眼球・眼窩と七筋の正常局所解剖
本文の目次
- 眼窩は眼球の周囲の骨と軟部を分けて読む
- 眼窩の壁をつくる骨と隣の空間
- 視神経管と上眼窩裂は別の通路
- 四直筋の共通腱輪と筋円錐
- 内側直筋は鼻側へ向ける
- 外側直筋は耳側へ向ける
- 上直筋は上転だけの一本ではない
- 下直筋は下転・内転・外旋を分ける
- 上斜筋は滑車で腱の向きが変わる
- 下斜筋は眼窩の前方から起こる
- 上眼瞼挙筋は眼球ではなく上眼瞼へ届く
- 内転・外転と内旋・外旋を別の軸にする
- 上下作用の寄与は眼位で変わる
- 運動神経の枝と六筋の対応
- 眼球壁の層と筋が付く表面
- 房水の区画と硝子体側の空間
- 視神経の眼球側の出口と眼窩内の通路
- 眼動脈と網膜・毛様体側の枝を分ける
- 眼静脈は動脈の枝でなく帰還の通路
- 表面の保護と内部の平滑筋を分ける
- 眼球・眼窩・筋の関係を限定してまとめる
1. 眼窩は眼球の周囲の骨と軟部を分けて読む
この章は正常成人の眼球・眼窩と七つの骨格筋を、本人の鼻側と耳側、上と下、前と後で読みます。眼球の向きを変える六筋と、上眼瞼を挙げる一筋は作用の対象が違います。眼窩は眼球だけでなく脂肪、筋、神経や血管を含む空間です。左右の眼を紙面の左右へ無条件に写さず、一つの眼の関係を基準にします。
2. 眼窩の壁をつくる骨と隣の空間
眼窩は前方が広く、後方の尖端へ狭まります。通常、七骨の部分が壁に関わります。上壁は主に前頭骨と蝶形骨小翼、外側壁は頬骨と蝶形骨大翼、下壁は主に上顎骨と頬骨、後方の小部分は口蓋骨です。内側壁には上顎骨、涙骨、篩骨と蝶形骨が関わります。上方は前頭蓋窩、内側は篩骨洞側、下方は上顎洞側に近く、壁と孔を同じ構造にしません。
3. 視神経管と上眼窩裂は別の通路
眼窩尖端付近の視神経管には通常、視神経と眼動脈が通ります。上眼窩裂には動眼神経、滑車神経、外転神経や眼神経の枝などが通り、上眼静脈もこの領域から頭蓋側へ向かいます。下眼窩裂は眼窩の下方外側で、眼窩下神経や頬骨神経などの通路に関わります。動脈の流入、静脈の出口、運動神経の連絡を一つの孔へ集めず、全小枝や変異は区別して残します。
眼窩の壁と骨の対応
4. 四直筋の共通腱輪と筋円錐
四つの直筋は眼窩尖端付近の共通腱輪から前方へ走り、眼球の前方寄りの強膜へ停止します。四直筋で囲まれる筋円錐の内側に視神経などが位置します。共通腱輪は視神経管と上眼窩裂の一部の周囲に関わりますが、上眼窩裂を通る構造の全部を輪の内側へ入れません。斜筋や上眼瞼挙筋の起始を、四直筋と同じ腱輪へ一律に移し替えません。
5. 内側直筋は鼻側へ向ける
内側直筋は共通腱輪から眼球の鼻側へ沿って前方に走り、赤道より前方の鼻側の強膜へ停止します。主な作用は内転で、眼球の前方の視線を鼻側へ向けます。通常は動眼神経の下枝の支配を受けます。筋の停止を虹彩や水晶体へ置かず、眼球の外側の強膜を引くことと、瞳孔の大きさを変えることを分けます。
6. 外側直筋は耳側へ向ける
外側直筋は共通腱輪から眼球の耳側へ沿って前方へ走り、赤道より前方の耳側の強膜へ停止します。主な作用は外転で、視線を耳側へ向けます。通常は外転神経の支配を受けます。内側直筋との左右の配置を分け、外転神経を四直筋の全ての支配神経とはしません。
7. 上直筋は上転だけの一本ではない
上直筋は共通腱輪から眼球の上面に沿い、赤道より前方の上側の強膜へ停止します。通常は動眼神経上枝の支配です。正面を向いた基準の眼位では、上転に加えて内転と内旋の作用をもちます。筋の引く方向と眼球の視線の軸は完全に一致せず、眼位によって各作用の寄与が変わります。上直筋を、まぶた自体の皮膚に停止する筋と同じにはしません。
8. 下直筋は下転・内転・外旋を分ける
下直筋は共通腱輪から眼球の下面に沿い、赤道より前方の下側の強膜へ停止します。通常は動眼神経下枝の支配です。正面を向いた基準の眼位では、下転、内転、外旋の作用を区別します。下側にあるという名前だけから外転と決めず、強膜の停止と多軸の作用を対応させます。
四直筋:起始と強膜停止
9. 上斜筋は滑車で腱の向きが変わる
