正常な特殊感覚の構造と機能

本文の目次

  1. 眼球を包むものと表面の保護
  2. 涙を作り、広げ、内側へ流す
  3. 眼球壁の外側・中間・内側
  4. 光が通る媒質と情報が出る経路
  5. 房水の産生と前後の区画の連絡
  6. 毛様体筋と水晶体の近遠調節
  7. 眼球の向きと近くを見る連絡
  8. 虹彩の二つの筋と瞳孔
  9. 光を受ける眼と両側の縮瞳
  10. 桿体と錐体の役割と分布
  11. 網膜へ入る光と出力へ進む情報
  12. 光で変わる視細胞と次の細胞への伝達
  13. 視覚の主な中枢経路
  14. 鼻側と耳側の網膜からの線維
  15. 視野と網膜の対応をたどる
  16. 外耳・中耳・内耳の位置
  17. 鼓膜から耳小骨、内耳の液体へ
  18. 蝸牛の三つの区画と感覚器
  19. 有毛細胞の束が曲がることと信号
  20. 内有毛細胞と外有毛細胞
  21. 音の周波数と蝸牛の場所
  22. 蝸牛から脳幹、視床、大脳へ
  23. 両耳の情報から音の方向へ
  24. 耳石器官と半規管が受ける変化
  25. 毛束の向きと平衡の信号
  26. 頭が動いても見続けることと姿勢
  27. 嗅覚の受容ニューロンと鼻からの経路
  28. 味物質が味蕾の受容細胞へ届く
  29. 基本味と舌からの神経
  30. 味覚・嗅覚・口腔の一般感覚の協力

1. 眼球を包むものと表面の保護

眼球は頭蓋骨のくぼみである眼窩に収まります。前面には眼瞼、つまりまぶたがあり、皮膚のひだとして目を保護します。結膜は薄く透明な膜で、眼瞼の内面から折り返して眼球前面の強膜側へ続きます。強膜は眼球の外側を覆う丈夫な組織です。前方の透明な角膜は、結膜で覆われる部分とは異なります。眼球の周囲には向きを変える外眼筋があります。表面を覆う膜、眼球壁、眼球を動かす筋を位置と役割で分けます。

眼窩内の眼球と外眼筋

眼窩の断面。紙面左が前方、右が後方。眼窩の骨性のくぼみの内側に眼球が収まり、前方に上下の眼瞼がある。眼球の外側の外眼筋は眼窩側から強膜側へ続く。
眼球は眼窩の中に収まり、前方の眼瞼が表面を保護します。眼球の外側にある外眼筋は、眼球の向きを変えます。

結膜の折り返しと角膜の位置

前眼部を断面で見た図。紙面左が前方、右が後方。上眼瞼の内面をたどる結膜が奥で折り返し、強膜の前方へ続いて角膜との境界で終わる。角膜の前面は結膜で覆われず、眼球の前方に露出する。
結膜は眼瞼の内面から折り返し、眼球前面の強膜側へ続きます。前方の角膜は結膜で覆われる部分とは異なります。

2. 涙を作り、広げ、内側へ流す

涙腺は眼窩の上外側にあり、涙液を産生します。分泌された涙液は眼の表面へ届き、まばたきによって角膜や結膜の表面へ広がります。表面を潤し、異物を洗い流すことに関わります。排出側は眼の内側です。上・下の眼瞼の内側にある涙点から涙小管、涙嚢、鼻涙管へ続き、鼻腔へ流れます。涙点は排出経路への入口で、涙腺の分泌口とは別です。涙の産生、表面への広がり、鼻腔への排出は異なる段階です。

涙腺から眼表面、鼻腔へ

左眼の前面。紙面左が内側、右が外側。上外側の涙腺から分泌路が眼球表面へ続き、表面の涙液が内側の上・下涙点へ向かう。二つの涙点は涙小管を介して涙嚢へ合流し、鼻涙管の内腔が下方の鼻腔へ開く。分泌、表面への広がり、排出は別の段階である。
上外側の涙腺で分泌された涙液は、まばたきによって眼の表面へ広がります。内側の涙点から涙小管、涙嚢、鼻涙管を通って鼻腔へ排出されます。

3. 眼球壁の外側・中間・内側

眼球壁の外側は、乳白色の丈夫な強膜と、前方の透明な角膜からなります。角膜は光を透過させ、屈折にも大きく関わります。中間の層には血管に富む脈絡膜があり、その前方へ毛様体と虹彩が続きます。脈絡膜は網膜の外側部分などへの栄養供給に関わります。毛様体は房水の産生と水晶体の調節に関わります。虹彩は水晶体の前にある膜状の部分で、中央の開口が瞳孔です。瞳孔は独立した透明組織の名前ではありません。内側の網膜には光を受ける細胞と情報をつなぐ神経細胞があります。

眼球壁の外側・中間・内側

後方の眼球壁を局所断面で見た図。紙面上が眼球の外側、下が内側。三つの曲がった組織層が接し、強膜、血管を含む脈絡膜、内側の網膜の順に並ぶ。
眼球後方の壁は、外側から強膜、脈絡膜、網膜の順に並びます。血管に富む脈絡膜は網膜の外側にあり、内側の網膜には光を受ける細胞と神経細胞があります。

4. 光が通る媒質と情報が出る経路

外から入る光は、角膜、房水、水晶体、硝子体を透過して網膜へ達します。角膜と水晶体の屈折によって、網膜へ像が結ばれます。房水は透明な液体で、水晶体の前方の前房・後房にあります。前房は角膜と虹彩の間、後房は虹彩と水晶体の間の空間です。水晶体の後方から網膜までの広い区画には、透明でゼリー状の硝子体があります。光が透明な媒質を通って網膜へ届く段階と、網膜で生じた情報が視神経へ伝わる段階は別です。視神経を光が通る透明な媒質として並べることはできません。

透明な光路と網膜の位置

眼球の断面。左が前、右が後。角膜は前方の透明な曲面で、虹彩の上下の間に瞳孔が開く。水晶体は虹彩の後方にあり、外側には毛様体が位置する。光の矢印は瞳孔と水晶体を通り、硝子体の先の網膜へ達する。視神経は眼球後方から外へ続く。
光は角膜、房水、水晶体、硝子体を通り、眼球の内側の網膜に達します。瞳孔は虹彩の中央の開口です。網膜で生じた情報は視神経へ伝わります。

5. 房水の産生と前後の区画の連絡

房水は毛様体で産生され、後房へ入ります。そこから瞳孔を通って前房へ進みます。主な流出経路は、前房の周辺で角膜と虹彩の間にある隅角の線維柱帯を経て、シュレム管から静脈側へ続きます。線維柱帯は房水の流出に関わる網目状の組織、シュレム管はその外側にある流出路です。この主経路に加え、毛様体側などを通る流出もあります。産生、後房から前房への移動、眼外への流出によって房水の環境が保たれます。房水は血管を持たない角膜や水晶体への栄養供給にも寄与しますが、酸素や栄養の唯一の供給源という意味ではありません。

