正常な特殊感覚の構造と機能
本文の目次
- 眼球を包むものと表面の保護
- 涙を作り、広げ、内側へ流す
- 眼球壁の外側・中間・内側
- 光が通る媒質と情報が出る経路
- 房水の産生と前後の区画の連絡
- 毛様体筋と水晶体の近遠調節
- 眼球の向きと近くを見る連絡
- 虹彩の二つの筋と瞳孔
- 光を受ける眼と両側の縮瞳
- 桿体と錐体の役割と分布
- 網膜へ入る光と出力へ進む情報
- 光で変わる視細胞と次の細胞への伝達
- 視覚の主な中枢経路
- 鼻側と耳側の網膜からの線維
- 視野と網膜の対応をたどる
- 外耳・中耳・内耳の位置
- 鼓膜から耳小骨、内耳の液体へ
- 蝸牛の三つの区画と感覚器
- 有毛細胞の束が曲がることと信号
- 内有毛細胞と外有毛細胞
- 音の周波数と蝸牛の場所
- 蝸牛から脳幹、視床、大脳へ
- 両耳の情報から音の方向へ
- 耳石器官と半規管が受ける変化
- 毛束の向きと平衡の信号
- 頭が動いても見続けることと姿勢
- 嗅覚の受容ニューロンと鼻からの経路
- 味物質が味蕾の受容細胞へ届く
- 基本味と舌からの神経
- 味覚・嗅覚・口腔の一般感覚の協力
1. 眼球を包むものと表面の保護
眼球は頭蓋骨のくぼみである眼窩に収まります。前面には眼瞼、つまりまぶたがあり、皮膚のひだとして目を保護します。結膜は薄く透明な膜で、眼瞼の内面から折り返して眼球前面の強膜側へ続きます。強膜は眼球の外側を覆う丈夫な組織です。前方の透明な角膜は、結膜で覆われる部分とは異なります。眼球の周囲には向きを変える外眼筋があります。表面を覆う膜、眼球壁、眼球を動かす筋を位置と役割で分けます。
眼窩内の眼球と外眼筋
結膜の折り返しと角膜の位置
2. 涙を作り、広げ、内側へ流す
涙腺は眼窩の上外側にあり、涙液を産生します。分泌された涙液は眼の表面へ届き、まばたきによって角膜や結膜の表面へ広がります。表面を潤し、異物を洗い流すことに関わります。排出側は眼の内側です。上・下の眼瞼の内側にある涙点から涙小管、涙嚢、鼻涙管へ続き、鼻腔へ流れます。涙点は排出経路への入口で、涙腺の分泌口とは別です。涙の産生、表面への広がり、鼻腔への排出は異なる段階です。
涙腺から眼表面、鼻腔へ
3. 眼球壁の外側・中間・内側
眼球壁の外側は、乳白色の丈夫な強膜と、前方の透明な角膜からなります。角膜は光を透過させ、屈折にも大きく関わります。中間の層には血管に富む脈絡膜があり、その前方へ毛様体と虹彩が続きます。脈絡膜は網膜の外側部分などへの栄養供給に関わります。毛様体は房水の産生と水晶体の調節に関わります。虹彩は水晶体の前にある膜状の部分で、中央の開口が瞳孔です。瞳孔は独立した透明組織の名前ではありません。内側の網膜には光を受ける細胞と情報をつなぐ神経細胞があります。
眼球壁の外側・中間・内側
4. 光が通る媒質と情報が出る経路
外から入る光は、角膜、房水、水晶体、硝子体を透過して網膜へ達します。角膜と水晶体の屈折によって、網膜へ像が結ばれます。房水は透明な液体で、水晶体の前方の前房・後房にあります。前房は角膜と虹彩の間、後房は虹彩と水晶体の間の空間です。水晶体の後方から網膜までの広い区画には、透明でゼリー状の硝子体があります。光が透明な媒質を通って網膜へ届く段階と、網膜で生じた情報が視神経へ伝わる段階は別です。視神経を光が通る透明な媒質として並べることはできません。
透明な光路と網膜の位置
5. 房水の産生と前後の区画の連絡
房水は毛様体で産生され、後房へ入ります。そこから瞳孔を通って前房へ進みます。主な流出経路は、前房の周辺で角膜と虹彩の間にある隅角の線維柱帯を経て、シュレム管から静脈側へ続きます。線維柱帯は房水の流出に関わる網目状の組織、シュレム管はその外側にある流出路です。この主経路に加え、毛様体側などを通る流出もあります。産生、後房から前房への移動、眼外への流出によって房水の環境が保たれます。房水は血管を持たない角膜や水晶体への栄養供給にも寄与しますが、酸素や栄養の唯一の供給源という意味ではありません。
