前腕の筋・区画と神経血管

本文の目次

  1. 前腕を二骨と区画で読む
  2. 関節と骨の目印を結ぶ
  3. 手首を曲げる二つの側
  4. 長掌筋と円回内筋は行き先が違う
  5. 浅指屈筋と中間層
  6. 深指屈筋は末節骨まで続く
  7. 母指の屈筋と遠位の回内筋
  8. 肘を曲げる外側の筋
  9. 手首を伸ばす三筋を停止で分ける
  10. 指背腱膜と小さい肘筋
  11. 回外筋を神経の通路として見る
  12. 母指へ向かう三つの後面筋
  13. 示指へ加わる深い伸筋
  14. 正中神経から前骨間神経へ
  15. 尺骨神経は内側上顆の後ろから前側へ
  16. 橈骨神経の浅枝・深枝を分ける
  17. 上腕動脈から橈骨・尺骨の二経路へ
  18. 表在静脈と深静脈は層が異なる
  19. 手関節で腱を押さえる支帯
  20. 筋から腱、そして止まる骨へ

1. 前腕を二骨と区画で読む

前腕は肘から手関節までで、母指側に橈骨、小指側に尺骨があります。二骨の間に張る骨間膜は骨をつなぎ、筋の付着にも関わります。筋膜と骨・骨間膜で囲まれた前側には屈筋・回内筋、後外側には伸筋・回外筋がまとまります。外側の腕橈骨筋のように、区画の名前だけでは主作用を決められない筋もあります。図で左右を読む前に、前面か後面か、母指側か小指側かを確かめます。

2. 関節と骨の目印を結ぶ

上腕骨の内側上顆は前側の浅い筋群の共通する起始の一つ、外側上顆は多くの伸筋の起始の一つです。外側上顆上稜は上顆そのものより近位に続く稜線で、腕橈骨筋と長橈側手根伸筋が起こります。尺骨の鉤状突起は肘の前側、肘頭は後側、橈骨・尺骨の茎状突起は遠位の目印です。起始・停止は付着を整理する呼び名で、動作中に起始側が必ず動かないという意味ではありません。

3. 手首を曲げる二つの側

橈側手根屈筋は内側上顆から第2中手骨底を主に橈側へ向かい、手関節の屈曲と橈屈をつくります。尺側手根屈筋は内側上顆と尺骨近位側から豆状骨へ止まり、そこから靱帯を介して有鈎骨の鈎・第5中手骨底へ力が伝わります。作用は屈曲と尺屈です。前者は正中神経、後者は尺骨神経で、同じ浅い屈筋群でも神経が異なります。橈屈は手を母指側へ、尺屈は小指側へ傾ける手関節の運動です。

4. 長掌筋と円回内筋は行き先が違う

長掌筋は内側上顆から細長い腱になり、屈筋支帯と手掌腱膜へつながります。手関節屈曲を補助するとともに手掌腱膜を張り、個体によって欠損することがあります。円回内筋は上腕骨側と尺骨鉤状突起側の二頭から橈骨中央外側へ止まり、前腕を回内します。両筋は正中神経の支配ですが、長掌筋の腱の行き先を円回内筋の橈骨付着と同じにしません。

5. 浅指屈筋と中間層

浅指屈筋は浅い四筋の深側にまとまる中間層の筋です。上腕骨・尺骨側と橈骨側から起こり、第2〜5指の中節骨へ止まります。正中神経に支配され、近位指節間関節を曲げます。手関節や中手指節関節の屈曲も補助します。一本ずつの腱が指で二つに分かれ、その間を深指屈筋腱が通ります。浅い・深いという名称を、指の近位・遠位という別の位置関係に結びます。

前面の浅層と中間層

橈骨側へ向かう橈側手根屈筋、中央の長掌筋、尺骨側の尺側手根屈筋、近位を横切る円回内筋。中間層の浅指屈筋は中央の露出部。
右前腕前面の配置を模式化。浅層四筋と、その深側の浅指屈筋を示す。図は全腱や全起始を描かず、正確な付着は本文と筋の比較表で読む。色の違いだけに頼らず、名と指示線で位置を結ぶ。

6. 深指屈筋は末節骨まで続く

深指屈筋は尺骨前内側の近位部と骨間膜から起こり、浅指屈筋より深いところを下ります。第2〜5指の末節骨に止まるので、遠位指節間関節を曲げることができます。典型的に第2・3指へ向かう側は正中神経の枝である前骨間神経、第4・5指側は尺骨神経の支配です。分担には変異があり、一本の神経がこの筋の全てを支配すると固定しません。