房水の産生と主な流出経路

前眼部の断面。左が前、右が後。虹彩の上下の間に瞳孔が開き、前方の前房と、虹彩の後方で水晶体の前にある後房が続く。房水の矢印は毛様体から後房、瞳孔、前房へ進み、角膜と虹彩の隅角にある線維柱帯からシュレム管の内腔、静脈側へ続く。
毛様体で産生された房水は後房から瞳孔を通って前房へ移り、主に隅角の線維柱帯、シュレム管を経て静脈側へ流出します。後房は虹彩と水晶体の間の前眼部の空間です。

6. 毛様体筋と水晶体の近遠調節

近くの対象へ焦点を合わせるときは、毛様体にある毛様体筋が収縮します。すると水晶体を周囲から支えるチン小帯の張力が下がり、水晶体は自らの弾性によって丸く厚くなります。水晶体の屈折する力が増すことで、近くへの調節に関わります。遠くを見る側では毛様体筋が緩み、小帯の張力が増して、水晶体はより扁平になります。毛様体筋の収縮が小帯を強く引いて水晶体を厚くする、という関係ではありません。筋の収縮、支持線維の張力、水晶体の形の変化を順に結びます。

毛様体筋・小帯・水晶体の近遠調節

上下は同じ向きの水晶体周囲の断面。左が前、右が後。上の近くへの調節では上下の毛様体筋が水晶体側へ寄り、支持する小帯の張力が下がる。水晶体の前後の厚みが増す。下の遠くを見る側では小帯が張り、水晶体の前後の厚みが減る。
近くへの調節では、毛様体筋の収縮に伴ってチン小帯の張力が下がり、水晶体が自らの弾性で丸く厚くなります。遠くを見る側では筋が緩み、小帯の張力が増して水晶体は扁平になります。

7. 眼球の向きと近くを見る連絡

外眼筋は骨格筋で、眼球の向きを変えます。対象が上方へ移ることと、対象までの距離が近くなることは異なる変化です。前者に合わせる眼球の向きの調節を、水晶体の厚みだけで行うことはできません。近い対象を両眼で見続けるときには、両眼の視線が内側へ向く輻輳も関わります。近見に伴って水晶体の調節、輻輳、縮瞳が関連して起こりますが、焦点を変えること、眼球の向きを変えること、入る光の量を変えることは別の働きです。

近い対象への両眼の向き

両眼を上から見た図。上が前方で、中央前方に近い対象がある。左右の眼球の前方がそれぞれ内側へ向き、二本の視線は同じ対象へ集まる。眼球の上の短い曲線矢印は内側へ向く回転を示す。
近い対象を両眼で見続けるときは、両眼の視線が内側へ向く輻輳が関わります。これは眼球の向きの変化であり、水晶体の焦点調節や瞳孔の大きさの変化とは別の働きです。

8. 虹彩の二つの筋と瞳孔

虹彩には、瞳孔の周囲を輪状に囲む瞳孔括約筋と、放射状に走る瞳孔散大筋があります。副交感神経の経路が括約筋を収縮させると、瞳孔が小さくなる縮瞳に関わります。交感神経の経路が散大筋を収縮させると、瞳孔が大きくなる散瞳に関わります。どちらも虹彩内の筋の働きですが、線維の配置と瞳孔への作用方向は異なります。瞳孔の大きさは眼球内に入る光の量の調節に関わり、水晶体の形を変える焦点調節とは区別されます。

虹彩の輪状筋と放射状筋

虹彩の前面。上では瞳孔を囲む輪状の括約筋が収縮し、小さい開口になる。下では放射状の散大筋の収縮が大きい開口に関わる。両段に輪状と放射状の線維があり、作用する筋に隣接した矢印はそれぞれの収縮作用を示す。
瞳孔括約筋は瞳孔を輪状に囲み、副交感神経の経路による収縮が縮瞳に関わります。瞳孔散大筋は放射状に走り、交感神経の経路による収縮が散瞳に関わります。どちらも虹彩内の筋ですが、線維の配置と作用が異なります。

9. 光を受ける眼と両側の縮瞳

正常な対光反射では、網膜からの光情報が視神経を通って中脳の回路へ届きます。その回路には左右の出力への連絡があり、両側の動眼神経に含まれる副交感線維、毛様体神経節、その先の線維を介して瞳孔括約筋へつながります。動眼神経は第III脳神経、視神経は第II脳神経です。片眼へ光を入れると、その眼の縮瞳に加えて反対側の眼の縮瞳も起こります。この両側の出力は中枢内の連絡によるもので、視交叉で一部の線維が交差することだけで説明する反応ではありません。光の入力、中枢の連絡、虹彩の筋への出力を分けてたどります。

片眼への光と両側の縮瞳

両眼の前方が上の連絡図。左の眼の瞳孔へ入る光は網膜に達する。網膜からの点線の情報経路は視神経を通って中脳へ届く。中脳からの二本の出力は、それぞれ動眼神経の副交感線維、眼の近くの毛様体神経節、その先の線維を経て虹彩の括約筋へ達する。光の方向と神経情報の方向は別である。
片眼に入った光の情報は、網膜から視神経を通って中脳の回路へ届きます。中枢内の連絡から両側の動眼神経の副交感線維、毛様体神経節を経て瞳孔括約筋へ出力が伝わり、光を受けた側と反対側の眼も縮瞳します。

10. 桿体と錐体の役割と分布

網膜の視細胞には桿体と錐体があります。桿体は弱い光に対する感度が高く、暗い環境での視覚に重要です。錐体は色の識別と細かな形の識別に関わります。網膜の中央部にある中心窩、特にその中央には錐体が密に分布し、高い視力に関わります。一方、視神経の線維が眼球から出る視神経乳頭には桿体も錐体もありません。このため、その場所に像が結ばれても光を視細胞で受け取れず、生理的な盲点になります。中心窩と乳頭は位置も構造も異なります。

11. 網膜へ入る光と出力へ進む情報

光は硝子体側から網膜に入り、神経節細胞や双極細胞のある側を通って、脈絡膜に近い外側の視細胞へ届きます。代表的な縦の情報経路は、視細胞から双極細胞、神経節細胞へと続きます。双極細胞は視細胞と出力側の神経節細胞をつなぐ細胞です。神経節細胞の軸索が視神経の線維となって眼球の外へ向かいます。光が網膜を通る方向と、この縦の経路で情報が伝わる方向は逆向きです。網膜には横方向につなぐ細胞もありますが、視神経の線維を視細胞の軸索とみなすことはできません。

