解剖用語と人体の区分

本文の目次

  1. 姿勢を決めて方向を表す
  2. 正中を先に決める
  3. 頭足と前後を分ける
  4. 正中面への近さ
  5. 四肢の根元への近さ
  6. 体表からの距離
  7. 矢状面と正中の位置
  8. 三つの面を使い分ける
  9. 身体の区分
  10. 四肢の中を区分する
  11. 骨の枠組みと内部の空間
  12. 骨に囲まれた神経の空間
  13. 胸腹の境界と腹骨盤の連続
  14. 器官の表面と袋の壁を分ける
  15. 胸郭の中央と膜の間隙
  16. 位置は比較する相手を添える
  17. 腹部と三つの空間の名称
  18. 腹部の位置と腹膜との関係
  19. 骨盤部の位置と腹膜の間隙
  20. 主要器官の位置を大まかにつなぐ

1. 姿勢を決めて方向を表す

解剖学的正位では、体をまっすぐにして前を向き、腕を体の両側に置き、手のひらと足のつま先を前方へ向ける。左右はその体の本人を基準にする。向かい合う観察者の左右と本人の左右は対向する。

本人の左右と、見る人の左右

本人は正面を向き、観察者Aと向かい合っている。Aは背中側から描いており、Aの視線は本人へ向く。本人の右肩の目印は図の左側にあり、A自身の左側に見える。本人の左側は図の右側でA自身の右側に見える。両者の前方矢印は互いへ向く。
向かい合うと左右は対向します。見える側が変わっても、本人の右・左の呼び名は変わりません。

2. 正中を先に決める

身体の左右の中央を通り、頭から足へ、前から後ろへ広がる基準面を正中面という。この面に近いか遠いかが内側・外側の基準になる。本人が寝たり、腕を上げたりしても、方向の基準を観察者の見方や重力に置き換えない。

3. 頭足と前後を分ける

人体全体の上方は頭側、下方は足側である。人体の体幹の前方は胸・腹側、後方は背中側である。実際の姿勢が変わっても、床からの高さや観察者の向きを解剖用語の基準へ置き換えない。

4. 正中面への近さ

身体の正中面に近い側を内側、正中面から離れる側を外側という。前後、体表からの深さ、臓器の内部・外部とは別の基準である。一つの場所が前方かつ内側というように、異なる軸の位置関係を同時に表せる。

5. 四肢の根元への近さ

四肢では、体幹への付着部・根元に近い側が近位、遠い側が遠位である。上肢の肩から肘、手首へ続く順では、肘は手首より近位、手首は肘より遠位となる。腕を挙げて床や天井からの距離が変わっても、この基準は変わらない。

6. 体表からの距離

体表に近い側は表在、体表から遠い側は深部である。正中面への距離を使う内側・外側とは異なるため、表在で外側、深部で内側といった組合せも成り立つ。

7. 矢状面と正中の位置

矢状面は人体を右側と左側の部分に分ける縦の面である。そのうち正中を通って右半と左半へ分ける面が正中矢状面である。右半と左半は同じ形や同じ体積という意味ではない。面の向きを変えず正中から平行移動すれば、矢状面のまま正中以外を通る。

矢状面:右と左を分ける

正面寄りから見た立位の人体模型に、頭足方向と前後方向へ広がる縦の面を示す。図の左が本人の右、右が本人の左。面は人体を右側と左側へ分ける。斜めに見える幅は前後方向の奥行きを表し、面の傾きや実寸を表さない。
面を斜めから見た模式です。矢状面は左右を分ける向きであり、正中を通るとは限りません。

正中を通る面と、通らない面

一つの人体模型に平行な二つの矢状面を重ねる。実線の面は左右の中央を通る正中矢状面。破線と点模様の面は本人の右側、つまり図の左側へ平行移動した矢状面で、正中を通らない。二面は同じ向きで、異なる位置を通る。
二面の向きは同じです。正中を通るかどうかが違います。左右の器官が同じ形・体積という意味ではありません。

8. 三つの面を使い分ける

人体全体を前方と後方に分ける縦の面は冠状面で、前額面ともいう。人体全体の頭足軸に直角で上方と下方に分ける面は横断面で、解剖学的正位では水平面となる。正中矢状面と横断面を組み合わせると、左右の区分と頭足の区分を組み合わせられる。

冠状面:前と後ろを分ける

正面寄りから見た立位の人体模型に、頭足方向と左右方向へ広がる縦の面を示す。前後の奥行きは斜めの矢印で表し、前方は胸腹側へ向かう右下向き、後方は背中側へ向かう左上向きとして描く。前後方向の矢印は本人の左右を示すものではない。
前後の奥行きを斜めに描いています。冠状面(前額面)は前と後ろを分ける面です。

