正常呼吸の構造・換気・ガス交換の基盤
本文の目次
- 空気の道は枝分かれして肺へ入る
- 空気を運ぶ枝から、交換する壁へ
- 肺胞の空気と血液の間の薄い壁
- 液の表面張力を下げる
- 肺の表面と、胸壁との間
- 筋の動きから、空気が入るまで
- 静かな呼気と、力を使う呼気
- 流れに使う圧差と、肺を広げる圧差
- 広がった肺でも、正味の流れは0になる
- 広がりやすさと、空気の通りにくさ
- 一回の体積と、単位時間の体積
- 同じ毎分量でも、肺胞へ届く新気は違う
- 各気体の割合と分圧
- ガスは、自分の分圧差で壁を越える
- 交換面積と壁の厚さを一緒に読む
- 空気の供給と、血液の供給
- 二つの供給は、同じ交換場所で出会う
- 溶けた酸素と、ヘモグロビンが運ぶ酸素
- 結合している割合と、運ぶ量
- 運搬する形から、吐き出す気体へ
- 動き・交換・運搬・利用を別の段階で確かめる
1. 空気の道は枝分かれして肺へ入る
吸い込んだ空気は鼻腔、または口腔から入り、咽頭、喉頭、気管を通る。気管は左右の気管支に分かれ、それぞれの肺の中でさらに細かく枝分かれする。細い枝を細気管支という。気管支は肺へ空気を運ぶ通路であり、その内側を通る空気と、周囲を流れる血液は同じ流れではない。
2. 空気を運ぶ枝から、交換する壁へ
代表的な末梢の経路を追うと、細気管支のうち伝導部の最後に当たる終末細気管支から、壁に肺胞が現れる呼吸細気管支へ進む。その先に肺胞管があり、複数の肺胞が開く肺胞嚢へつながる。肺胞は交換に関わる小さな空間で、肺胞管の壁にも並ぶ。全肺胞が一本の管の末端にだけ付くという形ではない。終末細気管支までの伝導部は主に空気を運び、温め湿らせる。呼吸細気管支からは、肺胞の壁を使う交換にも関わる呼吸部となる。
空気の道と、交換する壁
3. 肺胞の空気と血液の間の薄い壁
肺胞の空気は外界につながる空気側にあり、体液ではない。その周囲を肺の毛細血管が走る。空気と血液の間には、薄いI型肺胞細胞でできた上皮、その下の基底膜などの薄い境界、毛細血管の内皮がある。内皮は血管内面を覆う細胞の層である。酸素などのガスはこの薄い壁を越える。壁を作る各細胞にも細胞膜があるが、肺胞から血液までの壁全体を一個の細胞膜と同一には扱わない。血液は血管内を流れ、ガスは空気側と血液側の境界を越える。
空気と血液は、壁の両側
4. 液の表面張力を下げる
肺胞の内面は薄い液で覆われる。液の表面には、表面を小さくしようとする表面張力が働く。II型肺胞細胞が出すサーファクタントは、この表面張力を下げる。薄い交換面を主に作るI型細胞と、サーファクタントを出すII型細胞の役割を分ける。サーファクタントは空気を押し込む筋やポンプではない。肺の戻ろうとする性質には組織の弾性も関わり、すべてを表面張力だけで説明するわけではない。
5. 肺の表面と、胸壁との間
左右の肺は胸郭内にあり、その間に心臓などがある縦隔が位置する。胸部と腹部の境界を作る横隔膜は、呼吸で動く骨格筋でもある。肺の表面を覆うのが臓側胸膜、胸壁側を覆うのが壁側胸膜で、その間の胸膜腔は少量の液を伴う潜在的なすき間である。肺実質が大きな胸膜腔の空洞に入っているという意味ではない。通常はこの関係によって、胸郭の動きに肺も伴って広がる。胸膜の間の液、肺胞の空気、毛細血管の血液を別の場所として追う。
肺の表面と、胸壁との間
6. 筋の動きから、空気が入るまで
静かな吸気では、横隔膜が収縮して下がり、胸郭内の容積が増える。通常の胸膜の関係を通して肺が広がり、肺胞の容積も増える。気道が開いていれば、肺胞内圧が外気圧より低くなった時期に空気が入る。筋の収縮、胸郭と肺の容積、圧差、空気の流れは順につながる変化である。肺自体を、収縮して空気を吸う骨格筋の袋とは扱わない。横隔膜以外の吸気筋も働き得るので、すべての吸気を横隔膜だけの作用とはしない。
7. 静かな呼気と、力を使う呼気
