病理の共通基盤

本文の目次

  1. 正常の関係から変化を読む
  2. 一細胞の大きさと、細胞の数
  3. 小さくなる変化をたどる
  4. 成熟した細胞型の置き換わり
  5. 適応することと、傷害を受けること
  6. ATPと、細胞内の水の調節
  7. 回復し得る傷害と、回復できない傷害
  8. 壊死と、周囲へ漏れる内容物
  9. アポトーシスと、断片を取り込む細胞
  10. 表面の境界と、粘膜での移動
  11. 作られ成熟する場所と、反応する場所
  12. 細胞間の合図と、相手の特徴を示す働き
  13. 感染以外からも始まる炎症
  14. 血流の増加と、壁を越える移動
  15. 白血球の移動と、目的部位での除去
  16. 短い反応と、刺激が続く反応
  17. 細胞の再生と、基質による修復
  18. 基質の蓄積と、元の働き
  19. 細胞の間に増える液体
  20. 押し出す圧と、血管側に保つ力
  21. 壁の透過性と、リンパによる回収
  22. 流入が増えることと、流出が妨げられること
  23. 止血を支える形成と、血流を妨げる形成
  24. 血栓ができる条件を分ける
  25. 作られた場所から、運ばれた先へ
  26. 血流不足と、組織が死ぬ結果
  27. 血管の外へ出る血液
  28. 局所の不足と、全身の灌流不足
  29. 正常の増殖調節と、腫瘍の増殖
  30. 配列の変化から、増殖制御の変化へ
  31. 局在した増殖と、周囲や遠隔へ広がる能力
  32. 境界を越えて、連続する組織へ
  33. 運ばれた先で、再び増殖する

1. 正常の関係から変化を読む

病理では、正常な細胞や組織の構造・働きがどう変わるかを、原因となる条件と結果に分けて考えます。細胞の大きさが変わること、細胞数が変わること、細胞が死ぬことは同じ変化ではありません。細胞を含む組織の変化も、器官全体の働きへつながる段階の一つです。一つの外観だけを、全ての段階が同じという説明に置き換えず、何が変化したかを確かめます。

2. 一細胞の大きさと、細胞の数

肥大は、一つ一つの細胞が大きくなることで、組織や器官の大きさが増す変化です。過形成は、細胞の数が増える変化です。細胞数が同じでも、細胞が大きくなれば組織は大きくなり得ます。反対に、一細胞の大きさが同じでも、数が増えれば組織は大きくなり得ます。肥大と過形成が同時に起こる場合もあるので、器官が大きいという結果だけから、どちらか一方と決めることはできません。

細胞の大きさと細胞数を分ける

同じ基準の細胞集団を上段に置いた比較。中段では細胞数を保って各細胞が大きくなり、下段では各細胞の大きさを保って細胞数が増える。細胞膜と核を持つ細胞の実形で二つの違いを示す。
肥大では一つ一つの細胞が大きくなり、過形成では細胞数が増えます。両方が同時に起こる場合もあり、器官の大きさだけでは区別できません。

3. 小さくなる変化をたどる

萎縮は、細胞が小さくなったり細胞数が減ったりして、組織や器官が小さくなる変化です。使われる機会の減少や供給される栄養などの変化に応じて、生きた細胞の大きさが変わる場合があります。萎縮という名だけで、そこにある全細胞がすでに死んだという意味にはしません。細胞の大きさ、数、生存しているかどうかは、それぞれ別に追います。

4. 成熟した細胞型の置き換わり

化生は、ある成熟した細胞の型が、別の成熟した細胞の型へ置き換わる組織の変化です。幹細胞などの分化の方向が変わることで起こり、持続する刺激への適応に関わる場合があります。新しい型が刺激へ耐える助けになる一方、元の型が担った働きが弱まることもあります。細胞が大きくなる肥大や、数が増える過形成とは変化する点が違います。

分化方向の変化と細胞型の置換

上段は幹細胞から元の成熟した細胞型が生じる関係、下段は刺激に応じて分化方向が変わり別の成熟型が生じる関係。幹細胞からの分化によって生じる成熟細胞の型が変わり、組織の構成が置き換わる。
化生では、幹細胞などの分化方向が変わり、成熟した細胞の型が別の型へ置き換わります。新しい型が刺激への保護に適していても、元の型が担っていた機能が弱まる場合があります。