房水の産生と主な流出経路
6. 毛様体筋と水晶体の近遠調節
近くの対象へ焦点を合わせるときは、毛様体にある毛様体筋が収縮します。すると水晶体を周囲から支えるチン小帯の張力が下がり、水晶体は自らの弾性によって丸く厚くなります。水晶体の屈折する力が増すことで、近くへの調節に関わります。遠くを見る側では毛様体筋が緩み、小帯の張力が増して、水晶体はより扁平になります。毛様体筋の収縮が小帯を強く引いて水晶体を厚くする、という関係ではありません。筋の収縮、支持線維の張力、水晶体の形の変化を順に結びます。
毛様体筋・小帯・水晶体の近遠調節
7. 眼球の向きと近くを見る連絡
外眼筋は骨格筋で、眼球の向きを変えます。対象が上方へ移ることと、対象までの距離が近くなることは異なる変化です。前者に合わせる眼球の向きの調節を、水晶体の厚みだけで行うことはできません。近い対象を両眼で見続けるときには、両眼の視線が内側へ向く輻輳も関わります。近見に伴って水晶体の調節、輻輳、縮瞳が関連して起こりますが、焦点を変えること、眼球の向きを変えること、入る光の量を変えることは別の働きです。
近い対象への両眼の向き
8. 虹彩の二つの筋と瞳孔
虹彩には、瞳孔の周囲を輪状に囲む瞳孔括約筋と、放射状に走る瞳孔散大筋があります。副交感神経の経路が括約筋を収縮させると、瞳孔が小さくなる縮瞳に関わります。交感神経の経路が散大筋を収縮させると、瞳孔が大きくなる散瞳に関わります。どちらも虹彩内の筋の働きですが、線維の配置と瞳孔への作用方向は異なります。瞳孔の大きさは眼球内に入る光の量の調節に関わり、水晶体の形を変える焦点調節とは区別されます。
虹彩の輪状筋と放射状筋
9. 光を受ける眼と両側の縮瞳
正常な対光反射では、網膜からの光情報が視神経を通って中脳の回路へ届きます。その回路には左右の出力への連絡があり、両側の動眼神経に含まれる副交感線維、毛様体神経節、その先の線維を介して瞳孔括約筋へつながります。動眼神経は第III脳神経、視神経は第II脳神経です。片眼へ光を入れると、その眼の縮瞳に加えて反対側の眼の縮瞳も起こります。この両側の出力は中枢内の連絡によるもので、視交叉で一部の線維が交差することだけで説明する反応ではありません。光の入力、中枢の連絡、虹彩の筋への出力を分けてたどります。
片眼への光と両側の縮瞳
10. 桿体と錐体の役割と分布
網膜の視細胞には桿体と錐体があります。桿体は弱い光に対する感度が高く、暗い環境での視覚に重要です。錐体は色の識別と細かな形の識別に関わります。網膜の中央部にある中心窩、特にその中央には錐体が密に分布し、高い視力に関わります。一方、視神経の線維が眼球から出る視神経乳頭には桿体も錐体もありません。このため、その場所に像が結ばれても光を視細胞で受け取れず、生理的な盲点になります。中心窩と乳頭は位置も構造も異なります。
11. 網膜へ入る光と出力へ進む情報
光は硝子体側から網膜に入り、神経節細胞や双極細胞のある側を通って、脈絡膜に近い外側の視細胞へ届きます。代表的な縦の情報経路は、視細胞から双極細胞、神経節細胞へと続きます。双極細胞は視細胞と出力側の神経節細胞をつなぐ細胞です。神経節細胞の軸索が視神経の線維となって眼球の外へ向かいます。光が網膜を通る方向と、この縦の経路で情報が伝わる方向は逆向きです。網膜には横方向につなぐ細胞もありますが、視神経の線維を視細胞の軸索とみなすことはできません。
中心窩と視神経乳頭の違い
12. 光で変わる視細胞と次の細胞への伝達
視細胞は光を受けると過分極し、膜電位がより負の側へ変化します。それに伴い、視細胞から放出される神経伝達物質のグルタミン酸は減ります。光を受けたすべての受容細胞が脱分極し、活動電位を多く出すという一律の仕組みではありません。双極細胞には、光による視細胞の放出低下に対して異なる方向へ応答する種類があります。このため、視細胞の過分極を網膜内の全細胞の過分極へ広げることはできません。神経節細胞は、この網膜内の情報を活動電位として視神経へ送ります。