7. 母指の屈筋と遠位の回内筋

長母指屈筋は橈骨前面と骨間膜から母指末節骨へ続き、母指の指節間関節を曲げます。方形回内筋は遠位の尺骨前面から橈骨前面へ横に渡り、前腕の回内と遠位橈尺関節の安定に関わります。どちらも前骨間神経の支配です。一方は母指へ続く長い腱、他方は二骨をつなぐ遠位の筋で、同じ神経の枝に属しても付着と作用は異なります。

前面の深い三筋

橈骨側の長母指屈筋、尺骨側の深指屈筋、遠位を横につなぐ方形回内筋。手と指での停止は省略。
浅層と中間層を省き、長母指屈筋・深指屈筋と方形回内筋の深い位置を示す。下へ続く腱の停止先は母指・指の末節骨で、図では手を省略する。方形回内筋は遠位の二骨を横につなぐ。

8. 肘を曲げる外側の筋

腕橈骨筋は上腕骨の外側上顆上稜から橈骨遠位外側の茎状突起近くへ止まり、主に肘を曲げます。前腕が回内と回外の中間にあると、その働きを捉えやすくなります。手関節を越えて中手骨へ止まる筋ではありません。橈骨神経の筋枝に支配されます。既に学んだ上腕二頭筋・上腕筋と肘屈曲で協働しますが、肘の屈筋が全て筋皮神経とはいえません。

9. 手首を伸ばす三筋を停止で分ける

長橈側手根伸筋は外側上顆上稜から第2中手骨底の背側、短橈側手根伸筋は外側上顆から第3中手骨底の背側へ止まります。ともに伸展と橈屈に関わります。尺側手根伸筋は外側上顆と尺骨後縁から第5中手骨底の背側へ止まり、伸展と尺屈に関わります。長橈側手根伸筋は橈骨神経の筋枝、短橈側手根伸筋は典型的に深枝、尺側手根伸筋は後骨間神経です。枝の出る位置の変異を、全て同じ分枝点という規則へ置き換えません。

10. 指背腱膜と小さい肘筋

総指伸筋は外側上顆から第2〜5指の指背腱膜へ続き、小指伸筋は第5指の指背腱膜へ加わります。指背腱膜は指の背側で力を分けて伝える腱の広がりで、中節骨・末節骨への連絡を持ちます。両筋は後骨間神経に支配され、指の伸展に関わります。肘筋は外側上顆から肘頭外側と尺骨近位後面へ止まる小さい筋で、橈骨神経の筋枝に支配され肘伸展を補助します。同じ後外側でも、指の腱と肘の局所筋を分けます。

11. 回外筋を神経の通路として見る

回外筋は外側上顆や肘関節周囲の靱帯、尺骨回外筋稜から橈骨近位部の周囲へ止まり、前腕を回外します。橈骨神経の深枝はこの筋内を通って後面へ出ます。そこから続く枝を後骨間神経としてたどります。回外筋自体への支配は深枝として整理します。上腕二頭筋にも回外作用があるため、回外筋一つが回外の全てを担うわけではありません。

12. 母指へ向かう三つの後面筋

長母指外転筋は橈骨・尺骨後面と骨間膜から第1中手骨底へ止まり、母指の手根中手関節で外転・伸展に関わります。短母指伸筋は橈骨後面と骨間膜から母指基節骨底、長母指伸筋は尺骨後面と骨間膜から母指末節骨底へ止まります。長母指伸筋の腱は橈骨遠位の背側結節を回って母指へ向きを変えます。三筋とも後骨間神経で、短・長という名前だけで同じ骨の同じ節へ止まるとは読みません。

13. 示指へ加わる深い伸筋

示指伸筋は尺骨後面の遠位部と骨間膜から起こり、総指伸筋の示指へ向かう腱とともに第2指の指背腱膜へ続きます。後骨間神経に支配され、示指の伸展を補助します。母指の三筋とともに深層から手へ腱が続く筋ですが、止まるのは第2指です。手の中だけで起こる内在筋とは区別します。

後外側の筋の配置

右前腕後面の橈骨側の腕橈骨筋と橈側手根伸筋、中央の総指伸筋、尺側の尺側手根伸筋。全部の筋を露出した図ではない。
後面では橈骨側が図の右、尺骨側が左になる。外側の腕橈骨筋と橈側手根伸筋、中央の総指伸筋、尺側の尺側手根伸筋の位置を示す。小指伸筋・肘筋・深層五筋と全停止は本文/比較表で確認する。

14. 正中神経から前骨間神経へ

正中神経は肘窩で上腕動脈の内側に位置し、典型的に円回内筋の二頭の間から浅指屈筋の深側へ進みます。前腕では浅指屈筋と深指屈筋の間を下る幹をたどれます。その枝である前骨間神経は骨間膜の前側を下り、長母指屈筋・深指屈筋の橈側部分・方形回内筋を支配します。幹と枝の名前、筋の通路と各筋への分枝は別です。前骨間神経を前腕の皮膚全体へ向かう枝とはしません。