5. 適応することと、傷害を受けること

細胞は負荷や環境の変化に応じて、構造や働きを調節することがあります。こうした生きた細胞の変化が適応です。細胞が保てる範囲を超える条件では、構造や働きが損なわれる細胞傷害へ進み得ます。酸素や栄養の不足、物理的な力、化学物質などは傷害に関わる条件の例です。同じ原因名でも、強さ、続く時間、細胞の種類や状態によって結果が異なり得ます。適応が起きた記録と、回復できない傷害の記録を同じ段階にしません。

6. ATPと、細胞内の水の調節

細胞のATP供給と、ATPを使う働きは別の過程です。傷害でATP供給が不足すると、ATPを使ってイオンの分布を保つ膜輸送が弱まる場合があります。代表的な経路では、細胞内にNa⁺などがたまり、水が膜を通れる条件で細胞内へ入り、細胞が腫れることへつながります。この細胞内の水の増加を、血管の外で細胞の間に液体がたまることと区別します。全ての傷害が同じ経路や見え方をとるという意味ではありません。

ATP不足と細胞内の水の増加

上段はATPを使用する膜輸送によりNa⁺の分布が調節される細胞。下段はATP供給不足で輸送が弱まり、細胞内にNa⁺が蓄積する。細胞外の水から細胞内へ向かう破線矢印と、大きくなった閉じた細胞膜が、水の流入による膨化を示す。
傷害でATPの供給が不足すると、ATPを使う膜輸送が弱まり、細胞内にNa⁺などがたまりやすくなります。水が通れる条件では水が細胞内へ移動し、細胞が膨れます。これは間質に液体がたまる変化とは区別されます。

7. 回復し得る傷害と、回復できない傷害

原因が除かれ、構造や働きが回復し得る傷害を可逆的傷害といいます。たとえばATP供給や膜輸送が回復すれば、乱れたイオンや水の調節も戻り得ます。一方、傷害が強い、長く続くなどの条件で、膜やエネルギーを作る装置などの重大な障害が回復できなくなると、不可逆的傷害から細胞死へ進みます。膨らんだという外観一つだけから、すでに回復不能だと決めることはできません。原因を除いた後に回復し得る関係と、死へ進む関係を分けます。

傷害から回復する条件と細胞死への分岐

傷害を受けた細胞から二つの条件へ分岐する。左は原因を除き回復可能な場合で、小さく戻った生きた細胞へ進む。右は強い傷害が続き回復できなくなる場合で、細胞死へ進む。原因の除去と回復可能性、傷害の強さと持続がそれぞれの分岐に対応する。
原因が除かれ、ATP供給や膜輸送などを立て直せる傷害では回復できます。強い傷害が長く続き、重要な膜やエネルギーを作る仕組みを回復できなくなると、不可逆的な傷害から細胞死へ進みます。細胞の膨化だけで不可逆とは判断できません。

8. 壊死と、周囲へ漏れる内容物

典型的な壊死では、強い傷害などによって細胞が死に、細胞膜が保たれなくなって内容物が周囲へ漏れます。傷害を受けた細胞由来の物質が合図となり、周囲の血管や防御細胞の反応である炎症に関わる場合があります。炎症へ関わる合図は、微生物由来の物質だけではありません。感染は、微生物の侵入や増殖などに関わる状態です。壊死も感染だけで起こる細胞死ではありません。ここでは膜の障害と内容物の漏出、周囲の反応をつながる別の段階として追います。

9. アポトーシスと、断片を取り込む細胞

アポトーシスは、細胞内の制御された過程によって細胞が死ぬ方式です。細胞が縮み、膜で包まれた断片となり、周囲の細胞やマクロファージなどに取り込まれる経路をとります。マクロファージは、異物や死細胞などを取り込む食作用を担う細胞です。膜で包んだ断片を処理することは、内容物が周囲へ大量に漏れることとは違います。典型的には壊死より周囲の炎症が弱い傾向がありますが、全ての条件で炎症が必ずゼロという意味にはしません。アポトーシスは発生や組織の正常な細胞数調節にも、傷害された細胞の除去にも関わります。正常のときだけに起こる方式ではありません。

膜からの漏出と膜包断片の取り込み

上段は細胞膜に実際の切れ目があり、細胞内容物がその開口から周囲へ漏れる壊死。下段は縮小した細胞から膜で囲まれた断片が生じ、マクロファージに取り込まれる。マクロファージの細胞内にも膜で囲まれた断片が収納され、漏出とは異なる行き先がある。
典型的な壊死では膜を維持できなくなり、内容物が周囲へ漏れ出して炎症反応に関わります。アポトーシスでは細胞が縮み、膜に包まれた断片が周囲の細胞やマクロファージに取り込まれます。後者では通常、強い漏出や炎症が起こりにくくなります。