網膜の光と情報の逆向き
13. 視覚の主な中枢経路
網膜の神経節細胞の軸索は視神経となり、左右の視神経由来の線維が視交叉へ達します。そこで一部の線維が反対側へ移り、その先は視索として続きます。意識される視覚の代表的な経路では、視索から視床の外側膝状体で中継し、視放線を通って後頭葉の一次視覚野へ達します。外側膝状体は視覚情報の中継部、視放線はそこから大脳皮質へ向かう線維の集まりです。光への反射などへ向かう枝もあり、すべての線維がこの主経路だけを通るわけではありません。
視覚の主な中枢経路
14. 鼻側と耳側の網膜からの線維
それぞれの眼の網膜は、鼻に近い鼻側半分と、耳に近い耳側半分に分けられます。鼻側網膜から来た線維は視交叉で反対側へ交差します。耳側網膜から来た線維は同じ側へ続きます。したがって、一つの視索には両眼からの情報が集まりますが、その両眼の網膜部分は鼻側と耳側の組合せです。片眼からの全線維が交差する仕組みでも、左右の眼がそれぞれ片側の脳だけへ情報を送る仕組みでもありません。
鼻側だけが交差する視路
15. 視野と網膜の対応をたどる
視野は、眼を向けた方向を中心に見える外界の範囲です。眼の光学系によって網膜に結ばれる像は上下・左右が反転するため、上側の視野の像は下側の網膜に、下側の視野の像は上側の網膜に結ばれます。左右の視野も、それぞれの眼で反対側の網膜へ対応します。両眼で見える範囲では、ある側の半視野の情報が、一方の眼の鼻側網膜と他方の眼の耳側網膜へ入ります。鼻側の交差と耳側の同側走行を合わせてたどると、その半視野とは反対側の視索、さらに一次視覚野へ情報が集まります。視野の側、眼の側、網膜の側を別々に対応させます。
右半視野と両眼の網膜の対応
視野の上下と網膜の上下
16. 外耳・中耳・内耳の位置
外耳は耳介と外耳道からなり、外からの音が鼓膜へ届く入口になります。鼓膜の内側には、空気を含む中耳の鼓室があります。さらに内側の側頭骨内には内耳があり、聴覚に関わる蝸牛と、平衡感覚に関わる前庭・半規管を含みます。外耳道と鼓室は鼓膜で隔てられ、鼓室と内耳の液体の区画も別です。中耳は耳管を通じて鼻の奥の上咽頭へ連絡します。耳管は鼓膜の内外の圧の釣合いに関わる経路で、外耳道や蝸牛を直接つなぐ管ではありません。
外耳・中耳・内耳の位置
17. 鼓膜から耳小骨、内耳の液体へ
空気を伝わる音は鼓膜を振動させます。鼓膜につながるツチ骨から、キヌタ骨、アブミ骨へと振動が伝わります。アブミ骨の底は卵円窓にあり、その動きが内耳の液体へ伝わります。液体の圧や変位が生じるときには、別の開口である正円窓の膜が動き、液体の変位を受け入れます。卵円窓はアブミ骨からの入力側、正円窓はそれとは別の膜で覆われた部分です。この連絡は気導、つまり空気から鼓膜・耳小骨を介する代表的な伝達経路です。頭蓋骨の振動から内耳へ届く骨導もあり、音が内耳へ届く経路が気導だけという意味ではありません。
鼓膜・耳小骨と二つの窓
18. 蝸牛の三つの区画と感覚器
蝸牛は、巻いた管の形をした内耳の部分です。その内部を断面でみると、前庭階、蝸牛管、鼓室階という三つの区画があります。前庭階と鼓室階には外リンパ、蝸牛管には内リンパがあります。蝸牛管の底側をなす基底膜の上にコルチ器があり、音の機械的な変化を受ける有毛細胞を含みます。前庭階と蝸牛管の間には前庭膜があり、三つの区画の液体をすべて同じ一つの空間へ混ぜることはできません。基底膜は蝸牛の長さ方向に沿い、蝸牛の入口側を基底部、巻きの先へ進んだ側を頂部と呼びます。
蝸牛の三つの区画
19. 有毛細胞の束が曲がることと信号
