薬の作用と体内動態の共通基盤

本文の目次

  1. 体内での動きと、生体への作用
  2. 薬が働きかける標的
  3. 届いて結合することと、反応すること
  4. 親和性と内活性
  5. 完全作動、部分作動、拮抗
  6. 可逆的な競合拮抗
  7. 濃度反応曲線の高さと位置
  8. 反応の大きさと、反応した人の割合
  9. 有効反応と有害反応の隔たり
  10. 望ましい効果と、望ましくない反応
  11. 四つの過程と静脈内からの入口
  12. 腸管から門脈と肝臓を経る
  13. 吸収されない分と初回通過
  14. 生体利用率の分子と分母
  15. 到達の速さと到達割合
  16. 血漿タンパク質との可逆的な結合
  17. 総濃度と遊離型の濃度
  18. 体内量と血漿濃度から分布を表す
  19. 親薬物を代謝物へ変える
  20. 代謝後の作用は変換によって異なる
  21. 第一相と第二相の代表反応
  22. CYPと、変換される基質
  23. 酵素の反応を下げる作用と量を増やす変化
  24. 親薬物の消失と、体外への出口
  25. クリアランスは、速さを濃度で割る
  26. 複数の消失経路
  27. 一定割合の消失と、処理能力の限界
  28. 半減期と、分布容積・クリアランス
  29. 入力と消失が釣り合う状態
  30. 濃度時間曲線の三つの指標
  31. 相互作用が変える段階
  32. 阻害と誘導の影響は、経路による
  33. 同じ量、同じ曝露でも差が生じる理由

1. 体内での動きと、生体への作用

薬物動態は、薬が吸収され、血液や組織に分布し、代謝され、排泄される過程で、体内の量や濃度がどう変わるかを扱います。この四過程を英語の頭文字でADMEと呼びます。薬力学は、薬が生体の標的に働きかけ、どんな反応を起こすかを扱います。投与した量、ある時点の血漿中の濃度、反応の大きさは、それぞれ別の観測量です。同じ量を投与しても体内での動きが違えば濃度が異なり、同じ濃度でも標的や下流の状態が違えば反応が異なることがあります。

2. 薬が働きかける標的

受容体は分子からの信号を受け取り、下流の反応につなぎます。酵素は化学反応を触媒します。イオンチャネルは膜を通るイオンの通り道、輸送体は物質を膜の一方から他方へ移すタンパク質です。薬はこれらの働きを増やしたり、妨げたりすることで作用できます。受容体への作用、酵素反応の阻害、チャネルの開閉や通過への作用、輸送の阻害は、変化させる働きが異なります。薬の全てが受容体を作動させるわけではありません。

3. 届いて結合することと、反応すること

薬が標的のある場所へ届くこと、標的に結合すること、その後の反応は別の段階です。受容体に結合しても、同じ作動反応を起こさず、他の分子の作用を妨げる場合があります。選択性とは、指定した条件の濃度で、複数の標的への作用の強さが異なることです。ある濃度では一つの標的への作用が目立っても、濃度が高くなると別の標的への作用が現れることがあります。選択性は、どんな濃度でも一つの標的だけに作用するという意味ではありません。

4. 親和性と内活性

親和性は、薬と受容体の結合しやすさに関わる性質です。内活性は、結合した薬が受容体を作動させる能力に関わる性質です。結合しやすいことと、結合後に大きな反応を起こすことは同じではありません。実際に測られる反応は、受容体の数や下流の仕組みにも左右されます。二つの薬の作用を比較するときは、同じ受容体、同じ標本、同じ測定条件をそろえます。

5. 完全作動、部分作動、拮抗

同じ受容体系の測定で、十分な濃度の完全作動薬が起こせる最大反応に対し、部分作動薬はそれより小さい最大反応を示します。拮抗薬は受容体に結合して作動薬の作用を妨げますが、それ自体では同じ作動反応を起こしません。部分作動薬にも作動作用がありますが、完全作動薬と同じ結合部位を競い、完全作動薬が占める受容体の一部を置き換えると、全体の反応を下げる場合があります。単独での作動作用と、完全作動薬と一緒にあるときの影響を分けて考えます。

