上皮の両面をつなぐ正常な糖輸送
本文の目次
- 糖が通る場所を分ける
- 一つの上皮細胞に異なる面がある
- 濃度と正味の移動を見る
- Naの駆動には電位差も関わる
- 直接使うエネルギーと、勾配を介したエネルギー
- 側底側のポンプがNaの分布を保つ
- 頂端側でNaと糖を一緒に取り込む
- 側底側では糖自身の勾配を使って出す
- 両方の膜をつなぐと吸収の向きが分かる
- 取り込み、組織への排出、血液への移動を追う
- 細胞内にある糖と、これから入る糖
- 同じ期間の出入りで細胞内量を追う
- 短い期間に保たれる二つの駆動
- ポンプ停止後は、時点ごとに駆動を読む
- 残る量を読むには、始めと期間をそろえる
1. 糖が通る場所を分ける
グルコースはブドウ糖とも呼ばれ、細胞がエネルギーを得る材料となる糖です。小腸や尿細管の内側の空間を管腔と呼びます。その壁を覆う上皮は、密に並んだ細胞の層です。一つの細胞は細胞膜で囲まれています。管腔のグルコースが体の内側へ進むとき、上皮細胞内に入ることと、細胞から出ることを順に追います。上皮の外側にある細胞どうしのすき間の領域が間質で、そこから細い血管である毛細血管の壁を越える段階もあります。細胞膜を越えた記録と、血液に入った記録は別の場所の移動を表します。
2. 一つの上皮細胞に異なる面がある
管腔に向く面を頂端側、上皮を下から支える基底膜に向く面を基底側、隣の細胞に接する面を側面といいます。基底側と側面を合わせた領域を側底側と呼びます。このように面によって構造や働きが違う性質が極性です。基底膜は細胞の外の薄い支持層で、細胞を囲む細胞膜とは異なります。隣り合う上皮細胞の密着結合は、細胞の間を物質が通る経路を制限し、膜の面の区別にも関わります。通りやすさは部位と物質によるので、細胞の間を通る経路も、細胞内を通る経路と分けて考えます。
上皮の両面と、血管までの境界
3. 濃度と正味の移動を見る
濃度は、ある体積の液に物質がどれだけ含まれるかを表します。場所による濃度の違いを濃度勾配と呼びます。グルコースのように電荷を持たない物質が膜を受動的に移動するとき、同じ温度や圧力のもとで、高濃度側から低濃度側へ正味の移動が生じます。正味とは、一方向に移る量から逆方向に移る量を差し引いたものです。膜タンパク質に物質が結合し、タンパク質の形の変化を利用して運ばれる経路があります。このタンパク質が担体です。物質の勾配に沿って担体を使う移動は促進拡散といい、物質自身の勾配に沿う受動輸送に含まれます。担体があるだけでは移動の向きは決まらず、膜の両側の条件を確かめます。
4. Naの駆動には電位差も関わる
Na⁺はナトリウムイオン、K⁺はカリウムイオンで、どちらも正の電荷を持ちます。イオンを動かす働きには、濃度差に加えて電位差が関わります。電位差は、膜の内外で電気的な状態が違うことを表します。濃度差と電位差を合わせて考える駆動力が電気化学的勾配です。Na⁺の濃度差と電位差が、外側から細胞内へ進む向きに十分な駆動をつくっていると、通れる経路を介してNa⁺が内側へ移れます。一方、中性のグルコースの移動は、グルコース自身の濃度条件を別に読みます。Na⁺の駆動が保たれていることだけで、糖の出口の濃度差まで決まるわけではありません。
5. 直接使うエネルギーと、勾配を介したエネルギー
ATPはアデノシン三リン酸という物質で、その分解に伴うエネルギーを細胞のさまざまな働きに利用します。ATP分解を直接利用して物質をその勾配に逆らって運ぶ輸送は、一次性能動輸送の例です。これに対し、二次性能動輸送は、別のイオンなどが勾配に沿って動くエネルギーを利用して、運ぶ物質をその物質自身の勾配に逆らって動かします。通り道となるタンパク質、直接の駆動、駆動を保つ働きを順に分けると、ATPを使う場所と、勾配を使う場所を追えます。促進拡散は運ぶ物質の勾配に沿うため、同じ担体による移動でも二次性能動輸送とは働きが違います。
6. 側底側のポンプがNaの分布を保つ