蝸牛の振動によって基底膜などが動くと、コルチ器の上側にある蓋膜との相対的な動きや、それに伴う局所の液体の動きによって、有毛細胞の頂部にある不動毛の束が曲がります。不動毛は毛髪ではなく、細胞表面の細い突起です。束が最長の不動毛側へ曲がると、機械的な力で開くイオンの通路が開きやすくなり、有毛細胞は脱分極します。逆向きでは通路が閉じる側へ変化します。内リンパはカリウムイオンに富み、この流入が応答に関わります。有毛細胞からの神経伝達物質の放出が変わり、次の感覚ニューロンへ情報が伝わります。有毛細胞の膜電位の変化と、感覚ニューロンの軸索を伝わる活動電位は別の段階です。成熟したヒトの蝸牛の有毛細胞には、平衡器官で方向の基準となる動毛は残っていません。
不動毛の曲がりと神経への伝達
20. 内有毛細胞と外有毛細胞
コルチ器の有毛細胞には内有毛細胞と外有毛細胞があります。内有毛細胞は、聴覚の感覚ニューロンへ情報を渡す主要な入力側です。外有毛細胞は膜電位の変化に伴って長さを変え、蝸牛内の機械的な振動の増強や周波数の選択性に関わります。両者はともに機械的な刺激を受けますが、情報を神経へ渡す主な役割と、局所の機械的な動きを調整する役割は異なります。
内有毛細胞と外有毛細胞
21. 音の周波数と蝸牛の場所
音の周波数は、一秒間に繰り返す振動の回数で、音の高さの知覚に関わります。蝸牛では基底部側が高い周波数、頂部側が低い周波数に強く応答するという場所の対応があります。これは、蝸牛のどの位置が強く動くかという対応です。音の物理的な強さは周波数とは別の量で、主観的な大きさの知覚に関わります。周波数と音高、物理的な強さと感じる大きさは関係しますが、物理量と感覚経験が完全に同じ量という意味ではありません。神経の活動電位の発火頻度も、音の振動の周波数そのものとは別です。ただし、発火のタイミングが音の周期に関わる情報を含む場合もあります。
蝸牛の場所と音の周波数
22. 蝸牛から脳幹、視床、大脳へ
蝸牛の感覚ニューロンの軸索は、前庭蝸牛神経である第VIII脳神経の蝸牛神経の部分を通って脳幹へ入ります。そこから複数の中継を経る聴覚の代表的な経路は、視床の内側膝状体を通り、側頭葉の一次聴覚野へ達します。外側膝状体は視覚、内側膝状体は聴覚の代表的な中継部です。中枢の聴覚経路には左右への連絡があるため、一方の耳の情報が一方の大脳半球だけへ届く一対一の経路ではありません。
蝸牛から左右の聴覚中枢へ
23. 両耳の情報から音の方向へ
音源が左右のどちらかに寄ると、両耳へ届く音の時刻や強さに差が生じます。中枢ではこの両耳間の時間差や強さの差などを利用して、音源の方向を捉えます。音の高さの手掛かりである周波数、音の強さ、両耳間の差は別の情報です。両耳の情報を比較することと、蝸牛の基底部・頂部で周波数を分けることも異なる働きです。
両耳間の差から音の方向へ
24. 耳石器官と半規管が受ける変化
前庭には卵形嚢と球形嚢があり、合わせて耳石器官と呼びます。有毛細胞の毛束の上には、炭酸カルシウムの小さな耳石を含む耳石膜があります。重力に対する頭の向きや、直線的な加速度によって耳石膜と下の組織との間にずれが生じ、毛束が曲がります。直線移動の速さが変わらない場合、その移動だけでは直線加速度は生じません。卵形嚢と球形嚢では感覚面の向きが異なり、複数の方向の情報に関わります。一方、三つの半規管はそれぞれ異なる面に配置され、頭の回転に伴う角加速度に応答します。半規管の膨らんだ膨大部には有毛細胞があり、毛束を覆うクプラが内リンパの相対的な動きで変位します。通常のクプラは耳石膜とは別で、耳石を載せた膜ではありません。
卵形嚢・球形嚢と三つの半規管
直線加速度と耳石膜のずれ
耳石膜が受ける重力と頭の傾き
半規管の内リンパとクプラ
25. 毛束の向きと平衡の信号
平衡器官の有毛細胞では、不動毛の束の一側にある動毛が方向の基準になります。束が動毛の側へ曲がると脱分極し、伝達物質の放出が増す方向へ変わります。反対側へ曲がると過分極し、放出が減る方向へ変わります。この受容細胞から、前庭蝸牛神経の前庭神経の部分へ情報が渡されます。頭の動く方向と、感覚面上でどちらへ毛束が曲がるかは、器官の配置を合わせて対応させます。毛束の曲がりをすべて同じ方向の信号に変える仕組みではありません。
