検査の結果を測る対象・基準・確率から理解する基盤

本文の目次

  1. 何を知りたいかで、測る対象が変わる
  2. 身体から、試料や信号を経て結果へ
  3. 取り出した後にも、試料は変わり得る
  4. 測る段階と、意味を考える段階
  5. 値が揃うことと、基準へ近いこと
  6. 変化を比べるとき、条件も並べる
  7. 血液のどの成分を試料にしたか
  8. 個数、質量、体積割合は別の量
  9. 成分の量と、細胞や組織の形
  10. 心臓の電気活動を、時間に沿って記録する
  11. 空気の体積と、動く速さを分ける
  12. X線が通った経路を、一枚の画像へ
  13. 異なる方向の測定から、断面へ
  14. 戻る音と、原子核からの信号
  15. 像の特徴を、方法と観察対象へ戻す
  16. 個人値の分布から作る基準範囲
  17. 個人の基準範囲と平均の信頼区間
  18. 基準集団と測り方をそろえる
  19. 判断の目的で決めるカットオフ
  20. 同じ人の結果を時間で比べる
  21. 対象状態と検査結果の四区分
  22. 性能を確かめた条件を保つ
  23. 感度と特異度は状態側を分母にする
  24. カットオフと陽性に入る範囲
  25. 予測値は結果側を分母にする
  26. 検査前の割合が陽性群の内訳を変える
  27. 尤度比は二つの状態群で結果を比べる
  28. 検査前のオッズから検査後へ

1. 何を知りたいかで、測る対象が変わる

検査は、身体の状態に関する問いに答えるため、検体や身体の信号などから情報を得る過程です。症状が明らかでない人などを対象に、ある状態の可能性を見つけて詳しい評価へつなぐ目的をスクリーニングといいます。ほかにも、原因や状態を判断するための情報を得る目的や、経過を追う目的があります。同じ測定でも、一時点で状態を調べるのか、条件を合わせた複数時点で変化を見るのかでは問いが違います。たとえば血液中の物質の濃度を測るなら、何の物質を、どの試料から、いつ測るかが必要です。スクリーニングで対象となった結果は、詳しく確かめるための情報であり、その結果だけで原因まで確定するものではありません。

2. 身体から、試料や信号を経て結果へ

検体は、調べるために身体から取り出した血液や尿、組織などです。身体内の物質の状態が検体の成分へ関わり、その成分を測定して値を得る、という段階を分けられます。身体を取り出さずに電気活動などの信号を記録する方法もあります。信号とは、情報を得るために捉える物理的な変化です。いずれも、身体の状態そのものと、測る対象、装置が得た記録は同じ段階ではありません。血液中の濃度が変わったという結果には、物質の量だけでなく液の体積や試料の変化も関わり得ます。どの段階の情報を得たのかを保つと、一つの値を身体全体の状態と一対一に置き換えずに考えられます。

3. 取り出した後にも、試料は変わり得る

測定に先立つ採取や保持、移送などの過程を前分析と呼びます。採取する部位や時点はどんな試料が得られるかに関わり、取り出した後の条件も試料の状態へ関わります。代表例は、赤血球が壊れて中の成分が周囲の液へ出る溶血です。身体から取り出した血液の中で溶血が起きれば、液側で測る成分には、もともとそこにあった分に赤血球から出た分が加わることがあります。これは、採取前に身体内で起きた変化とは別です。測定した液の値が高いという記録だけでは、身体内の液で増えていたのか、取り出した後に試料が変わったのかを分けられません。試料ができた過程の情報が結果の意味を支えます。

4. 測る段階と、意味を考える段階

試料や信号を測定する段階を分析と呼びます。得られた結果を、測った対象や目的、身体の情報に合わせて意味づける段階が解釈です。前分析、分析、解釈を分けると、結果の違いがどこから生じたかを整理できます。検体の中で成分が変わる場合と、同じ試料を測る装置に一定のずれがある場合とでは、違いが生じる段階が異なります。報告された数字を読むときには、試料の種類、測定対象、単位、方法、時点を合わせます。同じ名前の項目でも、異なる試料や方法の値をそのまま同じ意味として比べられるとは限りません。