10. 表面の境界と、粘膜での移動

皮膚の角層は、細胞と細胞間の脂質によって物質を通りにくくする境界を支えます。鼻や気道などの内側を覆う粘膜にも、上皮による境界があります。代表的な気道粘膜では、粘液が異物を捕捉し、細胞表面の細い線毛の動きが粘液を咽頭側へ移すのを助けます。捕捉すること、移動させること、細胞が取り込む食作用は別の働きです。全ての上皮が同じ粘液や線毛を持つわけではなく、肺胞にも同じ線毛の輸送路があるとは考えません。

11. 作られ成熟する場所と、反応する場所

血球を生む造血幹細胞は骨髄にあります。リンパ球のB細胞は主に骨髄で、T細胞は骨髄由来の前駆細胞が胸腺へ移って成熟します。前駆細胞は、後の細胞へ分化する途中にある細胞です。胸腺は胸部にある、T細胞の成熟に関わる器官です。リンパ球の形成や成熟に主に関わる骨髄・胸腺を一次リンパ器官といいます。一方、リンパ節や脾臓などは、成熟したリンパ球が異物の特徴に応じた反応を始める場となる二次リンパ器官です。細胞が作られること、成熟すること、後に反応することは別の段階です。

12. 細胞間の合図と、相手の特徴を示す働き

サイトカインは、細胞間のシグナル伝達に関わるタンパク質の総称です。防御細胞や傷害を受けた組織の細胞などが産生し、周囲の細胞の働きの調節に関わります。IFNはインターフェロン、ILはインターロイキンの略で、サイトカインの例です。合図となる物質があることと、別の細胞が場所を移ることは同じ現象ではありません。マクロファージなどは異物や死細胞の除去に加え、相手の特徴をT細胞へ示す抗原提示にも関わります。抗原は、抗体やT細胞などの特異的な認識の対象となる物質などです。取り込んだという観察だけで、その後の全ての反応が完了したとはしません。

13. 感染以外からも始まる炎症

炎症は、傷害などに対する局所の血管や防御細胞の反応です。微生物由来の物質が合図となる場合に加え、壊死や傷害などで自己の細胞から放出された分子も合図となる場合があります。たとえば、表皮細胞が死んだ後にDNAやATPの放出が観測された記録では、その分子の放出源は自己の細胞です。炎症に関わることを理由に、放出源を微生物へ置き換えることはできません。全ての細胞死が必ず内容物を漏出させ、同じ強さの炎症を起こすという意味でもありません。感染は微生物の侵入や増殖などに関わる状態であり、炎症と同じ範囲の言葉ではありません。

14. 血流の増加と、壁を越える移動

炎症では、局所の小さな血管が拡張し、血液の流入が増える経路があります。血液の流れによる熱の移動などが、赤みや温かさへ関わります。これとは別に、内皮などの境界の透過性が変わり、水や血漿タンパク質が血管外へ移動しやすくなる経路があります。内皮は血管の内腔を覆う細胞の層です。血管の中を流れる量が増えることと、血管壁を越えて成分が出ることを区別します。血漿成分が血管外へ出た記録を、そのまま赤血球を含む血液が外へ出る出血と同一にはしません。

血管内の流量と血管外への移動

上段は拡張した血管の内腔に沿う血流。下段は内皮の境界の間を通り、水や血漿タンパク質が血管外へ進む別の経路。赤血球は血管内にあり、外へ出る水やタンパク質とは異なる。
炎症では局所の血管が拡張し、血液の流入が増える経路があります。それとは別に、内皮などの透過性が変わり、水や血漿タンパク質が血管の外へ移動しやすくなります。血管内を流れる量の増加と、血管壁を越える移動を区別します。

15. 白血球の移動と、目的部位での除去

好中球などの白血球は、合図に応じて血管内から内皮へ付着し、壁を越えて組織へ移動することがあります。化学物質の濃度の違いを手掛かりに、細胞が方向を持って動くことを走化性といいます。ここでは好中球などが合図となる物質のある方へ近づく代表的な働きを追います。目的の場所へ来た細胞が対象を取り込み処理することは食作用です。移動できることだけで取り込みも確認できたとはいえず、取り込めたことだけで血管を越えた移動まで確認できたともいえません。単球が組織へ入りマクロファージへ分化する経路もありますが、全ての組織マクロファージが血中の単球だけから生じるわけではありません。