横断面:頭側と足側を分ける

立位の人体模型を頭足軸に直角な面が横切る。面の奥行きを斜めの四角で示すが、実際には人体全体の頭足軸に直角である。面より頭側は上方、足側は下方。個々の器官や曲がった四肢の軸の断面を示す図ではない。
水平な面の奥行きを斜めに表した模式です。解剖学的正位の人体全体の頭足軸を基準にします。

9. 身体の区分

人体の大きな部位は頭部・頸部・体幹・上肢・下肢に分けて表せる。体幹には胸部・腹部・骨盤部を含み、左右の上肢と下肢をまとめて四肢という。観察時に手が胸部の前へ重なっても、上肢という所属は変わらない。

10. 四肢の中を区分する

上肢の肩から肘までが上腕、肘から手首までが前腕で、その先に手がある。下肢の股関節から膝までが大腿、膝から足首までが下腿で、その先に足がある。上肢・下肢は全体の名称で、上腕・前腕や大腿・下腿はその中の部位である。

11. 骨の枠組みと内部の空間

頭蓋腔や胸腔のように、体の内部で器官が位置する主要な空間を体腔という。胸部の骨の枠組みを胸郭といい、その内側の空間が胸腔である。骨の枠組みそのものと、内側の空間の名称を分ける。

体腔の大枠:頭・胸・腹部・骨盤

正面の人体の輪郭を簡略化した図。頭蓋腔は頭部、胸腔は横隔膜より上、腹腔はその下から骨盤の入口まで、骨盤腔はその先に続く。腹腔と骨盤腔の間は破線の位置目安だけで、隔壁は描かない。合わせて腹骨盤腔になる。脊柱管は奥の縦長の破線で示し、頸部から体幹に続く。横隔膜は胸腹の境界を示す曲線で、食道や血管の通る開口は省略している。これは体腔の区分を表す図であり、胸膜腔や腹膜腔の間隙を同じ塗りで表してはいない。脊柱管を見やすく図の右へずらしており、実際の脊柱管は背側の正中に位置し、頭蓋腔とつながる。横隔膜を示す注記は、左のラベルの上から水平に伸びて直角に折れ、最後は上向きの矢印で太い曲線を指す。細い注記線は解剖学的な境界の一部ではない。
体腔の区分と上下関係の模式です。奥の脊柱管は破線で重ねています。横隔膜の開口など細部は省略しており、完全に密閉された不動の壁を表す図ではありません。腹腔と骨盤腔の境界の破線は隔壁ではなく、位置の目安です。各部の形・広さは実寸を示しません。脊柱管は見やすく図の右へずらした奥の構造で、実際は背側の正中にあり、頭蓋腔につながります。細い折れ線と矢印は横隔膜の位置を示す注記で、太い境界線の一部ではありません。

12. 骨に囲まれた神経の空間

脳は頭蓋骨内の頭蓋腔に、脊髄は脊柱内の脊柱管に位置する。頭部・頸部・体幹は身体の部位名であり、頭蓋腔・脊柱管は内部の区画を表す。脊柱管は頸部から体幹にも続くため、一つの体腔名を一つの体表部位だけに置き換えない。

13. 胸腹の境界と腹骨盤の連続

横隔膜は胸腔と腹腔を隔てる筋性の境界で、正常な換気で上下に動く。食道や血管などが通る開口を持つため、物質を一切通さない密閉壁という意味ではない。腹腔と骨盤腔は、胸腹を隔てる横隔膜のような構造では隔てられず、両者は連続している。

14. 器官の表面と袋の壁を分ける

胸膜・心膜・腹膜の「膜」は、体内の表面を覆う組織の薄い層であり、一個の細胞の脂質二重層である細胞膜とは違う。漿膜の「葉」は膜の層の呼び名で、壁側葉は腔や袋の壁側、臓側葉は器官の表面側にある。胸膜と腹膜では壁側葉が体壁側を覆う。漿膜性心膜では壁側葉が線維性心膜という袋の内面、臓側葉が心臓表面にある。二葉はふだん近接し、その間の狭いすき間に少量の液がある。この潜在間隙が胸膜腔・心膜腔・腹膜腔である。肺や心臓などの器官そのものを入れた大きな空洞という意味ではない。

胸膜の二葉と、間のすき間

一つの肺を囲む局所の関係を拡大して描く。中央の肺の表面には臓側葉が密着する。外側の胸壁の内面には壁側葉がある。二葉の間だけを点模様で示し、胸膜腔とする。肺そのものはこの点模様のすき間の中に置かれていない。胸膜腔を読み取るため、実際には近接している二葉の間を大きく広げている。胸壁と肺が向かい合う部分を描き、肺門で二葉がつながる部分は省略している。
胸壁と肺が向かい合う部分の位置関係の模式です。二葉はふだん近接しています。すき間を見やすく拡大し、肺門で二葉がつながる部分などは省略しています。肺の大きさや胸膜腔の容積を示す図ではありません。