毛束の向きと伝達の変化
26. 頭が動いても見続けることと姿勢
頭を回しながら静止した目標を見続けるとき、前庭動眼反射によって眼球が頭の回転と反対方向へ動き、目標の像を網膜上で安定させることに関わります。頭の動きの入力から眼球運動への出力へつながる反射で、すべての眼球運動が頭と逆向きになるという意味ではありません。姿勢の調節にも前庭の情報が関わりますが、視覚や筋・関節などからの固有感覚も合わせて利用されます。小脳や脳幹などの回路がこれらの情報と運動を結び、姿勢・平衡の維持に関わります。
静止した目標と前庭動眼反射
姿勢を支える情報の組合せ
27. 嗅覚の受容ニューロンと鼻からの経路
嗅上皮は鼻腔の上部にあり、嗅覚受容ニューロンである嗅細胞を含みます。におい物質は粘液の中へ溶け、嗅細胞の表面の受容に関わる部分へ達します。嗅細胞はそれ自身が神経細胞で、その軸索が篩骨の篩板にある小さな穴を通って嗅球へ入ります。嗅球は前頭葉の下側に位置する中継部で、その先の嗅索から嗅覚に関わる大脳皮質などへ情報が伝わります。最初に嗅覚の皮質へ達する経路は、視覚や聴覚の主経路と異なり、視床での中継を必ず経るものではありません。その後の嗅覚の情報処理に視床が全く関わらないという意味ではありません。
嗅細胞自身の軸索から嗅球へ
28. 味物質が味蕾の受容細胞へ届く
味物質は唾液に溶け、味蕾の表面の小さな開口である味孔から、味覚受容細胞の微絨毛へ達します。微絨毛は細胞表面の細い突起です。味蕾は複数の細胞を含む小さな感覚器で、舌の一部の乳頭などにあります。すべての舌乳頭に味蕾があるわけではなく、糸状乳頭は主に機械的な役割に関わります。味蕾は舌だけでなく軟口蓋や咽頭の一部などにもあります。味覚受容細胞は、情報を運ぶ感覚ニューロンそのものとは別の細胞で、受容細胞から神経へ情報を渡します。これは、自分の軸索を嗅球へ伸ばす嗅細胞との違いです。
味蕾の受容細胞と別の神経
29. 基本味と舌からの神経
基本味として、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味があります。これらを、舌の場所ごとに一種類だけ感じる排他的な地図へ分けることはできません。味覚の情報を運ぶ代表的な神経は、舌の前方三分の二では主に顔面神経である第VII脳神経、後方三分の一では主に舌咽神経である第IX脳神経です。喉頭蓋などからは迷走神経である第X脳神経が関わります。舌の前方の触覚などの一般感覚には主に三叉神経である第V脳神経が関わり、味覚の神経とは役割が異なります。味覚情報は延髄での中継から視床を経て、島などの味覚に関わる大脳皮質へ続きます。
舌の味覚と一般感覚の分担
味覚の神経から延髄・視床・島へ
30. 味覚・嗅覚・口腔の一般感覚の協力
食べ物の風味には、味覚だけでなく、口腔から鼻腔へ回るにおいによる嗅覚も関わります。さらに、舌や口腔が受ける食感、温度、辛さによる刺激などの一般感覚も食べ物の経験へ加わります。辛さを甘味・塩味などと同じ基本味の一種類に加えることはできません。異なる受容の入口から来た情報が脳で統合され、食べ物全体の経験になります。同じにおいに対する応答が時間とともに弱くなる順応も、におい物質がなくなったことそのものとは別です。入力、受容・伝達、知覚や反射という段階を分けることで、複数の感覚の協力と各入口の働きを整理できます。
口から鼻へ回るにおいと風味
用語を確かめる
- 眼球
- 眼窩内にある、光を網膜へ届け受け取る器官。
- 眼窩
- 頭蓋骨が作る、眼球などが収まるくぼみ。
- 眼瞼
- まぶた。眼球の前面を覆い保護する皮膚のひだ。
- 結膜
- 眼瞼の内面から眼球前面の強膜側へ続く薄い膜。角膜そのものを覆う膜ではない。
- 強膜
- 眼球外側の、前方の角膜以外の部分を覆う丈夫な結合組織。
- 角膜
