微生物・感染・免疫の共通基盤

本文の目次

  1. 細胞と、細胞ではない粒子
  2. 膜の外にある壁
  3. 真菌の形と、寄生虫の区分
  4. ウイルス粒子を作る材料
  5. 分裂して二つの細胞になる
  6. 宿主細胞の中で粒子を組み立てる
  7. 増えずに存続する芽胞
  8. 付着と、そこに居続けること
  9. 感染と、感染による病変や症状
  10. 同じ微生物でも、場所と条件が違う
  11. 病原体、感染源、宿主を分ける
  12. 出口、移動する経路、受け手の入口
  13. 接触する区間を分ける
  14. 吸い込む経路と、飲食物からの経路
  15. 備わった受容体が合図を捉える
  16. 取り込んだ対象を区画の中で処理する
  17. 細胞ではなく、体液中で働く補体
  18. 目印、炎症の合図、膜への作用
  19. 認識する側と、認識される部分
  20. T細胞へ示される抗原の形
  21. 処理した抗原を、反応の場へ届ける
  22. 対応する細胞が選ばれて増える
  23. 自己への反応を抑える働き
  24. 抗体を作る経路と、細胞へ作用する経路
  25. 結合した後に、何が起こるか
  26. 抗体産生と、記憶が残ること
  27. 感染のどの段階へ働くか
  28. 取り除くことと、不活化すること
  29. 自分の応答を促して備える
  30. 既に作られた抗体を受け取る

1. 細胞と、細胞ではない粒子

細菌は、一つの細胞でできた原核生物です。原核とは、DNAが核膜で囲まれた核に入っていない細胞のつくりを指します。真菌は、核膜で囲まれた核を持つ真核生物です。細菌にも真菌にもDNAやタンパク質を作るリボソームがあります。ウイルスは細胞とは異なる粒子で、自前のリボソームを持ちません。細菌、真菌、ウイルスを同じ構造にまとめることはできません。これらの全てがヒトに病気を起こすわけでもありません。

2. 膜の外にある壁

細胞膜は、一つの細胞の内外を分ける脂質膜です。細胞壁を持つ細菌では、その外側に形を支える壁があります。DNAは、核膜のない核様体という領域にあります。核膜がないことは、DNAがないという意味ではありません。真菌にも細胞膜の外側に細胞壁がありますが、核のある真核の細胞です。膜と壁は場所も構成も異なります。多くの細菌の壁には、糖の鎖を短いアミノ酸の鎖でつないだペプチドグリカンがあります。真菌の壁には、糖が鎖状につながったキチンやグルカンなどが含まれます。壁のない細菌もあるため、全ての細菌に同じ壁を描くことはできません。

細菌と真菌の膜・壁・核

上段は細胞壁を持つ細菌で、細胞膜の内側に核様体のDNAとリボソームがある。下段は真菌の細胞で、核膜がDNAのある核を囲み、その外の細胞内にもリボソームがある。両方で外側の細胞壁と内側の細胞膜が別の境界を作る。
細胞壁は細胞膜の外側にあります。壁を持つ細菌では、DNAは核膜に囲まれない核様体にあります。真菌には核膜に囲まれた核があり、どちらにもリボソームがあります。多くの細菌の壁にはペプチドグリカン、真菌の壁にはキチンやグルカンなどが含まれます。壁を持たない細菌もいます。

3. 真菌の形と、寄生虫の区分

真菌には、主に一つの細胞として存在する酵母の形や、細い糸状の菌糸が伸びる形があります。成長の段階や周囲の条件によって形が変わるものもあります。寄生虫は、他の生物を生活の場や栄養源などとして利用するものです。その相手の生物を宿主といいます。寄生虫のうち、原虫は単細胞の真核生物、蠕虫は多細胞の動物です。蠕虫の成体には肉眼で見えるものもあり、寄生虫を全て顕微鏡的な一細胞にまとめません。

4. ウイルス粒子を作る材料

ウイルスのゲノムは、そのウイルスの遺伝情報を持つ核酸で、DNA又はRNAです。核酸はDNAやRNAのように情報を持つ分子の種類を指します。ゲノムを囲むタンパク質の構造をカプシドといいます。一部のウイルスには、さらに脂質膜を含むエンベロープという外被があります。エンベロープには宿主に由来する脂質や、ウイルスのタンパク質などが含まれます。タンパク質のカプシドと脂質膜の外被は別の構造で、エンベロープを持たないウイルスもあります。

ウイルスのゲノムと二つの外側構造

上段はゲノムをカプシドが囲むウイルス粒子。下段はカプシドのさらに外側をエンベロープが囲む粒子。核酸のゲノム、タンパク質のカプシド、脂質膜を含む外被が別の構造としてある。
ウイルスのゲノムはDNA又はRNAで、タンパク質のカプシドに囲まれます。一部のウイルスは、その外側に脂質膜を含むエンベロープを持ちます。カプシドとエンベロープは、場所も材料も異なります。