受容体への結合と反応

三段は同じ受容体系と測定条件の比較。膜を貫く受容体の結合部位へ薬が結合する方向は横の実線矢印。完全作動薬と部分作動薬では受容体から下方へ破線の反応経路が続き、十分な濃度での最大反応が異なる。拮抗薬は結合部位に結合するが、自身の作動反応を起こさない。
薬と受容体の結合しやすさは親和性、結合後に受容体を作動させる能力は内活性に関わります。同じ受容体系と測定条件では、十分な濃度の完全作動薬は大きい最大反応、部分作動薬はそれより低い最大反応を示します。拮抗薬は結合しても自身の同じ作動反応を起こさず、作動薬の作用を妨げます。反応量は占有分子数だけで決まりません。

6. 可逆的な競合拮抗

作動薬と可逆的競合拮抗薬が同じ受容体の結合部位を競う、平衡に達した理想的な模型を考えます。拮抗薬の濃度を一定にすると、同じ反応を起こすには、拮抗薬がないときより高い作動薬濃度が必要です。十分に作動薬濃度を高くすると、同じ最大反応に達することができます。濃度反応曲線では、最大反応を保った右方移動として表されます。異なる部位への作用や不可逆的な結合などによる拮抗は、この模型と同じ変化になるとは限りません。

7. 濃度反応曲線の高さと位置

段階的反応では、一つの標本で薬の濃度を変え、収縮の大きさなどの反応量を測ります。横軸は薬の濃度、縦軸は反応の大きさです。その測定系で到達する最大反応をEmax、その薬の最大反応の半分を生じる濃度をEC50と呼びます。同じ反応を得るために必要な濃度が低い薬は、その反応に対する効力が高いと表現します。一方、最大反応の大きさは別の比較です。最大反応が異なる薬を比べるときは、どの反応量を比べているかを明示します。EC50は反応の指標であり、受容体の結合を測る解離定数KDと必ず同じ値になるわけではありません。

各薬自身の最大反応とEC50

上下の曲線は同じ反応尺度の仮想比較。上の完全作動薬のEmaxと、下の部分作動薬のより低いEmaxを横線で示す。各薬自身の半最大の高さから曲線へ横線を引き、その交点の濃度をEC50として縦線で濃度軸へ結ぶ。
曲線の濃度と反応は仮想尺度です。段階反応の横軸は一つの標本に与える濃度、縦軸はその標本の反応の大きさです。Emaxはその薬の最大反応、EC50はその薬自身のEmaxの半分を起こす濃度です。完全作動薬と部分作動薬で最大反応が違うと、EC50を決める反応の高さも異なります。効力は同じ反応水準を起こす濃度で比較し、最大反応の大きさとは分けます。EC50は受容体への結合だけを表すKDとは異なります。

可逆競合による濃度曲線の移動

濃度を横軸、反応を縦軸とする二つの仮想曲線。実線は作動薬のみ、広い破線は一定濃度の可逆競合性拮抗薬がある条件。破線は同じ反応の高さで右側にあり、両曲線は同じ最大反応に近づく。
曲線の濃度と反応は仮想尺度です。同じ結合部位を可逆的に競う平衡の理想模型では、拮抗薬の濃度を一定にすると、同じ反応を起こすために高い作動薬濃度が必要になります。十分な作動薬濃度では元と同じ最大反応に近づきます。この右方移動を、最大反応そのものが低下することとは分けます。

8. 反応の大きさと、反応した人の割合

有無反応の模型では、集団の各個体が指定した反応を示したか、示さなかったかを数えます。横軸は投与量、縦軸は指定した反応を示した個体の割合です。ED50は、その集団の50%が指定した有効反応を示す投与量です。TD50は、50%が指定した有害反応を示す投与量です。一つの標本の反応が最大の半分になる濃度EC50とは、測る反応も、分母も、横軸の量も異なります。集団の50%という割合を、一人の反応の大きさが50%という意味へ置き換えることはできません。

標本の反応と集団の割合

上段は濃度に応じた一つの標本の反応曲線。下段は同じ判定条件の仮想4対象を番号で分け、2対象で反応あり、2対象で反応なし。反応した2を全対象4で割り、集団の割合50%を得る。
上段の曲線の濃度と反応は仮想尺度です。段階反応は、一つの標本の反応の大きさを濃度に対して測ります。有無の反応は、指定した反応を各対象で「あり・なし」と判定し、反応した人数を全対象で割った割合を投与量に対して表します。下段は仮想の4対象の例で、2対象が反応すれば50%です。集団の50%が反応することは、一人の反応が半分の強さになることとは異なります。