白血球の移動と対象の取り込み

上段は血管内の好中球が内皮へ付着し、内皮細胞の間を通って組織へ出る段階。中段は化学物質が薄い側から濃い側への移動。下段は細胞内の膜で囲まれた区画に対象が取り込まれた食作用の状態。血管を越える移動と対象の取り込みは別々に対応する。
好中球などは血管内から内皮へ付着し、壁を越えて組織へ移動することがあります。合図となる化学物質の濃度差を手掛かりに近づく働きが走化性です。対象へ来る移動と、対象を細胞内へ取り込む食作用は別の段階です。

16. 短い反応と、刺激が続く反応

急性炎症の代表的な経過では、血管の変化と好中球の反応が目立ちます。刺激や傷害が続く慢性炎症では、単球・マクロファージやリンパ球などの反応と、組織傷害や修復が同時に続く場合があります。単核球は、単球やリンパ球などをまとめて呼ぶ言葉です。急性と慢性は持続だけでなく反応の性質も含めて整理し、ある固定日数を越えれば全て同じ状態という分類にはしません。原因が除かれ、死細胞などが処理されると、反応が弱まり消退へ進む場合があります。消退は、炎症反応が収まっていくことです。

17. 細胞の再生と、基質による修復

失われた実質細胞が、残る細胞や幹細胞の増殖によって補われることを再生といいます。実質細胞は、その器官の主要な働きを担う細胞です。一方、線維芽細胞などが細胞外基質を作り、失われた部分を支える瘢痕性修復へ進む場合があります。修復の途中に、増えた小さな血管や線維芽細胞などを含む肉芽組織ができることもあります。瘢痕は、基質が蓄積し整えられて、元の組織を置き換えた部分です。増殖できる細胞が残るか、細胞を支える基質の足場が保たれるかなどにより、再生と瘢痕性修復の比重は変わります。

18. 基質の蓄積と、元の働き

線維芽細胞は、コラーゲンなどの細胞外基質を産生する細胞です。傷害後に活性化・増殖し、基質が増えて線維化へ関わる経路があります。線維化は、線維性の基質が蓄積して組織の性質が変わることです。たとえば肺胞では、空気と血液の間の壁を通して酸素が移ります。壁に基質が蓄積して厚く硬くなる変化と、血管外へ液体がたまる変化は、いずれも酸素の取り込みに影響し得ますが、別の構造変化です。修復は組織を支える助けになる一方、元の実質の働きが全て元どおりになることを必ず保証するわけではありません。全ての傷害が線維化へ進むとも限りません。

実質細胞の再生と基質による修復

同じ実質の欠損から二つの修復へ分かれる。左は核を持つ実質細胞が補充される再生、右は細胞外の線維性基質が蓄積する瘢痕性修復。下段は線維芽細胞から細胞外基質が産生される関係。基質は実質細胞の細胞内ではなく細胞の外にある。
再生では、失われた実質細胞が細胞の増殖によって補われます。瘢痕性修復では、線維芽細胞などが作る細胞外基質が蓄積し、失われた部分を支えます。残る細胞や足場の状態によって両者の比重が変わり、修復しても元の働きがすべて戻るとは限りません。

19. 細胞の間に増える液体

毛細血管の外で、組織の細胞の間を満たす液体が間質液、組織液とも呼ばれます。浮腫は、この間質に過剰な液体が蓄積する変化です。間質へ入る量と、そこから回収される量のつり合いが崩れると、液体が増える経路があります。間質液の増加は、細胞内に水が入る細胞の腫脹とも、血管の中に血液が多くなることとも場所が違います。どの区画が増えたかを、境界をたどって確かめます。

20. 押し出す圧と、血管側に保つ力

毛細血管内の静水圧は、水を壁の外側へ押し出す方向に関わる圧です。静水圧は液体が及ぼす圧を表します。一方、血管内に保たれやすい血漿タンパク質による膠質浸透圧は、水を血管側へ保つ働きを支えます。たとえば他の条件を保って毛細血管内の圧が高まる場合や、血漿アルブミンが減り血管側へ保つ働きが弱まる場合には、間質に液体が増える経路があります。押す圧とタンパク質による働きは、違う条件です。