5. 分裂して二つの細胞になる

多くの細菌では、DNAを複製して分配し、一つの細胞が二つの娘細胞へ分かれる二分裂が起こります。娘細胞は、分裂によって新しく生じた細胞です。元の一細胞が二つへ置き換わるので、一回の二分裂による正味の細胞数の増加は一です。DNAをコピーしただけでは、二つの細胞へ分かれ終えたことにはなりません。適切な栄養や環境があれば、宿主の生細胞がない場所でも分裂できる細菌があります。一方、宿主細胞内の環境に依存する細菌もあり、全細菌に同じ増殖条件を当てはめません。

DNAの複製と二分裂を分ける

最初はDNAを持つ一つの細胞。中段では同じ細胞膜の内側に二つのDNAコピーが分配される。最後はそれぞれのDNAを含む二つの独立した細胞膜が閉じ、二つの娘細胞になる。
多くの細菌では、DNAを複製して分配した後、一つの細胞が二つの娘細胞へ分かれます。DNAのコピーが増えた段階では細胞はまだ一つです。一回の二分裂による正味の細胞数の増加は一です。

6. 宿主細胞の中で粒子を組み立てる

ウイルスは、利用できる宿主細胞の働きを使って増殖します。宿主細胞は、ウイルスが増えるために利用する相手の細胞です。細胞内でゲノムを複製し、宿主のリボソームなどを利用してウイルスのタンパク質を用意し、それらを新しい粒子へ組み立てます。経路の細部はウイルスにより異なります。ゲノムのコピーが増えたことだけでは、必要な部品がそろって完成した粒子ができたとはいえません。細菌の一細胞が二娘細胞へ分かれる増殖と、ウイルスの粒子の組立ては別の過程です。感染させる力を失うことを、ウイルスの失活といいます。増殖に宿主細胞が必要なことから、細胞外の粒子が直ちに失活するとは決まりません。

ウイルスの部品作りと組立て

一つの宿主細胞の内側で、ウイルスのゲノムの複製と、宿主のリボソームを利用するタンパク質供給が別の経路で進む。下段ではゲノムをタンパク質のカプシドが囲み、新しいウイルス粒子ができる。細胞が二つに分かれる過程とは異なる。
ウイルスは宿主細胞の働きを使い、ゲノムを複製し、リボソームなどを利用してタンパク質を用意します。必要な部品がそろって新しい粒子が組み立てられます。ゲノムのコピーだけが増えた段階と、完成した粒子ができた段階は異なります。

7. 増えずに存続する芽胞

一部の細菌は、内生胞子とも呼ばれる芽胞を作ります。芽胞は、活動を大きく低下させた休眠状態で、環境の変化に耐えて存続することに役立ちます。一細胞から一つの芽胞が作られる過程は、細胞数を増やす二分裂ではありません。条件が整うと発芽し、活動する一細胞へ戻り、その後に二分裂で数を増やせます。芽胞を作ること、発芽すること、分裂することは別の段階です。真菌の胞子には増殖や分散に関わるものがあり、細菌の内生胞子と同じ役割にまとめません。

芽胞の存続と、その後の増殖

上の活動する一細胞から一つの芽胞が形成され、休眠状態で存続する。発芽の後は再び一つの活動する細胞になる。最後の二分裂で二つの独立した娘細胞へ分かれるため、形成と発芽の段階では細胞数は増えない。
一部の細菌では、一細胞から一つの芽胞が形成されます。休眠して存続する芽胞は、発芽すると活動する一細胞へ戻ります。その後に二分裂が起こると細胞数が増えます。芽胞形成、発芽、分裂は別の段階です。

8. 付着と、そこに居続けること

微生物が皮膚や粘膜の表面へつくことを付着といいます。粘膜は、気道や消化管などの内側を覆う上皮を含む組織です。付着したという観察だけでは、その場所で増えたり居続けたりしたことまでは分かりません。微生物がある場所に居着き、持続して存在することを定着といいます。表面には、普段から存在する常在微生物もいます。常在とは、通常その場所に存在することです。定着した微生物があることと、その微生物により病気が起きたことは別に確かめます。

9. 感染と、感染による病変や症状

感染は、病原体が宿主の適した部位に居着いて増殖するなど、宿主との関係が成立した状態です。臓器の内部へ入り組織で増殖する例に加え、粘膜の表面で増殖する例もあります。全ての感染に、組織の奥まで入る同じ経路を要求しません。その感染により組織の異常である病変や症状が生じ、病気として現れることを発症といいます。症状が現れていない感染は無症候感染と呼びます。感染が成立することと、症状が現れることは同じ時点とは限りません。表面へ付着しただけの段階、臓器内で増殖が確認された段階、その増殖に由来する症状が現れた段階を記録した例では、それぞれの観察を分けて追います。

