上皮の両面をつなぐ正常な糖輸送

本文の目次

  1. 糖が通る場所を分ける
  2. 一つの上皮細胞に異なる面がある
  3. 濃度と正味の移動を見る
  4. Naの駆動には電位差も関わる
  5. 直接使うエネルギーと、勾配を介したエネルギー
  6. 側底側のポンプがNaの分布を保つ
  7. 頂端側でNaと糖を一緒に取り込む
  8. 側底側では糖自身の勾配を使って出す
  9. 両方の膜をつなぐと吸収の向きが分かる
  10. 取り込み、組織への排出、血液への移動を追う
  11. 細胞内にある糖と、これから入る糖
  12. 同じ期間の出入りで細胞内量を追う
  13. 短い期間に保たれる二つの駆動
  14. ポンプ停止後は、時点ごとに駆動を読む
  15. 残る量を読むには、始めと期間をそろえる

1. 糖が通る場所を分ける

グルコースはブドウ糖とも呼ばれ、細胞がエネルギーを得る材料となる糖です。小腸や尿細管の内側の空間を管腔と呼びます。その壁を覆う上皮は、密に並んだ細胞の層です。一つの細胞は細胞膜で囲まれています。管腔のグルコースが体の内側へ進むとき、上皮細胞内に入ることと、細胞から出ることを順に追います。上皮の外側にある細胞どうしのすき間の領域が間質で、そこから細い血管である毛細血管の壁を越える段階もあります。細胞膜を越えた記録と、血液に入った記録は別の場所の移動を表します。

2. 一つの上皮細胞に異なる面がある

管腔に向く面を頂端側、上皮を下から支える基底膜に向く面を基底側、隣の細胞に接する面を側面といいます。基底側と側面を合わせた領域を側底側と呼びます。このように面によって構造や働きが違う性質が極性です。基底膜は細胞の外の薄い支持層で、細胞を囲む細胞膜とは異なります。隣り合う上皮細胞の密着結合は、細胞の間を物質が通る経路を制限し、膜の面の区別にも関わります。通りやすさは部位と物質によるので、細胞の間を通る経路も、細胞内を通る経路と分けて考えます。

上皮の両面と、血管までの境界

管腔から頂端膜を越え細胞内、側底膜、間質へ進む細胞内経路と、隣接細胞間の経路を分ける。基底膜は細胞外の支持層。間質から血液へ進む際には別の毛細血管壁を越える。
管腔から頂端膜を越え、細胞内、側底膜、間質へ進む経路を追います。細胞の間を通る経路は別で、通りやすさは物質と部位に依存します。基底膜は細胞の外の支持層で、血液へはさらに毛細血管壁を越えます。

3. 濃度と正味の移動を見る

濃度は、ある体積の液に物質がどれだけ含まれるかを表します。場所による濃度の違いを濃度勾配と呼びます。グルコースのように電荷を持たない物質が膜を受動的に移動するとき、同じ温度や圧力のもとで、高濃度側から低濃度側へ正味の移動が生じます。正味とは、一方向に移る量から逆方向に移る量を差し引いたものです。膜タンパク質に物質が結合し、タンパク質の形の変化を利用して運ばれる経路があります。このタンパク質が担体です。物質の勾配に沿って担体を使う移動は促進拡散といい、物質自身の勾配に沿う受動輸送に含まれます。担体があるだけでは移動の向きは決まらず、膜の両側の条件を確かめます。

4. Naの駆動には電位差も関わる

Na⁺はナトリウムイオン、K⁺はカリウムイオンで、どちらも正の電荷を持ちます。イオンを動かす働きには、濃度差に加えて電位差が関わります。電位差は、膜の内外で電気的な状態が違うことを表します。濃度差と電位差を合わせて考える駆動力が電気化学的勾配です。Na⁺の濃度差と電位差が、外側から細胞内へ進む向きに十分な駆動をつくっていると、通れる経路を介してNa⁺が内側へ移れます。一方、中性のグルコースの移動は、グルコース自身の濃度条件を別に読みます。Na⁺の駆動が保たれていることだけで、糖の出口の濃度差まで決まるわけではありません。