静かな呼気では吸気筋が緩み、呼吸系全体が戻る働き、とくに肺の弾性によって肺の容積が減る。開いた気道で肺胞内圧が外気圧より高い時期には空気が外へ出る。胸郭の位置も変わるが、胸壁自体の弾性がどの状態でも肺と同じ内向きに働くという意味ではない。強く息を吐くときには呼気筋も働き得る。静かな呼気の説明を、すべての呼気が筋を使わないという一般則へ広げない。
8. 流れに使う圧差と、肺を広げる圧差
外気圧は体の外の空気の圧、肺胞内圧は肺胞の空気の圧、胸膜腔圧は胸膜の間の圧である。気道の空気の正味の流れは、肺胞内圧と外気圧の差で読む。一方、肺を広げる側の圧差である経肺圧は、肺胞内圧から胸膜腔圧を引く。慣性などを扱わない開放気道の模型では、空気は高い圧側から低い圧側へ流れる。外気圧を0として表示する場合の−1などは、外気より低いという相対表示である。絶対的な圧が負という意味ではない。
筋・肺の広がり・気流
9. 広がった肺でも、正味の流れは0になる
気道が開き、空気の正味の流れが止まった静的な時点では、肺胞内圧は外気圧と等しい。このとき胸膜腔圧が肺胞内圧より低ければ、経肺圧は正で、肺が広がった状態と両立する。例えば外気を0とした表示で肺胞内圧0、胸膜腔圧−5なら、経肺圧は5である。これは圧の比較用の模型値である。正味の流れ0は、肺に空気がないことや分子の運動が止まることを意味しない。開いている気道を、流れが止まっただけで閉じたと判断しない。
広がった肺・正味の気流0
10. 広がりやすさと、空気の通りにくさ
静的な同じ容積範囲では、経肺圧の変化に対する容積変化の比をコンプライアンスという。同じ圧変化で大きく広がるほど、この比は大きい。気道抵抗は空気の通路の流れにくさであり、肺の広がりやすさとは別である。他の駆動や慣性を扱わない定常模型では、流量=気道両端の圧差÷抵抗とする。同じ圧差なら抵抗が高い方が流量は小さい。肺の容積が大きいだけでコンプライアンスや気道抵抗を決めたり、これらの式を全範囲・全時点に無条件で使ったりしない。
11. 一回の体積と、単位時間の体積
一回の呼吸で出入りする空気の体積を一回換気量という。呼吸数は単位時間の呼吸の回数、毎分換気量は一分間に出入りする体積である。一回量と呼吸数が一定の記録なら、毎分換気量=一回換気量×呼吸数となる。例えばL/回と回/分を掛けるとL/分になる。呼吸数が同じでも、一回量が違えば毎分量は違う。一回量を記録していないのに、回数だけから毎分量を確定しない。
12. 同じ毎分量でも、肺胞へ届く新気は違う
伝導部にも空気が出入りするが、そこは主にガス交換をしない。この部分の空気量を解剖学的死腔という。死腔は空気が動かない場所という意味ではない。一回換気量が一回の死腔量より大きく、死腔量や容積の条件が一定の簡単な模型では、肺胞へ届く新しい空気の毎分量を、(一回換気量−一回の死腔量)×呼吸数で読む。死腔量は呼吸ごとに差し引くので、毎分量から一度だけ引く計算ではない。浅く多い呼吸と深く少ない呼吸で毎分量が同じでも、肺胞へ届く量は違い得る。
死腔は、一回ごとに引く
13. 各気体の割合と分圧
混ざった気体の全圧のうち、ある気体に対応する圧を分圧という。指定した理想気体では、分圧=その気体のモル分率×絶対全圧とする。モル分率は全気体の物質量に占める割合で、同じ温度・圧なら体積割合とも対応するが、質量割合ではない。20%は0.20として使う。絶対全圧100の乾いた模型気体で割合20%なら分圧20となる。外気圧を0とした力学用の相対表示を、気体の絶対全圧0として代入しない。湿度の補正をしていない模型値を、普遍的な肺胞の正常値として示さない。
14. ガスは、自分の分圧差で壁を越える
ガスを通す境界では、そのガス自身の分圧が高い側から低い側へ正味の拡散が起こる。肺の通常の条件では酸素は肺胞側から血液側へ、二酸化炭素は血液側から肺胞側へ移る。それぞれのガスの分圧差を見るので、二つのガスが逆向きに移っても矛盾しない。混合気体の全圧差で起こる気道の空気の流れや、血管内の血流とは別の移動である。同じガスの分圧が両側で等しく正味の拡散が0でも、分子は両方向に動き続け得る。