身体から試料・測定・報告へ

身体内の血液から採取した血液へ進む。保持後に試料内で赤血球が壊れた場合、成分が液へ出る。液側の測定と報告は別段階であり、採取前の身体内変化と取り出した後の変化を分ける。
身体内の血液を採取して試料にし、液側の成分を測定して報告します。取り出した血液内で溶血が起きた場合には、赤血球から液側へ成分が出る変化が加わります。採取前の身体内変化と、採取後の試料変化は別の段階です。

5. 値が揃うことと、基準へ近いこと

同じ対象を同じ条件で繰り返し測った値が互いに近いことを、精密さといいます。正確さは、測定値が真の値や適切な基準となる値へどれほど近いかに関わる性質です。ばらつきが小さくても、全ての値が基準より一定方向へずれているなら、その基準に近い測定とはいえません。たとえば基準値10の試料を12.0、12.1、11.9と測れば、値同士は揃っていても基準からずれています。繰り返した値の平均で偶然の変動の影響が小さくなっても、共通する一定のずれはそれだけでは除けません。反復の揃い方と、基準との位置関係を別々に確かめます。

6. 変化を比べるとき、条件も並べる

前後の結果の差を理解するには、同じ物質や信号を、比較できる単位や方法で測ったかを確かめます。身体の時間変化だけでなく、採取部位、試料の種類、取り出した後の状態、装置や測定条件の違いも値に関わります。時点と条件を揃えた記録は、身体で起きた変化を考えるための土台です。条件が食い違っていたら、その違いも結果と一緒に残します。数字の大小だけを見て原因を決めるより、何をどの条件で得た値なのかへ戻すと、比較してよい情報と、追加で確かめたい情報が分かれます。

7. 血液のどの成分を試料にしたか

血球と液体成分を含む血液を全血と呼びます。凝固を防いだ血液から血球を分離すると、液体成分の血漿が得られます。血液を凝固させ、できた血餅を除いた後の液体が血清です。血餅は、凝固によってできる固まりです。凝固ではフィブリノゲンからフィブリンができるなど成分の状態が変わるため、血漿と血清は同じ液の別名ではありません。血清にもアルブミンなどのタンパク質は残ります。全血、血漿、血清という試料の区別は、血球を含むか、凝固を経たかという過程と、何を測れるかに結び付きます。

全血から血漿・血清へ

同じ全血の容器から二方向へ分かれる。左は凝固を防いだ液体と血球を分離して血漿へ、右は網と細胞の血餅を作り、血餅を除いて血清へ。左右の最終液体区画の両方にタンパク質を描き、血漿にはフィブリノゲンの模式形を含む。
同じ全血でも、凝固を防いで血球を分離すると血漿、凝固させて血餅を除くと血清が得られます。凝固によってフィブリノゲンなどの成分の状態が変わるため、両者は同じ組成ではありません。血清にもアルブミンなどのタンパク質は残ります。示す成分は一部で、高さや個数は成分量の比率ではありません。

8. 個数、質量、体積割合は別の量

赤血球の個数密度は、血液の一定体積あたりにいくつ赤血球があるかを表します。Hb濃度は、一定体積あたりのヘモグロビンの質量です。ヘマトクリットは、血液全体の体積に対して赤血球が占める体積の割合です。個数、質量、体積では分子が違い、割合と濃度から身体全体の総量がそのまま決まるわけではありません。尿でも、物質の濃度、尿の体積、ある期間に出た物質の量は異なります。同じ期間の均一な尿で、濃度が質量を体積で割った値なら、濃度と尿体積の積がその期間の物質量になります。薄い尿でも体積が多ければ、出た物質量が少ないとは限りません。

個数・質量・体積割合の分母

縦に三つの分数枠があり、同じ分母である全血体積に対し、分子は赤血球体積、赤血球個数、Hb質量と直接記す。
ヘマトクリットは赤血球体積/全血体積で、百分率では100を掛ける。赤血球数は単位全血体積当たりの個数、Hb濃度は単位全血体積当たりのHb質量。分母は血液体積でも、分子の対象と量の種類が違う。白血球・血小板の体積はHctの分子へ含めない。