上斜筋は通常、視神経管の近くの蝶形骨から起こり、眼窩の内側上方を前方へ走ります。腱は前内側上方の滑車を通り、そこから後方外側へ向きを変えて、赤道より後方の上側・外側の強膜へ停止します。滑車は停止そのものではありません。通常は滑車神経の支配で、基準の眼位では内旋、下転、外転の作用があります。起始の高さだけから上転としません。
10. 下斜筋は眼窩の前方から起こる
下斜筋は通常、眼窩底の前内側にある上顎骨から起こり、下直筋の下を通って後方外側へ走り、赤道より後方の下側・外側の強膜へ停止します。四直筋の尖端起始と違い、前方の起始です。通常は動眼神経下枝の支配で、基準の眼位では外旋、上転、外転の作用をもちます。上斜筋の滑車を通る腱とは別です。
11. 上眼瞼挙筋は眼球ではなく上眼瞼へ届く
上眼瞼挙筋は通常、視神経管の上方付近の蝶形骨小翼から起こり、上直筋の上を前方へ走ります。前方の腱膜は上瞼板や上眼瞼の皮膚へ広がり、上眼瞼を挙げます。通常は動眼神経上枝の支配です。眼球運動六筋の強膜停止と違い、停止の対象は上眼瞼側です。平滑筋の上瞼板筋の交感性の連絡を、上眼瞼挙筋全体の支配へ置換しません。
斜筋と挙筋:異なる走行
12. 内転・外転と内旋・外旋を別の軸にする
内転・外転は視線が鼻側・耳側へ向く運動、上転・下転は視線の上下の運動です。内旋・外旋は視線の軸の周りの回転で、眼球の上極が鼻側へ寄るものを内旋、耳側へ寄るものを外旋として読みます。一筋の作用は一方向だけとは限りません。両眼の紙面上の回転を同じ時計方向へ固定せず、本人の鼻側・耳側を基準にします。
13. 上下作用の寄与は眼位で変わる
上・下直筋の上下方向の作用は、眼球が外転した眼位で読みやすくなります。上・下斜筋の上下方向の作用は、眼球が内転した眼位で読みやすくなります。これは筋の向きと眼球の軸による正常な関係です。上直筋の上転と下斜筋の上転を同じ停止位置にせず、眼位の条件を省いて各筋を一軸だけの装置としません。ここから臨床の検査手順や診断を定めません。
眼位と多軸作用の比較
14. 運動神経の枝と六筋の対応
通常、動眼神経上枝は上直筋と上眼瞼挙筋、下枝は内側直筋・下直筋・下斜筋へ向かいます。滑車神経は上斜筋、外転神経は外側直筋へ向かいます。視神経は眼球からの視覚情報の連絡で、これら七筋の運動支配神経ではありません。眼神経の感覚枝とも区別し、頭蓋内の全走行や全視路は既知の神経教示を参照します。
七筋の通常の運動支配
15. 眼球壁の層と筋が付く表面
既に学んだ眼球壁は外側の角膜・強膜、中間の脈絡膜・毛様体・虹彩、内側の網膜を分けます。外眼筋の腱が付く強膜と、水晶体を毛様体へつなぐ毛様小帯は、眼球の外側と内側の別の連絡です。強膜と角膜の移行部を角膜輪部、前後を分ける周の基準を眼球の赤道として読み、直筋の前方停止と斜筋の後方停止を対応させます。
16. 房水の区画と硝子体側の空間
角膜と虹彩の間が前房、虹彩と水晶体の間が後房です。水晶体より後方の大きな区画は硝子体を含み、後房そのものではありません。前後二つの房は眼球前方側にある別の小区画です。虹彩中央の瞳孔という開口、水晶体という組織、硝子体という内容を別にし、房水産生や視覚の全機能は既存教材を参照します。
17. 視神経の眼球側の出口と眼窩内の通路
視神経乳頭は通常、眼底で中心窩より鼻側にあり、網膜の神経節細胞の軸索が集まり眼球の後方へ出る領域です。眼窩内の視神経は眼球から尖端の視神経管へ続き、筋円錐内で筋の停止とは別の通路をとります。中心窩と視神経乳頭を同じ場所にせず、乳頭から出る線維を外眼筋の腱とはしません。視交叉以後の全回路はこの局所の図へまとめません。
眼球の区画:前から後へ
18. 眼動脈と網膜・毛様体側の枝を分ける
眼動脈は通常、内頸動脈系から出て、視神経管を通り眼窩へ入ります。網膜中心動脈は視神経側を通り、網膜の内側の層への供給に関わります。後毛様体動脈の枝は眼球後方側から入り、脈絡膜などへの供給に関わります。網膜外側の視細胞側と脈絡膜の関係を、網膜中心動脈が全眼球を単独で養うことへ広げません。前毛様体の小枝や全変異は別に残します。
19. 眼静脈は動脈の枝でなく帰還の通路