- 眼球前方の透明な部分。光の透過と屈折に関わる。
- 外眼筋
- 眼球の外側にあり、眼球の向きを変える骨格筋。
- 涙腺
- 眼窩上外側にあり、涙液を産生する腺。
- 涙液
- 眼の表面を潤し、洗浄などに関わる液体。
- 涙点
- 眼瞼の内側にある、涙液の排出経路への入口。
- 涙小管
- 涙点から涙嚢へ続く細い排出路。
- 涙嚢
- 涙小管からの涙液を受け、鼻涙管へつなぐ袋状の部分。
- 鼻涙管
- 涙嚢から鼻腔へ続く涙液の排出路。
- 鼻腔
- 鼻の内部の空間。鼻涙管からの涙液も流入する。
- 脈絡膜
- 強膜の内側、網膜の外側にある血管に富む層。
- 毛様体
- 脈絡膜の前方へ続く部分。房水の産生と水晶体の調節に関わる。
- 虹彩
- 水晶体の前にある膜状の部分。中央の開口である瞳孔の大きさを調節する。
- 瞳孔
- 虹彩の中央にある開口。透明な組織そのものではない。
- 網膜
- 眼球壁の内側の組織。光を受ける視細胞と情報をつなぐ神経細胞などを含む。
- 房水
- 前房と後房にある透明な液体。毛様体で産生され、流出路へ続く。
- 前房
- 角膜と虹彩の間にある房水の区画。
- 後房
- 虹彩と水晶体の間にある房水の区画。
- 水晶体
- 虹彩の後方にある透明な構造。形の変化によって焦点を調節する。
- 硝子体
- 水晶体後方の広い区画を満たす透明でゼリー状の組織。
- 屈折
- 光が異なる媒質の境界を通るとき、その進む方向が変わること。
- 視神経
- 網膜の神経節細胞の軸索が集まる情報経路。第II脳神経。
- 隅角
- 前房の周辺にある角膜と虹彩の間の角の部分。主な房水流出路がある。
- 線維柱帯
- 隅角にある網目状の組織。主な房水流出に関わる。
- シュレム管
- 線維柱帯の外側で房水を受け、静脈側の経路へつなぐ流出路。
- 毛様体筋
- 毛様体にある平滑筋。小帯の張力を介して水晶体の形の調節に関わる。
- チン小帯
- 毛様体側から水晶体を支える線維。水晶体へ加わる張力に関わる。
- 張力
- 引っ張る力。筋の長さや収縮とは別に扱う量。
- 弾性
- 変形した物体が元の形へ戻ろうとする性質。
- 焦点調節
- 対象までの距離に合わせ、水晶体の形などを変えて網膜へ像を結ぶ働き。
- 輻輳
- 近い対象などへ向けて、両眼の視線が内側へ向く動き。
- 縮瞳
- 瞳孔が小さくなること。
- 散瞳
- 瞳孔が大きくなること。
- 瞳孔括約筋
- 瞳孔の周囲を輪状に囲む虹彩内の筋。収縮すると縮瞳に関わる。
- 瞳孔散大筋
- 虹彩内を放射状に走る筋。収縮すると散瞳に関わる。
- 対光反射
- 眼への光の入力に応じて瞳孔が小さくなる反射。正常回路では両側への出力がある。
- 動眼神経
- 第III脳神経。眼球運動への出力などに加え、瞳孔括約筋へ向かう副交感経路を含む。
- 毛様体神経節
- 眼窩内にある副交感神経節。動眼神経の節前線維から眼内へ向かう節後線維へ連絡する。
- 中脳
- 脳幹の頭側部分。対光反射の中枢の回路も含む。
- 視交叉
- 左右の視神経由来の線維の一部が交差する部分。対光反射の両側出力全体の説明とは別。
- 神経節細胞
- 網膜では、軸索を視神経へ伸ばす出力側の神経細胞を指す。末梢の神経節全体の名称とは別。
- 視細胞
- 網膜で光を受け、電気的な応答へ変える細胞。桿体と錐体がある。
- 桿体
- 弱い光への感度が高く、暗い環境での視覚に重要な視細胞。
- 錐体
- 色の識別や細かな形の識別に関わる視細胞。
- 中心窩
- 網膜中央部のくぼみ。中央には錐体が密に分布し、細かな識別に関わる。
- 視神経乳頭
- 視神経の線維が眼球から出る網膜上の部分。視細胞がない。
- 生理的盲点
- 視神経乳頭に視細胞がないことによって、その位置で光を受け取れない範囲。
- 双極細胞
- 網膜で視細胞と神経節細胞をつなぐ神経細胞。
- 過分極
- 膜電位が、もとの状態より負の側へ変化すること。
- 神経伝達物質