表面での付着・定着と感染の観察

各段の下側は上皮を含む粘膜の表面。上段は表面へ付着した微生物、中段はその後も持続して存在する微生物、下段は適した部位の粘膜表面で増殖する感染の例。全ての感染で上皮より奥への侵入が必要なわけではなく、病変や症状は別の観察対象。
微生物が表面についたこと、同じ場所に持続して存在したこと、宿主の適した部位で増殖するなど感染が成立したことは、それぞれ別の観察です。感染には粘膜表面で増殖する例もあります。感染による病変や症状が現れる発症は別に確認し、症状がない感染もあります。

10. 同じ微生物でも、場所と条件が違う

感染の成立には、微生物側の性質や届いた量、入口となる部位、宿主の障壁や防御などが関わります。病原性は、宿主に病気を起こすことに関わる微生物側の性質です。障壁は、上皮などが内側への到達を制限する境界の働きです。微生物が届く量が同じでも、境界が保たれているか傷ついているかなどで、その先の到達や感染成立の条件は変わります。ある部位に通常存在する微生物も、別の部位へ入り増殖すれば問題に関わる場合があります。微生物の名前だけでなく、どこに、どれほど届き、宿主がどんな状態かを合わせて考えます。

11. 病原体、感染源、宿主を分ける

病原体は、感染や病気に関わる微生物などです。感染源は、病原体を含み、伝播の出発点となる人や動物、物などです。伝播は、病原体がある場所から別の場所や相手へ移ることです。宿主は、病原体などが居着き、増殖の場などとして利用する相手の生物です。病原体が付着した器具は、それを含む物であり、微生物そのものではありません。器具が感染源になり得ることと、ヒトがウイルスの増殖に使われる宿主であることも役割が違います。

12. 出口、移動する経路、受け手の入口

人から人へ病原体が伝播する代表的な経路では、送り手の体から出る出口、運ばれる道筋である伝播経路、受け手へ入る入口をたどります。例えば、病原体を含む呼吸器からの分泌物が送り手から出て、空気中を運ばれ、受け手の呼吸器へ届く道筋があります。出口は送り手側、入口は受け手側の場所であり、その間を運ぶ経路とは別です。受け手へ届いたという観察と、その後に感染が成立したという観察も分けます。

13. 接触する区間を分ける

感染している人との接触で病原体が直接受け手へ渡る道筋を、直接接触として整理します。病原体が付着した物を介して渡る道筋は間接接触です。人から器具へ、器具から次の人へ渡る区間は物を介する間接接触ですが、その次に人どうしの接触で渡る区間は直接接触に対応します。一つの伝播の系列でも、それぞれの受け手へ届く区間の道筋を分けます。接触で届くことだけでは、その後の定着、増殖や症状の有無までは決まりません。

直接渡る区間と、物を介する区間

上段では送り手と受け手の手が触れ、その接触部に病原体がある。下段は送り手から物へ、物から次の受け手へ病原体が渡る別々の区間。中央の物は病原体を運ぶ対象で、微生物そのものではない。
上段は人どうしの接触で病原体が直接渡る道筋、下段は病原体が付着した物を介して渡る道筋です。一つの系列にも異なる区間があり、それぞれの受け手へ届く道筋を分けます。接触で届いたことだけでは、その後の定着や感染、症状の有無は決まりません。

14. 吸い込む経路と、飲食物からの経路

吸入は、病原体を含む粒子などを空気とともに吸い込み、呼吸器へ届かせる経路です。摂取は、病原体を含む飲食物などを口から取り込み、消化管へ届かせる経路です。口が関わる場合でも、吸い込んで呼吸器へ進むことと、飲み込んで消化管へ進むことは道筋が違います。接触、吸入、摂取などの区分は、病原体がどの道筋でどの入口へ届いたかを整理するもので、同じ病原体が常に一つの経路だけで伝わるという意味ではありません。

感染源の出口から宿主の入口へ

左の送り手の呼吸器から、病原体を含む粒子が出口を通り空気中へ出る。粒子は両者の間を運ばれ、右の受け手の入口から呼吸器へ届く。左右の呼吸器の区画、粒子内の病原体、運搬経路は別の役割。
呼吸器からの分泌物に病原体が含まれる代表例では、送り手側の出口、空気中を運ばれる経路、受け手側の入口をたどれます。感染源は病原体を含む人などで、病原体そのものとは別です。受け手へ届くことと、その後に感染が成立することは分けて確認します。