漿膜性心膜と、線維性の袋

外側を斜線模様の線維性心膜という袋として描く。その内面に漿膜性心膜の壁側葉を実線で示す。中央の心臓の表面を臓側葉が覆う。二葉の間の点模様だけが心膜腔であり、心臓そのものを収めた大きな空洞という意味ではない。二葉間は位置関係を示すため広げてある。壁側葉は胸壁ではなく、線維性心膜の袋の内面にある。大血管の付け根で二葉がつながる部分は省略している。
線維性の袋と漿膜性心膜の二葉を区別する模式です。壁側葉は袋の内面、臓側葉は心臓表面にあります。点模様のすき間は見やすく拡大し、大血管の付け根で二葉がつながる部分などは省略しています。心臓・袋の形や寸法は簡略化しています。

15. 胸郭の中央と膜の間隙

左右の胸膜嚢の間にある胸郭内の中央領域は縦隔であり、心臓などが位置する。肺の表面を覆う臓側胸膜と胸壁側の壁側胸膜との間が胸膜腔で、通常は少量の液を含む潜在的な間隙である。肺の実質そのもの、胸膜の間隙、胸郭内全体を同じ意味の空間としてまとめない。

胸部:両肺の間の縦隔と心臓

胸腔を正面から見た模式で、図の左は本人の右。左右の肺を左右に描き、その間の縦隔を破線と斜線の中央領域として示す。心臓はこの縦隔に描く。縦隔は肺そのものではなく、心臓などがある領域であり、空のすき間を表した塗りではない。肺・心臓・縦隔の輪郭や大きさは簡略化し、左右が完全に同じ形・体積であることや正確な器官境界を示していない。
胸腔を正面から見た位置関係の模式です。両肺の間が縦隔で、その中に心臓があります。中央領域の塗りは空洞や膜間の液のすき間を示すものではありません。器官・縦隔の形や比率は簡略化しており、個人の正確な位置・左右の対称性は判定できません。

16. 位置は比較する相手を添える

通常の胸部では心臓は胸骨の後方、胸椎の前方にあり、左右の肺より内側に位置する。「前方」「内側」のような語を使うときは、何と比べた関係かを添える。前後関係だけから正中面への距離が決まるわけではない。

17. 腹部と三つの空間の名称

腹部は身体の部位の名称である。腹腔は横隔膜の下から骨盤の入口までの体腔で、下方の骨盤腔と連続し、合わせて腹骨盤腔という。腹膜腔はその全体ではなく、壁側腹膜と臓側腹膜の間の潜在間隙である。腹部にある器官だから腹膜腔の中に浮いている、と考えない。腎臓は腹部の後方にあり、後腹膜の器官である。

後腹膜の腎臓と、腹膜の間隙

腹部の局所の前後関係を横から見た模式。図の左が後方、右が前方。後方の体壁を斜線の帯で示す。腎臓は体壁より前だが、壁側腹膜より後ろにあり、後腹膜の位置をとる。壁側腹膜と腸管表面の臓側腹膜の間だけを点模様で示し、腹膜腔とする。腸管自体は点模様のすき間の中に置かれていない。二葉は実際には近接するが、位置関係を読むため間隔を広げている。腹膜の折り返しや他の器官は省略し、腹腔全体をこの点模様と同一の空間として示していない。
前後関係を示す局所の模式です。壁側腹膜より後ろの腎臓と、二葉の間隙を区別します。点模様の間隙は読みやすく拡大し、腹膜の折り返しや他の器官は省略しています。器官が腹膜腔に浮かぶ図ではなく、器官・すき間・壁の寸法も実際とは異なります。

18. 腹部の位置と腹膜との関係

腎臓は横隔膜の下で脊柱の左右に位置し、腹膜との関係では後腹膜にある。横隔膜や脊柱との方向、腹膜との位置は別の基準である。腹部にある臓器がすべて腹膜腔という膜の間隙に入っているわけではない。肝臓は横隔膜の直下に位置する。

19. 骨盤部の位置と腹膜の間隙

正常な成人の空に近い膀胱は骨盤腔に位置する。腹腔と骨盤腔が連続していても、領域の位置を区別して表せる。腹膜腔は壁側腹膜と臓側腹膜の間にある潜在的な間隙であり、腹部や腹骨盤腔の領域全体と同じ意味ではない。

20. 主要器官の位置を大まかにつなぐ

通常の成人では、心臓は胸郭中央の縦隔にあり、肝臓は横隔膜のすぐ下で主に右上腹部寄り、胃は左上腹部寄りにある。腎臓は横隔膜より下で脊柱の両側の後腹膜に位置する。腎臓が作る尿は尿管を通って膀胱へ流れ、膀胱はその尿を一時的に蓄える。成人のほぼ空の膀胱は骨盤内にある。こうした位置は大まかな地図であり、器官の全範囲や個人の位置を一律に決めるものではない。

