情報を確かめ、目的と役割を共有する基盤
本文の目次
- 相手の経験から話を受け取る
- 話題と答え方を分ける
- 聞き手の理解を返して確かめる
- 気持ちを受け止める応答
- 情報を受け取りやすい条件
- 相手の理解から説明を補う
- 情報源と時刻を保つ記録
- 不明な点と食い違いを確認へつなぐ
- 報告の目的と、必要な情報
- 受け手の確認を、送り手へ返す
- 受領、理解、実施の結果
- 共通の目的へ、異なる情報を持ち寄る
- 担当と、確認する相手を明確にする
- 専門的な情報と、大切にすることを合わせる
- 同じ情報でも、重視する点は異なる
- 説明、理解、自発的な意思
- 検討のための時間と、支援する役割
- 合意した後も、変化を確かめる
1. 相手の経験から話を受け取る
同じ出来事でも、何がつらく、何を大切に感じるかは相手によって違います。相手の言葉に注意を向け、話を途中で急いで結論へ置き換えずに聴くことを傾聴といいます。話すための間を保ち、困っていることや関心を相手の言葉から受け取ります。「眠れない」という言葉だけでも、寝つけないのか、夜中に目が覚めるのか、眠れないことで何に困るのかは違います。聴くことは、聞き手が先に用意した答えへ話を合わせることではありません。
2. 話題と答え方を分ける
開かれた問いは、相手が自分の言葉で答えられる問いです。「どのようなことに困っていますか」は話を広く得られます。「いつから困っていますか」も、時刻へ話題を絞っていますが、自分の言葉で答えられる問いです。閉じた問いは、「はい・いいえ」や決まった選択肢など、答えの範囲を限定します。自由な話で相手の経験を得た後、必要な事項を限定して確かめると、語られた内容と確認した事項をつなげられます。問いの話題の広さと、答え方の範囲は別の側面です。
3. 聞き手の理解を返して確かめる
要約は話の要点をまとめること、言い換えは別の言葉で意味を表すことです。話を聴いた後に「夜中に目が覚め、その後眠れず、昼間に集中しにくいのですね」と理解した内容を返すと、相手が合っている点を確認し、違う点を訂正したり不足を補ったりできます。聞き手が考えた意味と相手が伝えたかった意味を照らし合わせることで、行き違いを減らします。要約や言い換えでは、相手が話していない原因や評価を付け加えず、必要な点は問い直して確かめます。
理解した意味を返して確かめる
4. 気持ちを受け止める応答
「ずっと眠れず、不安なのですね」という応答は、相手が経験する不安に注意を向けています。相手の感じ方を理解しようとすることと、相手が考えている原因や病名が正しいと確認することは別です。「この症状はあの病気のはずだ」と話した場合も、つらさや心配を聴くことはできますが、まだ確かめていない原因まで同じ確定情報にはしません。気持ちへの応答と、確認が必要な事実や原因についての質問を分けると、経験を受け止めながら情報を確かめられます。
5. 情報を受け取りやすい条件
同じ説明でも、聴こえ方、見え方、使う言語、言葉の難しさ、周囲の音や話す速さによって受け取りやすさが変わります。相手の困りに応じて、分かりやすい言葉で短く区切る、速度を調整する、文字や図を合わせる、周囲の音を減らすなど、情報が届く条件を整えます。必要な言語や意思疎通の支援も、本人の希望と状況を確かめて利用します。話が十分に伝わらないことを、そのまま理解する力がないことへ置き換えず、まず情報が届いた方法と条件を確かめます。
6. 相手の理解から説明を補う
説明した内容が伝わったかは、相手が自分の言葉でどう理解したかを返してもらうと確かめられます。「私の説明が分かりにくくなかったか確認したいので、どのように理解されたか教えてください」と尋ね、理解された内容と伝えたかった内容を照らし合わせます。異なる点があれば説明を補い、もう一度確かめます。この理解確認は、相手を試して正誤を採点するためではなく、説明の伝わり方を確かめ直す過程です。説明を聞いた、資料を受け取った、うなずいたという情報だけとは分けて扱います。
7. 情報源と時刻を保つ記録
本人が話した経験、他の人が観察した様子、測定した値は、得た方法が違います。誰から、誰が、いつ、どの方法で得た情報かを残すと、出現時刻、経過、普段の状態からの変化を対応づけられます。本人の言葉をそのまま記す場合は、聞き手の言い換えや推測と区別します。体温や回数などの測定では、方法や状況が変わったことも残すと、身体の変化と記録条件の違いを考えられます。複数の情報を共有する際にも、主体と時点を保つことが経過の理解を支えます。