9. 有効反応と有害反応の隔たり

同じ集団・観測条件で得たTD50をED50で割った比を、治療指数と呼びます。仮想的にED50が2投与量単位、TD50が10投与量単位なら、比は5です。比が大きいほど、ED50に対するTD50の相対的な隔たりが大きいことを示します。どの有効反応と有害反応を測るかで指標は変わります。集団の比だけから、個人に安全な投与量を決めたり、その量で有害反応が起きないと保証したりはできません。

同じ集団のED50・TD50と治療指数

投与量を横軸、指定した反応を示した対象の割合を縦軸とする同集団の仮想二曲線。有効反応の実線は50%で投与量2、有害反応の破線は50%で投与量10に対応する。TD50の10をED50の2で割り比5を得る。
同じ集団と測定条件で、指定した有効反応が50%に現れる投与量がED50、指定した有害反応が50%に現れる投与量がTD50です。治療指数はTD50をED50で割ります。仮想例のED50が2単位、TD50が10単位なら比は5です。この集団指標だけで一人の安全な量や副作用が起きない量は決まりません。

10. 望ましい効果と、望ましくない反応

薬が標的の働きを変えた結果、目的に合う効果が生じる一方、同じ部位や別の部位で望ましくない反応が生じることもあります。ある作用が望ましいかどうかは、使用する目的との関係で決まります。薬の使用後に起きた好ましくない出来事を有害事象と呼びます。有害事象という記録だけでは、薬が原因だと確定したことにはなりません。薬との関連が疑われる、又は否定できない有害な反応を副作用として扱います。時間的に後で起きたことと、薬の作用によって起きたことを区別します。

11. 四つの過程と静脈内からの入口

吸収は投与した場所から薬が血液へ入る過程、分布は血液と組織の間を薬が移る過程です。代謝では薬の化学的な構造が変わり、排泄では薬やその代謝物が体外へ出ます。これらをADMEと呼びます。経口投与は口から薬を取り入れる方法で、消化管から血液へ入る吸収が必要です。静脈内投与では薬を静脈の血液へ直接入れるため、投与部位から血液への吸収過程を経ません。その後には分布、代謝、排泄が起こり得ます。

12. 腸管から門脈と肝臓を経る

経口薬の代表経路では、消化管の内腔にある薬が腸管上皮を越え、腸壁の血液へ入ります。腸壁からの血液は門脈を経て肝臓へ流れ、肝臓を出た血液が全身側へ戻ります。全身循環は、心臓と全身の組織を巡る血液の循環です。薬が上皮細胞へ入ったこと、腸壁の血液へ出たこと、全身循環へ達したことは、それぞれ異なる段階です。膜通過には薬の性質や輸送体などが関わり、腸管に存在した量がそのまま全量血中へ入るとは限りません。

13. 吸収されない分と初回通過

経口投与した薬の一部は、消化管の内腔で分解されたり、吸収されずに残ったりします。吸収に向かう薬も、腸管壁や肝臓で代謝され、元の化学構造のまま全身循環へ届く量が減ることがあります。全身循環へ達する前に腸管壁や肝臓で受けるこうした代謝が初回通過代謝です。代謝で化学構造が変わる前の薬を未変化体と呼びます。腸管から入った量と、未変化体として全身へ到達した量を分けると、不完全な吸収と初回通過代謝の寄与を追えます。

14. 生体利用率の分子と分母

生体利用率Fは、投与した薬の量のうち、未変化体として全身循環へ到達した量の割合です。Fは「未変化体の全身到達量÷投与量」で表します。同じ量の単位を使うのでFには単位がなく、0から1の割合、または百分率で表せます。静脈の血液へ薬の全量を直接入れる静脈内投与を基準にするとFは1です。経口投与などでは、吸収されない分や全身循環へ達する前の代謝によって、Fが1より小さくなることがあります。Fは、腸管上皮へ入った量だけを投与量で割った値ではありません。

経口の経路と全身への到達割合

上段左は内腔から実上皮を横切る吸収方向と、腸壁の血液から門脈を下り肝臓を経て右の全身循環へ上る連続血管。右上の静脈内投与の薬は、上皮や肝臓を経ず右の全身側血管へ直接入る。実線は物質の移動。肝臓の内側で、親の分子から付加部分のある別分子へ破線の代謝変換が進む。下段のFは未変化体の全身到達量を投与量で割る。
経口薬は消化管の内腔から上皮を越え、腸壁の血液、門脈、肝臓を経て全身循環へ達します。吸収されずに残る分や、腸管壁・肝臓で代謝される分があるため、未変化体の全身到達量は投与量より少なくなることがあります。生体利用率Fの分母は投与量、分子は未変化体の全身到達量です。静脈内投与は静脈の血液へ直接入るため、吸収過程を経ず、全量を直接入れる基準ではFは1です。