中心窩と視神経乳頭の違い

後方の網膜の局所断面。上が硝子体側、下が脈絡膜側。中央寄りの中心窩は内側の面がくぼみ、錐体が密に並ぶ。離れた視神経乳頭では視細胞の列が途切れ、内側の神経線維が集まって眼球外へ続く。
中心窩の中央には錐体が密に分布し、細かな識別に関わります。別の位置にある視神経乳頭には桿体も錐体もなく、神経節細胞の軸索が眼球の外へ出て視神経になります。乳頭は生理的な盲点に対応します。

12. 光で変わる視細胞と次の細胞への伝達

視細胞は光を受けると過分極し、膜電位がより負の側へ変化します。それに伴い、視細胞から放出される神経伝達物質のグルタミン酸は減ります。光を受けたすべての受容細胞が脱分極し、活動電位を多く出すという一律の仕組みではありません。双極細胞には、光による視細胞の放出低下に対して異なる方向へ応答する種類があります。このため、視細胞の過分極を網膜内の全細胞の過分極へ広げることはできません。神経節細胞は、この網膜内の情報を活動電位として視神経へ送ります。

網膜の光と情報の逆向き

上が硝子体側、下が脈絡膜側の網膜断面。内側の神経節細胞、中間の双極細胞、外側の桿体と錐体が別の細胞として並ぶ。光の実線矢印は下向きに外側の視細胞へ達する。点線の情報矢印は視細胞から双極細胞、神経節細胞へ上向きに進み、その軸索を通って視神経側へ出る。
光は硝子体側から網膜を通り、外側の視細胞へ届きます。情報は視細胞から双極細胞、神経節細胞へ進み、神経節細胞の軸索が視神経となります。視細胞は光で過分極してグルタミン酸の放出を減らし、神経節細胞は情報を活動電位として送ります。

13. 視覚の主な中枢経路

網膜の神経節細胞の軸索は視神経となり、左右の視神経由来の線維が視交叉へ達します。そこで一部の線維が反対側へ移り、その先は視索として続きます。意識される視覚の代表的な経路では、視索から視床の外側膝状体で中継し、視放線を通って後頭葉の一次視覚野へ達します。外側膝状体は視覚情報の中継部、視放線はそこから大脳皮質へ向かう線維の集まりです。光への反射などへ向かう枝もあり、すべての線維がこの主経路だけを通るわけではありません。

視覚の主な中枢経路

頭を上から見た位置関係。上が前で、紙面左が頭の左、右が頭の右。左右の眼の後方から視神経が中央の視交叉へ集まり、その先の視索が左右の外側膝状体へ続く。中継後の視放線は後頭葉の一次視覚野へ扇状に広がる。
意識される視覚の主経路は、網膜の神経節細胞の軸索、視神経、視交叉、視索、外側膝状体、視放線、後頭葉の一次視覚野へ続きます。外側膝状体で情報が中継され、そこから皮質へ向かう線維が視放線となります。

14. 鼻側と耳側の網膜からの線維

それぞれの眼の網膜は、鼻に近い鼻側半分と、耳に近い耳側半分に分けられます。鼻側網膜から来た線維は視交叉で反対側へ交差します。耳側網膜から来た線維は同じ側へ続きます。したがって、一つの視索には両眼からの情報が集まりますが、その両眼の網膜部分は鼻側と耳側の組合せです。片眼からの全線維が交差する仕組みでも、左右の眼がそれぞれ片側の脳だけへ情報を送る仕組みでもありません。

鼻側だけが交差する視路

頭を上から見た位置関係。上が前、紙面左が頭の左、右が頭の右。各眼の鼻側網膜は中央寄り、耳側網膜は外寄りにある。鼻側からの点線は中央の視交叉で反対側へ渡る。耳側からの実線は同じ側の視索へ続く。
鼻側網膜の線維は視交叉で反対側へ移り、耳側網膜の線維は同じ側へ続きます。そのため、一つの視索には、片眼の鼻側網膜と反対の眼の耳側網膜からの情報が集まります。

15. 視野と網膜の対応をたどる

視野は、眼を向けた方向を中心に見える外界の範囲です。眼の光学系によって網膜に結ばれる像は上下・左右が反転するため、上側の視野の像は下側の網膜に、下側の視野の像は上側の網膜に結ばれます。左右の視野も、それぞれの眼で反対側の網膜へ対応します。両眼で見える範囲では、ある側の半視野の情報が、一方の眼の鼻側網膜と他方の眼の耳側網膜へ入ります。鼻側の交差と耳側の同側走行を合わせてたどると、その半視野とは反対側の視索、さらに一次視覚野へ情報が集まります。視野の側、眼の側、網膜の側を別々に対応させます。

右半視野と両眼の網膜の対応

頭を上から見た位置関係。上が前、紙面左が頭の左、右が頭の右。上段の右半視野からの細かい点線は、左眼の耳側網膜と右眼の鼻側網膜へ結ばれる像の対応を示す。網膜からの情報は別の線維経路を進み、鼻側の交差と耳側の同側走行を経て左の視索へ集まる。
両眼で見える範囲の右半視野の像は、左眼の耳側網膜と右眼の鼻側網膜へ対応します。右眼の鼻側線維は交差し、左眼の耳側線維は同じ側へ続くため、情報は左の視索と一次視覚野へ集まります。左半視野では左右の組合せが逆になります。

視野の上下と網膜の上下

左が前方、右が後方の眼球側面。上側と下側の外界の二点からの代表光線が水晶体の中央を通って交差し、後方の網膜の反対の上下位置へ達する。
眼の光学系によって網膜像の上下は反転します。上側の視野の像は下側の網膜に、下側の視野の像は上側の網膜に結ばれます。外界の位置と網膜上の位置を別にたどります。

16. 外耳・中耳・内耳の位置

外耳は耳介と外耳道からなり、外からの音が鼓膜へ届く入口になります。鼓膜の内側には、空気を含む中耳の鼓室があります。さらに内側の側頭骨内には内耳があり、聴覚に関わる蝸牛と、平衡感覚に関わる前庭・半規管を含みます。外耳道と鼓室は鼓膜で隔てられ、鼓室と内耳の液体の区画も別です。中耳は耳管を通じて鼻の奥の上咽頭へ連絡します。耳管は鼓膜の内外の圧の釣合いに関わる経路で、外耳道や蝸牛を直接つなぐ管ではありません。

外耳・中耳・内耳の位置

耳の局所断面。紙面左が外側、右が内側。耳介から外耳道が鼓膜まで続き、その内側に耳小骨を含む空気の鼓室がある。側頭骨内に蝸牛と前庭・半規管。鼓室の下方から耳管が上咽頭へ開く。
鼓膜は外耳道と空気を含む鼓室を隔てます。側頭骨内の内耳には蝸牛と前庭・半規管があり、鼓室とは別の液体区画をもちます。耳管は鼓室から上咽頭へ続きます。