通常の成人:腹部と骨盤の器官位置

本人と向かい合う正面図で、図の左が本人の右。横隔膜を上方の弧で示す。その下の肝臓は主に右上腹寄り、胃は左上腹寄り。腸管は腹部から骨盤にかけて大まかに描く。左右の腎臓は脊柱の両側の奥にあり、破線で他の器官と重ねて示す。尿管を単純な細い線で腎臓から膀胱へつなぐ。通常成人のほぼ空の膀胱は骨盤内にある。器官の形や重なりを見やすく変形した同一投影の模式であり、図の形や位置は個人の寸法や精密な境界を示さない。
通常成人の大まかな位置の模式です。腎臓など奥の構造は破線で同じ正面図に重ね、器官の間隔や形を広げています。膀胱はほぼ空の状態です。胃腸・尿管の細かな走行、個人差、器官の精密な境界は示していません。後腹膜と腹膜腔の違いは別の側面図で確かめます。

用語を確かめる

解剖学的正位
人体の位置を表すための基準姿勢。立って前を向き、上肢を体の両側に置き、手掌と足趾を前方へ向ける。
本人の左右
その体の本人を基準にした右と左。観察者の左右と一致するとは限らない。
上方・下方
人体全体で頭側と足側をそれぞれ表す方向。床からの高さを基準に呼び替えない。
前方・後方
人体の体幹で胸・腹側と背中側をそれぞれ表す方向。
内側・外側
身体の正中面に近い側と、そこから離れる側。
近位・遠位
四肢で体幹への付着部・根元に近い側と、そこから遠い側。
矢状面
人体全体を右側と左側の部分へ分ける縦の面。正中を通るとは限らない。
正中矢状面
身体の正中を通り、右半と左半へ分ける矢状面。左右の臓器が完全に同じになる意味ではない。
冠状面(前額面)
人体全体を前方と後方の部分へ分ける縦の面。
横断面(水平面)
人体全体の頭足軸に直角で、上方と下方の部分へ分ける面。解剖学的正位では水平になる。
表在・深部
体表に近い側と、体表から遠い側。正中面への距離とは別の比較基準。
体幹
胸部・腹部・骨盤部を含む人体の中心部分。頭部・頸部・上肢・下肢とは区分する。
四肢
左右の上肢と左右の下肢の総称。
頭蓋腔
頭蓋骨に囲まれ、脳が位置する空間。
脊柱管
脊椎の配列によって囲まれ、脊髄が通る管状の空間。
横隔膜
胸腔と腹腔を隔て、正常な換気で動く筋性の境界。食道や血管などが通る開口もある。
縦隔
左右の胸膜嚢の間にある胸郭内の中央領域。
胸膜腔
肺を覆う臓側胸膜と、胸壁側の壁側胸膜との間にある潜在的な間隙。
後腹膜
腹膜の後ろ側にある位置を表す語。腎臓などが位置する。
骨盤腔
腹腔に連続する、骨盤部にある体腔の領域。成人の空に近い膀胱などが位置する。
腹膜腔
壁側腹膜と臓側腹膜の間にある潜在的な間隙。腹部や腹骨盤腔の領域全体と同一ではない。
上腕
上肢の肩から肘までの部位。
前腕
上肢の肘から手首までの部位。
大腿
下肢の股関節から膝までの部位。
下腿
下肢の膝から足首までの部位。
漿膜
腔や器官の表面を覆う薄い組織の膜。壁側葉と臓側葉を区別し、その間には少量の液を含む潜在間隙がある。
壁側葉
漿膜の腔・袋の壁側の葉。胸膜・腹膜では体壁側、漿膜性心膜では線維性心膜の内面にある。
臓側葉
漿膜の器官表面側の葉。
心膜腔
漿膜性心膜の壁側葉と臓側葉の間の、少量の液を含む潜在間隙。
線維性心膜
心臓を外から囲む丈夫な結合組織の袋。漿膜性心膜の壁側葉はその内面にある。
腹腔
横隔膜の下から骨盤の入口までの体腔。骨盤腔と連続し、腹膜腔そのものとは区別する。
腹骨盤腔
連続する腹腔と骨盤腔を合わせた体腔。
尿管
腎臓で作られた尿を膀胱へ運ぶ管。
体腔
頭蓋腔や胸腔など、体の内部で器官が位置する主要な空間の名称。身体の領域や骨の枠組みと区別する。
胸郭
胸部を取り囲む骨の枠組み。
胸腔
胸郭の内側にある空間。下方では横隔膜が腹腔との境界になる。左右の肺の領域と縦隔を含む。