加えて説明しない。
上位二か所へ戻る調節
12. 高いときと低いときの戻す向き
前葉のTSHは甲状腺刺激ホルモンで、甲状腺のホルモン分泌を促す。通常の負のフィードバックでは、甲状腺ホルモンが増えるとTSHは抑えられ、減るとTSHを増やす方向が働く。負という名は、全ての値が必ず下がるという意味ではない。上位の促進、下流の作用、戻りの起点と受け手を追う。正常の応答や他の入力という条件を保ち、一つの戻り矢印から現在の全濃度や瞬時の完全な安定を決めない。
13. 抑制を減らすと出力が増える場合
視床下部の入力は全て促進ではない。ドパミンは、通常、前葉のプロラクチン分泌を持続的に抑える。プロラクチンは乳腺の乳汁産生などに関わるホルモンである。他の条件を保った比較では、CRHを減らすことはACTHへの促進を減らす一方、ドパミンを減らすことはプロラクチンへの抑制を弱める。促進入力の低下と抑制の解除を同じ向きへまとめない。これは下流からの負のフィードバックという戻りの関係とも区別する。
入力を減らす二つの例
14. 血中の物質を受けた膵島の調節
血糖値は血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度である。膵島は膵臓の内分泌細胞の集まりで、インスリンやグルカゴンを血液へ出す。通常、血糖の上昇はインスリンの分泌を増やす側に、血糖の低下はグルカゴンの分泌を増やす側に働く。血中物質の変化を受ける体液性の調節であり、全てを下垂体からの指令だけで説明しない。インスリンは応答する細胞への糖の取り込みや貯蔵を促し、グルカゴンは主に肝臓に働いて血糖を上げる方向に関わる。全細胞の取り込みにインスリンが必須、全末梢細胞で両者が同じ作用、とはしない。ブドウ糖をつないで蓄える形がグリコーゲンである。血中の濃度と細胞内の貯蔵量は別で、取り込み・貯蔵により血中濃度の低下と細胞内のグリコーゲン増加は両立する。
15. 神経入力から血中の放出へ
副腎髄質の分泌細胞はクロム親和性細胞と呼ばれる。副腎髄質では、交感系の節前線維からのAChを分泌細胞が受け取り、アドレナリンなどを血液へ出す。AChはアセチルコリンで、神経の化学的な連絡にも使われる物質である。ここでは神経による入力が血液で運ばれるホルモンへつながる。分泌細胞を、末梢の臓器まで軸索を伸ばす通常の節後ニューロンとして付け足さない。
16. 濃度、分泌、除去は別の量
分泌速度は単位時間当たりに血液へ出るホルモン量、血中濃度は血液の体積当たりの量である。血中のホルモンは、分泌によって加わる一方、組織への移動や分解などで血中から除かれる。同じ期間と体積などをそろえた模型でも、濃度の変化には加わる側と除かれる側の両方が関わる。二つの条件で血中濃度が同じでも、それぞれの分泌速度や除去速度まで同じとは限らない。材料、完成在庫、血中量、標的の応答をそれぞれの場所の記録として読む。
17. 記録された段階を使って比べる
分泌が記録されたことと、標的の受容や応答が記録されたことは別である。血中にホルモンが存在していても、特定の作用が完了したことや、その作用だけが濃度を決めたことまで逆に特定できない。新しい産生が止まることも、すでにある分子がその瞬間に全て消えることとは違う。経路や入力が変わった比較では、変えた場所と保たれた場所を分け、ホルモンの伝達と調節の関係を使って判断する。
用語を確かめる
- ホルモン
- 分泌する細胞から出て、別の細胞などへ情報を伝える化学物質。
- 内分泌
- 血液を介してホルモンの情報を届ける方式。
- 外分泌
- 導管などを介して体表や管腔へ分泌する方式。
- 導管
- 分泌物を管腔などへ運ぶ管。
- 傍分泌
- 分泌した分子が周辺の別の細胞へ働く方式。
- 自己分泌
- 分泌した分子が、その細胞自身へ戻って働く方式。
- 受容体