上眼静脈は通常、上眼窩裂を通って海綿静脈洞側へ向かいます。下眼静脈には上眼静脈や海綿静脈洞側への連絡、下眼窩裂を介した翼突静脈叢側への連絡などがあり、出口には変異があります。左右の眼静脈を眼窩内で一つに合流させず、動脈の流入と静脈の帰還を別の矢印で追います。全交通枝や疾患の伝播はこの範囲から断定しません。
20. 表面の保護と内部の平滑筋を分ける
結膜は眼瞼内面から眼球前方の強膜側へ反転しますが、透明な角膜の表面を同じ結膜の続きで覆うわけではありません。外眼筋は眼窩内で強膜へ腱を付ける骨格筋で、毛様体筋や瞳孔の括約・散大の平滑筋とは場所も作用も異なります。上眼瞼挙筋と上瞼板筋の区別も保ちます。涙器の全経路と平滑筋の全調節は別の学習範囲です。
眼窩の通路:情報と血流
21. 眼球・眼窩・筋の関係を限定してまとめる
壁と孔、腱と神経、動脈の枝と静脈の出口、眼球と眼瞼を別の関係として読むことが、この正常局所のまとまりです。七筋の起始・停止・作用・支配を教示しますが、左右や筋頭を独立した本体へ増やすことはしません。眼位、細枝、涙器、平滑筋、変異や全視路の範囲は別に残し、処置・臨床検査・疾患診断をこの模式から定めません。
用語を確かめる
- 眼窩
- 眼球と周囲の筋・神経血管などを収める骨性の空間。
- 鼻側・耳側
- 本人の鼻へ近い側と外側の耳へ近い側。
- 眼窩尖端
- 眼窩の後方で狭くなる部分。
- 前頭骨・蝶形骨
- 頭蓋の骨で眼窩の上壁などに関わる。
- 頬骨・上顎骨
- 眼窩の外側・底などをつくる顔面の骨。
- 涙骨・篩骨・口蓋骨
- 眼窩の内側や底の一部などへ関わる骨。
- 視神経管
- 視神経と通常の眼動脈の通路。
- 上眼窩裂
- 眼窩後方で複数の神経や静脈が通る裂隙。
- 下眼窩裂
- 眼窩の下方外側の通路となる裂隙。
- 共通腱輪
- 眼窩尖端付近の四直筋の起始に関わる腱の輪。
- 筋円錐
- 四直筋の間で囲まれる領域のまとまり。
- 強膜
- 眼球壁外側の丈夫な線維性組織。
- 眼球の赤道
- 眼球の前後を読むための周の基準。
- 起始・停止
- 筋の付着の二端。神経の起点や管の開口とは別。
- 内側直筋
- 眼球の鼻側に沿う直筋。
- 外側直筋
- 眼球の耳側に沿う直筋。
- 上直筋
- 眼球の上側に沿う直筋。
- 下直筋
- 眼球の下側に沿う直筋。
- 上斜筋
- 滑車を経て眼球後方の強膜へ腱が届く筋。
- 下斜筋
- 眼窩底前内側から後方外側へ走る筋。
- 滑車
- 上斜筋の腱の向きを変える前内側上方の構造。
- 上眼瞼挙筋
- 眼窩内から上眼瞼へ届く骨格筋。
- 腱膜
- 腱が広がった膜状の連絡。
- 上瞼板
- 上眼瞼を支える密な結合組織の板。
- 内転・外転
- 視線が鼻側または耳側へ向く運動。
- 上転・下転
- 視線が上方または下方へ向く運動。
- 内旋・外旋
- 上極が鼻側または耳側へ寄る、視線軸の周りの回転。
- 眼位
- 眼球が向いている位置。
- 動眼神経上枝・下枝
- 上直筋と挙筋、他の三筋などへ向かう別の枝。
- 滑車神経・外転神経
- 通常は上斜筋と外側直筋の運動支配へ向かう別の脳神経。
- 眼神経
- 三叉神経の感覚の部門。外眼筋の運動支配と別。
- 角膜輪部
- 角膜と強膜の移行部。
- 脈絡膜・毛様体・虹彩
- 眼球壁の中間の層に関わる構造。
- 網膜
- 眼球壁の内側の神経組織。
- 毛様小帯
- 毛様体側から水晶体へ連絡する線維。
- 前房・後房
- 角膜と虹彩の間、虹彩と水晶体の間の別の空間。
- 硝子体
- 水晶体より後方の大きな区画にある透明な内容。
- 視神経乳頭
- 網膜の出力線維が集まり眼球から出る領域。
- 中心窩
- 網膜中央部の小さなくぼみ。通常、乳頭より耳側。
- 網膜中心動脈
- 視神経側を通り網膜内側の層へ供給する動脈。
- 後毛様体動脈
- 眼球後方側から脈絡膜などへ向かう動脈の枝。
- 眼静脈・海綿静脈洞
- 眼窩からの静脈帰還と頭蓋内の出口側の関係。
- 翼突静脈叢
- 頭蓋外の翼突筋付近の静脈の網。
- 結膜
- 眼瞼内面から眼球前方の強膜側へ反転する表面の膜。
- 平滑筋と骨格筋
- 眼内の毛様体・虹彩側と、眼窩内の七筋などで区別する筋組織。