糖の吸収を担う代表的な上皮では、側底側の細胞膜にNa⁺/K⁺ポンプがあります。このポンプはATPを使い、Na⁺を細胞の外へ、K⁺を細胞の内へ運びます。Na⁺を外へ運び続ける働きが、細胞内のNa⁺を低く保つことにつながります。濃度差と電位差が組み合わさり、頂端側からNa⁺が細胞内へ進む駆動を支えます。ポンプがつくる分布と、別の膜タンパク質を介してNa⁺が戻る移動はつながっています。ATPを直接使うのはこのポンプの輸送で、ポンプが糖を直接運ぶわけではありません。
7. 頂端側でNaと糖を一緒に取り込む
頂端側には、Na⁺とグルコースを同じ向きに取り込むNa⁺・グルコース共輸送体があります。共輸送とは、ある物質の移動を別の物質の移動と結びつける仕組みです。この経路では、Na⁺が管腔側から細胞内へ、内向きの電気化学的勾配に沿って進むエネルギーを利用します。その駆動が十分な条件では、グルコースをグルコース自身の濃度勾配に逆らって取り込めます。これは二次性能動輸送です。共輸送体自身が直接ATPを分解するのではなく、側底側のポンプが保つNa⁺の駆動が、頂端側の糖の取り込みを支えています。
8. 側底側では糖自身の勾配を使って出す
細胞に入ったグルコースは、側底側のグルコース輸送体を介して間質側へ移れます。GLUTと呼ばれるこの担体による移動は促進拡散です。細胞内の糖濃度が間質側より高い条件では、正味の糖移動は細胞内から間質側へ向きます。この段階の駆動は糖自身の濃度差で、頂端側のNa⁺の駆動とは別に確かめます。担体は条件に応じて両方向の移動を可能にするため、側底側にあるという位置だけで常に外向きとは決まりません。糖の濃度条件が逆になれば、正味の向きも変わり得ます。
9. 両方の膜をつなぐと吸収の向きが分かる
管腔に糖が供給され、Na⁺の内向き駆動が十分あり、細胞内の糖濃度が間質側より高いとき、頂端側の共輸送と側底側の促進拡散がつながります。頂端側ではNa⁺の勾配を利用して糖を取り込み、側底側では糖の勾配に沿って糖を出します。二つの膜で、同じグルコースが異なる仕組みで運ばれます。側底側のNa⁺/K⁺ポンプは、糖の出口となる担体とは別にNa⁺の分布を保ちます。管腔、細胞内、間質を順に追い、それぞれの膜で何が通り、何が駆動するかを対応させると、糖が上皮を越える経路を説明できます。
ポンプが支える、頂端側の糖取り込み
10. 取り込み、組織への排出、血液への移動を追う
小腸では、管腔にある吸収可能な糖が上皮を越えて体の内側へ進みます。腎では、尿細管の管腔にある糖が再吸収され、血液側へ戻る経路につながります。糖を細胞内へ取り込んだこと、側底側から間質へ出したこと、その後に血管壁を越えたことを順に分けます。一か所の移動を確かめた記録は、その場所の働きを示します。上皮全体を通る量を調べるには、入口と出口の移動、細胞内に残る量を対応させます。物質によっては細胞の間を通る経路もあるため、糖の代表的な細胞内経路を、上皮を通る全物質の仕組みに広げずに使います。
糖の出口と、その先の血管壁
11. 細胞内にある糖と、これから入る糖
観察を始める時点で、上皮細胞内にもグルコースがあるとします。頂端側から入る糖と、側底側から間質へ出る糖は、この細胞内の糖につながります。側底側を通る糖には、その瞬間に管腔から入った糖だけでなく、前から細胞内にある糖も含まれます。細胞への取り込み、細胞内にある量、間質へ出た量を、それぞれの場所と時点に対応させて追います。
12. 同じ期間の出入りで細胞内量を追う
細胞内へ入る移動を流入、細胞内から出る移動を流出と呼びます。同じ期間の出入りの差が収支です。糖が細胞内で新たに作られず、代謝による消費もなく、ほかの経路を通る移動もない場合、細胞内量の変化は、その期間に入った量から出た量を差し引いて求められます。代謝とは、物質を作ったり分解したりする細胞内の反応で、糖はその反応で消費されることもあります。出入りだけを比べるときは、このような反応の有無も確かめます。細胞内の液体積が一定なら、糖の量の変化は濃度の変化にもつながります。
13. 短い期間に保たれる二つの駆動
管腔へ糖が供給され、頂端側ではNa⁺が内向きに進む駆動を十分持ち、側底側では細胞内の糖濃度が間質側より高い状態を考えます。頂端側で糖を糖自身の濃度差に逆らって取り込むには、Na⁺の移動から得られる駆動が必要です。一方、側底側で糖を間質へ出す駆動は、糖自身の濃度差です。糖の移動に伴って細胞内の量や濃度が変わっても、短い期間には、両方の駆動の向きと、取り込みを支えるNa⁺の駆動の強さが保たれる場合があります。この期間の移動を考えるときは、通れる経路と、その経路で働く駆動を別々に確かめます。