15. 備わった受容体が合図を捉える

免疫は、外から来たものや変化した細胞などに対する防御の働きです。自然免疫では、あらかじめ備わった受容体などが、微生物に共通する特徴や傷害の合図を捉えます。たとえば微生物の壁の構成成分や、傷害によって自己の細胞から放出された分子が合図になる場合があります。受容体は、結合する相手を受け取って細胞の応答へつなぐ分子です。合図の認識から、食細胞の反応やサイトカインの産生などにつながります。自然免疫は初期の反応に多く関わりますが、何でも無関係に反応するという意味ではありません。獲得免疫は、特定の抗原に対応するB細胞やT細胞が応答する防御で、対象の認識と応答の進み方が異なります。

16. 取り込んだ対象を区画の中で処理する

好中球やマクロファージなど、対象を取り込んで処理する細胞を食細胞といいます。食作用では細胞膜が対象を包み、膜に囲まれた小胞へ取り込みます。小胞は、膜で区切られた小さな区画です。取り込んだ対象のある区画がリソソームとつながると、分解が進みます。リソソームは、分解を進める酵素などを持つ細胞内の区画です。酵素は化学反応を進みやすくする分子です。対象が細胞内へ来たという位置と、分解が進んだという働きは別に確認します。血管から目的部位へ来る移動も、取り込みや分解とは別の過程です。

膜での取り込みと、区画内の分解

上段では細胞膜が外にある対象を囲み始める。中段では対象が閉じた小胞の中に入り、リソソームは別の膜区画にある。下段では両区画がつながり、同じ膜内で対象の分解が進む。
食細胞の細胞膜は対象を包み、膜で区切られた小胞へ取り込みます。対象のある区画がリソソームとつながると、分解が進みます。対象が細胞内へ入ることと、その後に分解されることは別の段階です。

17. 細胞ではなく、体液中で働く補体

補体は、血漿などの体液中にある複数のタンパク質の集まりです。多くは働く前の状態で存在し、反応が始まると次の成分へ作用がつながります。微生物表面などから始まる経路や、抗体が結合した対象から始まる経路があります。補体の活性化は、成分が作用する状態へ変わり、その下流の反応が進むことです。補体は一個の細胞でも、抗体そのものでもありません。対象を包み込む食細胞の作用と、体液中のタンパク質の反応を分けます。

18. 目印、炎症の合図、膜への作用

活性化された補体の成分には、対象の表面へ付着して、食細胞が認識し取り込みやすくする働きがあります。別の成分は、炎症や防御細胞が集まる反応を助けます。また、複数の成分が集まって一部の標的の膜に通り道を作り、内容物が失われる溶解につながる場合もあります。溶解は、膜が損なわれて細胞などが壊れることです。表面に目印を付けること、合図を出すこと、膜に作用することは別の働きで、補体が働けば全ての対象が同じように溶解するわけではありません。

体液中の補体が働く三つの方向

上段では補体成分が対象の表面へ付着し、食細胞の認識と取り込みを助ける。中段では別の成分が炎症や防御細胞の集合を助ける。下段では一部の標的の膜に通り道ができ、内容物が失われる。補体は対象を包む一個の細胞ではなく、体液中で働く成分である。
補体は、血漿などの体液中で働くタンパク質群です。活性化された成分には、対象への目印、炎症や防御細胞が集まる反応を助ける働き、一部の標的の膜への作用があります。表面への付着と膜の損傷は異なり、全ての対象が溶解するわけではありません。

19. 認識する側と、認識される部分

抗原は、抗体やT細胞などの特異的な認識の対象となる物質などです。その実際に認識される部分をエピトープといいます。抗体は、形質細胞が作る免疫に関わるタンパク質です。抗体の結合部位が、対応する抗原の部分へ結合します。抗体の結合部位は認識する側にあり、エピトープは認識される抗原側にあります。一つの抗原にも、異なる抗体などが認識する複数のエピトープがある場合があります。

20. T細胞へ示される抗原の形

細胞内で作られたタンパク質や、外から取り込んだタンパク質などの抗原は、短いペプチドへ処理され、MHCという分子に載って細胞表面へ示されることがあります。ペプチドはアミノ酸が短くつながった鎖です。通常のMHCを介するαβT細胞は、MHCとペプチドの組合せをT細胞受容体で認識します。αβは、代表的なT細胞受容体がα鎖とβ鎖という二種類のタンパク質の鎖からなることを示す名前です。代表的には、MHCクラスIは細胞内のタンパク質に由来するペプチドを示し、CD8分子を持つ(CD8陽性の)T細胞が認識します。MHCクラスIIは外から取り込んだタンパク質に由来するペプチドを示し、CD4分子を持つ(CD4陽性の)T細胞が認識します。CD8やCD4は、この認識を助ける分子です。抗体が抗原に直接結合することとは、認識される形が異なります。全てのT細胞の認識を、この一種類の方式だけに限定しません。