15. 到達の速さと到達割合

吸収の速さは薬がどのくらいの時間で血中へ入るか、生体利用率は投与量のうち未変化体で全身へ達する割合を示します。同じ投与量で最終的な全身到達量が等しくても、短時間に入る場合と長い時間をかけて入る場合では濃度の時間経過が異なり得ます。早く血中へ入ったという観察だけでは、最終的な到達割合が大きいとは決まりません。速さと割合は別に確かめます。

16. 血漿タンパク質との可逆的な結合

薬は血漿中で、アルブミンなどのタンパク質に結合した結合型と、結合していない遊離型として存在し得ます。多くの血漿タンパク結合は可逆的で、薬は結合したり離れたりします。代表的には遊離型が血液から組織へ移り、標的へ結合できる薬物として利用されます。糸球体では、通常血管側に保たれる大きな血漿タンパク質に結合したままの薬より、小さな遊離薬物が濾液へ移りやすくなります。遊離型が移動すると結合型の一部が離れ、新たな遊離型を供給することがあります。

17. 総濃度と遊離型の濃度

総血漿濃度は、血漿中の結合型と遊離型を合わせた薬物濃度です。遊離割合は、そのうち遊離型が占める割合で、遊離型濃度は総血漿濃度に遊離割合を掛けて求められます。同じ総血漿濃度でも遊離割合が違えば、遊離型濃度は異なります。組織への移行には遊離型の供給に加え、血流、膜を通れる性質、組織側への結合なども関わります。結合割合の違いだけから、全身の反応の大きさや投与量の変更を決めることはできません。

18. 体内量と血漿濃度から分布を表す

見かけの分布容積Vdは、同じ時点の体内薬物量を血漿薬物濃度で割った値です。例えば量をmg、濃度をmg/Lで表すと、Vdの単位はLになります。体内量が同じで、組織側へ多く分布して血漿濃度が低い場合、Vdは大きくなります。Vdは、観測した血漿濃度と体内量を対応づける見かけの体積で、血液の実際の体積や一つの解剖学的な空間を測った値ではありません。薬の組織への結合や移行によって、大きな値をとることがあります。

可逆的な結合と組織への分布

左の血管内には大きいタンパク質に結合した薬と、結合していない薬がある。二つの上下矢印が結合と解離を別向きに結ぶ。遊離薬物のある位置から、血管境界を越えて右の組織側へ向かう矢印と逆向きの矢印がある。下段は体内薬物量を血漿薬物濃度で割るVdの式。
血漿タンパク質への結合と解離は可逆的です。代表的には遊離型が血管から組織へ移り、組織側から血管内へ戻ることもあります。遊離型が移動すると、結合型の一部が離れて遊離型を供給できます。同じ時点の体内薬物量を血漿薬物濃度で割った見かけの分布容積Vdは、組織への分布も反映する指標で、血液や一つの解剖学的な空間の実体積ではありません。

19. 親薬物を代謝物へ変える

代謝される元の薬を親薬物、代謝でできる物質を代謝物と呼びます。肝臓は薬物代謝の主要な場の一つで、腸管壁やほかの組織も関わります。酵素は親薬物などの基質を化学的に変え、代謝物を生じます。代謝物がまだ体内にあれば、化学的変換は起こっていても、その物質が体外へ出る排泄は完了していません。代謝と排泄を分けて追います。

化学変換と体外への排泄

上段は体内で親薬物から代謝物へ破線の化学変換が進み、下側の酵素が変換を助ける。酵素自身は親薬物や代謝物へ変わる経路に入らない。右の体内・体外の境界を、下段の代謝物が実線矢印に沿って越えて体外へ出る。
酵素は親薬物を化学的に変え、代謝物を生じます。代謝物が体内に残っている間は、変換が起きても体外への排泄は完了していません。排泄は未変化体や代謝物が体外へ出る過程です。酵素による変換と、物質が体内の境界を越える移動を分けて追います。