21. 壁の透過性と、リンパによる回収

炎症などで血管壁の透過性が変わると、水やタンパク質が血管外へ移動しやすくなる経路があります。外へ出たタンパク質も、水をどちら側へ保つかという条件に関わります。間質に出た液体やタンパク質の一部はリンパ管へ入り、静脈側へ戻ります。リンパの回収が妨げられれば、入る量が同じでも間質に残る量が増え得ます。壁を越える移動とリンパの回収を、別の経路として追います。静水圧、血漿タンパク質、壁の透過性、リンパ回収の複数の変化が重なる場合もあります。

間質液の出入りとリンパ回収

左の毛細血管内には赤血球があり、中央の間質には核を持つ細胞がある。水や成分は血管の壁を越えて細胞の外の空間へ移動する。間質からリンパ管へ入る別の矢印があり、リンパ管の内腔は下の静脈へ連続する。細胞内、間質、血管内、リンパ管内の区画が別にある。
浮腫は、細胞の外の間質に過剰な液体が蓄積する変化です。毛細血管を越える移動と、間質からリンパ管へ入り静脈側へ戻る回収は別の経路です。静水圧、血漿タンパク質、壁の透過性、リンパ回収の変化が、出入りのつり合いに関わります。

22. 流入が増えることと、流出が妨げられること

充血は、局所の動脈側から入る血液が増える変化です。小さな動脈が拡張し、流入が増える経路が代表例です。うっ血は、静脈側へ出る流れが妨げられて血液がたまる変化です。入口から多く入ることと、出口へ出にくくなることは、血液が増えるという結果が共通しても機序が違います。うっ血では毛細血管内の圧が高まり、間質への液体移動へ関わる場合があります。血管内の血液の貯留と、血管外の浮腫はつながり得る別の変化です。

流入が増える充血と流出障害のうっ血

上下とも血液は左の動脈側から中央の局所血管を通り、右の静脈側へ進む。上段は流入が増える充血、下段は右の出口側で流出が妨げられるうっ血。血管内にたまる赤血球と血液の場所は、血管外の浮腫とは区別される。
充血では動脈側から局所へ入る血液が増えます。うっ血では静脈側への流出が妨げられ、血液がたまります。うっ血で毛細血管内の圧が高まると、血管外の間質へ液体が増える浮腫につながる場合があります。

23. 止血を支える形成と、血流を妨げる形成

血栓は、生体の血管内や心腔内で、血小板やフィブリンなどの血液成分が集まってできる塊です。損傷した血管の局所で血小板の反応と凝固が協力することは、止血を支えます。一方、不適切な場所や程度で血栓ができると、血管の内腔を狭くしたり塞いだりして、流れを妨げる場合があります。同じ形成に関わる仕組みでも、損傷部を塞ぐことと、組織へ届く血流を妨げることでは結果が違います。

24. 血栓ができる条件を分ける

血栓の形成には、内皮の傷害などの変化、血流の変化、血液が凝固しやすくなる変化が関わります。内皮の傷害では、血小板の付着や凝固を促す条件が生じる場合があります。流れが遅くなる停滞や、流れが乱れることも、局所に成分がとどまるなどの条件へ関わります。凝固しやすさの変化は、凝固を促す働きと抑える働きのつり合いなどに関わります。三つは別の要因で、重なって働くこともあります。

25. 作られた場所から、運ばれた先へ

塞栓は、血流で運ばれた物質が別の場所で血管を塞ぐことです。血栓の一部が離れて流れ、細い血管などへ到達して閉塞する場合、運ばれた塊を血栓塞栓と呼びます。その場所で形成された血栓と、運ばれてきた物質による閉塞を分けてたどります。塞栓となる物質には脂肪や気体などもあり、全てが血栓由来ではありません。流れで運ばれること、詰まる場所、そこから先の血液供給が変わることは続く段階です。

26. 血流不足と、組織が死ぬ結果

虚血は、組織の必要に対して血流が不足する状態です。血流が減ると、酸素や栄養の供給、不要物の回収が影響を受けます。その不足が強い、長く続くなどの条件で組織が壊死した結果を梗塞といいます。側副血行は、別の血管経路を通る供給です。残る供給や細胞の性質、血流不足の強さと時間によって、傷害の結果は変わり得ます。虚血の時点でまだ回復可能な場合もあり、血流不足と、すでに壊死した組織は別の段階です。