提示する細胞と、認識するT細胞

左右は別の細胞。左の細胞膜にはペプチドを載せたMHCがあり、右のT細胞膜から伸びるT細胞受容体がその組合せを認識する。CD8又はCD4も右のT細胞に属する。上段と下段は、MHCクラスIとIIを介する代表例。
通常のMHCを介するαβT細胞は、細胞表面のMHCとペプチドの組合せを認識します。代表的に、MHCクラスIはCD8陽性、MHCクラスIIはCD4陽性のT細胞の認識に関わります。CD8やCD4は認識を助けます。抗体が抗原へ直接結合することとは、認識される形が異なります。

21. 処理した抗原を、反応の場へ届ける

樹状細胞は、抗原を取り込んで処理し、T細胞へ示す抗原提示に関わる細胞です。組織で抗原などを取り込んだ樹状細胞が、リンパ管などを経て近くのリンパ節へ移動する経路があります。そこでは、対応するT細胞が提示された抗原を認識します。代表的なT細胞の活性化には、抗原提示に加え、細胞表面の分子を介する補助刺激やサイトカインなども関わります。補助刺激は、抗原の認識に加えて反応を促す働きかけです。提示が観察されたことだけで、全てのT細胞が活性化したとはいえません。骨髄や胸腺での成熟は細胞を用意する段階で、リンパ節などで特定の抗原へ応答を始めることとは別です。

抗原を示す細胞がリンパ節へ移動

上段の組織には抗原を取り込み処理した樹状細胞がある。同じ細胞がリンパ管の内側を移動し、下段のリンパ節に達する。節内では樹状細胞の表面にあるMHCとペプチドを、別のT細胞の受容体が認識する。移動と細胞間での認識は異なる段階。
組織で抗原を取り込み処理した樹状細胞は、リンパ管などを経て近くのリンパ節へ移動します。そこで対応するT細胞が抗原提示を認識します。代表的な活性化には補助刺激やサイトカインなども関わり、提示だけで全てのT細胞が活性化するわけではありません。

22. 対応する細胞が選ばれて増える

成熟したリンパ球の集団には、異なる抗原に対応する受容体を持つ細胞があります。抗原に対応する細胞が刺激を受けて選ばれ、増殖し、作用する細胞などへ分化します。同じ祖先の細胞から増えた細胞の集団をクローンといい、対応する細胞が選ばれる関係をクローン選択といいます。応答の始まりは、抗原が全てのリンパ球へ同じ受容体を書き込む過程ではありません。B細胞やT細胞の反応では、認識、活性化、増殖、分化というつながる段階を追えます。

対応する細胞が選ばれ、増える

最初から異なる形の受容体を持つ三つの成熟細胞がある。対応する抗原は中央の受容体に合い、その細胞が選ばれる。下段では中央と同じ受容体を持つクローンが増え、その後に作用する細胞などへ分化する。
成熟したリンパ球には、異なる抗原に対応する受容体を持つ細胞があります。対応する細胞が選ばれて増殖し、作用する細胞などへ分化します。同じ祖先から増えた集団がクローンです。抗原が全ての細胞へ同じ受容体を書き込む過程とは異なります。

23. 自己への反応を抑える働き

免疫では、自己の成分に対する過剰な応答を抑える働きも必要です。自己の成分に強く反応するリンパ球が除かれたり、反応しにくい状態に保たれたりするなどの仕組みがあります。このように、ある抗原に反応しにくい状態を免疫寛容といいます。自己に対する応答を抑えることは、微生物などへの全ての防御を止めることではありません。対応する抗原を選んで応答する働きと、その応答を抑える働きの両方が、防御と体の維持に関わります。

24. 抗体を作る経路と、細胞へ作用する経路

活性化したB細胞から分化する形質細胞は、抗体を産生します。抗体が血液や組織液などで作用する経路は、液性免疫と呼ばれます。CD4陽性のヘルパーT細胞は、細胞間の接触やサイトカインなどで、B細胞やマクロファージなどの働きを調整します。CD8陽性の細胞傷害性T細胞は、認識した感染細胞などに直接作用する経路に関わります。Tc細胞とも呼ばれ、このような獲得免疫の働きは細胞性免疫です。自然免疫のNK細胞も変化した標的細胞の排除に関わりますが、T細胞受容体とMHCを使う認識と同じ経路ではありません。

抗体を供給する経路と、標的細胞への作用

上段は形質細胞から細胞外へ抗体が供給され、別の抗原に結合する経路。中段はT細胞受容体とMHC・ペプチドの認識を介してTc細胞が別の感染細胞に作用する。下段のNK細胞は別の認識分子で変化した細胞へ作用する。抗体タンパク質と作用する細胞を区別する。
形質細胞が産生する抗体は、血液や組織液などで抗原に結合します。細胞傷害性T細胞は、認識した感染細胞などへ直接作用します。NK細胞も変化した標的の排除に関わりますが、T細胞受容体とMHCを用いるT細胞の認識とは別の経路です。