- 特定の分子を受け取り、細胞の応答へ関わるたんぱく質。
- リガンド
- 受容体に結合する相手の分子。
- 標的細胞
- ホルモンなどを受け取り、その情報へ応答する細胞。
- ペプチドホルモン
- アミノ酸がつながったホルモンの一群。
- ステロイドホルモン
- コレステロールを材料に作られるホルモンの一群。
- ER
- エストロゲン受容体。本単元では核内ERを介する遺伝子発現の調節を扱う。
- 視床下部
- 脳の下部にあり、下垂体などと連絡して調節に関わる領域。
- 下垂体前葉
- 視床下部の血中信号などを受け、自身のホルモンを合成・放出する内分泌細胞のある区分。
- 下垂体後葉
- 視床下部の神経分泌ニューロンの終末があり、運ばれたホルモンを貯蔵・血中放出する区分。
- 門脈
- 毛細血管の領域と別の毛細血管の領域を結ぶ血管系。
- 神経分泌ニューロン
- 神経細胞としての活動に応じてホルモンを放出する細胞。
- バソプレシン(AVP、ADH)
- 視床下部で合成され、後葉から血中へ出る抗利尿ホルモン。正常な集合管の水透過性に関わる。
- オキシトシン
- 視床下部で合成され、後葉の神経終末から血中へ放出されるホルモン。
- 分泌顆粒
- 膜で囲まれた小さな袋。典型的な調節性ペプチドホルモンでは完成した分子を蓄えて放出する。
- 副腎皮質
- 副腎の外側の区分。コルチゾールなどのステロイドホルモン分泌に関わる。
- 副腎髄質
- 副腎の内側の区分。交感節前入力からアドレナリンなどの血中放出へつながる。
- カテコールアミン
- アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミンなどが属する化学物質の群。副腎髄質ではアドレナリンなどを血中へ放出する。
- クロム親和性細胞
- 副腎髄質などでカテコールアミンを分泌する細胞。本単元では副腎髄質への交感節前入力を扱う。
- 集合管
- 腎臓で尿が通る管。正常ADH応答で水透過性が変わる作用先。
- CRH
- 視床下部から出て前葉のACTH分泌を促す副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン。
- ACTH
- 前葉から出て副腎皮質のコルチゾール分泌を促す副腎皮質刺激ホルモン。
- コルチゾール
- 副腎皮質のステロイドホルモン。代表的なHPA軸の下流で、視床下部と前葉へ負のフィードバックを及ぼす。
- HPA軸
- 視床下部・下垂体前葉・副腎皮質の機能的な連絡。
- 負のフィードバック
- 下流などの変化が戻り、元の変化を打ち消す方向に働く関係。全出力の低下を意味しない。
- 遊離ホルモン
- 血中の結合たんぱく質と結合していない部分のホルモン。
- TSH
- 前葉から出て甲状腺へ働く甲状腺刺激ホルモン。
- ドパミン
- 通常、視床下部からの入力として前葉のプロラクチン分泌を持続的に抑える物質。
- プロラクチン
- 前葉のホルモン。乳腺の乳汁産生などに関わる。
- 膵島
- 膵臓にある内分泌細胞の集まり。
- インスリン
- 膵島から血中へ出るホルモン。通常、血糖上昇で分泌が増える側に働き、応答する細胞で糖の取り込みや貯蔵などを促す。
- グルカゴン
- 膵島から血中へ出るホルモン。通常、血糖低下で分泌が増える側に働き、主に肝臓で血糖を上げる方向に関わる。
- 血糖値
- 血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度。細胞内のグリコーゲン量とは別。
- 体液性の調節
- 血中の物質など、体液を介した入力による調節。
- 分泌速度
- 単位時間当たりに分泌される量。血中濃度とは別の量。
- 血中濃度
- 血液の体積当たりの物質の量。分泌と除去などの影響を受ける。