9. 成分の量と、細胞や組織の形

検体中の物質があるか、どれほどあるかを調べることと、細胞や組織の形を観察することでは得る情報が違います。顕微鏡は、小さな対象を拡大して観察する器具です。細胞の形や、細胞が組織の中でどう並ぶかを観察すれば、量だけの測定には含まれない構造の情報が得られます。一方、ある物質の濃度を測った値は、その試料中の量についての情報です。どちらも採取された部位や時点、対象に結び付きます。一部分を取った試料の特徴は、その部分についての情報であり、取らなかった全ての部位まで同じと確かめた記録にはなりません。

10. 心臓の電気活動を、時間に沿って記録する

心電図は、体表などで得る電位差の時間変化から心臓の電気活動を記録するものです。電位差は、二つの場所の電気的な状態の差です。電気活動は心筋の収縮へつながりますが、電気の記録と、心臓から実際に出た血液量や動脈の脈の記録は異なる段階です。電気活動が記録されたことだけで、駆出量まで測れたことにはなりません。どの部位間で、どの時点に、どんな信号条件で記録したかも、波形の見え方へ関わります。身体の動きなどによる記録への影響も、心臓内の変化と区別して考えます。

電位差を時間に沿って記録する

心臓の電気活動に関わる二つの体表部位から電位差を得て、時間に沿う仮想波形へ記録する。波形の縦軸は電位差、横軸は時間で、駆出量を示す図ではない。
心臓の電気活動に関わる体表などの二つの部位から、電位差の時間変化を記録します。示した波形は仮想の形で、駆出量や血液流量の測定値ではありません。

11. 空気の体積と、動く速さを分ける

換気は、空気が肺へ入り、肺から出ることです。呼吸機能を記録する方法では、出入りする空気の体積や、その時間経過を調べられます。流量は、単位時間あたりに動く体積で、体積を表す量とは単位も意味も違います。同じ体積が出ても、短い時間に出た場合と長い時間をかけた場合では流量が違い得ます。これらは空気の移動についての情報です。Hbの酸素結合割合、血液の酸素含量、組織へ運ばれる酸素量は、その後の別の段階に関わります。空気の体積や流量の記録だけで、Hbの量や全ての酸素運搬を測ったことにはなりません。

12. X線が通った経路を、一枚の画像へ

X線は電磁波の一種です。電磁波は、光やX線などのように空間を伝わる波です。身体を通る間に吸収や散乱によって、進む方向のX線が弱くなることを減弱といいます。通った経路の組織や厚さによる減弱の違いが、検出器へ届く量の違いになり、画像情報へ関わります。投影画像では、X線が通った経路上の構造が重なって一枚の像になります。たとえば手前と奥にある構造も、同じ経路なら画像上で重なり得ます。濃淡は、経路と信号ができた条件に結び付く情報です。濃淡一つだけを一つの病名へ置き換えるのではなく、部位や撮影方向と合わせて読みます。

13. 異なる方向の測定から、断面へ

CTは、X線を用いて異なる方向から測った情報をもとに、身体の断面を再構成する方法です。断面は、対象をある面で切ったと考えたときの内部の広がりです。再構成は、複数の測定情報から画像などの形へ組み立てることをいいます。投影画像では経路上の構造が重なりますが、CTの断面情報では、その面の中で構造がどう位置するかを区別しやすくなります。元になるのはX線の減弱の情報であり、断面像が得られたことと、その器官の全ての機能や変化の原因が分かったことは別です。どの断面を、どの時点の条件で得たかを保ちます。

X線の投影とCTの断面

上段は同じX線の経路に二つの構造が並び、経路全体の減弱が投影像へ関わる。下段は異なる方向からのX線測定をもとに断面を再構成し、面内の二つの構造の位置を示す。
同じX線の経路上にある構造の減弱は、投影像では重なって関わります。CTは異なる方向から測った減弱の情報を用いて断面を再構成し、面内での構造の位置を表します。模式的な構造と経路であり、病名や個人の画像を表すものではありません。