15. 交換面積と壁の厚さを一緒に読む
同じガス・温度・透過しやすさ・時間・分圧差を比べる模型では、交換面積が大きいほど、壁が薄いほど通過量が増える。面積と厚さが両方変わったなら両方を使う。指定された係数をKとすると、単位時間の移動量=K×面積×分圧差÷厚さ、という形で比較する課題もある。これは条件をそろえた壁の比較である。肺全体では空気と血液の供給なども関わり、壁の一つの条件だけで交換全体や個人の原因は決まらない。
16. 空気の供給と、血液の供給
肺胞へ空気を出入りさせることが換気、肺の毛細血管へ血液を流すことが灌流である。血液は右心から肺へ送られ、肺から左心へ戻る。この血流に対し、酸素や二酸化炭素が肺胞と血液の境界を越えるのが拡散である。換気、灌流、拡散は関わり合うが同じ測定ではない。空気の出入りが記録されても、酸素が血液へ移った量を直接測ったことにはならない。
空気と血液は、壁の両側
各ガスは、自分の分圧差で
17. 二つの供給は、同じ交換場所で出会う
二つの交換区画が互いに独立し、区画間に空気も血液も移らない模型を考える。初めにたまった酸素を使わず、供給によって分圧差を保ちながら持続的に交換するなら、同じ区画に新しい空気と流れる血液が必要である。換気が一方の区画、血流がもう一方の区画にだけあると、全体の換気量と血流量が同じでも供給は同じ場所で出会わない。全体の合計を、すべての局所の一致へ置き換えない。この独立区画の条件を、患者の病態や全肺の分布へそのまま広げない。
二つの供給は、同じ場所へ
18. 溶けた酸素と、ヘモグロビンが運ぶ酸素
血液の酸素には、液に溶けたものと、赤血球のヘモグロビンに結合したものがある。ヘモグロビンは酸素を結合して運ぶタンパク質で、肺の代表的な条件で結合し、組織側で放出する。酸素分圧は溶存酸素に対応し、ヘモグロビンに結合した量そのものではない。酸素含量は、単位血液量当たりの、溶存分と結合分を合わせた酸素量である。同じ温度・溶解条件で溶存濃度が同じでも、Hb結合分が違えば含量は違い得る。血液全体の酸素総量は含量に血液量も関わるため、含量とは分けて読む。
19. 結合している割合と、運ぶ量
酸素飽和度は、ヘモグロビンの酸素結合部位のうち、酸素が結合している部位の割合である。分母は利用可能な酸素結合部位の全体で、血液量や溶存酸素量ではない。比較用の同じ体積の二つの血液模型で、部位が100のうち80、200のうち160に酸素が結合していれば、割合はどちらも80%である。しかし結合している量は後者が多い。同じ割合を、ヘモグロビンの量や酸素含量が同じという意味にしない。これは結合割合の模型であり、測定機器や患者の基準値を決める例ではない。
Hbの酸素結合部位
20. 運搬する形から、吐き出す気体へ
炭酸水素イオンは重炭酸イオンともいい、HCO₃⁻で表す。二酸化炭素の多くは、このイオンの形で血液を運ばれる。溶けた二酸化炭素や、タンパク質に結合した形もあるので、すべてが一つの形ではない。肺では反応を通して、炭酸水素イオンとして運ばれた一部が分子の二酸化炭素へ戻る。二酸化炭素は自身の分圧差に従って血液から肺胞へ移り、呼気として外へ出る。炭酸水素イオンそのものが気体になって肺胞の空気へ渡るという意味ではない。ここでは酵素やイオン交換の詳細ではなく、運搬形と気相へ出る形の違いを追う。
運ぶ形から、吐き出す形へ
21. 動き・交換・運搬・利用を別の段階で確かめる
呼吸筋と圧が換気を生み、肺胞の空気と血液の間でガスが拡散し、血液が酸素を運び、体の毛細血管から組織側へ供給され、細胞で利用される。これらは別の場所と役割を持つ段階である。胸郭の動きや呼吸数だけを見ても、一回量や壁を越えた量は決まらない。酸素分圧や飽和度の一記録だけを見ても、酸素含量、組織へ流れた血液量、細胞で使われた量まで一度に確定はできない。記録された段階を保ち、その先に必要な条件と実測を分ける。