25. 結合した後に、何が起こるか

抗体の結合によって、ウイルスの侵入や毒素の作用開始などが妨げられる働きを中和といいます。たとえば毒素が標的細胞の受容体へ結合する必要がある場合、その結合を妨げる抗体は、その段階の作用を抑えられます。一方、抗体や補体が対象の表面へ付着すると、食細胞が認識し取り込みやすくなる場合があります。この取り込みを助ける働きがオプソニン化です。抗体による目印の代表例では、抗原に結合する部分と、食細胞の受容体が受け取る部分が分かれます。抗体が結合したこと、相手の作用を妨げたこと、食細胞が取り込んだことは別の段階です。

抗体の結合後に、作用が分かれる

上段では抗原に結合した抗体が標的細胞の受容体との結合を妨げる。下段では抗原表面の抗体を食細胞の受容体が認識し、その後に対象が膜に囲まれた細胞内区画へ入る。抗原に結合する側と食細胞が受け取る側は抗体の別の部分。
抗体は抗原の対応する部分へ結合します。上の例では、抗体が毒素などと受容体との結合を妨げ、作用開始を抑えます。別の働きとして、表面の抗体を食細胞が認識し取り込みやすくなることがあります。結合、中和、実際の取り込みは異なる段階です。

26. 抗体産生と、記憶が残ること

活性化したB細胞からは、抗体を産生する形質細胞のほか、メモリーB細胞へ分化する経路もあります。T細胞にも記憶に関わる細胞が残ります。免疫記憶がある場合、同じ抗原への再曝露で、初回より速く強い抗体反応などが得られるのが典型です。初回の抗原への応答を一次免疫応答、再曝露での応答を二次免疫応答といいます。これは、成熟の場である一次リンパ器官、反応の場である二次リンパ器官の区分とは別の言葉です。ある抗原への過去の反応だけで、別の全ての抗原への記憶まで確認されたわけではありません。

同じ抗原への初回と再曝露

時間は左から右へ進む。初回の抗原への反応の後に、同じ抗原への再曝露がある。記憶のある典型例では、二次応答の立ち上がりが速く、一次応答より強い。
免疫記憶がある場合、同じ抗原への再曝露では、初回より速く強い抗体反応などが得られるのが典型です。これは、成熟の場と応答の場を分ける一次・二次リンパ器官の区分とは別です。抗原や人の条件によって経過は異なります。

27. 感染のどの段階へ働くか

感染源側にある病原体を減らすこと、病原体が移る経路を断つこと、受け手の抵抗力へ働くことは、感染予防の異なる方向です。抵抗力は、侵入や増殖などを抑える宿主側の働きです。感受性は、ある病原体による感染が成立しやすい程度など、受け手側の性質です。感染源に病原体が残り、受け手の条件も変わらず、両者の間の道筋だけがつながらなくなったなら、変わったのは感染経路です。道筋を断つことを、感染源の病原体がなくなったことや宿主が強くなったことへ置き換えません。

28. 取り除くことと、不活化すること

洗浄は、汚れや付着物などを物理的に取り除くことです。微生物の量も減り得ますが、全てを死滅させることと同じではありません。消毒は、病原微生物を減らしたり感染させる働きを失わせたりすることを目的とし、全ての芽胞を残さず処理する滅菌と区別します。滅菌は、芽胞を含む全ての微生物を除去又は死滅させ、感染性のあるウイルスも不活化することを目指す概念です。ウイルスの不活化は、感染させる力を失わせることです。微生物を不活化したことと、汚れなどの残留物が全てなくなったことは別の結果です。

29. 自分の応答を促して備える

自分の免疫が抗原に応答して抗体や作用する細胞、記憶などを用意することを、能動免疫といいます。ワクチンは、抗原そのものや抗原を作るための情報などを使って、自分の免疫応答を促し、対応する防御や記憶につなぐものです。抗原の認識から、対応するリンパ球の増殖や分化などを経る過程があります。記憶が形成された場合、同じ抗原への後の接触で速い応答などに関わります。抗原を使うことは、別の全ての対象への同じ防御や、感染の発生ゼロを保証するという意味ではありません。

30. 既に作られた抗体を受け取る

別に作られた抗体を受け取り、その抗体を働かせることを受動免疫といいます。自分が新たに抗体を作るまでの過程を待たず、対応する抗体を働かせられる場合があります。一方、抗体を受け取ること自体は、自分のリンパ球が選ばれて増殖し、記憶細胞を残す過程ではありません。受け取った抗体が減ると、その抗体による作用も弱まります。自分の応答を促す能動免疫と、できている抗体の受け渡しは、産生する側、作用までの過程、記憶が残る仕組み、持続する条件が異なります。