14. 戻る音と、原子核からの信号

超音波は、人の耳では通常聞こえない高い周波数の音です。周波数は、1秒あたりの振動の回数です。身体へ伝わった音の一部は、組織の境界などで反射して戻ります。その戻るまでの時間や強さなどを用いて画像を作ります。MRIは、磁場と電磁波を用いて、主に身体の水素原子核から得る信号を画像にする方法です。磁場は、磁力が働く空間です。水素原子核は、水や脂肪などの成分に含まれる水素の原子の中心部分です。超音波の戻る音、MRIの原子核からの信号、X線の透過・減弱では、情報を生む過程が違います。どれも構造を調べる情報になりますが、同じ信号の写真の別名ではありません。

戻る音と水素原子核の信号

超音波は送った音が組織境界で反射して戻り、その時間や強さから画像を得る。MRIは磁場と電磁波を用い、水や脂肪などに含まれる水素原子核から得る信号を画像へ結ぶ。Hは水素原子核を表す。
超音波は組織境界などで反射して戻る音の時間や強さを画像へ結びます。MRIは磁場と電磁波を用い、主に水素原子核から得る信号を画像にします。信号の生じ方が異なります。

15. 像の特徴を、方法と観察対象へ戻す

画像の形や信号の違いを比べるときは、身体のどの部位を、どの断面や方向から、どの方法で、いつ記録したかを合わせます。投影の重なりと断面内の位置、反射した音と原子核からの信号では、見ている情報が違います。同じ部位でも、方法や条件が違えば見え方は違い得ます。構造の形が観察されたことは、その形についての情報です。それだけで器官の全ての働きや原因が確定したとはいえません。何が信号を生み、何が観察できたかを分けると、異なる方法の情報を役割に応じて合わせられます。

16. 個人値の分布から作る基準範囲

基準集団は、年齢や健康状態など、定めた条件に合う人を選んだ集団です。その人たちの個々の測定値から、比較の目安となる基準範囲を作ります。代表的な方法では、値を小さい順に並べ、下側2.5%と上側2.5%を除いた中央95%の区間を使います。この作り方では、基準集団にも両端の範囲外となる値があります。区間は値の分布を要約するもので、疾患の有無を直接区分したものではありません。したがって、範囲外というだけで疾患が確定するわけでも、範囲内というだけで疾患がないと保証されるわけでもありません。

17. 個人の基準範囲と平均の信頼区間

個人値の基準範囲が表すのは、条件を定めた集団の人々の値の広がりです。一方、平均の信頼区間は、標本から推定した母集団の平均についての不確実性を表します。頻度論の95%信頼区間では、同じ条件で標本を取り直して同じ方法で区間を作る過程を繰り返したとき、その約95%が固定された母平均を含むという意味です。標本を増やすと平均の推定が精密になることがありますが、それだけで個々の人の値のばらつきが小さくなるわけではありません。平均の狭い信頼区間を、個人値の95%が入る区間として使うことはできません。

18. 基準集団と測り方をそろえる

同じ成分名でも、年齢などの基準集団の条件が違えば、個々の値の分布が違うことがあります。試料の種類、測定方法、単位も、どの量をどのように表しているかへ関わります。結果を基準範囲と比べるときは、どの集団と方法に対して作られた範囲かを確かめ、同じ意味の量として比較します。単位の換算だけで、方法や集団の違いまで取り除けるとは限りません。ある集団の範囲を、条件の違う全ての人へ共通の境界として使うことはできません。

19. 判断の目的で決めるカットオフ

カットオフは、ある判断の目的で検査結果を区分する境界です。基準範囲の端が基準集団の値の分布から作られるのに対し、判断のカットオフには、結果が確かめたい状態とどのように関わるか、見落としや、状態がないのにあると判定することがどのような利益・不利益につながるかなどの検証が必要です。同じ測定でも、目的や対象が違えば判断に必要な根拠が違うことがあります。基準範囲の端を、そのまま診断や治療の境界へ置き換えることはできません。

個人値の基準範囲と平均の区間

上段の仮想40人の個人値は小さい順に並び、両端各1人を除いた中央38人が95%となる。中段は固定母平均に対し、標本を取り直すと推定平均と信頼区間が変わる。3区間の包含割合を95%の実績として示すものではない。下段のカットオフは別の判断目的による境界。
仮想40人の個人値から両端各1人を除いた中央38人が95%です。平均の信頼区間は、固定母平均を推定する不確実性を表し、上の個人値の広がりとは対象が異なります。表示した3区間の包含割合を95%の実績とするものではありません。判断のカットオフは分布の端とは別の目的と根拠を持ちます。