5. 直接使うエネルギーと、勾配を介したエネルギー

ATPはアデノシン三リン酸という物質で、その分解に伴うエネルギーを細胞のさまざまな働きに利用します。ATP分解を直接利用して物質をその勾配に逆らって運ぶ輸送は、一次性能動輸送の例です。これに対し、二次性能動輸送は、別のイオンなどが勾配に沿って動くエネルギーを利用して、運ぶ物質をその物質自身の勾配に逆らって動かします。通り道となるタンパク質、直接の駆動、駆動を保つ働きを順に分けると、ATPを使う場所と、勾配を使う場所を追えます。促進拡散は運ぶ物質の勾配に沿うため、同じ担体による移動でも二次性能動輸送とは働きが違います。

6. 側底側のポンプがNaの分布を保つ

糖の吸収を担う代表的な上皮では、側底側の細胞膜にNa⁺/K⁺ポンプがあります。このポンプはATPを使い、Na⁺を細胞の外へ、K⁺を細胞の内へ運びます。Na⁺を外へ運び続ける働きが、細胞内のNa⁺を低く保つことにつながります。濃度差と電位差が組み合わさり、頂端側からNa⁺が細胞内へ進む駆動を支えます。ポンプがつくる分布と、別の膜タンパク質を介してNa⁺が戻る移動はつながっています。ATPを直接使うのはこのポンプの輸送で、ポンプが糖を直接運ぶわけではありません。

7. 頂端側でNaと糖を一緒に取り込む

頂端側には、Na⁺とグルコースを同じ向きに取り込むNa⁺・グルコース共輸送体があります。共輸送とは、ある物質の移動を別の物質の移動と結びつける仕組みです。この経路では、Na⁺が管腔側から細胞内へ、内向きの電気化学的勾配に沿って進むエネルギーを利用します。その駆動が十分な条件では、グルコースをグルコース自身の濃度勾配に逆らって取り込めます。これは二次性能動輸送です。共輸送体自身が直接ATPを分解するのではなく、側底側のポンプが保つNa⁺の駆動が、頂端側の糖の取り込みを支えています。

8. 側底側では糖自身の勾配を使って出す

細胞に入ったグルコースは、側底側のグルコース輸送体を介して間質側へ移れます。GLUTと呼ばれるこの担体による移動は促進拡散です。細胞内の糖濃度が間質側より高い条件では、正味の糖移動は細胞内から間質側へ向きます。この段階の駆動は糖自身の濃度差で、頂端側のNa⁺の駆動とは別に確かめます。担体は条件に応じて両方向の移動を可能にするため、側底側にあるという位置だけで常に外向きとは決まりません。糖の濃度条件が逆になれば、正味の向きも変わり得ます。

9. 両方の膜をつなぐと吸収の向きが分かる

管腔に糖が供給され、Na⁺の内向き駆動が十分あり、細胞内の糖濃度が間質側より高いとき、頂端側の共輸送と側底側の促進拡散がつながります。頂端側ではNa⁺の勾配を利用して糖を取り込み、側底側では糖の勾配に沿って糖を出します。二つの膜で、同じグルコースが異なる仕組みで運ばれます。側底側のNa⁺/K⁺ポンプは、糖の出口となる担体とは別にNa⁺の分布を保ちます。管腔、細胞内、間質を順に追い、それぞれの膜で何が通り、何が駆動するかを対応させると、糖が上皮を越える経路を説明できます。

ポンプが支える、頂端側の糖取り込み

側底膜のNa/KポンプがATPを利用しNaを外へKを内へ運ぶ。Na分布の維持が頂端側の内向き電気化学駆動を支え、共輸送で糖を糖自身の勾配に逆らって取り込める。物質移動と駆動の支持を別に追う。
側底膜のNa⁺/K⁺ポンプがATPを使ってNa⁺を外へ、K⁺を内へ運び、細胞内Na⁺を低く保ちます。濃度差と電位差によるNa⁺の内向き駆動が十分な条件では、頂端側の共輸送が糖を糖自身の濃度差に逆らって取り込めます。