血栓の形成から遠位閉塞と供給不足へ

上段は血管壁についた局所の血栓。中段は離れた塊が血管内の血流とともに移動する。下段は細くなる別の血管で塊が内腔を塞ぐ。その先の血流不足を虚血として分け、強さや持続の条件がある場合の組織壊死を梗塞として続ける。
血栓は、その場所で血液成分が集まって形成されます。一部が離れて血流で運ばれ、別の血管を塞ぐ経路が血栓塞栓です。その先で血流が不足する虚血から、強い・長い不足などの条件で組織が壊死すると梗塞になります。塞栓は血栓以外の物質でも起こり、虚血がすべて直ちに梗塞になるわけではありません。

27. 血管の外へ出る血液

出血は、赤血球を含む血液が血管の外へ出ることです。血管の外という場所が共通しても、主に水や血漿成分が間質へ蓄積する浮腫とは、移動した成分が違います。失う血液の量が増えれば、血管内で循環する量や組織への供給へ影響し得ます。一方、ある場所で出血があるという記録だけでは、全身の循環量や各組織への供給の程度までは分かりません。

28. 局所の不足と、全身の灌流不足

組織を通る血液の供給を灌流といいます。ショックは、全身の組織へ届く有効な灌流が不足し、細胞が必要とする供給を満たせなくなる状態です。送り出す働きの低下、循環する血液量の減少、血流の分配の変化などから、不足へつながる経路があります。局所の血管が閉じた先での虚血と、全身の灌流不足は範囲が違います。血圧は灌流に関わる情報の一つですが、一点の血圧だけでは器官ごとの流れや細胞の供給を決められません。

29. 正常の増殖調節と、腫瘍の増殖

正常な細胞の増殖は、細胞間の合図や細胞自身の状態などによって調節されます。刺激への反応として細胞数が増える過形成では、刺激が弱まると増殖も弱まる場合があります。腫瘍では、増殖の調節などが変化した細胞集団が、正常な組織の関係から外れて増えます。成熟した細胞型が置き換わる化生、細胞数が増える過形成、腫瘍による増殖は、変化する関係が違います。

30. 配列の変化から、増殖制御の変化へ

DNAの配列の変化が、増殖を促す働き、増殖を抑える働き、傷害された細胞を除去する働きなどに影響する場合があります。複数の変化が蓄積し、条件に応じて細胞の集団が増えることへ関わります。一方、DNA配列が変わってもタンパク質の性質が変わらない場合があり、性質が変わることと増殖制御が損なわれることも別の関係です。配列の一か所が変わったという記録だけでは、腫瘍が成立したことまでは示せません。

31. 局在した増殖と、周囲や遠隔へ広がる能力

良性腫瘍は、周囲の組織へ浸潤したり、離れた部位へ転移したりする増殖をとりません。一般には局在して増えます。悪性腫瘍は、周囲組織へ入り込む浸潤や、離れた部位で増殖する転移の能力を持つ増殖です。大きさや増殖速度だけを良悪性の定義にしません。良性でも、できた場所で周囲を圧迫するなど、器官の働きへ影響する場合があります。悪性でも、観察した時点ですでに全てが遠隔へ転移しているとは限りません。

32. 境界を越えて、連続する組織へ

浸潤は、腫瘍細胞が隣接する周囲組織へ入り込むことです。上皮は表面や内面を覆う細胞の組織で、その下の基底膜は薄い細胞外基質の層です。上皮の腫瘍を例にすると、細胞が基底膜を越え、下の間質へ広がることが、境界を越える変化に当たります。元の場所から連続する周囲へ入り込む関係を追うと、離れた場所に新しい増殖病変を作る転移との違いが分かります。

上皮の境界と周囲への浸潤

上下とも上皮細胞の膜が一細胞ずつを囲み、その下に基底膜がある。上段の増殖した細胞は境界内に局在する。下段では基底膜の部分的な切れ目を越えて腫瘍細胞が下の間質へ連続して入り込む。腫瘍細胞の膜と基底膜の線は異なる境界である。
上皮の下にある基底膜は、各細胞の細胞膜とは別の細胞外基質の層です。上皮の腫瘍を例に、基底膜を越えて隣接する間質へ入り込む変化が浸潤です。これは連続する周囲への広がりであり、離れた場所での増殖である転移とは区別されます。