20. 同じ人の結果を時間で比べる

同じ人の二つの結果の差には、身体の状態の変化と、試料を採り測定する過程の違いが関わります。身体側には、時刻などに伴って普段から生じる個人内変動もあります。採取した試料や測定のばらつき、方法の変更も結果へ影響し得ます。経過を読むには、いつ、何を、どの条件で測ったかと、普段の状態を合わせて残します。値が変わったという事実だけでは、身体の変化と測定条件の変化のどちらが原因かは決まりません。集団の基準範囲や平均の信頼区間だけから、同じ人の変化の原因を一つに確定することもできません。

21. 対象状態と検査結果の四区分

確かめたい状態があるかどうかと、検査が陽性か陰性かは、別の二つの軸です。結果を二分するとき、定めた検出・判定条件を満たす結果を陽性、満たさない結果を陰性と呼びます。対象状態が既知の模型では、状態ありで陽性を真陽性、状態ありで陰性を偽陰性、状態なしで陽性を偽陽性、状態なしで陰性を真陰性と呼びます。例えば状態あり100例のうち陽性80例・陰性20例、状態なし100例のうち陽性10例・陰性90例なら、四区分は80、20、10、90例です。実際に対象状態が未確認の人を、結果が陰性だっただけで状態なしと決めることはできません。

22. 性能を確かめた条件を保つ

検査の性能を確かめるには、対象集団、確かめたい状態の定義、検査のカットオフ、状態の有無を比較する基準判定の方法をそろえて記録します。基準判定は、検査結果と比べるために対象状態を確かめる方法ですが、実際にはその方法にも限界があります。状態をまだ確認していない例は、確認した状態なしの例と区別して扱います。対象集団や判定方法の違いは、性能の数値にも関わり得ます。状態が既知と指定された人数模型の計算を、状態が未知の実際の人の確定診断へ置き換えません。

23. 感度と特異度は状態側を分母にする

感度は、状態ありの例のうち検査が陽性になる割合で、真陽性÷(真陽性+偽陰性)です。特異度は、状態なしの例のうち陰性になる割合で、真陰性÷(真陰性+偽陽性)です。前の四区分の例では、感度は80÷100=80%、特異度は90÷100=90%です。感度の分母は状態あり、特異度の分母は状態なしの例であり、陽性者や陰性者を集めた分母ではありません。状態あり又は状態なしの例が0なら、それを分母とする割合はこの人数記録から計算できません。

24. カットオフと陽性に入る範囲

同じ対象と測定値の分布を保ち、大きい値を陽性とする検査を考えます。カットオフを下げると、以前は陰性だった値の一部も陽性の範囲へ入り、以前の陽性は陽性のままです。状態ありの例では真陽性が減らず、感度は下がりません。状態なしの例でも陽性に入る例が増え得るため、真陰性は増えず、特異度は上がりません。境界の間に値がなければ割合は変わらないこともあります。この方向の比較は、同じ分布で大きい値を陽性とするという条件によるもので、全ての検査や別の集団へ無条件に当てはめるものではありません。

境界を下げたときの陽性範囲

同じ対象と測定値分布を二段に再掲し、大きい値を陽性とする境界だけを下げる。陽性範囲が広がり、元の陽性は残る。点は測定値の位置を示す仮想模型。
同じ対象と測定値分布を保ち、大きい値を陽性とする条件です。境界を下げると陽性範囲が広がり、元の陽性は陽性のままです。状態ありで真陽性は減らず、状態なしで真陰性は増えないため、感度は下がらず特異度は上がりません。点は位置関係を示す仮想値です。

25. 予測値は結果側を分母にする

陽性的中率は、検査陽性の例のうち状態ありである割合で、真陽性÷(真陽性+偽陽性)です。陰性的中率は、検査陰性の例のうち状態なしである割合で、真陰性÷(真陰性+偽陰性)です。前の例では、陽性的中率は80÷(80+10)=8/9、陰性的中率は90÷(90+20)=9/11です。感度・特異度が状態側を分母にするのに対し、予測値は結果側を分母にします。陽性又は陰性の例が0なら、その結果についての予測値はこの記録から計算できません。