10. 取り込み、組織への排出、血液への移動を追う

小腸では、管腔にある吸収可能な糖が上皮を越えて体の内側へ進みます。腎では、尿細管の管腔にある糖が再吸収され、血液側へ戻る経路につながります。糖を細胞内へ取り込んだこと、側底側から間質へ出したこと、その後に血管壁を越えたことを順に分けます。一か所の移動を確かめた記録は、その場所の働きを示します。上皮全体を通る量を調べるには、入口と出口の移動、細胞内に残る量を対応させます。物質によっては細胞の間を通る経路もあるため、糖の代表的な細胞内経路を、上皮を通る全物質の仕組みに広げずに使います。

糖の出口と、その先の血管壁

細胞内の糖濃度が間質より高い条件では、側底膜のGLUTによる促進拡散で糖が間質へ出る。これはNaの駆動とは別の糖自身の濃度差による。間質から血液へはさらに別の血管壁を越える。条件が逆なら正味の向きも変わる。
細胞内の糖濃度が間質側より高い条件では、側底膜のGLUTによる促進拡散で糖が間質へ出ます。この駆動はNa⁺の駆動と別の、糖自身の濃度差です。糖の条件が逆なら正味の向きも変わり得ます。間質から血液へ進む移動は、さらに別の血管壁での記録です。

11. 細胞内にある糖と、これから入る糖

観察を始める時点で、上皮細胞内にもグルコースがあるとします。頂端側から入る糖と、側底側から間質へ出る糖は、この細胞内の糖につながります。側底側を通る糖には、その瞬間に管腔から入った糖だけでなく、前から細胞内にある糖も含まれます。細胞への取り込み、細胞内にある量、間質へ出た量を、それぞれの場所と時点に対応させて追います。

12. 同じ期間の出入りで細胞内量を追う

細胞内へ入る移動を流入、細胞内から出る移動を流出と呼びます。同じ期間の出入りの差が収支です。糖が細胞内で新たに作られず、代謝による消費もなく、ほかの経路を通る移動もない場合、細胞内量の変化は、その期間に入った量から出た量を差し引いて求められます。代謝とは、物質を作ったり分解したりする細胞内の反応で、糖はその反応で消費されることもあります。出入りだけを比べるときは、このような反応の有無も確かめます。細胞内の液体積が一定なら、糖の量の変化は濃度の変化にもつながります。

13. 短い期間に保たれる二つの駆動

管腔へ糖が供給され、頂端側ではNa⁺が内向きに進む駆動を十分持ち、側底側では細胞内の糖濃度が間質側より高い状態を考えます。頂端側で糖を糖自身の濃度差に逆らって取り込むには、Na⁺の移動から得られる駆動が必要です。一方、側底側で糖を間質へ出す駆動は、糖自身の濃度差です。糖の移動に伴って細胞内の量や濃度が変わっても、短い期間には、両方の駆動の向きと、取り込みを支えるNa⁺の駆動の強さが保たれる場合があります。この期間の移動を考えるときは、通れる経路と、その経路で働く駆動を別々に確かめます。

14. ポンプ停止後は、時点ごとに駆動を読む

Na⁺/K⁺ポンプが止まっても、停止前にできたNa⁺の分布がその瞬間にすべて消えるわけではありません。直後に十分な内向き駆動が残っていれば、共輸送体はそれを利用できます。その後、Na⁺の駆動が弱まり、糖を糖自身の濃度差に逆らって取り込むのに足りなくなると、その逆濃度の取り込みは支えられなくなります。側底側では、これとは別に糖の濃度差を読みます。細胞内に糖があり、その濃度が間質側より高く、糖の担体が通せる状態なら、糖は促進拡散で間質へ出られます。Na⁺の駆動の変化と、糖自身の駆動による移動は、同じ時点でも分けて追えます。

