正常感覚の基礎(受容・符号化・体性感覚)
本文の目次
- 刺激を受ける装置と分子
- 応答しやすい刺激
- 刺激が電気的な変化になる
- 二つの電位記録を分ける
- 一回の峰と一秒の回数
- 何本の線維が活動したか
- 重なる受容野
- 刺激が続いても応答は変わる
- 差と合計は違う
- 体から届く感覚の種類
- 筋の長さと腱の張力
- 侵害受容は痛みそのものではない
- 入力、知覚、反応を分ける
- 記録が示すことをつなぐ
1. 刺激を受ける装置と分子
皮膚が押される、温度が変わるなど、感覚の入力になる変化を刺激という。感覚受容器は、その刺激を受けて電気的な変化を生じる神経の終末や受容器細胞などの装置である。これに対して受容体は、伝達物質などを受け取る分子を指す。装置を指す「受容器」と、分子を指す「受容体」を分けて読む。同じ電気的な信号の形が使われても、触れ、温度などの感覚の種類は、刺激を受ける受容器とつながる中枢の経路との対応に関わる。
2. 応答しやすい刺激
受容器ごとに、比較的効率よく応答する刺激がある。この代表的な刺激を適刺激という。機械的な変形に応答しやすい受容器と、温度の変化に応答しやすい受容器では、受ける変化の種類が違う。ただし適刺激以外には絶対に応答しない、という意味ではない。感覚の種類を、一回の活動電位の峰の高さや頻度だけで決めることもできない。どの受容器から、どの経路へ情報が入ったかを合わせて考える。
3. 刺激が電気的な変化になる
刺激のエネルギーを受容器で電気的な変化へ変える過程を感覚変換という。その電位の変化は受容器電位と呼ばれ、刺激の条件によって段階的に変わる。感覚ニューロン自身の終末が刺激を受ける場合には、活動電位を始める条件を満たすと、そのニューロンに活動電位が生じ、求心性の情報が伝わる。別の受容器細胞が刺激を受ける場合には、受容器細胞から求心ニューロンへ情報が渡る。受容器細胞と求心ニューロンが、いつも同じ一個の細胞というわけではない。
受容器と軸索の関係
4. 二つの電位記録を分ける
受容器電位の大きさと、一回の活動電位の峰は別の量である。同じ状態の一軸索で、刺激が強くなって受容器電位が大きくなっても、活動電位の峰は同程度になり得る。活動電位の頻度は単位時間当たりの回数であり、何回生じたかを記録して確かめる必要がある。また、受容器の電位変化は全て脱分極ではない。例えば眼の網膜には、光を受ける視細胞である桿体や錐体があり、光に反応すると過分極する。網膜は、眼の内側にある光を受ける細胞を含む組織である。光受容の詳細を覚える前にも、「刺激を受けたら必ず電位が上がる」とはしないことが大切である。
局所電位と一回の峰
5. 一回の峰と一秒の回数
活動電位の頻度は、一定の記録時間に活動電位が何回生じたかで表す。1秒に20回なら20 Hzで、Hzは1秒当たりの回数を表す単位である。同じ感覚軸索で条件をそろえると、刺激の強さの違いが頻度の違いとして表れる場合がある。一回の活動電位の峰が同じでも、記録時間内の回数は変わり得る。時間軸上の間隔と、電位軸上の峰の高さを分けて比べる。
6. 何本の線維が活動したか
刺激の強さの情報には、一本の軸索の頻度だけでなく、活動した求心性線維の数や組合せも関わる。刺激が強くなると、応答する線維が増える場合がある。一本の軸索の一回の峰、一本の頻度、活動した線維の数は三つの別の記録である。これらの関係は、受容器の種類や状態などの条件に左右される。刺激を2倍にすれば全ての量も必ず2倍、という法則ではない。
一つの回数と活動本数
7. 重なる受容野
一つの感覚ニューロンなどが応答する刺激の範囲を受容野という。隣り合う受容野は重なり得るため、一つの場所への刺激で複数のニューロンが活動する。活動の組合せは場所の手掛かりになるが、同じ組合せが複数の場所で生じることもある。「活動した・しない」だけを記録した模型では、刺激位置を一つに決められない場合がある。他の条件が同じなら小さい受容野は細かい場所の違いを伝えやすいが、知覚の細かさは受容野の大きさだけで決まるものではない。
場所が違っても同じ応答
8. 刺激が続いても応答は変わる
同じ刺激が続く間に受容器などの応答が弱くなることを順応という。速い順応では、刺激の始まりや変化に応答が目立ち、持続中の応答は早く弱まる。遅い順応では、持続中にも応答が比較的続く。刺激がなくなった場合と区別するため、刺激の時間記録と神経の応答を並べて読む。応答が弱くなっても、刺激が消えたこと、本人の感覚が完全に消えたこと、刺激が安全になったことまでは分からない。
持続刺激と発火回数
9. 差と合計は違う
隣接する位置や受容野に対応する経路の間で、ある経路が別の経路の応答を抑え、周囲との差に関わる仕組みを側方抑制という。例えば中央の応答8、左右の応答6ずつを考え、中央は8のまま、中央の経路からの抑制で左右がそれぞれ3になるとする。中央と片側の差は2から5に増えるが、三つの合計は20から14に減る。対比が強くなることと、合計が増えることは別である。これは指定した回路の模型で、全ての感覚回路が同じ形という意味ではない。