15. 尺骨神経は内側上顆の後ろから前側へ

尺骨神経は肘で上腕骨内側上顆の後ろを通り、典型的に尺側手根屈筋の二頭の間から前腕へ入ります。尺側手根屈筋と深指屈筋の尺側部分に筋枝を出し、遠位では尺骨動脈と近接して手関節へ向かいます。正中神経とともに前側へ向かうことは、前側の全筋を共同で一律に支配するという意味ではありません。手内在筋や皮枝の全分布は、幹の前腕通路から分けて読むことができます。

正中・尺骨と前骨間枝

中央の正中神経から前骨間枝が分かれる。尺骨神経は内側上顆の後方を回って尺側を下る。下枠は前骨間/尺骨の典型的な筋支配。
正中神経は肘の前側から前腕を下り、前骨間神経が骨間膜前側へ続く。尺骨神経は内側上顆の後ろから前腕前側へ回る。各筋への細かな分枝と皮枝、血管を省略し、幹の通路と代表的な運動支配を分ける。

16. 橈骨神経の浅枝・深枝を分ける

橈骨神経は肘外側付近で浅枝と深枝へ分かれます。腕橈骨筋と長橈側手根伸筋への筋枝は、この幹側から出る代表です。浅枝は腕橈骨筋に覆われる前腕外側を下り、遠位で背側の皮膚へ向かう枝です。深枝は回外筋内を通って後骨間神経として後面へ続き、指・母指の伸筋群などを支配します。短橈側手根伸筋の枝の位置には変異があります。後面にある筋を全て後骨間神経一つへ割り当てません。

橈骨神経の幹と枝

橈骨神経幹から筋枝と浅枝・深枝。深枝が回外筋を通って後骨間神経へ、浅枝が背側皮膚へ続く。
代表的な筋枝、浅枝の皮膚へ向かう通路、深枝が回外筋を通って後骨間神経へ続く関係を分ける。これは分枝の関係図で、画面の左右は身体の橈側/尺側を表さない。短橈側手根伸筋の分枝位置には変異がある。

17. 上腕動脈から橈骨・尺骨の二経路へ

上腕動脈は腋窩動脈から続き、肘窩で代表的に橈骨動脈と尺骨動脈へ分かれます。橈骨動脈は母指側、尺骨動脈は小指側へ向かいます。尺骨動脈から出る総骨間動脈は前骨間動脈・後骨間動脈へ分かれ、骨間膜の前後の領域を養います。同じ前骨間という名前でも、動脈は血液の経路、神経は情報と筋支配の経路です。動脈の分岐と神経の分枝を一本の線にまとめません。

前腕の動脈の連続

上腕から橈骨・尺骨への二分岐。尺骨側から総骨間、前骨間・後骨間への二分岐。
上腕動脈から橈骨・尺骨動脈へ、尺骨動脈から総骨間動脈、さらに前・後骨間動脈へ続く典型的な分岐の関係図。表示の左右を解剖学的な深さ・流量の割合とはしない。細かな側副枝・変異・手掌動脈弓を省略する。

18. 表在静脈と深静脈は層が異なる

皮下を上がる表在静脈には橈側寄りの橈側皮静脈と尺側寄りの尺側皮静脈があり、肘窩の浅いところで肘正中皮静脈などによる連絡がみられます。連絡の形には変異があります。深静脈は筋膜より深いところで橈骨・尺骨動脈などに伴って走り、複数の伴行静脈が互いに連絡します。皮下の静脈をそのまま同名動脈の伴行静脈とは読みません。静脈血はより近位の上腕・腋窩側へ戻ります。

静脈を層で区別する

皮下の二本の表在静脈が肘で連絡する。下の筋膜内に一つの動脈と二つの伴行静脈があり、皮下の静脈とは層が異なる。
上段は皮下の橈側・尺側皮静脈と肘部の連絡を示す模式図。下段は筋膜より深い動脈と複数の伴行静脈の関係だけを示す横断模式で、全筋の断面配置は描かない。表在の連絡の形は一例で、全成人に同じ形を固定しない。

19. 手関節で腱を押さえる支帯

手関節の掌側には屈筋支帯、背側には伸筋支帯があり、腱が骨の近くを通る位置を保ちます。手根管には正中神経と浅指屈筋4腱・深指屈筋4腱・長母指屈筋1腱が通ります。橈側手根屈筋腱は別の通路、長掌筋腱は支帯の浅側です。尺側手根屈筋腱は豆状骨へ止まり、尺骨神経・動脈は手根管の中へまとめません。支帯とその下の通路を全て同じ管としないことが、前腕から手への連続を読む手掛かりです。