14. ポンプ停止後は、時点ごとに駆動を読む
Na⁺/K⁺ポンプが止まっても、停止前にできたNa⁺の分布がその瞬間にすべて消えるわけではありません。直後に十分な内向き駆動が残っていれば、共輸送体はそれを利用できます。その後、Na⁺の駆動が弱まり、糖を糖自身の濃度差に逆らって取り込むのに足りなくなると、その逆濃度の取り込みは支えられなくなります。側底側では、これとは別に糖の濃度差を読みます。細胞内に糖があり、その濃度が間質側より高く、糖の担体が通せる状態なら、糖は促進拡散で間質へ出られます。Na⁺の駆動の変化と、糖自身の駆動による移動は、同じ時点でも分けて追えます。
15. 残る量を読むには、始めと期間をそろえる
糖の移動を比較するには、観察を始めたときの細胞内量、管腔からの供給、通れる経路、膜の両側の駆動、観察期間をそろえて考えます。細胞内での糖の生成や消費、別の経路による出入りがあれば、細胞内量の収支にも加わります。移動の向きが分かることと、一定期間にどれだけ移ったかを知ることは別です。具体的な量を求めるには、その期間の流入量と流出量などの記録が必要になります。
観察時点と、細胞内の糖の収支
用語を確かめる
- グルコース
- ブドウ糖とも呼ばれる糖。細胞がエネルギーを得る材料の一つ。
- 管腔
- 小腸や尿細管など、管状の構造の内側の空間。
- 上皮
- 体の表面や器官の内面を覆う、密に並んだ細胞の層。部位に応じて吸収などを担う。
- 細胞膜
- 一つの細胞を囲み、細胞内と外を分ける膜。
- 間質
- 組織の細胞どうしの間にある領域。細胞外の液や支持する成分がある。
- 頂端側
- 管腔を覆う上皮細胞で、管腔に向く面。
- 基底側
- 上皮細胞で、基底膜に向く面。
- 側底側
- 上皮細胞の基底側と側面を合わせた領域。
- 極性
- 一つの細胞で、面によって構造や働きが違う性質。
- 基底膜
- 上皮の基底側にある薄い細胞外の支持層。細胞膜とは場所と構造が違う。
- 密着結合
- 隣接する上皮細胞の間の経路を制限し、膜の面の区別にも関わる接着構造。
- 濃度
- ある体積の液に、ある物質がどれだけ含まれるかを表す量。
- 正味の移動
- 一方向へ移る量から逆方向へ移る量を差し引いた移動。
- 担体
- 物質を結合し、形の変化を利用して膜を越えて運ぶタンパク質。
- 促進拡散
- 膜タンパク質を利用し、運ぶ物質の勾配に沿って進む受動輸送。
- Na⁺
- 正の電荷を持つナトリウムイオン。
- K⁺
- 正の電荷を持つカリウムイオン。
- 電位差
- 膜の内外などで、電気的な状態が違うことを表す差。
- 電気化学的勾配
- イオンの移動に働く、濃度差と電位差を合わせた駆動。
- ATP
- アデノシン三リン酸。分解に伴うエネルギーを細胞の働きに利用する物質。
- 一次性能動輸送
- エネルギーを直接利用して物質をその勾配に逆らって運ぶ輸送。ATP分解を直接使う輸送はその例。
- 二次性能動輸送
- 別のイオンなどが勾配に沿って動くエネルギーを利用し、物質をその物質自身の勾配に逆らって運ぶ輸送。
- Na⁺/K⁺ポンプ
- ATPを使ってNa⁺を細胞外へ、K⁺を細胞内へ運び、分布を維持する膜タンパク質。
- 共輸送
- ある物質の移動を、別の物質の移動と結びつけて運ぶ仕組み。
- Na⁺・グルコース共輸送体
- 代表的な吸収上皮の頂端側にあり、Na⁺の内向き駆動を利用して糖を取り込む輸送体。
- GLUT
- グルコースを促進拡散で運ぶ担体。正味の向きは糖の両側条件に依存する。
- 再吸収
- 腎で、尿細管の管腔から上皮などを経て、成分が血液側へ戻る過程。
- 流入
- ある場所へ物質が入る移動。ここでは上皮細胞内への糖の移動を指す。
- 流出
- ある場所から物質が出る移動。ここでは上皮細胞内から間質側への糖の移動を指す。
- 収支
- 同じ期間に入った量と出た量の差。生成や消費がある場合は、その量も合わせて考える。
- 代謝
- 細胞内で物質を作ったり分解したりする反応。糖が消費される反応も含む。