8. 不明な点と食い違いを確認へつなぐ
「本人が夜中に何度も起きたと話した」は得られた情報であり、「痛みで目が覚めたのかもしれない」は原因の推測です。確認した情報と推測を分け、まだ分からないことは不明として残します。本人は昨夜から、家族は数日前から変化があったと話した場合には、誰がどの変化を、いつから捉えたかを分けて記録し、話の内容を確かめます。異なる情報を一方だけの確定した経過へまとめるより、食い違っている点を示す方が、追加で確認する内容を伝えられます。
9. 報告の目的と、必要な情報
報告は、相手が状況を捉え、評価や確認に必要な情報を得られるように伝えることです。まず何を共有し、何を確認したいのかを示し、現在得ている情報と、その理解に関わる経過をつなぎます。たとえば、活動中に息苦しさがあったという情報を共有するなら、本人の言葉、観察した変化、その時刻、活動前からどう変わったかを区別して伝えます。まだ分からない点や、相手に確認したいことも合わせると、次に確かめる内容を共有できます。記録を全て順番に読むだけでなく、報告の目的に関わる情報を整理します。
10. 受け手の確認を、送り手へ返す
伝えた言葉が届いても、受け取った意味が同じとは限りません。受け手が内容を言葉で返す復唱や確認によって、送り手は伝えたかった内容と照らし合わせられます。合っている点を確認し、違う点があれば訂正し、訂正後の意味も確かめます。資料について「木曜日の打合せまでに」と伝えたのに、受け手が「金曜日の打合せですね」と返した場合には、日にちを訂正して、改めて確認します。送り手から受け手への伝達と、受け手からの確認をつなぐことで、行き違いを見つけやすくなります。
11. 受領、理解、実施の結果
受領は、情報や依頼を受け取ったことです。内容をどう理解したかが確認できたことと、依頼されたことが実際に済んだことは、別の段階です。「資料を受け取りました」という返事からは、資料の内容を理解したかや、依頼された整理が終わったかまでは分かりません。内容と期限を確かめた後にも、実施の結果を共有する必要があります。担当者から何がどこまで済み、何が未完了かを伝えると、次の確認や分担へつなげられます。
12. 共通の目的へ、異なる情報を持ち寄る
連携は、共通の目的に向けて、異なる知識や働きを結び付けることです。本人が地域活動への参加を望む場合、身体の働きについての情報、移動や生活環境についての情報、本人が大切にする活動の内容などは、別の側面を示します。それぞれの専門から得た観察や評価を本人の関心と合わせることで、参加に向けて確かめる条件を多くの側面から捉えられます。専門ごとの情報を独立に並べるだけでなく、何のために共有するかという共通の目的へ結び付けます。
13. 担当と、確認する相手を明確にする
役割分担は、目的に向けて誰が何を担うかを明らかにすることです。情報を集める担当、評価や説明を担う担当、分からない点を確認する相手を決め、共有します。担当が不明だと、必要な確認が抜けたり、同じ情報収集を重ねたりすることがあります。進み具合と未確認の点も伝えると、担当同士の働きをつなげられます。専門ごとに担う範囲や責任が異なるため、全員が同じ内容を決定できるとせず、どの判断を誰に確認するかを明確にします。
受領・理解・実施結果と、役割の共有
14. 専門的な情報と、大切にすることを合わせる
共同意思決定は、選択肢についての専門的な情報と、本人が大切にすることを持ち寄り、選択を一緒に検討する過程です。選択肢とは、検討する複数の方法や行動の案です。専門家は、目的に対して期待される利益、負担や不利益、まだ確実には分からないことを説明します。本人は、生活の中で何を大切にしたいか、どんな負担が気になるかを伝えます。双方が情報を交換すると、専門的な条件と生活上の関心を合わせて、実行できる選択肢を検討できます。
15. 同じ情報でも、重視する点は異なる