対比の差と全体の合計
10. 体から届く感覚の種類
体性感覚には、触れ・圧・振動、温度、侵害受容、固有感覚などがある。皮膚などで外界からの刺激を受ける区分を外受容という。触れや温度はその例である。固有感覚は、筋や腱などから、体の位置や動きに関わる情報を受ける感覚である。体性感覚を全て皮膚の感覚とまとめるわけではない。侵害受容も体性感覚に含まれるが、本人が経験する痛みとは区別して考える。
11. 筋の長さと腱の張力
筋紡錘は主に筋の長さや長さの変化、ゴルジ腱器官は主に腱の張力に関わる受容器である。張力とは引っ張る力で、長さとは別の量である。骨格筋が力を出していても筋全体の長さが一定の場合があることを思い出すと、長さの記録だけでは張力は分からない。逆に張力だけでも長さや個々の受容器の活動を全ては決められない。受容する装置を、筋全体の力を出す部分と同じものとして扱わない。体の位置の情報には、これら以外の受容器からの入力も関わる。
皮膚・筋・腱の受容
12. 侵害受容は痛みそのものではない
侵害受容は、組織を傷つけ得る刺激を検出し、情報として表す過程である。強い機械的な刺激や温度などが入力になり得る。一方、痛みは本人が経験する感覚や情動を含む。侵害受容の活動、組織の損傷、本人の痛みは一つの同じ測定値ではない。侵害受容の記録だけで、痛みの大きさや損傷の有無・量を一意に決めることはできない。反射による動きが見えても、それだけで本人の意識的な経験が確認されたとはしない。
13. 入力、知覚、反応を分ける
求心性の情報は末梢から中枢へ向かう。そこから意識的な知覚に関わる処理が進む場合と、局所の反射などに使われる場合がある。脊髄などの局所の反射には、意識的な判断が先に必要とは限らない。固有感覚の情報も、全てが同じ意識的な経路だけで使われるわけではない。同じ入力が枝分かれして、意識的な知覚に関わる処理と局所の反射の両方で使われる場合もある。受容器の応答、中枢への入力、意識的な知覚、効果器の反応は、それぞれ別の段階として確かめる。
14. 記録が示すことをつなぐ
受容器電位が記録されたなら、まず刺激に対するその電位の変化を確認できる。活動電位を記録すれば、その軸索の回数や時刻も比べられる。活動した線維や受容野が分かれば、強さや場所の手掛かりを追加できる。ただし末梢の記録だけで本人の知覚や全ての反射出力が確認済みになるわけではない。一つの主観的な感覚から、唯一の受容器や経路を逆に特定することもできない。どの種類の入力が、どの段階まで記録されたかをつないで考える。
入力・経験・反応の段階
用語を確かめる
- 刺激
- 感覚の入力になる、物理的・化学的な変化。
- 感覚受容器
- 刺激を受けて電気的な変化を生じる神経終末や受容器細胞などの装置。
- 受容体
- 伝達物質などを受け取る分子。感覚受容器という装置の語と区別する。
- 適刺激
- その受容器が比較的効率よく応答する代表的な刺激。他種の刺激に絶対に反応しない意味ではない。
- 感覚変換
- 刺激のエネルギーを受容器で電気的な変化へ変える過程。
- 受容器電位
- 受容器に生じる段階的な電位変化。全てが脱分極するわけではない。
- 活動電位
- 同じ状態の一軸索では一回の峰が同程度になる、膜電位の速い変化。
- 求心性
- 中枢神経系へ向かう情報の方向。
- 活動電位の頻度
- 記録時間当たりに活動電位が生じた回数。
- Hz
- 1秒当たりの回数を表す単位。
- 集団の活動
- 活動した複数の求心性線維の数や組合せ。一本の頻度とは別の記録。
- 受容野
- 一つの感覚ニューロンなどが応答する刺激の範囲。
- 順応
- 同じ刺激が続く間に受容器などの応答が弱くなること。
- 速い順応
- 刺激の始まりや変化に応答が目立ち、持続中には早く弱まる順応。
- 遅い順応
- 刺激の持続中にも応答が比較的続く順応。
- 側方抑制
- 感覚の経路間の抑制によって応答の対比に関わる仕組み。全回路を同じ形としない。
- 体性感覚
- 触圧・温度・侵害受容・固有感覚など、体からの感覚の総称。
- 外受容
- 皮膚などで外界からの刺激を受ける感覚の区分。
- 固有感覚
- 筋や腱などから、体の位置や動きに関わる情報を受ける感覚。
- 筋紡錘
- 主に筋の長さや長さの変化に関わる受容器。
- ゴルジ腱器官
- 主に腱の張力に関わる受容器。
- 張力
- 引っ張る力。長さとは別の量。
- 侵害受容
- 組織を傷つけ得る刺激の検出・符号化に関わる過程。
- 痛み
- 本人が経験する感覚や情動を含む経験。侵害受容の活動だけの別名ではない。
- 知覚
- 感覚の情報をもとに、本人が感じ取ること。末梢の記録そのものと区別する。
- 反射
- 刺激に対して神経回路を通じて生じる非随意の応答。意識的な判断が先に必要とは限らない。