20. 代謝後の作用は変換によって異なる

代謝で親薬物の作用が失われることを失活と呼びます。一方、代謝物自体が薬理作用を持つ場合や、有害な作用を持つ場合もあります。プロドラッグは、投与した段階では作用が弱い、またはない前駆体が、体内での変換によって作用する活性体になる薬です。作用を持つ親薬物が失活する変換と、前駆体から活性体を生じる変換では、代謝の増減が作用へ及ぼす方向が異なり得ます。

21. 第一相と第二相の代表反応

第一相には酸化、還元、加水分解などの反応が含まれます。酸化と還元は電子の受け渡しに関わる変換で、加水分解は水を使って化学的な結合を切る反応です。第二相の代表は抱合で、体内の別の分子を薬やその代謝物に結び付けます。こうした変換で水へ溶けやすくなり、排泄につながる場合がありますが、変換後の性質や作用は反応によって異なります。薬がそのまま抱合される場合もあり、第一相の次に第二相を必ず通る一つの順路ではありません。

22. CYPと、変換される基質

CYPはシトクロムP450と呼ばれる酵素群で、薬物などの代謝反応、とくに多くの酸化反応に関わります。反応によって化学構造が変わる薬物などが基質で、反応を助けるCYPは酵素です。酵素が基質へ変わって消費されることとは異なります。薬によって関わる酵素は異なり、薬物代謝の全反応をCYPだけが担うわけではありません。

23. 酵素の反応を下げる作用と量を増やす変化

酵素阻害は、酵素による反応を下げる作用です。酵素誘導は、酵素の産生などを通して機能する酵素量が増える変化で、反応の能力を高めることがあります。同じ基質を親薬物から代謝物へ変える過程で、阻害はその変換を進みにくくし、誘導は変換を進める能力を増やす方向に働き得ます。酵素量が増えるには時間がかかる場合があります。変換が失活なのか活性化なのかも、作用への結果を考えるときに分けます。

24. 親薬物の消失と、体外への出口

血中の親薬物は、代謝で別の物質へ変わる場合にも、未変化体のまま尿などへ排泄される場合にも減ります。代謝による親薬物の消失と、物質が体外へ出る排泄を区別します。腎では、血側から尿細管腔側への濾過と分泌、腔側から血側へ戻る再吸収が、尿中へ出る薬物量に関わります。通常の糸球体の濾過では、血漿タンパク質に結合していない遊離薬物が濾過される代表的な部分です。肝で変換された物質が血中へ戻り、後に腎から出る場合も、胆汁を経て腸管側へ出る場合もあります。

25. クリアランスは、速さを濃度で割る

クリアランスCLは、薬物が消失する速度を、同じ薬物の血漿濃度で割った指標です。消失速度の単位が量/時間、濃度の単位が量/体積なら、CLの単位は体積/時間になります。これは、その薬物を全て除いたことに相当する血漿の等価体積であり、血漿全体がそのまま体外へ出るという意味ではありません。腎クリアランスでは尿中排泄速度を使いますが、尿そのものの体積/時間とは別です。仮想物質Xの排泄速度が24量単位/分、血漿濃度が3量単位/mLなら、腎CLは8mL/分です。同じ一定CLでも、濃度が高いほど消失量/時間は大きくなります。

腎の濾過・分泌・再吸収

左は糸球体と尿細管周囲の血側、右は濾液と尿細管腔の連続する空間。上段の遊離薬物は血側から濾液側へ濾過され、大きなタンパク質に結合した薬は左にある。下段では分泌が血側から腔側、再吸収が腔側から血側へ向かう。腔内を下る矢印が尿への方向に続く。
腎では、糸球体の血側から濾液への濾過、尿細管周囲の血側から腔側への分泌、腔側から血側へ戻る再吸収が、尿中へ出る薬物量に関わります。通常の濾過では、小さな遊離薬物が移りやすく、大きな血漿タンパク質に結合したままの薬は血側に保たれます。腎クリアランスCLは、その物質の尿中排泄速度を血漿濃度で割った指標で、尿そのものの流量とは異なります。

26. 複数の消失経路

全身クリアランスは、親薬物が腎、肝などの経路で消失する全体の速度を、親薬物の血漿濃度で割った指標です。一定条件の線形模型では、経路ごとのクリアランスの寄与を合わせて考えられます。親薬物を失活させる代謝が主な経路なら、その代謝が遅くなると親薬物の消失も遅くなります。未変化体の尿中排泄が主な経路なら、排泄の変化が親薬物の消失に関わります。同じ入力と他の条件を保つと、主な失活代謝又は排泄が遅くなる場合、親薬物が体内に残りやすくなり、濃度が高く保たれやすく、薬物の濃度と時間に関わる血中曝露が増えます。腎や肝という臓器名だけから、その薬で代謝と排泄のどちらが主な経路かを決めることはできません。