33. 運ばれた先で、再び増殖する

転移では、元の腫瘍の細胞が離れた部位へ到達し、そこで増殖して新たな病変を作ります。代表的な経路では、血管やリンパ管へ入った細胞が流れで運ばれ、別の場所へ出て増殖します。元の場所の病変を原発巣、離れた場所でできた病変を転移巣といいます。細胞が流れで運ばれたという一段階だけと、到達した先で増殖して病変ができることは、続く別の段階です。浸潤は連続する周辺への広がり、転移は離れた場所での増殖という関係で比べます。

運ばれた先での増殖と転移巣

上の原発巣の細胞が血管内へ入り、血流に沿って運ばれる。下の離れた場所では血管の壁を越えて外へ出た細胞が増殖し、新たな細胞集団を作る。最後の増殖した集団が転移巣であり、途中の単一細胞の移動とは区別される。
転移では、原発巣の細胞が離れた部位へ到達し、そこで増殖して転移巣を作ります。血管やリンパ管へ入り、運ばれ、別の場所へ出る段階と、その場所で増殖する段階は別です。管内を移動したという観察だけでは、転移巣が成立したことまでは分かりません。

用語を確かめる

病理
正常から変わった細胞・組織の構造や働きを、その条件や結果との関係で考える分野。
肥大
一つ一つの細胞が大きくなることで、組織や器官が大きくなる変化。
過形成
細胞の数が増える変化。細胞の大きさが増す肥大と区別する。
萎縮
細胞の大きさや数が減り、組織や器官が小さくなる変化。全細胞の死を意味しない。
化生
ある成熟した細胞型が別の成熟した細胞型へ置き換わる組織の変化。
成熟した細胞型
分化して特定の構造や働きを持った細胞の種類。
適応
負荷や環境に応じ、生きた細胞が構造や働きを変えること。
細胞傷害
細胞の構造や働きが損なわれること。強さ・持続時間・細胞側の条件で結果が変わり得る。
可逆的傷害
原因が除かれるなどして、構造や働きが回復し得る傷害。
不可逆的傷害
重大な障害が回復できず、細胞死へ進む傷害。
細胞死
細胞が生存する働きを保てなくなり、死ぬこと。複数の方式がある。
細胞の腫脹
細胞内の水が増えるなどして、細胞が腫れる変化。組織の細胞間の液体蓄積と区別する。
壊死
典型的には膜が保たれなくなり、内容物の漏出と周囲炎症を伴う細胞死。感染に限らない。
アポトーシス
細胞内の制御された過程で死に、膜で包まれた断片が取り込まれる経路をとる方式。正常にも傷害時にも関わる。
炎症
傷害などに対して起こる、局所の血管や防御細胞の反応。感染だけが原因ではない。
内容物の漏出
細胞の中にあった物質が、膜の障害などで周囲へ出ること。
マクロファージ
食作用によって異物や死細胞などを取り込む細胞。
食作用
細胞が対象を取り込み、処理する働き。対象へ移動することと区別する。
ATP
細胞がエネルギーを利用する反応に関わるアデノシン三リン酸。使う働きと再生成は別。
Na⁺
ナトリウムイオン。細胞内外の分布は膜輸送などで保たれる。
膜輸送
細胞膜を越える物質移動。イオン分布を保つためにATPを使う輸送もある。
細胞膜
一つの細胞の内外を区切る境界。上皮の下の基底膜とは別の構造。
幹細胞
自己複製で集団を保ち、分化した細胞を生む出発点となる細胞。
分化
細胞が特定の構造や働きを持つ方向へ進むこと。
細胞外基質
細胞の外にある線維や基質など。細胞内の内容物と区別する。
粘膜
器官の内側などを覆う上皮とその下の組織。部位により構造や働きが違う。
粘液
粘膜表面などの分泌物。代表的な気道では異物を捕捉する働きへ関わる。
線毛
一部の細胞表面にある細い構造。代表的な気道では動いて粘液の移動を助ける。
胸腺
T細胞の成熟に関わる胸部の器官。
前駆細胞
後の細胞へ分化する途中にある細胞。
一次リンパ器官
リンパ球の形成・成熟に主に関わる骨髄や胸腺。
二次リンパ器官
成熟したリンパ球が異物の特徴に応じた反応を始める場となるリンパ節や脾臓など。
B細胞
主に骨髄で成熟するリンパ球。形質細胞へ分化すると抗体産生に関わる。
T細胞