15. 残る量を読むには、始めと期間をそろえる

糖の移動を比較するには、観察を始めたときの細胞内量、管腔からの供給、通れる経路、膜の両側の駆動、観察期間をそろえて考えます。細胞内での糖の生成や消費、別の経路による出入りがあれば、細胞内量の収支にも加わります。移動の向きが分かることと、一定期間にどれだけ移ったかを知ることは別です。具体的な量を求めるには、その期間の流入量と流出量などの記録が必要になります。

観察時点と、細胞内の糖の収支

ポンプ停止後のNa駆動の時間条件と、独立した糖の出口の条件を上段で読む。細胞内に糖があり、外向きの糖駆動と通れるGLUTが保たれれば糖は間質へ出られる。下段は同期間の細胞内量の収支。生成や消費や他経路がなければ量の変化は流入量から流出量を差し引く。
ポンプ停止直後にNa⁺の駆動が十分残る場合と、後に逆濃度の糖取り込みを支えられなくなる条件を分けます。糖自身の側底側濃度差と通れる出口は別に確かめます。同期間に生成・消費・他経路がなければ、細胞内量の変化は流入量から流出量を差し引きます。

用語を確かめる

グルコース
ブドウ糖とも呼ばれる糖。細胞がエネルギーを得る材料の一つ。
管腔
小腸や尿細管など、管状の構造の内側の空間。
上皮
体の表面や器官の内面を覆う、密に並んだ細胞の層。部位に応じて吸収などを担う。
細胞膜
一つの細胞を囲み、細胞内と外を分ける膜。
間質
組織の細胞どうしの間にある領域。細胞外の液や支持する成分がある。
頂端側
管腔を覆う上皮細胞で、管腔に向く面。
基底側
上皮細胞で、基底膜に向く面。
側底側
上皮細胞の基底側と側面を合わせた領域。
極性
一つの細胞で、面によって構造や働きが違う性質。
基底膜
上皮の基底側にある薄い細胞外の支持層。細胞膜とは場所と構造が違う。
密着結合
隣接する上皮細胞の間の経路を制限し、膜の面の区別にも関わる接着構造。
濃度
ある体積の液に、ある物質がどれだけ含まれるかを表す量。
正味の移動
一方向へ移る量から逆方向へ移る量を差し引いた移動。
担体
物質を結合し、形の変化を利用して膜を越えて運ぶタンパク質。
促進拡散
膜タンパク質を利用し、運ぶ物質の勾配に沿って進む受動輸送。
Na⁺
正の電荷を持つナトリウムイオン。
K⁺
正の電荷を持つカリウムイオン。
電位差
膜の内外などで、電気的な状態が違うことを表す差。
電気化学的勾配
イオンの移動に働く、濃度差と電位差を合わせた駆動。
ATP
アデノシン三リン酸。分解に伴うエネルギーを細胞の働きに利用する物質。
一次性能動輸送
エネルギーを直接利用して物質をその勾配に逆らって運ぶ輸送。ATP分解を直接使う輸送はその例。
二次性能動輸送
別のイオンなどが勾配に沿って動くエネルギーを利用し、物質をその物質自身の勾配に逆らって運ぶ輸送。
Na⁺/K⁺ポンプ
ATPを使ってNa⁺を細胞外へ、K⁺を細胞内へ運び、分布を維持する膜タンパク質。
共輸送
ある物質の移動を、別の物質の移動と結びつけて運ぶ仕組み。
Na⁺・グルコース共輸送体
代表的な吸収上皮の頂端側にあり、Na⁺の内向き駆動を利用して糖を取り込む輸送体。
GLUT
グルコースを促進拡散で運ぶ担体。正味の向きは糖の両側条件に依存する。
再吸収
腎で、尿細管の管腔から上皮などを経て、成分が血液側へ戻る過程。
流入
ある場所へ物質が入る移動。ここでは上皮細胞内への糖の移動を指す。
流出
ある場所から物質が出る移動。ここでは上皮細胞内から間質側への糖の移動を指す。
収支
同じ期間に入った量と出た量の差。生成や消費がある場合は、その量も合わせて考える。
代謝
細胞内で物質を作ったり分解したりする反応。糖が消費される反応も含む。