骨格筋の収縮の基盤
本文の目次
- 三つの筋を分けて読む
- 一本の筋線維は一個の細胞
- 筋節の部品と境界
- 部品の長さと全体の短縮
- 神経から筋へ渡す場所
- 終板の局所変化と筋の活動電位
- 表面の電位変化を奥へ伝える
- Ca²⁺でも出発点が違う
- 新しい刺激が止まることと回収
- Ca²⁺が相互作用を許す
- 架橋は結合と離脱を繰り返す
- 弛緩にもATPが関わる
- 使うATPと補充するATP
- 電位の波と力の波
- 運動単位と参加する数
- 同じ参加者でも時間で力が重なる
- 力が出ても長さは一通りではない
- 全体が一定でも内部は別
- どの段階まで確かめたか
1. 三つの筋を分けて読む
筋組織には骨格筋・心筋・平滑筋がある。骨格筋と心筋には横縞状の模様である横紋があり、平滑筋にはない。骨格筋は通常、意思による運動に関わるが、心筋と平滑筋の活動を同じように直接意思で操作するわけではない。横紋の有無と意思による調節は別の分類なので、横紋があるだけで骨格筋とは決められない。ここからは正常な骨格筋の収縮を読む。骨格筋でCa²⁺がトロポニンに結合するしくみを、そのまま平滑筋など全ての筋へ当てはめない。
2. 一本の筋線維は一個の細胞
筋全体は多数の筋線維を含む。典型的な成熟骨格筋の筋線維は、細長く伸びた一個の細胞で、多くの核を持つ。その細胞の中に並ぶ細い束が筋原線維で、一本の筋線維に多数ある。筋原線維の長さに沿って、同じ基本構造の筋節が繰り返し連なる。筋全体の中に筋線維、その中に筋原線維、筋原線維の長さに沿って筋節という順で、大きさと配置を分ける。筋原線維や筋節を、それぞれ独立した筋細胞とは呼ばない。
3. 筋節の部品と境界
筋節はZ線から隣のZ線までの区間で、サルコメアともいう。その中にある細いフィラメントの主成分はアクチン、太いフィラメントの主成分はミオシンである。フィラメントは細長いタンパク質の構造で、細胞ではない。細いフィラメントはZ線に結び付き、太いフィラメントと重なる部分を持つ。ミオシンの頭部がアクチンと相互作用して力を生むときの結合を、架橋と呼ぶ。
筋の中を拡大
4. 部品の長さと全体の短縮
筋節が短くなる滑走の模型では、細いフィラメントと太いフィラメント自体の長さはほぼ保たれ、互いの位置が変わる。Z線の間隔が狭まり、重なりが増える。短くなった区間と、その中の部品の長さを同じものとして読まない。力を発生していても、外からの負荷や固定条件によって筋全体の長さが変わらない場合もある。滑走による短縮の記録を、全ての力発生が必ず短縮するという意味には広げない。
部品は縮まず滑る
5. 神経から筋へ渡す場所
運動ニューロンは筋へ運動の情報を伝える神経細胞で、骨格筋との連絡部位を神経筋接合部という。活動電位が神経の終末へ到着すると、終末の電位依存性Ca²⁺チャネルが開き、細胞外液から終末内へCa²⁺が入る。Ca²⁺はカルシウムイオンで、この流入が小胞からのアセチルコリン放出を促す。アセチルコリン(ACh)は、ここで神経から筋へ情報を渡す伝達物質である。神経終末と筋細胞の間には細胞外の間隙があり、二つの細胞質は一続きではない。
6. 終板の局所変化と筋の活動電位
神経に向き合う筋側の膜の領域を終板という。AChが筋側のニコチン性ACh受容体へ結合すると、受容体のイオン通路が開き、通常の条件では局所的な脱分極である終板電位が生じる。終板電位は大きさが変わり得る局所の変化で、筋の活動電位そのものではない。周囲の筋膜が発火できる状態で、この入力が開始に必要な閾値へ達すると筋の活動電位が生じる。膜の外側でのAChの結合から情報が伝わるので、ACh分子が筋の内部や筋節まで進むことを必要とする説明ではない。
神経から筋への連絡
7. 表面の電位変化を奥へ伝える
筋の活動電位は筋細胞表面の膜を伝わり、横行小管(T管)の膜にも伝わる。T管は細胞膜が内部へ入り込んだ構造で、その内腔は細胞外液につながる。これに対し、筋小胞体(SR)は筋細胞の中にある膜で囲まれた区画で、内腔にCa²⁺を蓄える。T管の内腔とSRの内腔は別の区画である。典型的な正常骨格筋では、T管の膜電位の変化に連なるしくみにより、SRのCa²⁺放出通路が開き、Ca²⁺がSR内腔から筋の細胞質へ移る。電気的な連絡とCa²⁺の移動を分けて追う。
8. Ca²⁺でも出発点が違う