状態側と結果側の分母

状態あり100例と状態なし100例の既知状態模型を、陽性と陰性で分ける。状態側の縦の分母から感度と特異度、結果側の横の分母から陽性・陰性的中率を読む。
対象状態が既知の本文の人数模型です。状態あり・なしの縦の集団を分母にするのが感度・特異度、陽性・陰性の横の集団を分母にするのが予測値です。実際の未確認例を陰性だけで状態なしへ入れることはできません。

26. 検査前の割合が陽性群の内訳を変える

検査前確率は、結果を知る前に対象状態がある確率で、指定集団の状態割合を用いる模型を考えます。感度80%・特異度90%が二集団で同じと指定され、各1000例の状態割合が50%と10%なら、前者は真陽性400・偽陽性50例、後者は真陽性80・偽陽性90例になります。陽性的中率は400/450と80/170であり、状態割合の低い集団では陽性群に占める偽陽性の寄与が相対的に大きくなります。感度が同じでも、陽性結果を知った後の状態確率は同じとは限りません。この比較には、感度・特異度を集団間で同じと扱えるという指定条件が必要です。

27. 尤度比は二つの状態群で結果を比べる

尤度比は、同じ結果が状態あり群で生じる割合を、状態なし群で生じる割合で割った比です。陽性尤度比は感度÷(1−特異度)、陰性尤度比は(1−感度)÷特異度です。感度80%・特異度90%の例なら、陽性尤度比は0.8÷0.1=8、陰性尤度比は0.2÷0.9=2/9です。前者は陽性が状態あり群で8倍生じやすいこと、後者は陰性が状態あり群で状態なし群の2/9の割合で生じることを表します。比は状態の確率そのものではありません。ここでは感度・特異度がともに0と1の間の模型を使います。

28. 検査前のオッズから検査後へ

確率pが0より大きく1より小さいとき、オッズはp÷(1−p)で、状態ありの確率を状態なしの確率で割ったものです。結果に対応する尤度比を使える条件では、検査後オッズ=検査前オッズ×尤度比となり、検査後確率は検査後オッズ÷(1+検査後オッズ)へ戻せます。検査前確率10%で陽性尤度比8の例なら、検査前オッズは1/9、検査後オッズは8/9、検査後確率は8/17です。同じ尤度比でも、検査前のオッズが違えば検査後の確率も違います。これは条件を指定した確率の更新であり、検査結果から状態を絶対に確定する規則や、個人の診断・治療を決める手順ではありません。

事前割合と結果からの確率更新

同じ感度と特異度の二集団で、検査前の状態割合が異なると陽性群の真陽性と偽陽性の構成が変わる。下段は陽性と陰性の尤度比の分母を示し、検査前10%から陽性尤度比8を使ってオッズを更新し、確率へ戻す。
本文の指定模型では感度80%・特異度90%が同じでも、検査前の状態割合により陽性群の内訳が変わります。尤度比は同じ結果の生じる割合を状態二群で比較した比です。検査前オッズに結果の尤度比を掛け、得たオッズから検査後の確率へ戻します。