17. 鼓膜から耳小骨、内耳の液体へ

空気を伝わる音は鼓膜を振動させます。鼓膜につながるツチ骨から、キヌタ骨、アブミ骨へと振動が伝わります。アブミ骨の底は卵円窓にあり、その動きが内耳の液体へ伝わります。液体の圧や変位が生じるときには、別の開口である正円窓の膜が動き、液体の変位を受け入れます。卵円窓はアブミ骨からの入力側、正円窓はそれとは別の膜で覆われた部分です。この連絡は気導、つまり空気から鼓膜・耳小骨を介する代表的な伝達経路です。頭蓋骨の振動から内耳へ届く骨導もあり、音が内耳へ届く経路が気導だけという意味ではありません。

鼓膜・耳小骨と二つの窓

中耳から内耳への拡大模式図。鼓膜につながるツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨が順につながり、アブミ骨の底が卵円窓に位置する。内耳の液体の壁の別の高さに正円窓の膜がある。赤の短い実線矢印はある瞬間の機械的な動き、青の開いた矢印は液体の変位。
気導では鼓膜からツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨へ振動が伝わり、アブミ骨の底が卵円窓で内耳の液体を動かします。別の開口の正円窓は膜で覆われ、その動きが液体の変位を受け入れます。骨導もあるため、気導だけが内耳へ届く経路ではありません。

18. 蝸牛の三つの区画と感覚器

蝸牛は、巻いた管の形をした内耳の部分です。その内部を断面でみると、前庭階、蝸牛管、鼓室階という三つの区画があります。前庭階と鼓室階には外リンパ、蝸牛管には内リンパがあります。蝸牛管の底側をなす基底膜の上にコルチ器があり、音の機械的な変化を受ける有毛細胞を含みます。前庭階と蝸牛管の間には前庭膜があり、三つの区画の液体をすべて同じ一つの空間へ混ぜることはできません。基底膜は蝸牛の長さ方向に沿い、蝸牛の入口側を基底部、巻きの先へ進んだ側を頂部と呼びます。

蝸牛の三つの区画

蝸牛の局所断面。上の前庭階と下の鼓室階は斜線を付けた外リンパ、両者の間の三角形の蝸牛管は点を付けた内リンパとして別の閉じた区画で示す。前庭階と蝸牛管の間に前庭膜。蝸牛管の底の基底膜にコルチ器の有毛細胞と上側の膜がある。
前庭階と鼓室階は外リンパ、蝸牛管は内リンパを含みます。前庭膜は前庭階と蝸牛管の間、基底膜は蝸牛管の底側にあり、コルチ器は基底膜の上に位置します。

19. 有毛細胞の束が曲がることと信号

蝸牛の振動によって基底膜などが動くと、コルチ器の上側にある蓋膜との相対的な動きや、それに伴う局所の液体の動きによって、有毛細胞の頂部にある不動毛の束が曲がります。不動毛は毛髪ではなく、細胞表面の細い突起です。束が最長の不動毛側へ曲がると、機械的な力で開くイオンの通路が開きやすくなり、有毛細胞は脱分極します。逆向きでは通路が閉じる側へ変化します。内リンパはカリウムイオンに富み、この流入が応答に関わります。有毛細胞からの神経伝達物質の放出が変わり、次の感覚ニューロンへ情報が伝わります。有毛細胞の膜電位の変化と、感覚ニューロンの軸索を伝わる活動電位は別の段階です。成熟したヒトの蝸牛の有毛細胞には、平衡器官で方向の基準となる動毛は残っていません。

不動毛の曲がりと神経への伝達

有毛細胞の頂部から基底部と感覚ニューロンの終末・軸索までを拡大した模式図。頂部の不動毛は高さの異なる細い突起で、長い側へ曲がり、上側のカリウムに富む内リンパから開いた矢印が束のイオン通路側へ向く。細胞内の脱分極の表示と、下端から別の神経終末への伝達物質の放出、神経の軸索内の破線矢印による活動電位を分ける。
内リンパに接する不動毛の束が最長側へ曲がると、機械的な力で開くイオンの通路が開きやすくなり、カリウムイオンの流入が有毛細胞の脱分極に関わります。神経伝達物質の放出が変わり、感覚ニューロンへ伝わります。有毛細胞の膜電位と軸索の活動電位は別の段階です。

20. 内有毛細胞と外有毛細胞

コルチ器の有毛細胞には内有毛細胞と外有毛細胞があります。内有毛細胞は、聴覚の感覚ニューロンへ情報を渡す主要な入力側です。外有毛細胞は膜電位の変化に伴って長さを変え、蝸牛内の機械的な振動の増強や周波数の選択性に関わります。両者はともに機械的な刺激を受けますが、情報を神経へ渡す主な役割と、局所の機械的な動きを調整する役割は異なります。

内有毛細胞と外有毛細胞

左は内有毛細胞と、その基底側の神経終末から下へ続く感覚ニューロンの軸索。右は円筒状の外有毛細胞で、内側の短い輪郭と長さ方向の実線矢印が長さの変化を示す。両細胞の頂部に不動毛。下側の連続した基底膜の外有毛細胞側に短い振動矢印があり、局所の機械的な動きの調整を示す。
内有毛細胞は感覚ニューロンへ情報を渡す主要な入力側です。外有毛細胞は膜電位の変化に伴って長さを変え、局所の振動の増強や周波数の選択性に関わります。両者とも機械的な刺激を受けます。

21. 音の周波数と蝸牛の場所

音の周波数は、一秒間に繰り返す振動の回数で、音の高さの知覚に関わります。蝸牛では基底部側が高い周波数、頂部側が低い周波数に強く応答するという場所の対応があります。これは、蝸牛のどの位置が強く動くかという対応です。音の物理的な強さは周波数とは別の量で、主観的な大きさの知覚に関わります。周波数と音高、物理的な強さと感じる大きさは関係しますが、物理量と感覚経験が完全に同じ量という意味ではありません。神経の活動電位の発火頻度も、音の振動の周波数そのものとは別です。ただし、発火のタイミングが音の周期に関わる情報を含む場合もあります。

蝸牛の場所と音の周波数

上段は入口側から巻きの先へ続く蝸牛の模式的な巻いた管。基底部と頂部を実際の管の始端と末端へ引出し線で示す。下段は基底膜を展開した帯で、基底部側の高い周波数と頂部側の低い周波数を、それぞれ別の位置へ結ぶ。
蝸牛の入口側が基底部、巻きの先が頂部です。基底部側は高い周波数、頂部側は低い周波数に強く応答します。下段は基底膜を長さ方向に展開した模式図で、応答する場所の違いを示します。音の強さや、神経の活動電位の発火頻度を示す図ではありません。