自分で応答することと、抗体の受渡し

上段は抗原から自分の対応する細胞の選択、増殖、分化へ進む経路。下段は別にできている抗体が受け手へ移り、そこで抗原に結合する経路。下段の受渡しには、自分の対応する細胞が増える段階がない。
能動免疫では、自分の免疫が抗原へ応答し、対応するリンパ球の増殖や分化を経て防御や記憶につながります。受動免疫では、別に産生された抗体を受け取り、その抗体が働きます。受渡し自体は自分の記憶細胞を作る過程ではなく、受け取った抗体が減ると作用も弱まります。

用語を確かめる

微生物
細菌や真菌などの微小な生物。ウイルスも微生物に関する学習で扱われるが、細胞とは異なる粒子である。
細菌
核膜で囲まれた核を持たない原核の、一つの細胞からなる生物。
原核生物
DNAが核膜で囲まれた核に入っていない細胞のつくりを持つ生物。
核膜
真核細胞の核を囲む膜。
核様体
細菌のDNAが、核膜に囲まれずに存在する領域。
細胞膜
一つの細胞の内外を分ける脂質膜。
細胞壁
細胞膜の外側にある、形の支持等に関わる構造。全細菌が持つわけではない。
リボソーム
mRNAの情報に基づいてタンパク質を作る細胞内の構造。
真菌
核膜で囲まれた核を持つ真核生物。酵母や菌糸等の形がある。
真核生物
核膜で囲まれた核を持つ細胞からなる生物。
酵母
主に単細胞として存在する真菌の形。
菌糸
真菌で伸びる糸状の構造。
寄生虫
他の生物を生活の場や栄養源等として利用する生物。原虫や蠕虫等を含む。
原虫
単細胞の真核生物として扱う寄生虫の区分。
蠕虫
多細胞の動物である寄生虫の区分。成体が肉眼で見えるものもある。
宿主
ウイルスや寄生虫等が利用する相手の生物。
宿主細胞
ウイルス等が利用する相手の細胞。
ウイルス
ゲノムとカプシド等からなる、細胞とは異なる粒子。増殖には宿主細胞の働きを利用する。
核酸
DNAやRNAのように遺伝情報に関わる分子の種類。
ゲノム
その生物やウイルスが持つ遺伝情報の全体、又はそれを担う核酸。
カプシド
ウイルスのゲノムを囲むタンパク質の構造。
エンベロープ
一部のウイルスの外被で、宿主由来の脂質膜やウイルスのタンパク質等を含む。
二分裂
一細胞が二つの娘細胞に分かれる増殖の方式。多くの細菌で起こる。
娘細胞
分裂で新しく生じた細胞。
組立て
ウイルスのゲノムやタンパク質等を新しい粒子へまとめる段階。
芽胞
一部の細菌が作る内生胞子。休眠して存続する状態で、形成自体は細胞数を増やさない。
内生胞子
細菌の芽胞の呼び名。真菌の生殖胞子とは区別する。
休眠
活動を大きく低下させて存続する状態。
発芽
細菌の芽胞が、活動する細胞へ戻る過程。
ペプチドグリカン
多くの細菌の細胞壁の主要材料。糖の鎖を短いアミノ酸の鎖でつないだもの。
キチン
糖が鎖状につながった材料の一種で、真菌の細胞壁に含まれる。
グルカン
糖が鎖状につながった材料の一種で、真菌の細胞壁に含まれる。
失活
ウイルスについて、感染させる力を失うこと。
付着
微生物などが表面につくこと。
定着
微生物がある場所に居着き、持続して存在すること。
粘膜
気道や消化管などの内側を覆う上皮を含む組織。
常在微生物
通常ある部位に存在する微生物。存在だけで病気が起きたことを示すものではない。
感染
病原体が宿主の適した部位に居着いて増殖するなど、宿主との関係が成立した状態。組織の奥への侵入や症状の出現を全ての例で要求しない。
病変
組織や器官に生じた異常。
発症
感染などにより病変や症状が生じ、病気として現れること。
感染症
病原体の感染によって起こる病気。感染そのものと、そこから病変や症状が現れることを分ける。
無症候感染
症状が現れていない感染。
病原性
宿主に病気を起こすことに関わる微生物側の性質。
障壁
上皮などが内側への到達を制限する境界の働き。
病原体
感染や病気に関わる微生物など。
感染源
病原体を含み、伝播の出発点となる人、動物、物など。
伝播
病原体がある場所から別の場所や相手へ移ること。
出口
病原体が送り手側から外へ出る場所。
入口
病原体が受け手側へ入る場所。
伝播経路
病原体が運ばれる道筋。感染経路とも呼ぶ。
直接接触
人などとの接触で病原体が直接渡る道筋。
間接接触
病原体が付着した物を介して渡る道筋。