用語を確かめる
- 気管支
- 気管から分かれ、肺の中でさらに枝分かれする空気の通路。
- 細気管支
- 肺内の気道の細い枝。終末細気管支と、肺胞が壁に現れる呼吸細気管支を区別する。
- 終末細気管支
- 主に空気を運ぶ伝導部の最後の部分に当たる細気管支。
- 呼吸細気管支
- 壁に肺胞が現れ、空気の通路とガス交換の両方に関わる細気管支。
- 肺胞管
- 呼吸細気管支の先で、壁に肺胞が並ぶ通路。
- 肺胞嚢
- 複数の肺胞が開く末梢の共通の空間。
- 肺胞
- 薄い壁を介して周囲の毛細血管の血液とガスを交換する小さな空気の空間。
- 伝導部
- 終末細気管支までの、主に空気を運び温め湿らせる気道。
- 呼吸部
- 呼吸細気管支から肺胞へ続く、肺胞の壁でのガス交換に関わる部分。
- I型肺胞細胞
- 肺胞の薄い交換面を主に作る上皮細胞。
- II型肺胞細胞
- サーファクタントを出す肺胞の上皮細胞。
- 内皮
- 血管の内面を覆う細胞の層。
- サーファクタント
- 肺胞内面の液の表面張力を下げる物質。空気を押し込む筋ではない。
- 表面張力
- 液の表面を小さくしようとする性質。
- 臓側胸膜
- 肺の表面を覆う胸膜。
- 壁側胸膜
- 胸壁側などを覆う胸膜。
- 胸膜腔
- 臓側胸膜と壁側胸膜の間の、少量の液を伴う潜在的な間隙。肺実質や肺胞の空気とは別の場所。
- 横隔膜
- 胸部と腹部の境界を作り、吸気時に収縮して下がる骨格筋。
- 外気圧
- 体の外の空気の圧。相対表示で0とする基準と、絶対的な圧を区別する。
- 肺胞内圧
- 肺胞の空気の圧。外気圧との差は気道の気流を読む条件になる。
- 胸膜腔圧
- 胸膜の間の圧。肺胞内圧とは異なる場所での圧。
- 経肺圧
- 肺胞内圧から胸膜腔圧を引いた、肺を広げる側の圧差。
- 相対圧
- 共通の基準圧との差として表した圧。負の表示は基準より低いことを表す。
- 絶対圧
- 真空を0とする圧。理想気体の割合から分圧を求める際の全圧はこちらを使う。
- コンプライアンス
- 静的な指定範囲での、経肺圧の変化に対する肺の容積変化の比。
- 気道抵抗
- 気道で空気が流れる際の流れにくさ。肺の広がりやすさとは別。
- 一回換気量
- 一回の呼吸で出入りする空気の体積。
- 呼吸数
- 単位時間当たりの呼吸の回数。
- 毎分換気量
- 一分間に出入りする空気の体積。一定条件では一回換気量×呼吸数。
- 解剖学的死腔
- 主にガス交換をしない伝導部の空気量。空気が動かないという意味ではない。
- 肺胞換気量
- 肺胞へ届く新しい空気の単位時間量。本文の指定模型では(一回換気量−死腔量)×呼吸数。
- モル分率
- 混合物の全物質量に占める、ある成分の物質量の割合。気体では同じ温度・圧で体積割合とも対応する。
- 分圧
- 混合気体の全圧のうち、ある気体に対応する圧。指定理想気体ではモル分率×絶対全圧。
- 拡散
- 分子の運動による広がり。本文のガス模型では自身の分圧差に沿う正味移動を読む。
- 灌流
- 肺の毛細血管への血液の供給・血流。換気や壁越え拡散とは別。
- 溶存酸素
- 血液の液に溶けている酸素。酸素分圧に対応する。
- ヘモグロビン(Hb)
- 赤血球内で酸素を結合して運ぶタンパク質。
- 酸素含量
- 単位血液量当たりの、溶存分とHb結合分を合わせた酸素量。血液全体の総量とは別。
- 酸素飽和度
- Hbの利用可能な酸素結合部位のうち、酸素が結合している割合。
- 炭酸水素イオン(重炭酸イオン、HCO₃⁻)
- 二酸化炭素の主要な血中運搬形となるイオン。肺では一部が反応を通して分子CO2へ戻る。
- 換気
- 気道を通して肺胞側へ空気を出入りさせること。血流やガスの壁越えとは別の段階。