22. 蝸牛から脳幹、視床、大脳へ

蝸牛の感覚ニューロンの軸索は、前庭蝸牛神経である第VIII脳神経の蝸牛神経の部分を通って脳幹へ入ります。そこから複数の中継を経る聴覚の代表的な経路は、視床の内側膝状体を通り、側頭葉の一次聴覚野へ達します。外側膝状体は視覚、内側膝状体は聴覚の代表的な中継部です。中枢の聴覚経路には左右への連絡があるため、一方の耳の情報が一方の大脳半球だけへ届く一対一の経路ではありません。

蝸牛から左右の聴覚中枢へ

模式的な正面方向の脳。大脳の側頭葉の聴覚野、深部の左右の視床とその内側膝状体、下側の脳幹を輪郭のある構造で示す。一つの蝸牛から実際の神経が脳幹へ入り、脳幹内の複数の中継を経て左右の内側膝状体と左右の聴覚野へ破線矢印が続く。
蝸牛の感覚ニューロンは、第VIII脳神経の蝸牛神経の部分から脳幹へ入ります。複数の中継を経て視床の内側膝状体、側頭葉の一次聴覚野へ伝わります。左右への連絡があるため、一方の耳と一方の半球だけを結ぶ経路ではありません。

23. 両耳の情報から音の方向へ

音源が左右のどちらかに寄ると、両耳へ届く音の時刻や強さに差が生じます。中枢ではこの両耳間の時間差や強さの差などを利用して、音源の方向を捉えます。音の高さの手掛かりである周波数、音の強さ、両耳間の差は別の情報です。両耳の情報を比較することと、蝸牛の基底部・頂部で周波数を分けることも異なる働きです。

両耳間の差から音の方向へ

上から見た頭部で、上が前方。紙面左の音源から近い耳への短い外側の経路と、頭部の外を回って遠い耳へ届く長い経路を開いた矢印で示す。下段の二つの音の波形は同じ周期で、近い耳では早く大きく、遠い耳では遅く小さい例を示す。到達時刻の縦線と強さの違いを別に示し、中枢の比較へつなぐ。
左右のどちらかに寄った音源からの音は、両耳へ届く時刻や強さに差が生じます。下段は同じ音の到達時刻と強さの差を示す模式例です。中枢は両耳間の差などを利用して方向を捉えます。蝸牛の場所による周波数の分解とは異なる働きです。

24. 耳石器官と半規管が受ける変化

前庭には卵形嚢と球形嚢があり、合わせて耳石器官と呼びます。有毛細胞の毛束の上には、炭酸カルシウムの小さな耳石を含む耳石膜があります。重力に対する頭の向きや、直線的な加速度によって耳石膜と下の組織との間にずれが生じ、毛束が曲がります。直線移動の速さが変わらない場合、その移動だけでは直線加速度は生じません。卵形嚢と球形嚢では感覚面の向きが異なり、複数の方向の情報に関わります。一方、三つの半規管はそれぞれ異なる面に配置され、頭の回転に伴う角加速度に応答します。半規管の膨らんだ膨大部には有毛細胞があり、毛束を覆うクプラが内リンパの相対的な動きで変位します。通常のクプラは耳石膜とは別で、耳石を載せた膜ではありません。

卵形嚢・球形嚢と三つの半規管

上段は卵形嚢に連なる三つの異なる面のループと、下側の球形嚢の模式的な実形。下段は卵形嚢と球形嚢の感覚面を水平寄りと垂直寄りの線で別々の嚢内へ示す。
卵形嚢と球形嚢は耳石器官です。感覚面の向きが異なり、重力や複数方向の直線加速度の情報に関わります。三つの半規管は異なる面に配置され、回転に伴う角加速度に応答します。

直線加速度と耳石膜のずれ

上段は変化前の耳石膜と毛束、下段は頭が右へ加速して耳石膜が下の組織に対して左へずれた例。耳石は膜の上の小粒、毛束は膜から下の有毛細胞へ続く突起。赤い実線矢印は頭の加速度、青い開いた矢印は耳石膜の相対的なずれ。
頭が右へ加速する例では、耳石を含む耳石膜が下の組織に対して相対的に左へずれ、毛束が曲がります。頭の加速度と毛束の曲がりは別の方向として示しています。速さが変わらない直線移動だけでは直線加速度は生じません。

耳石膜が受ける重力と頭の傾き

頭の傾きに合わせて感覚面が斜めになった局所模式。耳石粒を載せた膜と、その下の感覚面・細胞を同じ傾いた面に描く。重力矢印は紙面下向き、膜の相対的ずれの青い矢印は傾いた感覚面に沿う。
重力は下向きに働きます。頭が傾いて感覚面の向きが変わると、耳石を含む膜と下の組織との間にずれが生じ、毛束が曲がります。直線加速度の情報とともに頭の向きの情報に関わります。

半規管の内リンパとクプラ

上段は一つの半規管のループと膨大部の模式、赤い曲線矢印は頭の回転、管内の青い開いた矢印は内リンパの相対的な動き。下段は膨大部の拡大で、下の感覚上皮から内腔の上壁まで届くクプラが流れの側へ変形し、下端の毛束の位置を変える。クプラの上に耳石粒はない。
頭の回転に伴う角加速度によって内リンパが相対的に動き、膨大部のクプラが変位して毛束を曲げます。クプラは毛束を覆う構造で、耳石を載せた耳石膜とは別です。

25. 毛束の向きと平衡の信号

平衡器官の有毛細胞では、不動毛の束の一側にある動毛が方向の基準になります。束が動毛の側へ曲がると脱分極し、伝達物質の放出が増す方向へ変わります。反対側へ曲がると過分極し、放出が減る方向へ変わります。この受容細胞から、前庭蝸牛神経の前庭神経の部分へ情報が渡されます。頭の動く方向と、感覚面上でどちらへ毛束が曲がるかは、器官の配置を合わせて対応させます。毛束の曲がりをすべて同じ方向の信号に変える仕組みではありません。

毛束の向きと伝達の変化

上段と下段で同じ側に長い一本の動毛を置き、その側へ曲がった毛束と逆側へ曲がった毛束を比較。下端の別の神経終末と軸索へ情報が渡る。赤い矢印は毛束の向き、紫の破線は次の神経への情報。
平衡器官の有毛細胞では、束が動毛の側へ曲がると脱分極し、伝達物質の放出が増す方向へ変わります。反対側へ曲がると過分極し、放出が減る方向へ変わります。受容細胞と、その情報を受け取る前庭神経は別です。

26. 頭が動いても見続けることと姿勢

頭を回しながら静止した目標を見続けるとき、前庭動眼反射によって眼球が頭の回転と反対方向へ動き、目標の像を網膜上で安定させることに関わります。頭の動きの入力から眼球運動への出力へつながる反射で、すべての眼球運動が頭と逆向きになるという意味ではありません。姿勢の調節にも前庭の情報が関わりますが、視覚や筋・関節などからの固有感覚も合わせて利用されます。小脳や脳幹などの回路がこれらの情報と運動を結び、姿勢・平衡の維持に関わります。