27. 一定割合の消失と、処理能力の限界

新しい薬物の入力が止まり、見かけの分布容積とクリアランスが一定の単純な線形模型では、消失速度は濃度に比例します。これを一次消失と呼び、等しい時間ごとに残っている量の一定割合が減ります。量が大きい時期には、同じ割合でも減る量が大きくなります。一方、処理する酵素などの能力が飽和すると、濃度に比例して処理速度を増やせず、単位時間に減る量がほぼ一定になる場合があります。これを一定量の消失として比較します。実際の薬の時間経過が全て一つの模型に従うわけではありません。

28. 半減期と、分布容積・クリアランス

半減期は、指定した条件で薬の血中濃度が半分になるまでの時間です。入力がなく、一定の分布容積Vdと一定のCLを持つ単純な一次消失模型では、等しい半減期ごとに濃度は半分、四分の一、八分の一と減ります。半減期は、薬が全てなくなるまでの時間ではありません。この模型ではt1/2=ln2×Vd/CLで、ln2は約0.693という定数です。同じVdならCLが小さいほど半減期は長く、同じCLならVdが大きいほど半減期は長くなります。分布の途中や消失条件が変わる場合へ、この式をそのまま当てはめることはできません。

一定割合の消失と半減期

横軸は一つの半減期を1とする仮想時間、縦軸は最初を1とする血漿濃度。入力のない一定Vd・CLの曲線は、等間隔の時点で1、1/2、1/4、1/8へ下がる。
入力がなく、VdとCLが一定の単純な一次消失模型では、等しい半減期ごとに濃度は半分、四分の一、八分の一へ減ります。同じ割合でも、残っている量が多い時期ほど減る量は大きくなります。処理能力が飽和して一定時間にほぼ同じ量が減る場合とは区別します。この一定条件では半減期はln2×Vd/CLで、全てがなくなるまでの時間ではありません。

29. 入力と消失が釣り合う状態

一定の線形条件で薬物を繰り返し入力すると、前の入力分が残っているうちに次の入力が加わり、体内量が蓄積します。定常状態では、一周期当たりの入力量と消失量が釣り合い、平均の体内量がそれ以上増えなくなります。一定速度で連続入力する模型では、入力速度と消失速度が釣り合う濃度へ近づきます。一定間隔で反復入力する模型では、定常状態になっても周期内の濃度の山と谷は残ります。平均の収支が釣り合うことは、どの時点でも同じ濃度になることとは別です。

反復入力の蓄積と平均の釣り合い

一定間隔の各入力直後に上がり、その間は一次消失で下がる仮想濃度曲線。前半は前の入力の残存分に次が加わり、後半は同じ範囲の山と谷へ近づく。一周期の入力と消失が釣り合う平均条件を、周期内の変動と分ける。
一定の線形条件で、前の入力分が残る間に次の入力が加わると体内量が蓄積します。定常状態では一周期当たりの入力量と消失量が釣り合い、平均の体内量がそれ以上増えなくなります。一定間隔の反復入力では、その状態でも周期内の濃度の山と谷が残ります。平均の収支の釣り合いは、どの時点でも同じ濃度になることとは異なります。

30. 濃度時間曲線の三つの指標

横軸を時間、縦軸を血漿濃度とする曲線で、最高濃度をCmax、その最高濃度へ達する時刻をTmaxと呼びます。AUCは、この濃度時間曲線の下の面積で、血中曝露を表す指標です。単位は濃度×時間です。仮想曲線を高さ5濃度単位、幅2時間単位の長方形で近似すれば、面積は10濃度時間単位です。最高濃度が低くても長く濃度が保たれる曲線では、最高濃度が高く短い曲線と同じAUCになることがあります。ピーク、到達時刻、全期間の面積は別の観測量です。