吸入
粒子などを空気とともに吸い込むこと。
摂取
飲食物などを口から取り込むこと。
免疫
外から来たものや変化した細胞等に対する防御の働き。
自然免疫
あらかじめ備わった受容体や障壁等で、微生物に共通する特徴や傷害の合図などへ応答する防御。
獲得免疫
特定の抗原に対応するB細胞やT細胞が応答する防御。
受容体
結合する相手を受け取り、細胞の応答等へつなぐ分子。
食細胞
対象を取り込んで処理する細胞。好中球やマクロファージ等がある。
食作用
細胞が対象を包み込んで取り込み、処理する働き。
小胞
膜で区切られた小さな細胞内区画。
リソソーム
分解を進める酵素等を持つ、膜で区切られた細胞内の区画。
酵素
化学反応を進みやすくする分子。
補体
体液中の複数のタンパク質群。活性化後に対象への目印、炎症の促進、一部の膜への作用等に関わる。
活性化
成分や細胞が作用する状態へ変化し、反応が進むこと。
溶解
膜が損なわれ、内容物が失われるなどして細胞等が壊れること。
抗原
抗体やT細胞等の特異的な認識の対象となる物質など。
エピトープ
抗原のうち、実際に認識される部分。
抗体
形質細胞が産生する、対応する抗原へ結合する免疫のタンパク質。
抗体の結合部位
対応する抗原に結合する、抗体側の部分。
ペプチド
アミノ酸が短くつながった鎖。
MHC
代表的な抗原提示で、ペプチドを載せて細胞表面に示す分子。
T細胞受容体
T細胞が抗原を認識する受容体。通常のMHCを介するαβT細胞では、MHCとペプチドの組合せを認識する。
αβT細胞
α鎖とβ鎖という二種類のタンパク質の鎖からなるT細胞受容体を持つ、代表的なT細胞。
CD8
代表的にMHCクラスIを介したT細胞の認識を助ける分子。
CD4
代表的にMHCクラスIIを介したT細胞の認識を助ける分子。
MHCクラスI
代表的にCD8陽性T細胞が、提示されたペプチドとともに認識するMHCの区分。
MHCクラスII
代表的にCD4陽性T細胞が、提示されたペプチドとともに認識するMHCの区分。
樹状細胞
抗原を取り込み処理してT細胞へ示すこと等に関わる細胞。
抗原提示
代表例では、処理した抗原ペプチドをMHCに載せて細胞表面へ示し、T細胞が認識できるようにする働き。
補助刺激
抗原の認識に加えて、T細胞の反応を促す働きかけ。
クローン
同じ祖先の細胞から増えた細胞の集団。
クローン選択
抗原に対応する受容体を持つ細胞が選ばれて応答する関係。
免疫寛容
ある抗原に対して免疫の応答が起こりにくい状態。自己への過剰な応答を抑える仕組み等に関わる。
ヘルパーT細胞
他の免疫細胞の働きを調整する代表的なT細胞。
細胞傷害性T細胞
認識した感染細胞等に直接作用する代表的なT細胞。Tc細胞とも呼ばれる。
Tc細胞
細胞傷害性T細胞の呼び名。
形質細胞
B細胞から分化し、抗体を産生する細胞。
液性免疫
抗体などが体液中で作用する、獲得免疫の代表的な経路。
細胞性免疫
細胞傷害性T細胞の標的細胞への作用等、T細胞による獲得免疫の代表的な経路。
中和
抗体の結合によって、侵入や毒素作用等が妨げられる働き。
オプソニン化
抗体や補体等が対象に付着し、食細胞が認識し取り込みやすくなる働き。
メモリーB細胞
同じ抗原への後の応答に関わる、記憶のB細胞。
免疫記憶
同じ抗原への再曝露で典型的に速く強い応答が得られることに関わる、細胞等の変化が残ること。
一次免疫応答
ある抗原への初回の応答。
二次免疫応答
同じ抗原への再曝露に伴う応答。一次/二次リンパ器官の区分とは別の言葉。
洗浄
汚れや付着物等を物理的に取り除くこと。
消毒
病原微生物を減らし又は不活化することを目的とする概念。全ての芽胞を含めた滅菌とは区別する。
滅菌
芽胞を含む全ての微生物を除去又は死滅させ、感染性のあるウイルスも不活化することを目指す概念。
能動免疫
自分の免疫が抗原に応答して、抗体や作用する細胞、記憶等を用意すること。
ワクチン
抗原そのものや抗原を作るための情報等を使い、自分の免疫応答を促して対応する防御や記憶につなぐもの。
受動免疫
別に作られた抗体を受け取り、その抗体を働かせること。受け渡し自体は自分の記憶細胞を作る過程ではない。
感受性
ある病原体による感染が成立しやすい程度など、受け手側の性質。