静止した目標と前庭動眼反射

頭部を上から見た二つの状態。上段の正面向きから下段では頭が時計回りに回るが、両眼の向きは頭に対して反時計回りに変化し、各眼からの方向線が紙面の上の同じ静止目標へ向かう。外側の赤い曲線は頭の回転、眼の近くの赤い逆曲線は頭に対する眼の動き。
頭を回しながら静止した目標を見続ける例です。眼球が頭の回転と反対方向へ動き、目標の像を網膜上で安定させることに関わります。すべての眼球運動が頭と逆向きになるという意味ではありません。

姿勢を支える情報の組合せ

上側の眼と前庭、中央の筋と関節からの三つの情報入力を紫の破線で別の輪郭で描いた脳幹と小脳へつなぎ、下側の赤い筋へ別の出力を示す。感覚入力と筋への出力は別。
姿勢の調節では、前庭だけでなく視覚と筋・関節などの固有感覚も利用されます。小脳や脳幹などの回路がこれらの情報と運動を結び、姿勢・平衡の維持に関わります。

27. 嗅覚の受容ニューロンと鼻からの経路

嗅上皮は鼻腔の上部にあり、嗅覚受容ニューロンである嗅細胞を含みます。におい物質は粘液の中へ溶け、嗅細胞の表面の受容に関わる部分へ達します。嗅細胞はそれ自身が神経細胞で、その軸索が篩骨の篩板にある小さな穴を通って嗅球へ入ります。嗅球は前頭葉の下側に位置する中継部で、その先の嗅索から嗅覚に関わる大脳皮質などへ情報が伝わります。最初に嗅覚の皮質へ達する経路は、視覚や聴覚の主経路と異なり、視床での中継を必ず経るものではありません。その後の嗅覚の情報処理に視床が全く関わらないという意味ではありません。

嗅細胞自身の軸索から嗅球へ

鼻腔上部とその上の脳下面を拡大した模式断面。嗅上皮の嗅細胞は粘液側の受容面から一本の細胞として描き、その軸索が篩板の開いた小孔を通って嗅球に届く。嗅球から嗅索が脳下面の嗅覚に関わる皮質へ続く。開いた矢印は粘液中の物質の移動、破線矢印は神経情報の方向。
鼻腔上部の嗅上皮で、におい物質が粘液に溶けて嗅細胞の受容面に届きます。嗅細胞はニューロンで、自身の軸索が篩板の小さな穴を通り、前頭葉の下面にある嗅球へ進みます。嗅球から嗅索を通って嗅覚に関わる皮質へ向かう初期の経路は、視床の中継を必須にしません。後の処理で視床が関わらないという意味ではありません。

28. 味物質が味蕾の受容細胞へ届く

味物質は唾液に溶け、味蕾の表面の小さな開口である味孔から、味覚受容細胞の微絨毛へ達します。微絨毛は細胞表面の細い突起です。味蕾は複数の細胞を含む小さな感覚器で、舌の一部の乳頭などにあります。すべての舌乳頭に味蕾があるわけではなく、糸状乳頭は主に機械的な役割に関わります。味蕾は舌だけでなく軟口蓋や咽頭の一部などにもあります。味覚受容細胞は、情報を運ぶ感覚ニューロンそのものとは別の細胞で、受容細胞から神経へ情報を渡します。これは、自分の軸索を嗅球へ伸ばす嗅細胞との違いです。

味蕾の受容細胞と別の神経

上の唾液から開いた味孔へ物質が届く味蕾の拡大断面。細長い受容細胞の微絨毛が味孔に向く。中央の受容細胞の下端と、その下で接する別の感覚ニューロンの終末・軸索を異なる輪郭で示し、細胞内の情報と神経内の情報の方向を破線で示す。
味物質は唾液に溶け、味孔を通って味覚受容細胞の微絨毛に届きます。味蕾の受容細胞は感覚ニューロンと別の細胞で、受けた情報を神経へ渡します。味蕾は舌の一部の乳頭などにあり、すべての乳頭にあるわけではありません。軟口蓋や咽頭にもあります。

29. 基本味と舌からの神経

基本味として、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味があります。これらを、舌の場所ごとに一種類だけ感じる排他的な地図へ分けることはできません。味覚の情報を運ぶ代表的な神経は、舌の前方三分の二では主に顔面神経である第VII脳神経、後方三分の一では主に舌咽神経である第IX脳神経です。喉頭蓋などからは迷走神経である第X脳神経が関わります。舌の前方の触覚などの一般感覚には主に三叉神経である第V脳神経が関わり、味覚の神経とは役割が異なります。味覚情報は延髄での中継から視床を経て、島などの味覚に関わる大脳皮質へ続きます。

舌の味覚と一般感覚の分担

舌を上から見た模式図。上の葉状の喉頭蓋から第X、舌の後方3分の1から主に第IX、前方3分の2から主に第VIIの味覚の神経が別々に出る。前方から第Vの一般感覚の神経も別の輪郭として出る。味覚は破線、一般感覚は点線の矢印で区別する。
味覚は、舌の前方3分の2では主に第VII脳神経、後方3分の1では主に第IX脳神経、喉頭蓋などでは第X脳神経で伝わります。前方の触れた感覚などは主に第V脳神経で、味覚とは役割が異なります。これは神経の分担の図です。甘味・塩味・酸味・苦味・うま味が舌の別々の区域だけに固定される味地図ではありません。

味覚の神経から延髄・視床・島へ

脳の深部と脳幹を透視した模式図。下の三本の味覚の神経から、実際の延髄内の中継へ破線矢印が届く。そこから大脳深部の視床の中継へ、さらに深部に位置する島の皮質へ矢印が続く。丸は構造内の中継を示す。
第VII・IX・X脳神経で伝わる味覚情報は延髄の中継を経て、視床、島などの大脳皮質へ向かいます。受容細胞から出た情報の代表的な中枢経路を、末梢の神経の分担と分けて示します。

30. 味覚・嗅覚・口腔の一般感覚の協力

食べ物の風味には、味覚だけでなく、口腔から鼻腔へ回るにおいによる嗅覚も関わります。さらに、舌や口腔が受ける食感、温度、辛さによる刺激などの一般感覚も食べ物の経験へ加わります。辛さを甘味・塩味などと同じ基本味の一種類に加えることはできません。異なる受容の入口から来た情報が脳で統合され、食べ物全体の経験になります。同じにおいに対する応答が時間とともに弱くなる順応も、におい物質がなくなったことそのものとは別です。入力、受容・伝達、知覚や反射という段階を分けることで、複数の感覚の協力と各入口の働きを整理できます。