- 細胞から放出され、次の細胞への信号伝達に関わる物質。
- 活動電位
- 膜電位が一時的に大きく変わり、軸索などを伝わる電気的な信号。
- 視索
- 視交叉から先へ続く視覚情報の線維の集まり。
- 視床
- 間脳の一部。視覚などの情報を大脳皮質へ中継する部位を含む。
- 外側膝状体
- 視床にある、視覚情報の代表的な中継部。
- 視放線
- 外側膝状体から一次視覚野へ向かう線維の集まり。
- 一次視覚野
- 後頭葉にある、視覚情報を受け取る代表的な大脳皮質領域。
- 鼻側網膜
- 各眼の網膜のうち、鼻に近い半分。
- 耳側網膜
- 各眼の網膜のうち、耳に近い半分。
- 視野
- 眼を向けた方向を中心に見える外界の範囲。網膜の場所そのものとは別。
- 半視野
- 視野を中央から左右に分けた片側の範囲。
- 耳介
- 耳の外側へ張り出した部分。外耳道へ音を導くことに関わる。
- 外耳道
- 耳介から鼓膜へ続く外耳の通路。
- 鼓膜
- 外耳道と中耳の鼓室を隔てる膜。音で振動する。
- 鼓室
- 鼓膜の内側にある、空気を含む中耳の空間。
- 側頭骨
- 頭蓋骨の側面などを作る骨。内部に内耳がある。
- 蝸牛
- 内耳の聴覚に関わる、巻いた管状の部分。
- 前庭
- 内耳で卵形嚢・球形嚢などがある部分。平衡感覚に関わる。
- 半規管
- 内耳にある三つの管状の構造。頭の回転に伴う刺激を受ける。
- 耳管
- 中耳の鼓室と上咽頭をつなぐ管。鼓膜の内外の圧の釣合いに関わる。
- 上咽頭
- 鼻腔の後方にある咽頭の上部。耳管が開く。
- 耳小骨
- 中耳で振動をつなぐツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨。
- ツチ骨
- 鼓膜につながり、キヌタ骨へ振動を渡す耳小骨。
- キヌタ骨
- ツチ骨からアブミ骨へ振動をつなぐ耳小骨。
- アブミ骨
- 底が卵円窓にあり、内耳の液体へ振動を伝える耳小骨。
- 卵円窓
- アブミ骨の底が位置する、中耳と内耳の境界の開口。
- 正円窓
- 鼓室階の端側にある膜で覆われた開口。内耳の液体の変位を受け入れる。
- 気導
- 空気から鼓膜・耳小骨などを介して内耳へ振動が届く経路。
- 骨導
- 頭蓋骨の振動が内耳へ届く経路。
- 前庭階
- 蝸牛の断面の一つの区画。外リンパを含む。
- 蝸牛管
- 蝸牛の三つの区画のうち、内リンパとコルチ器がある区画。
- 鼓室階
- 蝸牛の断面の一つの区画。外リンパを含み、端側に正円窓がある。
- 内リンパ
- 蝸牛管などにある液体。カリウムイオンに富む。
- 外リンパ
- 蝸牛の前庭階・鼓室階などにある液体。内リンパとは区画が別。
- 基底膜
- 蝸牛管の底側をなす膜。コルチ器がその上にある。
- 前庭膜
- 蝸牛で前庭階と蝸牛管を隔てる膜。
- コルチ器
- 蝸牛管の基底膜上にある、有毛細胞などを含む聴覚の感覚器。
- 蓋膜
- コルチ器の上側にあるゼリー状の構造。基底膜側との相対的な動きが毛束への刺激に関わる。
- 有毛細胞
- 頂部の突起の束の曲がりに応じて膜電位などが変わる受容細胞。
- 不動毛
- 有毛細胞の頂部にある細い突起。機械的な刺激を受ける束を作る。
- 動毛
- 平衡器官の有毛細胞で束の方向の基準となる突起。成熟したヒトの蝸牛の有毛細胞には残らない。
- 脱分極
- 膜電位がもとの状態より正の側へ変化すること。
- 内有毛細胞
- 蝸牛で感覚ニューロンへ情報を渡す主要な入力側の有毛細胞。
- 外有毛細胞
- 蝸牛内の機械的な振動の増強や周波数の選択性に関わる有毛細胞。
- 蝸牛基底部
- 蝸牛の入口側。高い周波数に強く応答する側。
- 蝸牛頂部
- 蝸牛の巻きの先の側。低い周波数に強く応答する側。
- 音の周波数
- 一秒間の音の振動の回数。音高の知覚に関わる物理量。
- 音高
- 音の高さの感覚。音の周波数に関わるが、物理量そのものとは別。
- 前庭蝸牛神経