骨髄由来の前駆細胞が胸腺で成熟するリンパ球。反応の調節や標的細胞への作用に関わる。
サイトカイン
細胞間のシグナル伝達に関わるタンパク質の総称。
IFN
インターフェロンの略。サイトカインの例。
IL
インターロイキンの略。サイトカインの例。
抗原
抗体やT細胞などの特異的な認識の対象となる物質など。
抗原提示
相手の特徴をT細胞へ示す働き。食作用とその後の全応答を一つにしない。
感染
微生物の侵入や増殖などに関わる状態。炎症と同じ範囲の言葉ではない。
内皮
血管の内腔を覆う細胞の層。
透過性
境界を、ある物質がどの程度通れるかという性質。
走化性
化学物質の濃度の違いを手掛かりに、細胞が方向を持って動く性質。
好中球
血管壁を越えた移動や食作用に関わる白血球。急性炎症の代表的な反応で目立つ。
単核球
単球やリンパ球などをまとめた呼び方。
急性炎症
代表的には血管の変化や好中球の反応が目立つ炎症の経過。固定日数だけで定義しない。
慢性炎症
刺激が続き、単核球などの反応と傷害・修復が併存する場合のある経過。
消退
炎症反応が収まっていくこと。
再生
失われた実質細胞が、細胞の増殖によって補われること。
実質細胞
器官の主要な働きを担う細胞。
線維芽細胞
コラーゲンなどの細胞外基質を産生する細胞。
瘢痕
基質が蓄積し整えられ、元の組織を置き換えた部分。
瘢痕性修復
線維芽細胞などが作る細胞外基質によって失われた部分を支える修復。
肉芽組織
修復の途中で生じる、小さな血管や線維芽細胞などを含む組織。
線維化
線維性の基質が蓄積して組織の性質が変わること。
間質
組織の細胞の間にある場所。細胞内や血管内と区別する。
間質液
血管の外で組織の細胞間を満たす液体。組織液ともいう。
浮腫
間質に過剰な液体が蓄積する変化。
静水圧
液体が及ぼす圧。毛細血管内の圧は水を壁の外側へ押す方向に関わる。
膠質浸透圧
タンパク質など、境界を通りにくい大きな成分による、水の分布に関わる働き。
アルブミン
血漿タンパク質の一つ。血管側に水を保つ働きに大きく関わり、物質運搬にも関わる。
リンパ回収
間質の液体や成分の一部がリンパ管へ入り、静脈側へ戻る経路。
充血
動脈側から局所へ入る血液が増える変化。
うっ血
静脈側へ出る流れが妨げられ、局所に血液がたまる変化。
血栓
生体の血管内や心腔内で血液成分が集まってできる塊。
凝固
反応が連なり、フィブリン形成へつながる過程。
フィブリン
凝固で形成され、血小板の集まりなどを補強する線維状のタンパク質。
停滞
ここでは血流が遅くなり、局所へ成分がとどまりやすくなる状態。
塞栓
血流で運ばれた物質が別の場所で血管を塞ぐこと。
血栓塞栓
血栓の一部が離れて運ばれ、別の場所で閉塞する場合の塊。
閉塞
通り道が塞がれること。血管ではその先への流れに影響する。
虚血
組織の必要に対して血流が不足する状態。
梗塞
血流不足によって組織が壊死した結果。
側副血行
別の血管経路を通る血液供給。
出血
赤血球を含む血液が血管外へ出ること。
灌流
血液が組織を通り供給されること。
ショック
全身の組織へ届く有効な灌流が不足し、細胞の必要な供給を満たせなくなる状態。
腫瘍
増殖の調節などが変化した細胞集団による異常な増殖。正常な反応性の過形成と区別する。
増殖調節
細胞間の合図や細胞自身の状態などに応じ、細胞が増える働きを制御すること。
良性腫瘍
周囲への浸潤や離れた部位への転移をとらず、一般には局在して増殖する腫瘍。
悪性腫瘍
周囲への浸潤や離れた部位へ転移する能力を持つ腫瘍。全てが観察時点ですでに転移しているとは限らない。
浸潤
腫瘍細胞が連続する周囲組織へ入り込むこと。
転移
元の腫瘍の細胞が離れた場所へ到達し、そこで増殖して新たな病変を作ること。
上皮
体の表面や器官の内面を覆う細胞の組織。
基底膜
上皮の基底側にある薄い細胞外基質の層。各細胞の細胞膜とは別。
原発巣
元の場所にある腫瘍の病変。
転移巣
元の腫瘍から離れた場所へ細胞が到達し、増殖してできた病変。