口から鼻へ回るにおいと風味

口腔と鼻腔が口蓋の後ろで連続する模式断面。舌の上の口腔から、開いた矢印が口蓋の後端を回って鼻腔上部へ向かう。嗅覚、味覚、舌の一般感覚から別々の神経情報の矢印が上の脳内の統合表示へ向かう。破線と点線は神経情報、開いた矢印は物質の移動として区別する。
口腔からのにおいは口蓋の後ろを回って鼻腔へ届き、嗅覚に関わります。味覚に加え、このにおいや食感・温度・辛さなどの一般感覚が協力し、脳で統合されて風味になります。辛さは五つの基本味に並ぶ第六の味ではありません。

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眼球
眼窩内にある、光を網膜へ届け受け取る器官。
眼窩
頭蓋骨が作る、眼球などが収まるくぼみ。
眼瞼
まぶた。眼球の前面を覆い保護する皮膚のひだ。
結膜
眼瞼の内面から眼球前面の強膜側へ続く薄い膜。角膜そのものを覆う膜ではない。
強膜
眼球外側の、前方の角膜以外の部分を覆う丈夫な結合組織。
角膜
眼球前方の透明な部分。光の透過と屈折に関わる。
外眼筋
眼球の外側にあり、眼球の向きを変える骨格筋。
涙腺
眼窩上外側にあり、涙液を産生する腺。
涙液
眼の表面を潤し、洗浄などに関わる液体。
涙点
眼瞼の内側にある、涙液の排出経路への入口。
涙小管
涙点から涙嚢へ続く細い排出路。
涙嚢
涙小管からの涙液を受け、鼻涙管へつなぐ袋状の部分。
鼻涙管
涙嚢から鼻腔へ続く涙液の排出路。
鼻腔
鼻の内部の空間。鼻涙管からの涙液も流入する。
脈絡膜
強膜の内側、網膜の外側にある血管に富む層。
毛様体
脈絡膜の前方へ続く部分。房水の産生と水晶体の調節に関わる。
虹彩
水晶体の前にある膜状の部分。中央の開口である瞳孔の大きさを調節する。
瞳孔
虹彩の中央にある開口。透明な組織そのものではない。
網膜
眼球壁の内側の組織。光を受ける視細胞と情報をつなぐ神経細胞などを含む。
房水
前房と後房にある透明な液体。毛様体で産生され、流出路へ続く。
前房
角膜と虹彩の間にある房水の区画。
後房
虹彩と水晶体の間にある房水の区画。
水晶体
虹彩の後方にある透明な構造。形の変化によって焦点を調節する。
硝子体
水晶体後方の広い区画を満たす透明でゼリー状の組織。
屈折
光が異なる媒質の境界を通るとき、その進む方向が変わること。
視神経
網膜の神経節細胞の軸索が集まる情報経路。第II脳神経。
隅角
前房の周辺にある角膜と虹彩の間の角の部分。主な房水流出路がある。
線維柱帯
隅角にある網目状の組織。主な房水流出に関わる。
シュレム管
線維柱帯の外側で房水を受け、静脈側の経路へつなぐ流出路。
毛様体筋
毛様体にある平滑筋。小帯の張力を介して水晶体の形の調節に関わる。
チン小帯
毛様体側から水晶体を支える線維。水晶体へ加わる張力に関わる。
張力
引っ張る力。筋の長さや収縮とは別に扱う量。
弾性
変形した物体が元の形へ戻ろうとする性質。
焦点調節
対象までの距離に合わせ、水晶体の形などを変えて網膜へ像を結ぶ働き。
輻輳
近い対象などへ向けて、両眼の視線が内側へ向く動き。
縮瞳
瞳孔が小さくなること。
散瞳
瞳孔が大きくなること。
瞳孔括約筋
瞳孔の周囲を輪状に囲む虹彩内の筋。収縮すると縮瞳に関わる。
瞳孔散大筋
虹彩内を放射状に走る筋。収縮すると散瞳に関わる。
対光反射
眼への光の入力に応じて瞳孔が小さくなる反射。正常回路では両側への出力がある。
動眼神経
第III脳神経。眼球運動への出力などに加え、瞳孔括約筋へ向かう副交感経路を含む。
毛様体神経節
眼窩内にある副交感神経節。動眼神経の節前線維から眼内へ向かう節後線維へ連絡する。
中脳
脳幹の頭側部分。対光反射の中枢の回路も含む。
視交叉
左右の視神経由来の線維の一部が交差する部分。対光反射の両側出力全体の説明とは別。
神経節細胞
網膜では、軸索を視神経へ伸ばす出力側の神経細胞を指す。末梢の神経節全体の名称とは別。
視細胞
網膜で光を受け、電気的な応答へ変える細胞。桿体と錐体がある。
桿体
弱い光への感度が高く、暗い環境での視覚に重要な視細胞。
錐体
色の識別や細かな形の識別に関わる視細胞。
中心窩
網膜中央部のくぼみ。中央には錐体が密に分布し、細かな識別に関わる。
視神経乳頭
視神経の線維が眼球から出る網膜上の部分。視細胞がない。
生理的盲点
視神経乳頭に視細胞がないことによって、その位置で光を受け取れない範囲。
双極細胞
網膜で視細胞と神経節細胞をつなぐ神経細胞。
過分極
膜電位が、もとの状態より負の側へ変化すること。
神経伝達物質
細胞から放出され、次の細胞への信号伝達に関わる物質。
活動電位
膜電位が一時的に大きく変わり、軸索などを伝わる電気的な信号。
視索
視交叉から先へ続く視覚情報の線維の集まり。
視床
間脳の一部。視覚などの情報を大脳皮質へ中継する部位を含む。
外側膝状体
視床にある、視覚情報の代表的な中継部。
視放線
外側膝状体から一次視覚野へ向かう線維の集まり。
一次視覚野
後頭葉にある、視覚情報を受け取る代表的な大脳皮質領域。
鼻側網膜
各眼の網膜のうち、鼻に近い半分。
耳側網膜
各眼の網膜のうち、耳に近い半分。
視野
眼を向けた方向を中心に見える外界の範囲。網膜の場所そのものとは別。
半視野
視野を中央から左右に分けた片側の範囲。
耳介
耳の外側へ張り出した部分。外耳道へ音を導くことに関わる。
外耳道
耳介から鼓膜へ続く外耳の通路。
鼓膜
外耳道と中耳の鼓室を隔てる膜。音で振動する。
鼓室
鼓膜の内側にある、空気を含む中耳の空間。
側頭骨
頭蓋骨の側面などを作る骨。内部に内耳がある。
蝸牛
内耳の聴覚に関わる、巻いた管状の部分。
前庭
内耳で卵形嚢・球形嚢などがある部分。平衡感覚に関わる。
半規管
内耳にある三つの管状の構造。頭の回転に伴う刺激を受ける。