20. 筋から腱、そして止まる骨へ

浅指屈筋は中節骨、深指屈筋は末節骨へ止まるため、指の二つの指節間関節への働きが異なります。母指では長母指外転筋は第1中手骨、短母指伸筋は基節骨、長母指伸筋・長母指屈筋は末節骨へ続きます。これらの停止と関節を結ぶと、同じ母指へ向かう腱にも異なる役割があることが分かります。指背腱膜への力の分配には手内在筋も関わるので、前腕の筋だけで指の全運動を説明しません。

指での二つの屈筋腱

三つの指骨。浅指屈筋腱は二手に分かれ中節骨の両側へ付着し、深指屈筋腱は分岐の奥から中央を通って末節骨底へ付着する。
第2〜5指の一指を模式化。浅指屈筋腱が分かれて中節骨へ止まり、深指屈筋腱がその奥から間を通って末節骨底へ止まる。近位の前腕や他の腱、関節包は省略する。白い縁のある交差は二つの腱の前後関係を示し、腱の合体を表さない。

用語を確かめる

橈側・尺側
前腕と手の橈側は母指側、尺側は小指側。観察画面の右左とは分ける。
区画
筋膜・骨などで囲まれ、筋群や神経血管の位置を整理する領域。
骨間膜
橈骨と尺骨の間に張る結合組織の膜。二骨をつなぎ筋の付着にもなる。
内側上顆・外側上顆
上腕骨遠位の内側・外側にある突出。筋が起こる目印となる。
外側上顆上稜
外側上顆から近位へ続く上腕骨の稜線。上顆そのものとは分ける。
鉤状突起
尺骨近位の前方へ出る突起。肘の前側の目印。
肘頭
尺骨近位の後方へ出る突出。肘後面の目印。
茎状突起
橈骨・尺骨の遠位にある先の細い突出。
橈屈・尺屈
手関節で手を母指側へ傾ける橈屈と、小指側へ傾ける尺屈。
手掌腱膜
手掌で広がる丈夫な結合組織。長掌筋の腱などがつながる。
屈筋支帯・伸筋支帯
手関節の掌側・背側で腱の位置を保つ、帯状の結合組織。
中手骨底
中手骨の手関節寄りの端。指先側の骨頭とは異なる。
基節骨・中節骨・末節骨
第2〜5指の近位から順にある三つの指骨。母指は基節骨と末節骨で、中節骨がない。
中手指節関節
中手骨と基節骨の間の関節。
近位・遠位指節間関節
第2〜5指の基節骨と中節骨の間が近位指節間関節、中節骨と末節骨の間が遠位指節間関節。
母指の指節間関節
母指の基節骨と末節骨の間の関節。
指背腱膜
指の背側に広がり、腱や筋の力を指骨へ分けて伝える構造。
遠位橈尺関節
橈骨と尺骨の遠位部の間の関節。前腕の回内・回外に関わる。
筋頭
一つの筋の起始側などで分かれる部分。別の筋という意味ではない。
前骨間神経
正中神経から分かれ、骨間膜前側を下り深い筋を支配する枝。
後骨間神経
橈骨神経の深枝が回外筋を通った先で後面へ続く神経。
神経幹と枝
幹は主となる通路、枝はそこから分かれる通路。分枝位置と筋支配を区別する。
肘窩
肘の前面にあるくぼみ。上腕動脈や正中神経などが通る。
総骨間動脈
典型的に尺骨動脈から出て、前・後骨間動脈へ分かれる動脈。
表在静脈・深静脈
表在静脈は皮下、深静脈は筋膜より深い領域を通る静脈。
伴行静脈
動脈に伴って走る静脈。四肢では複数の静脈が同じ動脈に伴うことがある。
手根管
屈筋支帯の深側と手根骨に囲まれる通路。正中神経と九本の屈筋腱が通る。
回内・回外
前腕の二骨の関係を変える運動。回内では橈骨が尺骨の前へ交差し、回外では二骨がほぼ平行になる。
背側結節
橈骨遠位背側の突出。長母指伸筋腱が向きを変える目印。
豆状骨
手関節の掌側・尺側にある小さい手根骨。尺側手根屈筋腱が直接付着する。
有鈎骨の鈎
有鈎骨という手根骨の掌側へ出る突起。
手根中手関節
手根骨と中手骨の間の関節。母指では母指の根元の動きに関わる。
尺骨回外筋稜
尺骨近位の外側にあり、回外筋が起こる稜線。
中間位
ここでは前腕の回内と回外の中間の向き。
手内在筋
起始・停止を主に手の中に持つ筋。前腕から腱が続く外在筋とは分ける。
橈側皮静脈・尺側皮静脈
前腕の橈側寄り・尺側寄りの皮下を上がる代表的な表在静脈。
肘正中皮静脈
肘窩の皮下で橈側皮静脈と尺側皮静脈をつなぐ代表的な静脈。連絡の形には変異がある。