最高濃度・到達時刻・曲線下面積

横軸の時間と縦軸の血漿濃度の仮想曲線。最高点から縦軸へ水平線がCmax、時間軸へ縦線がTmaxを対応する。曲線と時間軸の間の塗り領域がAUC。
濃度時間曲線の最高濃度がCmax、最高濃度へ達する時刻がTmaxです。AUCは曲線の下の面積で、血中曝露を表し、単位は濃度×時間です。最高濃度が低くても長く濃度が保たれる曲線では、高く短い曲線と同じAUCになることがあります。高さ、時刻、全期間の面積を別に測ります。

31. 相互作用が変える段階

ある薬の影響で、他の薬の吸収、分布、代謝、排泄が変わり、体内量や濃度時間経過が変化することを薬物動態学的相互作用と呼びます。標的や下流の働きなど、作用する側の関係が変わることを薬力学的相互作用と呼びます。血中濃度に変化がなくても、同じ標的や別の標的への作用が重なり、反応が強まったり弱まったりすることがあります。相互作用のどの段階が変わったかを、濃度の観測と反応の観測を分けてたどります。

32. 阻害と誘導の影響は、経路による

親薬物が主に一つの酵素で失活し、入力や他の消失経路が一定の模型を考えます。その酵素が阻害されると、親薬物の消失が遅くなり、同じ入力では親薬物の曝露が増えます。酵素が誘導され、反応できる酵素量が増えれば、逆に親薬物の消失が速まり、曝露が減ります。一方、代謝によって活性体を作る必要がある場合には、酵素の阻害で活性体の生成が減ることがあります。親薬物の濃度だけでなく、どの物質が反応を起こし、どの経路で作られ、除かれるかが関わります。

33. 同じ量、同じ曝露でも差が生じる理由

消失に関わる臓器の機能、酵素の性質や量、血漿タンパク結合、組織への分布が違うと、同じ投与量でも濃度時間経過が異なることがあります。酵素の性質には遺伝的な違いが関わる場合もあります。一方、受容体の数や下流の応答の違いは、同じ曝露でも反応の大きさを変えます。同じ量を与えた比較ではまず曝露の違いを分け、同じ曝露の比較では標的と下流の違いを分けて考えます。年齢や一つの値だけで、投与量の変更や中止を決めることはできません。