- 第VIII脳神経。聴覚の蝸牛神経と平衡感覚の前庭神経の部分を含む。
- 内側膝状体
- 視床にある、聴覚情報の代表的な中継部。
- 一次聴覚野
- 側頭葉にある、聴覚情報を受け取る代表的な大脳皮質領域。
- 両耳間時間差
- 同じ音が左右の耳へ到達する時刻の差。音源方向の手掛かりになる。
- 両耳間強度差
- 同じ音が左右の耳へ届く強さの差。音源方向の手掛かりになる。
- 卵形嚢
- 前庭にある耳石器官の一つ。重力や直線加速度の情報に関わる。
- 球形嚢
- 前庭にある耳石器官の一つ。卵形嚢とは感覚面の向きが異なる。
- 耳石器官
- 卵形嚢と球形嚢。重力に対する頭の向きや直線加速度を受ける器官。
- 耳石
- 耳石膜に含まれる炭酸カルシウムの小さな粒。
- 耳石膜
- 耳石器官で有毛細胞の毛束の上にあり、耳石を含む膜。
- 直線加速度
- 直線的な動きの速度が変化することに関わる量。
- 角加速度
- 回転の速さが変化することに関わる量。
- 膨大部
- 半規管の膨らんだ部分。有毛細胞とクプラがある。
- クプラ
- 半規管の膨大部で毛束を覆うゼリー状の構造。通常は耳石を含まない。
- 前庭神経
- 前庭蝸牛神経のうち、平衡器官からの情報を運ぶ部分。
- 前庭動眼反射
- 頭の動きの入力を眼球運動へつなぎ、視線を安定させる反射。
- 固有感覚
- 筋・関節などから身体の位置や動きに関わる情報を得る感覚。
- 嗅上皮
- 鼻腔上部にある、嗅細胞などを含む上皮。
- 嗅細胞
- においを受ける感覚ニューロン。自分の軸索を嗅球へ伸ばす。
- 粘液
- 粘膜の表面を覆う、粘りのある液体。におい物質の溶解にも関わる。
- 篩骨
- 鼻腔上部と頭蓋内の境界などに関わる骨。篩板を含む。
- 篩板
- 篩骨の小さな穴を持つ部分。嗅細胞の軸索が通る。
- 嗅球
- 前頭葉の下側にあり、嗅細胞の軸索を受ける中継部。
- 嗅索
- 嗅球から先へ続く嗅覚情報の線維の集まり。
- 味蕾
- 複数の細胞からなる小さな味覚の感覚器。舌乳頭の一部などにある。
- 味孔
- 味蕾の表面の小さな開口。溶けた味物質が受容細胞側へ達する入口。
- 微絨毛
- 細胞表面の細い突起。味覚受容細胞では味物質を受ける部分に関わる。
- 味覚受容細胞
- 味物質を受け、別の感覚ニューロンへ情報を渡す細胞。
- 舌乳頭
- 舌の表面の小さな突出。種類によって構造や役割が異なる。
- 糸状乳頭
- 主に機械的な役割に関わる舌乳頭。通常、味蕾を持たない。
- 軟口蓋
- 口腔の天井の後方にある柔らかい部分。味蕾のある部位にも含まれる。
- 咽頭
- 鼻腔・口腔の後方から続く通路。味覚の受容部位の一部もある。
- 基本味
- 甘味・塩味・酸味・苦味・うま味という代表的な味の種類。
- 顔面神経
- 第VII脳神経。舌前方三分の二の味覚を運ぶ経路などに関わる。
- 舌咽神経
- 第IX脳神経。舌後方三分の一の味覚を運ぶ経路などに関わる。
- 迷走神経
- 第X脳神経。喉頭蓋などの味覚を運ぶ経路も含む。
- 喉頭蓋
- 喉頭の入口にある蓋状の部分。味覚の受容部位にも含まれる。
- 三叉神経
- 第V脳神経。顔面や舌前方の一般感覚などに関わる。
- 延髄
- 脳幹の尾側の部分。味覚の情報の中継部もある。
- 島
- 大脳半球の外側溝の奥にある皮質。味覚などに関わる領域を含む。
- 風味
- 味覚・嗅覚や食感などが協力して生じる食べ物の経験。
- 順応
- 同じ刺激が続くと、受容や知覚の応答が変化すること。刺激の消失そのものとは別。
- グルタミン酸
- 神経伝達物質の一つ。視細胞から放出され、次の細胞への伝達に関わる。
- 水平細胞
- 網膜で、視細胞と双極細胞の間の横方向の連絡や調節に関わる神経細胞。
- アマクリン細胞
- 網膜で、双極細胞と神経節細胞の間の連絡や調節に関わる神経細胞。
- 受容電位
- 受容器電位ともいう。刺激の受容によって生じる段階的な膜電位の変化。活動電位とは別。