神経終末で放出を促すCa²⁺は、神経の外液から神経終末内へ入る。一方、筋の収縮に向けて放出されるCa²⁺は、筋のSR内腔から筋の細胞質へ出る。同じイオン名でも、細胞・境界・出発点と行き先が違う。神経に入った一つのCa²⁺が、そのまま筋へ渡り筋節まで走るという経路ではない。神経のACh放出や筋膜の活動電位までを観測しても、未観測のSRからの放出や、その後の架橋の力を全て確認したとはいえない。
9. 新しい刺激が止まることと回収
間隙のAChはアセチルコリンエステラーゼという酵素により分解され、筋側への刺激が終わる。刺激の終了、筋の活動電位の終了、SRからの新たなCa²⁺放出の停止は、既に筋の細胞質にあるCa²⁺が戻り終わったこととは別である。Ca²⁺の回収には別の輸送が必要になる。情報の到着が終わった時点と、細胞内で応答を終える時点を分けて読む。
10. Ca²⁺が相互作用を許す
骨格筋では、筋の細胞質に増えたCa²⁺が薄いフィラメント側のトロポニンへ結合する。これによりトロポミオシンの位置が変わり、アクチンとミオシンが相互作用しやすくなる。Ca²⁺は相互作用を調節する側で、頭部の各段階に必要なATPを置き換えるものではない。Ca²⁺の条件と、ミオシン頭部のATPを使う過程がそろって、正常な周期が進む。
Caで薄い側が変わる
11. 架橋は結合と離脱を繰り返す
ATPは細胞のエネルギーの受渡しに関わる分子である。アクチンへ強く結合したミオシン頭部には、新しいATPが結合すると離脱が起きる。離れた頭部で、そのATPを水との反応で分解する加水分解が次の力発生へ向けた準備に関わる。薄いフィラメント側の条件が整うと、準備された頭部が再びアクチンへ結合し、力を発生する過程へ進む。その後、新しいATPが結合して再び離れる。この一周の中で、ATPの結合による離脱と、加水分解による準備と、再結合後の力発生を入れ替えない。ATPの結合だけが、直ちに引く動作そのものになるわけではない。
同じ頭部の一周
12. 弛緩にもATPが関わる
筋の細胞質にあるCa²⁺は、ATPを使う回収ポンプによってSR内腔へ戻る。細胞質のCa²⁺濃度が低下すると、薄いフィラメント側の調節が休止側へ戻り、力を生む相互作用が減る。筋が能動的な力を弱めていく弛緩にもATPが関わる。ATPを使ったという記録だけで、必ず力が増したと判断しない。SRからの新たな放出が止まっても、既存のCa²⁺の回収を省けるわけではない。
T管と別のCaの袋
13. 使うATPと補充するATP
ATPを分解して使うことと、ATPを再生成して補充することは別である。最初にあるATPの量が有限なら、使い続けるには補充も関わる。グルコースや脂肪酸はエネルギーの材料になる栄養物質だが、その分子自体をATPとして数えるわけではない。ATPを作る経路はミトコンドリア内だけでなく、細胞質基質にもある。ここでは特定の経路の全反応や消費個数を暗記するのでなく、使用と再生成の役割を分ける。
14. 電位の波と力の波
一回の有効な刺激に応じて、機械的な力が上がって下がる応答を単収縮という。筋膜の活動電位は電位差の記録で、単収縮は力の記録である。通常の骨格筋では、活動電位とその不応期は、この機械的な力の応答より短い。不応期は同じ膜が再発火しにくい、またはできない期間を指す。必要なチャネルが回復すれば、先の力が残るうちに次の活動電位が起こり得る。まだ回復していない膜を、任意に再発火させられる意味ではない。時刻と単位を確かめ、短い電位の記録と長い力の記録を別々に読む。
15. 運動単位と参加する数
通常の力を生む骨格筋線維を外錘筋線維という。一個のα運動ニューロンと、それが支配する全ての外錘筋線維の組合せが運動単位である。α運動ニューロンは、これらの筋線維を支配する運動ニューロンの一種を指す。一つの筋全体には複数の運動単位がある。新しい運動単位を活動に加えることを動員という。同じ単位が単位時間に発火する回数である頻度や、一個の活動電位の大きさとは別の変化になる。
16. 同じ参加者でも時間で力が重なる
同じ筋線維群、同じ一回の力応答、同じ動員数を比べると、十分な弛緩の前に次の有効な刺激が来れば、残る力に次の応答が加わり得る。これが機械的な力の時間的加重である。ニューロンの局所電位の加重とは、記録する量が違う。力が大きいことから、一個の活動電位のピークが高くなった、参加する運動単位が増えたと決められない。力の応答には限界もあるので、頻度を上げれば無条件・無制限に力が増えるという則ではない。
電位と力は別の記録