価値観は、その人が何を大切にするかという考え方です。選好は、複数の選択肢のうち何をより望むかという傾向です。同じ利益や負担の説明を受けても、本人が重視することによって比較の意味は変わります。たとえば学習会への参加方法には、自宅からの参加と会場での参加があり、前者では移動を減らせても直接の交流は少なく、後者では直接の交流ができても移動が必要です。移動を減らすことと直接の交流のどちらを重視するか、実際に使える条件は何かを確かめて話し合います。
16. 説明、理解、自発的な意思
説明を行ったこと、内容が理解されたこと、本人が自分の意思で選ぼうとしていることは、別の情報です。専門家からの説明を、本人が自分の言葉でどう理解したか確かめ、分からないことを質問できる機会を保ちます。その上で、何を望み、どんな点で迷っているかを聴きます。自発性は、他の人に押し切られるのではなく、自分の意思で考え選ぶことに関わります。説明の記録や署名があるだけで、理解や自発的な意思を全て確かめたとは扱いません。
17. 検討のための時間と、支援する役割
本人が考えるには、分かりやすい情報と、質問や確認をする機会が必要です。今すぐ決定が必要な事情がない場合には、疲れや迷いを確かめ、考えやすい時期に話し合うこともできます。本人の希望を聴くことは、専門家の評価や説明の責任を本人へ渡すことではありません。専門家は自分が担う評価と説明を行い、本人が選択肢を比べられるよう支えます。理解と希望を確かめながら、どの点を誰に確認するかを共有します。
18. 合意した後も、変化を確かめる
合意は、話し合った内容や方針について、関係する人が互いに了解して受け入れたことです。選択した内容、各自の担当、次に確かめることを共有すると、その後の働きをつなげられます。新しい情報が得られたり、生活の状況や本人が大切にすることが変わったりした場合には、現在の条件に照らして選択を再検討します。たとえば会場参加を考えていた学習会で移動の手段が変われば、移動に必要な負担と交流への希望を改めて話し合います。本人だけに変更を任せるのではなく、関係する担当へ情報を伝え、説明や確認へ戻ります。
情報と価値観を持ち寄る共同検討
用語を確かめる
- 傾聴
- 相手の言葉と経験に注意を向け、理解しようとして聴くこと。
- 開かれた問い
- 相手が自分の言葉で自由に答えられる問い。話題を特定の事項へ絞る場合もある。
- 閉じた問い
- はい・いいえや決まった選択肢など、答えの範囲を限定する問い。
- 要約
- 話の要点をまとめること。相手へ返して確認・訂正を受けることができる。
- 言い換え
- 意味を別の言葉で表すこと。相手の伝えた意味と合っているかを確かめる。
- 理解確認
- 相手が理解した内容と伝えたかった内容を照らし合わせ、必要な説明を補うこと。
- 情報源
- 本人の言葉、観察者、測定など、その情報をどこから得たか。
- 推測
- 得られた情報から考えた、まだ確かめる必要のある内容。
- 記録
- 得た情報や行ったことを、後でたどれる形に残すこと。
- 報告
- 状況を捉え、評価や確認に必要な情報を得られるように相手へ伝えること。
- 復唱
- 受け取った内容を言葉で返し、送り手と意味を確かめること。
- 受領
- 情報や依頼を受け取ったこと。理解や実施の完了とは別の段階。
- 実施結果
- 依頼されたことや担当したことについて、実際に何をどこまで行ったかという情報。
- 連携
- 共通の目的に向けて、異なる知識や働きを結び付けること。
- 役割分担
- 目的に向けて誰が何を担い、誰に確認するかを明らかにすること。
- 共同意思決定
- 選択肢の専門的な情報と本人の価値や関心を交換し、選択を一緒に検討する過程。
- 選択肢
- 検討する複数の方法や行動の案。
- 利益
- 目的に対して得られると期待される望ましいこと。
- 不利益
- 選択によって生じ得る望ましくないこと。負担なども検討に関わる。
- 不確実さ
- 結果や条件について、まだ確実には分からないこと。
- 価値観
- その人が何を大切にするかという考え方。
- 選好
- 複数の選択肢のうち何をより望むかという傾向。
- 自発性
- 他の人に押し切られるのではなく、自分の意思で考え選ぶことに関わる性質。
- 合意
- 話し合った内容や方針について、関係する人が互いに了解して受け入れたこと。
- 再検討
- 新しい情報や状況などを踏まえ、いったん考えた選択や方針を改めて確かめること。