用語を確かめる

検査
身体の状態に関する問いに答えるため、検体や身体の信号などから情報を得る過程。
スクリーニング
ある状態の可能性を見つけ、必要な詳しい評価へつなぐ目的で行う検査。結果だけで診断を確定することとは異なる。
検体
調べるために身体から取り出した血液、尿、組織など。
信号
情報を得るために捉える物理的な変化。
前分析
測定に先立つ採取、保持、移送などの過程。
分析
試料や信号を測定して結果を得る段階。
解釈
得られた結果を測定対象、目的、身体の情報に合わせて意味づけること。
溶血
赤血球が壊れ、その中の成分が周囲の液へ出ること。身体内と、取り出した検体内の変化は区別する。
精密さ
同じ条件で繰り返した測定値が互いにどれほど近いかに関わる性質。
正確さ
測定値が真の値や適切な基準となる値へどれほど近いかに関わる性質。
全血
血球と液体成分を含む血液。
血漿
凝固を防いだ血液から血球を分離して得る液体成分。
血清
血液の凝固を経て、できた血餅を除いた後に得る液体。
血餅
血液の凝固によってできる固まり。
ヘマトクリット
血液全体の体積に対し赤血球が占める体積の割合。
顕微鏡
小さな対象を拡大して観察する器具。
心電図
体表などで得る電位差の時間変化から心臓の電気活動を記録したもの。
電位差
二つの場所の電気的な状態の差。
換気
空気が肺へ入り、肺から出ること。
流量
単位時間あたりに動く体積。
X線
電磁波の一種。身体を通る際の減弱の違いを画像情報に利用する。
減弱
吸収や散乱などによって、進む方向のX線が弱くなること。
投影画像
経路上の構造を重ねた形で表す画像。
CT
異なる方向からのX線測定をもとに身体の断面を再構成する方法。
断面
対象をある面で切ったと考えたときの内部の広がり。
再構成
複数の測定情報から画像などの形へ組み立てること。
超音波
人の耳では通常聞こえない高い周波数の音。組織境界などから戻る反射を画像情報に利用する。
MRI
磁場と電磁波を用いて、主に身体の水素原子核から得る信号を画像にする方法。
水素原子核
水などに含まれる水素の原子の中心部分。MRIで信号を得る代表的な対象。
基準集団
基準範囲を作るため、年齢や健康状態などの条件を定めて選んだ集団。
基準範囲
定めた基準集団の個々の測定値の分布をもとに作る比較の区間。代表的な方法では中央95%を用いる。疾患の有無の区分そのものではない。
個人値
それぞれの人について測定した値。複数人の値の平均とは対象が異なる。
平均の信頼区間
標本から推定する母平均の不確実性を表す区間。頻度論の95%では、同じ条件と方法で区間を作る過程を繰り返したとき約95%が固定母平均を含む。
カットオフ
ある判断目的で結果を区分する境界。基準集団の分布の端と目的・根拠が同じとは限らない。
個人内変動
同じ人の値に、時刻などの身体側の条件に伴って生じる変動。
経時変化
時間を隔てた値や状態の変化。身体側と採取・測定側の条件を合わせて比較する。
対象状態
検査で確かめたい、ある性質や状態の有無。検査の陽性・陰性とは別の軸。
陽性
結果を二分する検査で、定めた検出・判定条件を満たす結果。対象状態があるとの確定とは区別する。
陰性
結果を二分する検査で、定めた検出・判定条件を満たさない結果。対象状態がないとの確定とは区別する。
真陽性
対象状態ありで、検査が陽性である組合せ。
偽陰性
対象状態ありで、検査が陰性である組合せ。
偽陽性
対象状態なしで、検査が陽性である組合せ。
真陰性
対象状態なしで、検査が陰性である組合せ。
基準判定
検査の性能を比較するため、対象状態の有無を確かめる判定。実際にはこの方法にも限界がある。
感度
状態あり群で陽性となる割合。真陽性÷(真陽性+偽陰性)で、分母が正の場合に計算できる。
特異度
状態なし群で陰性となる割合。真陰性÷(真陰性+偽陽性)で、分母が正の場合に計算できる。
陽性的中率
陽性群で状態ありである割合。真陽性÷(真陽性+偽陽性)で、分母が正の場合に計算できる。
陰性的中率
陰性群で状態なしである割合。真陰性÷(真陰性+偽陰性)で、分母が正の場合に計算できる。
検査前確率
検査結果を知る前に、対象状態がある確率。指定集団の状態割合を使う模型ではその割合に対応する。
検査後確率
検査結果を知った後の、対象状態がある確率。結果と検査前の確率を、指定条件の下で結ぶ。
尤度比
同じ結果が状態あり群で生じる割合を、状態なし群で生じる割合で割った比。状態の確率そのものではない。
陽性尤度比
感度÷(1−特異度)。同じ陽性結果が状態あり群でどれだけ生じやすいかを状態なし群と比べる。
陰性尤度比
(1−感度)÷特異度。同じ陰性結果の生じる割合を状態あり群と状態なし群で比べる。
オッズ
確率pが0<p<1のとき、p÷(1−p)で表す状態あり対状態なしの確率の比。確率へ戻す式はオッズ÷(1+オッズ)。