耳管
中耳の鼓室と上咽頭をつなぐ管。鼓膜の内外の圧の釣合いに関わる。
上咽頭
鼻腔の後方にある咽頭の上部。耳管が開く。
耳小骨
中耳で振動をつなぐツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨。
ツチ骨
鼓膜につながり、キヌタ骨へ振動を渡す耳小骨。
キヌタ骨
ツチ骨からアブミ骨へ振動をつなぐ耳小骨。
アブミ骨
底が卵円窓にあり、内耳の液体へ振動を伝える耳小骨。
卵円窓
アブミ骨の底が位置する、中耳と内耳の境界の開口。
正円窓
鼓室階の端側にある膜で覆われた開口。内耳の液体の変位を受け入れる。
気導
空気から鼓膜・耳小骨などを介して内耳へ振動が届く経路。
骨導
頭蓋骨の振動が内耳へ届く経路。
前庭階
蝸牛の断面の一つの区画。外リンパを含む。
蝸牛管
蝸牛の三つの区画のうち、内リンパとコルチ器がある区画。
鼓室階
蝸牛の断面の一つの区画。外リンパを含み、端側に正円窓がある。
内リンパ
蝸牛管などにある液体。カリウムイオンに富む。
外リンパ
蝸牛の前庭階・鼓室階などにある液体。内リンパとは区画が別。
基底膜
蝸牛管の底側をなす膜。コルチ器がその上にある。
前庭膜
蝸牛で前庭階と蝸牛管を隔てる膜。
コルチ器
蝸牛管の基底膜上にある、有毛細胞などを含む聴覚の感覚器。
蓋膜
コルチ器の上側にあるゼリー状の構造。基底膜側との相対的な動きが毛束への刺激に関わる。
有毛細胞
頂部の突起の束の曲がりに応じて膜電位などが変わる受容細胞。
不動毛
有毛細胞の頂部にある細い突起。機械的な刺激を受ける束を作る。
動毛
平衡器官の有毛細胞で束の方向の基準となる突起。成熟したヒトの蝸牛の有毛細胞には残らない。
脱分極
膜電位がもとの状態より正の側へ変化すること。
内有毛細胞
蝸牛で感覚ニューロンへ情報を渡す主要な入力側の有毛細胞。
外有毛細胞
蝸牛内の機械的な振動の増強や周波数の選択性に関わる有毛細胞。
蝸牛基底部
蝸牛の入口側。高い周波数に強く応答する側。
蝸牛頂部
蝸牛の巻きの先の側。低い周波数に強く応答する側。
音の周波数
一秒間の音の振動の回数。音高の知覚に関わる物理量。
音高
音の高さの感覚。音の周波数に関わるが、物理量そのものとは別。
前庭蝸牛神経
第VIII脳神経。聴覚の蝸牛神経と平衡感覚の前庭神経の部分を含む。
内側膝状体
視床にある、聴覚情報の代表的な中継部。
一次聴覚野
側頭葉にある、聴覚情報を受け取る代表的な大脳皮質領域。
両耳間時間差
同じ音が左右の耳へ到達する時刻の差。音源方向の手掛かりになる。
両耳間強度差
同じ音が左右の耳へ届く強さの差。音源方向の手掛かりになる。
卵形嚢
前庭にある耳石器官の一つ。重力や直線加速度の情報に関わる。
球形嚢
前庭にある耳石器官の一つ。卵形嚢とは感覚面の向きが異なる。
耳石器官
卵形嚢と球形嚢。重力に対する頭の向きや直線加速度を受ける器官。
耳石
耳石膜に含まれる炭酸カルシウムの小さな粒。
耳石膜
耳石器官で有毛細胞の毛束の上にあり、耳石を含む膜。
直線加速度
直線的な動きの速度が変化することに関わる量。
角加速度
回転の速さが変化することに関わる量。
膨大部
半規管の膨らんだ部分。有毛細胞とクプラがある。
クプラ
半規管の膨大部で毛束を覆うゼリー状の構造。通常は耳石を含まない。
前庭神経
前庭蝸牛神経のうち、平衡器官からの情報を運ぶ部分。
前庭動眼反射
頭の動きの入力を眼球運動へつなぎ、視線を安定させる反射。
固有感覚
筋・関節などから身体の位置や動きに関わる情報を得る感覚。
嗅上皮
鼻腔上部にある、嗅細胞などを含む上皮。
嗅細胞
においを受ける感覚ニューロン。自分の軸索を嗅球へ伸ばす。
粘液
粘膜の表面を覆う、粘りのある液体。におい物質の溶解にも関わる。
篩骨
鼻腔上部と頭蓋内の境界などに関わる骨。篩板を含む。
篩板
篩骨の小さな穴を持つ部分。嗅細胞の軸索が通る。
嗅球
前頭葉の下側にあり、嗅細胞の軸索を受ける中継部。
嗅索
嗅球から先へ続く嗅覚情報の線維の集まり。
味蕾
複数の細胞からなる小さな味覚の感覚器。舌乳頭の一部などにある。
味孔
味蕾の表面の小さな開口。溶けた味物質が受容細胞側へ達する入口。
微絨毛
細胞表面の細い突起。味覚受容細胞では味物質を受ける部分に関わる。
味覚受容細胞
味物質を受け、別の感覚ニューロンへ情報を渡す細胞。
舌乳頭
舌の表面の小さな突出。種類によって構造や役割が異なる。
糸状乳頭
主に機械的な役割に関わる舌乳頭。通常、味蕾を持たない。
軟口蓋
口腔の天井の後方にある柔らかい部分。味蕾のある部位にも含まれる。
咽頭
鼻腔・口腔の後方から続く通路。味覚の受容部位の一部もある。
基本味
甘味・塩味・酸味・苦味・うま味という代表的な味の種類。
顔面神経
第VII脳神経。舌前方三分の二の味覚を運ぶ経路などに関わる。
舌咽神経
第IX脳神経。舌後方三分の一の味覚を運ぶ経路などに関わる。
迷走神経
第X脳神経。喉頭蓋などの味覚を運ぶ経路も含む。
喉頭蓋
喉頭の入口にある蓋状の部分。味覚の受容部位にも含まれる。
三叉神経
第V脳神経。顔面や舌前方の一般感覚などに関わる。
延髄
脳幹の尾側の部分。味覚の情報の中継部もある。
島
大脳半球の外側溝の奥にある皮質。味覚などに関わる領域を含む。
風味
味覚・嗅覚や食感などが協力して生じる食べ物の経験。
順応
同じ刺激が続くと、受容や知覚の応答が変化すること。刺激の消失そのものとは別。
グルタミン酸
神経伝達物質の一つ。視細胞から放出され、次の細胞への伝達に関わる。
水平細胞
網膜で、視細胞と双極細胞の間の横方向の連絡や調節に関わる神経細胞。
アマクリン細胞
網膜で、双極細胞と神経節細胞の間の連絡や調節に関わる神経細胞。
受容電位
受容器電位ともいう。刺激の受容によって生じる段階的な膜電位の変化。活動電位とは別。