動員と頻度を分ける
17. 力が出ても長さは一通りではない
収縮は、筋が能動的な力を生むことを含む。筋全体の長さを一定に保って力を生むのが等尺性収縮、短くなりながら力を生むのが短縮性収縮、外力に抵抗して力を生みながら伸びるのが伸張性収縮である。筋が伸びたという長さの記録だけで、活動のない受動的な伸びと同じとは決められない。逆に、能動的な活動がないと確認された筋にも、弾性による受動的な力が生じ得る。長さと能動的な活動をそれぞれ確かめる。
18. 全体が一定でも内部は別
筋全体の長さが一定という測定は、全ての内部構造が動いていないという測定ではない。筋節の配置や、筋の力を骨へ伝える腱などの弾性部分が変化して、全体の長さが保たれることもある。全体の条件と、各部品の記録を分ける。等尺性という言葉だけから、全ての筋節、筋線維、腱の長さがそれぞれ一切変わらないとは保証しない。
19. どの段階まで確かめたか
神経終末への到着、ACh放出、終板電位、筋の活動電位、筋の細胞質Ca²⁺、架橋の相互作用、外に示される力は、連なる別々の段階である。一段階の成功から、未記録の全ての段階の成功を付け足さない。力の大小や短縮だけで、未観測のCa²⁺量、ATPの状態、原因を一つへ決めることもできない。比べる筋線維群、参加数、刺激間隔、測定する長さや量をそろえ、記録されたことと未確認のことを分ける。
用語を確かめる
- 横紋
- 骨格筋と心筋に見られる横縞状の模様。横紋の有無と意思による調節は別の分類。
- 筋線維
- 典型的な成熟骨格筋では、細長い一個の多核の細胞。筋全体や、その中の筋原線維とは別。
- 筋原線維
- 筋線維内に多数ある細い束。長さに沿って筋節が繰り返す。
- 筋節(サルコメア)
- 筋原線維のZ線から隣のZ線までの区間。
- フィラメント
- 筋節で相互作用する細長いタンパク質構造。細い側の主成分はアクチン、太い側はミオシン。
- 架橋
- 筋の力発生に関わる、ミオシン頭部とアクチンの相互作用による結合。
- 滑走
- 筋節の短縮時に、ほぼ同じ長さの細い/太いフィラメントが相対的に位置を変えること。
- 神経筋接合部
- 運動ニューロンと骨格筋の連絡部位。二つの細胞質が連続する場所ではない。
- アセチルコリン(ACh)
- 正常な骨格筋の神経筋接合部で、神経終末から筋へ情報を渡す伝達物質。
- 終板
- 神経終末に向き合う筋側の膜の領域。
- 終板電位
- 正常な骨格筋の終板でACh受容体の作用により生じる、局所の段階的な脱分極。筋の活動電位とは別。
- ニコチン性ACh受容体
- 筋の終板でAChの結合によりイオン通路を開く受容体。
- 横行小管(T管)
- 筋の細胞膜が内部へ入り込んだ構造。内腔は細胞外液につながり、筋小胞体内腔とは別の区画。
- 筋小胞体(SR)
- 筋細胞内の膜で囲まれた区画。内腔へCa²⁺を蓄え、細胞質への放出と回収に関わる。
- Ca²⁺
- カルシウムイオン。神経終末への外液からの流入と、筋のSRから細胞質への放出は別の移動。
- トロポニン
- 骨格筋の薄いフィラメント側でCa²⁺を受け、相互作用の調節に関わるタンパク質。
- トロポミオシン
- 薄いフィラメント側にあり、位置の変化がアクチンとミオシンの相互作用の調節に関わるタンパク質。
- 加水分解
- 水との反応による分解。筋の架橋周期ではATPの加水分解が次の力発生へ向けた頭部の準備に関わる。
- 弛緩
- 筋が能動的な力を弱めていくこと。Ca²⁺の回収などにATPも関わる。
- 単収縮
- 一回の有効な刺激に応じた、機械的な力の上昇・低下の応答。活動電位の電位記録とは別。
- 不応期
- 活動電位の後などに、同じ膜が再発火しにくい、またはできない期間。
- 運動単位
- 一個のα運動ニューロンと、それが支配する全ての外錘筋線維の組合せ。
- 外錘筋線維
- 通常の力を生む骨格筋線維。
- 動員
- 新しい運動単位を活動に加えること。同じ単位の発火頻度増加とは別。
- 力の時間的加重
- 十分な弛緩の前に次の有効な刺激が来て、残る力に次の機械的な応答が加わること。
- 等尺性収縮
- 筋全体の長さを一定に保ちながら能動的な力を生むこと。全内部構造の不変までは保証しない。
- 短縮性収縮
- 短くなりながら能動的な力を生むこと。
- 伸張性収縮
- 外力に抵抗しながら伸び、能動的な力を生むこと。
- 受動的な力
- 能動的な力発生と分けた、弾性などによる力。