用語を確かめる

薬物動態
吸収、分布、代謝、排泄による薬の体内量や濃度の変化。
薬力学
薬が生体の標的に作用し、反応を起こす関係。
ADME
吸収Absorption、分布Distribution、代謝Metabolism、排泄Excretionの頭文字。
投与量
生体に投与する薬の量。血漿濃度や反応の大きさとは別の量。
血漿濃度
血漿の単位体積当たりに含まれる薬の量。
標的
薬が働きかける受容体、酵素、チャネル、輸送体など。
受容体
分子からの信号を受け取り、下流の反応へつなぐ分子。
酵素
化学反応を触媒する分子。
イオンチャネル
膜を通るイオンの通り道を作るタンパク質。
輸送体
膜の一方から他方へ物質を移すタンパク質。
選択性
指定した濃度や条件で、複数の標的への作用の強さが異なる性質。
親和性
薬と受容体の結合しやすさに関わる性質。
内活性
結合した薬が受容体を作動させる能力に関わる性質。
作動薬
受容体に結合して、その受容体の作動反応を起こす薬。
完全作動薬
同じ受容体系の測定で、十分な濃度により基準となる最大反応を起こす作動薬。
部分作動薬
同じ受容体系の測定で、十分な濃度でも完全作動薬より小さい最大反応を起こす作動薬。
拮抗薬
受容体の作動薬による作用を妨げ、自らは同じ作動反応を起こさない薬。
可逆的競合拮抗
作動薬と拮抗薬が同じ結合部位を可逆的に競う関係。理想的平衡模型では作動薬濃度を増やすと同じ最大反応に達しうる。
濃度反応曲線
薬の濃度と、指定した条件の反応の大きさを対応させる曲線。
段階的反応
一つの標本で、濃度などに応じて反応の大きさが連続的に変わることを測る反応。
Emax
指定した測定系で薬が到達する最大反応。
EC50
段階的濃度反応で、その薬の最大反応の半分を生じる濃度。
効力
指定した反応を得るのに必要な濃度や用量に関する性質。低い量で同じ反応を得る場合に高いと表現する。
KD
結合を表す解離定数。反応を測るEC50と自動的に同じ値にはならない。
有無反応
指定した反応の有無を各個体で判定し、集団のうち反応した割合を測る反応。
ED50
指定した集団・条件で、50%が指定した有効反応を示す投与量。
TD50
指定した集団・条件で、50%が指定した有害反応を示す投与量。
治療指数
同じ集団・条件で得たTD50/ED50。集団の有効反応と有害反応の用量指標の隔たりを表す。
有害事象
薬の使用後に起きた好ましくない出来事。薬との因果関係が確定していることを要求しない。
副作用
薬との関連が疑われる、又は否定できない有害な反応。
吸収
投与した場所から薬が血液へ入る過程。
分布
薬が血液と組織の間を移る過程。
代謝
薬の化学構造を変え、代謝物を生じる過程。
排泄
薬やその代謝物が体外へ出る過程。
経口投与
口から薬を取り入れる投与方法。
静脈内投与
薬を静脈の血液へ直接入れる投与方法。吸収過程を経ず全身循環へ入る。
全身循環
心臓と全身の組織を巡る血液の循環。
門脈
消化管壁などからの血液を肝臓へ運ぶ静脈。
初回通過代謝
全身循環へ到達する前に、薬が腸管壁や肝臓で受ける代謝。
未変化体
代謝で化学構造が変わる前の薬。
生体利用率
投与量のうち、未変化体として全身循環へ到達した量の割合。Fで表す。
血漿タンパク結合
薬がアルブミンなどの血漿タンパク質に結合すること。多くは可逆的に結合と解離が起こる。
結合型
血漿タンパク質などに結合している薬物。ここでは血漿中の状態を指す。
遊離型
血漿中でタンパク質に結合していない薬物。
総血漿濃度
血漿中の結合型と遊離型を合わせた薬物濃度。
遊離割合
血漿中の薬物のうち遊離型が占める割合。
見かけの分布容積
同じ時点の体内薬物量を血漿薬物濃度で割った値。Vdで表し、体積の単位を持つ。
親薬物
代謝を受ける元の薬物。
代謝物
薬物などが代謝によって化学的に変わって生じた物質。
失活
ここでは、代謝によって薬の薬理作用が失われること。
プロドラッグ
体内での変換によって作用する活性体を生じる、作用が弱い、またはない前駆体として投与される薬。
第一相
酸化、還元、加水分解などを含む薬物代謝反応の群。
第二相
体内の別の分子を薬やその代謝物へ結び付ける抱合などを含む薬物代謝反応の群。
抱合
体内の別の分子を薬やその代謝物へ結び付ける反応。
CYP
シトクロムP450と呼ばれる酵素群。薬物などの多くの酸化反応に関わる。
基質
酵素による反応で化学的に変換される物質。
酵素阻害
酵素による反応を下げる作用。
酵素誘導
酵素の産生などを通して機能する酵素量が増える変化。
消失
親薬物が代謝で別物質へ変わることや、体外へ排泄されることにより減る過程。
消失速度
単位時間当たりに消失する薬物量。
クリアランス
消失速度/血漿濃度で表す、血漿の等価体積/時間の指標。略号CL。
腎クリアランス
尿中の物質排泄速度を、その物質の血漿濃度で割った等価血漿体積/時間。尿流量とは別。
全身クリアランス
親薬物の全消失速度を親薬物の血漿濃度で割った指標。
線形薬物動態
指定条件で、消失速度が濃度に比例するなど、量や濃度に比例した関係を持つ薬物動態。
一次消失
一定の線形条件で、等しい時間ごとに残存量の一定割合が消失する関係。
半減期
指定した条件で、薬の血中濃度が半分になるまでの時間。
ln2
2の自然対数で、約0.693という定数。一定Vd/CLの一次消失模型の半減期の式に用いる。
定常状態
指定した反復又は連続入力で、平均入力速度と平均消失速度が釣り合う状態。反復入力の周期内には濃度変動が残りうる。
蓄積
前の入力分が残っている間に次の薬物が加わり、体内量が増えること。
濃度時間曲線
時間と血漿薬物濃度を対応させる曲線。
Cmax
指定した濃度時間曲線の最高濃度。
Tmax
指定した濃度時間曲線で最高濃度へ達する時刻。
AUC
濃度時間曲線下面積。単位は濃度×時間で、血中曝露の指標。
曝露
薬が生体に存在する濃度と時間に関わる状態。AUCは血中曝露を表す一つの指標。
薬物動態学的相互作用
他の薬のADMEに影響し、体内量や濃度時間経過を変える相互作用。
薬力学的相互作用
標的や下流の働きなど、薬の作用側の関係を変える相互作用。